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エルニーニョ現象で日本は暖冬になる?ラニーニャ現象との違いと影響や原因を解説

エルニーニョ現象とは?原因や影響、過去の事例と日本の対策

世界気象機関(WMO)の発表によると、2023年はエルニーニョ現象の発生が認められました。

エルニーニョ現象は2023年7〜9月まで継続すると見られており、エルニーニョ現象の影響で今後5年の間に最高気温の更新が予測されています。

「神の男の子」といわれて、エルニーニョ現象のことだとわかった人は、かなり気候について関心を持っているかもしれません。クリスマスにあたる12月のペルー沖海水温が高いことから、名づけられた現象です。

しかし、知名度のわりに、「エルニーニョはどんな現象ですか?」といわれたら、的確に答えにくいのではないでしょうか。

そこで今回は、エルニーニョ現象がどのような現象なのか、なぜ、発生するのか、発生するとどのような影響を及ぼすのか、過去に発生したエルニーニョ現象による影響、そして、どう対処すればよいのかなどについてまとめます。

エルニーニョ現象とは

エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖から太平洋赤道海域の日付変更線付近にかけての海面水温が平年より高くなり、その状態が1年ほど継続する現象のことです。*1)12月頃に発生することから、地元のペルーでは「神の男の子」を意味する「エルニーニョ」の名で呼ばれるようになりました。*2)

【平常時・エルニーニョ現象時・ラニーニャ現象時の大気と海洋の変動】

【平常時・エルニーニョ現象時・ラニーニャ現象時の大気と海洋の変動】
出典:気象庁*1)

エルニーニョが発生していない通常時、ペルー沖では貿易風という東風が吹いており、それに押されて海水が西に移動します。これにより海面付近の海水が減ったことから、南米沖を流れる冷たいペルー海流が、移動した海流のすき間を埋めるように海面付近に上昇します。*1)

海面付近に上昇した冷たい海流(湧昇流)は、海底にたまった栄養塩を海面付近に運び、植物プランクトンの繁殖を促します。すると、大量発生した植物プランクトンを食べるために魚も集まり、好漁場となるのです。*3)

ところが、何らかの理由で貿易風が弱まると、海水があまり西に移動しません。その結果、冷たい海流の上昇が妨げられ、通常とは違う場所に積乱雲ができたり、降水地域が変化したりといった現象が発生します。

では、エルニーニョ現象が発生すると、どのような天候になるのでしょうか。

エルニーニョ現象による天候の特徴

【エルニーニョ現象がもたらす天候】

【エルニーニョ現象がもたらす天候】
出典:気象庁*3)

エルニーニョ現象が発生すると、フィリピンやインドネシアなどの西太平洋熱帯海域の水温が低下します。すると、上昇気流の発生が弱まり、積乱雲が発生しにくくなって、降水量が減少します。*4)そのため、東南アジアやオーストラリアで干ばつが発生しやすくなります。

この影響は日本にも及びます。エルニーニョが発生すると、日本では冷夏になりやすく、冬は暖冬になりやすいとされています。*5)

エルニーニョ現象とラニーニャ現象の違い

エルニーニョはペルー沖などの海水温が高くなる現象であるのに対し、ラニーニャは同じ海域の水温が低下する現象を指します。

ラニーニャ現象とは

【エルニーニョ発生時とラニーニャ発生時の海水温の比較】

【エルニーニョ発生時とラニーニャ発生時の海水温の比較】
出典:気象庁*1)

ラニーニャが発生すると、通常よりも貿易風が強まり、海水をより多く西に押し流します。その結果、東南アジアやオーストラリアでは海面温度が上がり、雨雲の発生が活発になって、降水量が増加します。*1)

【ラニーニャ現象がもたらす天候】

【ラニーニャ現象がもたらす天候】
出典:気象庁*3)

一方、日本付近では夏は猛暑となりやすく、冬は冬型の気圧配置が強まりやすくなり、各所で大雪をもたらす可能性があるのです。*3)

エルニーニョ現象はなぜ起こる?原因は?

エルニーニョ現象が発生すると、世界の気候に大きな影響が出るとわかりました。エルニーニョは貿易風の弱まりによって発生すると考えられていますが、その原因はまだ解明されていません。ここでは、貿易風の弱まりの原因の一つと推定されるマッデン・ジュリアン振動について解説します。

マッデン・ジュリアン振動の影響

マッデン・ジュリアン振動とは、数千キロメートル規模の巨大な雲の塊が毎秒5メートルの速さでインド洋から太平洋を東に進む現象のことです。*6)雲がなぜ発達するのか、どうして東に進むのかについてはまだわかっていません。

しかし、マッデン・ジュリアン振動は、対流圏下層で西風バーストを伴います。西風バーストとは、対流圏下層で起きる現象で、太平洋西部から中部にかけて赤道上で吹く強い西風のことです。*7)

対流圏*8)

対流圏とは地上から高さ10〜16キロメートル付近までの空気の層のこと。

【大気の構造】

出典:気象庁*8)

対流圏下層とは、対流圏の中でも地表に近い場所のこと。

西風バーストがエルニーニョ現象の発生に結びつく海の表層部の変化をもたらす可能性が指摘されていますが、まだ、研究途上です。

エルニーニョ現象による影響

エルニーニョ現象が何故発生するかについては、未だ解明されていないことが多いとわかりました。ここからは、エルニーニョ現象が起きると、どのような影響が発生するかについてまとめます。

海面水温が変化する

エルニーニョ現象が発生すると、太平洋の海面水温の分布、特にペルー沖の海水温度が大きく変化します。

【エルニーニョ発生時の海面水温平年偏差分布図】

【エルニーニョ発生時の海面水温平年偏差分布図】
出典:気象庁*9)

上の図は、エルニーニョが発生したとき、海水温が平年に比べてどの程度変化しているかを表しています。赤が濃いほど平年よりも海水温が高いことを意味しますが、ペルー沖から太平洋中央部にかけて濃い赤い帯がはっきりと見えます。それだけ、海水温が例年よりも温かいことを意味しているのです。

雨雲の発生場所がずれる

エルニーニョ現象が発生すると、雨雲の発生場所が例年よりも東方にずれます。

【低気圧による雲の発生】

熱帯付近の温かい海水によって温められた大気は軽くなり、上昇気流を生み出します。そして上昇気流は雲を生み出します。つまり、海水面が温かい場所には雲がでやすいといえます。

エルニーニョ現象が発生していない通常時には、温かい海水はインドネシアなど東南アジア方面にあり、その場所で雲が発生し、雨が降っていました。しかし、エルニーニョが発生すると温かい水の塊が東に移るため、雨の場所も東に移動してしまうのです。

過去に発生したエルニーニョ現象の被害

エルニーニョ現象に関する関心が高いのは、発生するとさまざまな被害がでるからです。ここでは、エルニーニョ現象による被害を、世界と日本に分けて解説します。

世界の被害

エルニーニョが発生すると、東南アジアやオーストラリアで降水量が減ります。そのため、これらの地域では干ばつ森林火災が発生しやすくなります。それだけではなく、世界的に見ても、作物の収量が減少することがわかりました。

【通常年と比較した場合のエルニーニョ年の平均の作物収量の変動】

上の図は農研機構 農業環境変動研究センターの専門誌「植物防疫 第70巻 第4号」に掲載された図で、色が黒いほど、収穫量が減少していることを意味します。Maize(とうもろこし)・Soybean(大豆)・Rice(米)・Wheat(小麦)のいずれも、エルニーニョが発生すると収量が減っています。*11)

2022年のように、世界各国でインフレが発生した状態でエルニーニョ現象が起きると、食料価格のさらなる高騰が危惧されます。

日本の被害

日本では、エルニーニョ現象の影響で冷夏になる可能性が高いとされています。冷夏とは夏(6〜8月)の平均気温が平年よりも低い状態のことです。冷夏になると懸念されるのが農作物の不作です。

エルニーニョが発生すると、例年に比べて太平洋高気圧の張り出しが弱くなります。それにより、梅雨前線の停滞が長引くため、夏の気温が上がらず、米をはじめとする農作物の生育が悪くなります。 

エルニーニョ現象に対する対策

イメージ画像

エルニーニョ現象は世界や日本にさまざまな悪影響を及ぼすことがわかりました。地球温暖化などに比べると原因がよくわかっていないことが多く、できる対策は限られています。今の段階でできるのは気象予測の精度を上げることや災害時の対策を立てること、農産物の必要量を確保することなどです。

気象予測の精度を上げる

熱帯太平洋だけではなく世界中の天候にも、エルニーニョ現象は大きな影響を与えています。

しかし、発生のメカニズムについて、わかっていない部分が少なくありません。近年の研究により、ある程度、エルニーニョ現象を再現できる気象モデルを特定できましたが、それでも、解明されたのは全体の3分の1にとどまります。

エルニーニョ現象の発生メカニズム解明は、地球全体の気候に対する理解を深め、熱帯だけではなく地球規模での将来の気候変動予測にも役立つため、研究を深め、予測の精度を高めなければなりません。*12)

災害対策の計画を立てる

エルニーニョ現象は、低緯度地域を中心に深刻な被害をもたらしています。特に、被害が深刻な地域では災害対策の計画を立案しなければなりません。避難計画の策定住民への情報提供先進国による災害対策支援などが必要です。

2017年、住友林業とNEC(日本電機株式会社)は、JICAの支援事業に参加し、インドネシアでの森林火災を防ぐシステムの普及を図る事業を開始しました。資金だけではなく、技術面でも開発途上国を支援することで、エルニーニョ現象による悪影響を緩和できます。*13)

農産物の必要量を確保する

先ほど述べたように、エルニーニョ現象が発生すると、農産物の収穫量が大きく低下することがわかっています。農産物価格が高騰すれば、世界各国で農産物の奪い合いになりかねません。そうした事態に備え、ある程度の食料備蓄や国内の食糧生産を見直す必要があります。

これまでは、円の価値が高く、海外から必要な食料を輸入しやすい状態でした。しかし、2022年に始まったウクライナでの戦争や、記録的な物価高騰は、食料輸入を取り巻く環境を大きく変化させました。

日本は穀物を主にアメリカカナダオーストラリアブラジルの4か国から輸入しています。*14)ただ、これらの国が今後も安定して輸出を続けてくれるという保証はありません。国際環境の急変や農作物に悪影響を及ぼす気象災害などの発生に備え、農産物の必要量確保や国内の農業政策の見直しなども検討すべき段階かもしれません。

エルニーニョ現象とSDGs目標2「飢餓をゼロに」との関わり

エルニーニョ現象は世界の食糧生産に大きなダメージを与えることがわかりました。これは、SDGs目標2の「飢餓をゼロに」と密接に関わります。

飢餓とは「身長に対して妥当とされる最低限の体重を維持し、軽度の活動を行うのに必要なエネルギー(カロリー数)を摂取できていない状態」のことです。*15)エルニーニョが発生すると、世界の食糧生産が打撃を受け、飢餓に瀕している人々をさらに苦しい状態に追いやる可能性があります。

WFP(国連世界食糧計画)とFAO(国連食糧農業機関)は、2021年に飢餓人口は過去最大の8億2,800万人に達したと発表しました。原因は新型コロナウイルスによるパンデミックです。*16)

さらに2022年2月にウクライナでの戦争が勃発したため、状況はさらに悪化していると推定されます。なぜなら、この戦争により食料・燃料・肥料の価格が高騰したからです。

もし、この状態でエルニーニョが発生すれば、社会基盤がぜい弱な途上国は、深刻な食糧不足に陥る可能性も考えられます。ウクライナでの戦争の早期終結や、先進国による途上国への支援などを速やかに実行し、エルニーニョが発生する前に、こうした状況を改善する必要があります。

まとめ

今回はエルニーニョ現象について取り上げました。二酸化炭素が強い影響を及ぼしていることがわかっている地球温暖化に比べると、エルニーニョ現象については不明点が多いといえます。それだけに、有効な処方箋がなかなか見いだせないのが現状です。

だからといって、この問題を放置するべきではありません。エルニーニョ現象の原因を解明し、適切な対策を取れるようになるまで、各国は研究を進めるとともに、飢餓に瀕する可能性がある国々を支援する必要があるでしょう。

<参考文献>
*1)気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは
*2)マイペディア「エルニーニョ(えるにーにょ)とは?
*3)北海道開発局「Q3 湧昇流って何ですか? – 水産
*4)気象庁「エルニーニョ現象が日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム
*5)気象庁「エルニーニョ現象発生時の日本の天候の特徴
*6)地球環境研究センターニュース「【最近の研究成果】 マッデン・ジュリアン振動の東方伝播に対する浅い対流の役割
*7)日本大百科全書(ニッポニカ)「マッデン・ジュリアン振動|日本大百科全書・現代用語の基礎知識
*8)気象庁「気象庁|大気の構造と流れ
*9)気象庁「太平洋の海面水温に見られる年~数年規模の変動
*10)岐阜県総合教育センター「e-気象台 雲ができるまで
*11)農研機構 農業環境変動研究センター「エルニーニョ現象およびラニーニャ現象と 世界の作物収量変動
*12)国立環境研究所「エルニーニョ現象の緻密な再現が熱帯域の温暖化予測精度を向上させる —赤道太平洋の海面下数百メートルの海流変動が鍵—|2020年度
*13)住友林業「インドネシアで森林火災監視・即応システムを用いた火災対策支援サービス普及促進事業を開始 | 住友林業
*14)三菱総合研究所「日本の食料国内生産と輸入量の実態
*15)国連世界食糧計画「WFPとは|世界の飢餓状況
*16)国連世界食糧計画「記録的飢餓が拡大: 世界の食料安全保障と栄養の現状 | World Food Programme