近藤佳奈
神戸大学卒。ピクシブ株式会社で新規事業立ち上げ、企画営業、サービスディレクションを担当後、2015年から株式会社ディー・エヌ・エーへ。動画配信サービス「SHOWROOM」チームにDeNAグループからのスピンオフを経て約4年半在籍。マネージャーとしてビジネスおよびプロダクト開発を担当した。2019年12月、fermataに参画、COOをつとめる。
目次
introduction
女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す言葉、「フェムテック(Femtech)」。
2021年にはユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされるなど、日本でも多くの人が一度は耳にしたことがある言葉になりました。そんな「フェムテック」を日本に広める大きな役割を果たしたのが、女性のウェルネス課題にいち早く取り組んだfermata(フェルマータ)株式会社です。
fermataは、「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンに掲げ、国内外の企業のフェムテック市場参入支援や、コミュニティ運営、イベント企画などで、日本のフェムテック市場の創出に携わっています。
今回はfermata株式会社COOの近藤さんに、日本のフェムテック市場の課題や、fermataの取り組みについてお伺いしました。
「フェムテック市場を作るために必要なこと全部」が事業内容
―まずは、御社の創業時期や事業内容を教えてください。
近藤さん:
fermataは、まだ日本で「フェムテック」という言葉がメディアに取り上げられる前、2019年10月に創業しました。
なぜ私たちが「フェムテック」を知っていたのかというと、CEOのAminaが、創業前に欧米のフェムテック企業へ投資をしていたからなんです。そこで、「日本にもフェムテック市場を作りたい」という思いで作ったのがfermataです。
ですから、fermataがしているのは「フェムテック市場を作るために必要なこと全部」といえます。
目の前にいる消費者の方にものを届けることはもちろん、小売店さんに商品を卸したりイベントを開催したり。市場にものを流通させるために、もの作りをする企業の支援もしています。どの事業においても健康関連の商材を多く扱うので、消費者の健康を最優先に、日本の規制やルールをどうやって変えていくか、あるいはルールの中でどう生み出していくかを考えることが重要です。
―かなり幅広く事業をされていますね。どんな活動からスタートされて、どのように事業を広げていかれたのでしょうか?
近藤さん:
実は最初、フェムテック商品をトランクに詰めて「日本全国行脚」を計画していたんです。でも創業が2019年10月ですから、行こうとした矢先に、新型コロナウイルスが流行り出してしまいました。
だから全国を回る代わりに、オンラインストアをオープンしたのがスタートです。
そしてコロナ禍の初期、リアルイベントを開催できなくなった多くの企業が、オンラインイベントを開催していたのを覚えていらっしゃいますか?
その流れに乗って、fermataもオンラインイベントを週2回開催していました。今思うとクレイジーだったなと思うほど、準備も大変だったのですが(笑)。
そんなオンラインイベントを3ヶ月から半年ほどやり続けましたが、当時のイベントに参加してくれていた企業の方々やユーザーさんは、いまでもfermataを応援してくださっています。そして次第に、企業コンサルティングのご依頼も増えていきました。
―企業コンサルティングでは、具体的に何をされているのか教えてください。
近藤さん:
これは一例ですが、担当者の方が「うちの技術を使って、フェムテック関連のもの作りをしたい」と思ったとしますよね。でも、決裁者の方がその重要性や市場を理解してくれていなければ、そこで企画が止まってしまいます。
そのような場合は、fermataの担当が決裁者の方を一緒に説得したり、ご納得いただける計画を一緒に立てたりといったこともしているんです。
fermataにしかできない「Femtech Fes!」での取り組み
―オンラインだけでなく、リアルイベント「Femtech Fes!」も開催されていますね。イベントの内容をお聞かせいただけますか?
近藤さん:
fermataの周りには、一般のお客様に加えて企業や医療従事者の方も多いのが特徴です。
そのため「Femtech Fes!」では、すでに市場に出ている商品を買えるブースだけでなく、フェムテックの最新市場が学べるコンテンツや、fermataがキュレーションする展示コンテンツも出しています。普通は手にとることができない、日本ではまだ買えない製品をfermataでは手続きを経て展示しているんです。
―「日本ではまだ買えない海外の製品の展示」をするメリットは何でしょうか?
近藤さん:
そのような展示をすることで、
「自分の悩みは解決できないもので、我慢して当然だと思っていたけれど、実はそんなことないのかもしれない」と、お客様に視野を広げていただけたり、
「うちの技術を使えば、日本市場に出せる商品が作れるかも」と、ものを作れる企業さんが思ってくれたり、
「本当に需要があるなら、これが日本で流通できるように制度を整えよう」と、政府や省庁の方が考えてくれたり、
といった、様々な気づきを持ってもらえる点です。このメリットは大きいので、fermataにしかできないこととして継続してやっていきたいと思っています。
―「流通できるように制度を整える」というお話が出ましたが、日本でフェムテック商品を販売するには、制度から変えなければならないのでしょうか?
近藤さん:
すべてがそうというわけではありませんし、変えるものは制度とは限りませんが、フェムテック商品を市場に出す過程では、既存の枠組みがないところからスタートすることがあります。これまで市場になかった商品を売ろうとしているので仕方ありませんが、そこが大変なところです。その枠組みは民間企業が自由に作れるものではないので、国や省庁との対話が欠かせません。創業時から調整しているものの、未だ発売が実現していないものもあります。
それほど日本でフェムテック商品を流通させるハードルは高いのですが、それは消費者の安心安全を守るためでもありますから、一概にハードルが下がればいいわけではありませんよね。
「消費者のモヤモヤと向き合うこと」を絶対に手放さない
―そのようなハードルを越えた先に、消費者がいると思います。消費者に対してどのような取り組みをされているのでしょうか?
近藤さん:
文化的・教育的など様々な背景から、個人それぞれに、いろいろなタブー意識や固定観念があると思います。
例えば「月経カップ」という商品に対して、「この商品がいいものであることはわかる、値段的にも買える、売っている場所もわかる・・・」それでも「月経カップは使いたくない」という方は、たくさんいらっしゃいます。
そこを乗り越えるのが、おそらく一番難しい。
なぜならそれは、その方にとって生まれてから20年、30年かけて作られた価値観だからです。私たちはその価値観に、イベントや店頭でお話をしながら根気強く向き合っています。もちろん、どちらの考えが正しいというわけではありませんので、決して否定しないようにも気をつけています。
消費者1人1人と向き合っていくのは、途方もない作業です。そのため、企業コンサルだけをされている会社もあると思います。
ですが、fermataは「一般消費者の方と向き合う」という、一番大変で一番大事なところを絶対に手放さないと決めているんです。どうしてかといいますと、消費者を見ないで企業とだけ連携して商品をどんどん出しても、「ものを出しても買われない」という悪循環が生まれるだけだからです。
商品が本当に消費者のニーズに合っているかを見極めること、ニーズには合っているけれど買いたくないという消費者のモヤモヤに向き合うこと、この両軸を大切にしています。
店舗ではモノを売るより悩みに寄り添いたい
―店舗などでは、消費者の方へどのようなお声がけをされていますか?
近藤さん:
例えば、25mlの容量がある月経カップをお持ちのお客さまが、「月経カップから1時間くらいで漏れてきてしまうので、もっと容量の多いものが欲しいんです」とおっしゃったとします。ですが通常、月経カップが1時間で満杯になってしまうということは考えづらいんです。
そういう方には、最初から容量の多い月経カップをおすすめするのではなく、「挿入ってどうされてますか?」「普段から運動やヨガをされていますか?」と聞くことで、適切に使用ができていない可能性を探るようにしています。さらに、この月経カップが平均的にはどのくらいもつ想定でつくられているかをお伝えして、ご自身の状況に違和感を持っていただけるような対話ができればと考えています。
そうしたお話を経て、もしお客様がご自身の判断で病院に行かれた結果、何か異常がわかった場合には、きっとお店に帰ってきてくださると思うんです。fermataでよく言うのは、「その方にとって不要な商品だと思ったら、売らなくていい」ということ。目の前で一時的に物を売ることに、終始したくないと考えています。
―お店に行ってみたくても、抵抗がある方へアドバイスをいただけますか?
近藤さん:
お店で話しかけられるのが嫌だ、商品を1人で見たい、という方もいらっしゃると思います。
基本的に一度はお声がけさせていただくのですが、セクシャルウェルネスのアイテムも扱っているお店なので、「1人で見たい」と言われる方ももちろんいらっしゃいます。スタッフもその気持ちはよくわかりますので、1人で見たい方は遠慮なくそうおっしゃってください。
もちろん男性のお客様にもお越しいただけます。fermataの店舗には男性のお客様も一定数おられるんです。
それはWebや雑誌で知ってくださった方もそうですし、最初は企業のお客様としてfermataを知った方が、奥さまやパートナー、娘さんへのプレゼントなどを選びに来てくださることもよくあるからです。
―お店で人気がある商品や、プレゼントによいものなどを教えてください。
近藤さん:
こちらの「ルネット カップ(月経カップ)」は、大・小の2サイズがあり、それぞれ25ml、30mlの経血が入る容量です。
月経カップは、外出先で長時間生理用品を代えられない方にオススメしています。その中でもルネットカップは、カラフルでかわいいだけでなく、「硬め(サイズ2)」タイプがあるのが特徴です。
実は、人によって合う月経カップの硬さは違います。例えば、日常的にスポーツなどをされている方は、骨盤底筋が強くなっている可能性があるんです。ですから、柔らかい月経カップだと中で折れてしまい、経血が漏れてしまうことがあります。 そのような方は、より硬めの月経カップを利用すると漏れなくなることも多いですね。
もう1つが、こちらの「Rael フェイシャルマスク」です。
このフェイシャルマスクは、女性の生理周期に合わせたフェイスマスクで、プレゼントとしても人気があります。
女性には「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」という4つの周期があり、それぞれの周期で肌の調子も違いますよね。Raelはそれぞれの周期に合わせて配合している成分が違うんです。
女性でも、自分の体調が1ヶ月の中でこんなに変わる理由をご存じでない方もいらっしゃいます。わたしも、fermataに入るまではそうでした。このフェイシャルマスクは、女性が自分の体調の変化に気づいたり、自分の身体について知ろうと思うきっかけになる商品だと思います。
fermataの店舗を「一歩踏み出せる場所」に
―今後の展望をお聞かせください。
近藤さん:
fermataには、東京の六本木と大阪の心斎橋に直営店があります。
そのお店を、「何も買う気がなくても、なにか体のことでモヤモヤすることがある方が、寄ってくれる場所」にしたいと思っています。
実はfermataのメンバー自身が、モヤモヤを持っていたけれど、fermataに触れ合うことで「一歩進んでみよう」「なにか使ってみよう」あるいは「病院に行ってみよう」と思えた人たちの集まりなんです。
もちろん、悩みを無理にオープンにしようということではありません。
よく「タブーをワクワクに」ではなく、「タブーをオープンに」と間違えられるのですが、オープンにすることを強要してはいけないと思っています。自分の非常にプライベートなことを強制的に周りに話させるのは、ワクワクとは違いますよね。
オープンにしたい方・したくない方それぞれのお考えを尊重しながら、1人1人が前に進めるような場所、お店をそういう場所にしたいと思っているんです。
モヤモヤがあれば、とにかくお話だけでもしにお店へ来てもらえたら嬉しく思います。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。