#インタビュー

藤野電力|自分の電気は自分で作る。我慢ではなく楽しさを追求する新しい市民活動のかたち

藤野電力 鈴木俊太郎さん インタビュー

鈴木 俊太郎

東京都八王子市生まれ。元気に生まれるも虚弱体質で怪我も多く病院通いの日々だったことから、幼くも医学を志した。小学生の時に見た東宝映画「アドベンチャーファミリー」に感銘を受け、自給自足的生活を将来の目標と決める。ログハウスの作り方、木工、林業などの本を読み漁り、クライミング、カヌー、パラグライダーなどあらゆるアウトドアスポーツに精通。バイク日本一周や新婚旅行世界一周など将来の山暮らしに向けて技術と経験を貯める。5年間土地を探し1998年30歳を機に相模湖にハーフビルドでログハウスを建て、その後は田舎暮らしに必然のDIY自給自足的生活を実践。古いキャンピングカーのバッテリー上がり対応で始めたソーラーチャージが3.11の震災で活躍し、藤野電力の活動へとつながった。電気の知識もゼロからスタートし第二種電気工事士を取得、整体業の傍らプロが断る面倒な仕事に奔走、オフグリットの施工も日々学んだ建築全般の経験が役立っている。

introduction

相模原市緑区旧藤野町地区にある藤野電力。有志メンバーによって運営されている市民活動グループで、自然エネルギーによる発電とその仕組みを伝えるワークショップ、発電設備の施工などを行っています。

本日はプロジェクトリーダーの鈴木さんに藤野電力の取り組みや活動の魅力についてお聞きしました。

「藤野電力」の始まり、市民活動「トランジション藤野」とは

–はじめに事業内容について教えてください。

鈴木さん:

藤野電力はソーラーパネルを使った自然エネルギー発電を行っています。ワークショップなどを通してオフグリッド※の研究・普及にも取り組んでいます。市民活動的なグループで、会社でもないし、法人格もないサークルのようなものです。

オフグリッドとは

電気を電力会社の供給に頼らず、自給自足している状態。

–なぜそのような形態で活動されているのですか。

鈴木さん:

もともと藤野という地域にはトランジション活動というものがありました。『トランジション藤野』という名前です。これはイギリス発祥の市民活動で、今で言うちょうどSDGsのような考え方です。

–具体的にはどのような活動なのですか?

鈴木さん:

広い意味で地域ごとの自給自足を指します。「世の中の何かに頼るような生き方を変えていかないとこの先もう地球は厳しい」ということを提唱した市民活動です。それをイギリスから日本に持ち帰った者が藤野に住んでいて、始めてみようと言ったのがベースにありました。

<藤野電力の皆さんの写真>

–電力だけでなく、水や食料といった生活に関わる全てのものを自給自足するという考え方ですか?

鈴木さん:

そうです。そのトランジション活動自体に、質の良い暮らしを手作りするベースがあり、地域通貨・食料・森林・健康・教育などのグループを、興味を持ったメンバーが自由に立候補して作っています。また、「グループを続けていくために必要なのは目標を作らない・役割を作らない・責任を持たないことだ」という考え方がありました。ですから、藤野電力の中でも代表はいないし、目的もないような感じです。

–ではもともと藤野という地域に、トランジション活動に魅力を感じて移住してきた人たちがいたということですか。

鈴木さん:

そうですね。そういう人たちがいて、エネルギーでも何かやりたいという声は最初からあったそうです。けれど電気に詳しい人もいなかったので、何もできていませんでした。

–活動が動き出したきっかけは何だったのでしょうか。

鈴木さん:

10年程前の東日本大震災です。あの時に市内で大規模な停電が起きました。トランジション藤野として、このタイミングで何かやらなくちゃいけないという話になり、いきなり「藤野電力」という名前だけがついて、「興味ある人は集まってください」と声かけをして現在に繋がる活動が始まりました。

ワークショップの目的は「意識改革」。完全自給自足を実現した人も

–具体的な取り組みの内容を教えてください。

鈴木さん:

大きく分けて、ワークショップと住宅施工の2つをやっています。オフグリッドの仕組みを学ぶワークショップは毎月1回開催しています。自分でソーラーパネルを組み立てて電気を流し、ランプをつけるということをやります。組み立てたシステムは購入でき、その日からオフグリット生活を始められます。

また、希望があれば日本全国に出張してワークショップもやっています。

–ワークショップで使っているソーラーパネルは、どのぐらいの電力を賄えるものなんですか。

鈴木さん:

ソーラーパネルの最も小さいモデルは50ワットです。それでできることは携帯やノートパソコンの充電、あとは電球一つ付けるぐらいの規模です。

<小型ソーラーパネルの写真(ワークショップ「基本防災コース」のキット)>

–充電にはどのくらいの時間がかかるのですか?

鈴木さん:

3日ぐらいは必要です。電気をバッテリー(240w)に貯めるのにそれだけかかるというイメージです。それを使ってみることで、電気を貯めるのがどのぐらい大変かということを経験していただきます。

–3日で240ワットしか使えない。結構少ないですね。

鈴木さん:

そういう意識を持ってもらうことがワークショップの一番の目的です。いかに自分たちが普段使ってる電気の量が多いのか、それを供給するためのエネルギーがどれだけ必要かということを考えてもらう。我々はこれを「意識改革」と呼んでいます。

–意識改革が進むと生活は変わりますか?

鈴木さん:

そうですね。電気でなくてもいいものは違う方法を選ぶようになります。例えば調理のときに電子レンジを使わないで蒸したり。ご飯も炊飯器を使わなくても、鍋で炊けるわけです。こうやって変えていくと結果的に、「家電品を使うより簡単だし美味しいじゃないか」っていうこともあります。

–エネルギーをただ減らすだけではなく、新たな発見も得られるのですね。

鈴木さん:

はい。それからワークショップとは別に住宅にソーラーパネルを設置をする仕事もしています。

<施工した屋根などの写真>

–お客様が藤野電力に直接設置の依頼をするのですか。

鈴木さん:

はい。これまでに80件ぐらいの施工をしてきました。あとは、ワークショップに参加した方で「持ち帰っては見たけれどうまく使えない」というケースが多いので、生活で使いやすくするために施工するノウハウも伝えています。

–作ったのはいいけれど、使いづらくて使わなくなってしまうともったいないですよね。

鈴木さん:

作ったものを使いやすいようにしないと我々の意識改革は達成できませんので、家にちゃんと設置してあげようと。最初は小さなソーラーパネル程度だったものがどんどん大きくなっていって、最終的に自家発電だけで電気代を払わず暮らしている人もいます。そこまで行くと意識改革は成功、目的達成かなと思います。

電気の自給自足。広がったきっかけは東日本大震災

–活動を始めた背景について教えてください。

鈴木さん:

きっかけは東日本大震災です。当時はどちらかというと原子力発電や電力会社への不満がたくさん意見として出てきて、この地域の電気だけでも自給できないかという話になりました。

–原子力発電や電力会社に頼らない生活を考え始めたと言うことですね。

鈴木さん:

はい。ただそうは言っても調べているうちに日本のエネルギーの仕組みからいってそれは難しいというのも分かりました。「ではどうしていこうか」と1年ぐらいかけてみんなで話し合いました。

–鈴木さんのお宅では震災当時、印象的なエピソードがあると伺いました。

鈴木さん:

はい。大停電が起きて、市内はお店も家も信号すらも電気がついていなくて完全な真っ暗闇でした。けれどその中で自家発電の仕組みを持っていた我が家だけが唯一、停電しなかったんです。暗闇の中、我が家にだけ明かりが灯っているっていうのはすごく安心感がありました。

–すごいですね。かなり話題になったんじゃないですか。

鈴木さん:

そうですね。停電になっても自家発電のおかげでうちは普段と変わらず生活できましたと皆さんにお伝えしたところ、興味があるという人がたくさんいらっしゃって、結果的にそちらの路線に落ち着きました。

–そこからどのような流れがあって、現在のワークショップに繋がったのでしょうか。

鈴木さん:

ミーティングの場で毎回話していたことなのですが「批判をしながら電力会社の電気に頼っているというのはおかしくないですか?自立するためにもまずはエネルギーを自分で作るっていう経験をしないといけない。分からないものに対して意見を出しあっても駄目だよ」と。

–まずは自分でエネルギーを作って実感してみないと始まらないということですね。

鈴木さん:

そうです。「じゃあオフグリッドの簡単な仕組みのものを作るワークショップをやってみよう」という案が出ました。小さなパネルを地域のお祭りに持って行って体験会をやってみたところものすごく好評で、定期開催しようという話になりました。需要もありましたし、面白いと言ってくださる方もいるので、それが10年間ずっと続いているという感じです。

参加者に「面白い」と感じてもらう活動を追求

–ワークショップに参加した方の反応はいかがでしょうか。

鈴木さん:

自分で作った発電システムを組み立て終わった後に、電気を流してランプをつけるんですが、皆さんものすごく感動されます。もともと電気が日本に来た目的は灯油ランプから電球に変えるため、今となっては当たり前のことのように思いますが、この時代になっても電球がついたことにものすごい感動を得られるんですよね。

<ワークショップの写真>
<ワークショップの写真>

–得難い経験ですね。

鈴木さん:

他には座学も行っていて、電気の基本から日本全体のエネルギーの流れや、発電所からどうやって電気がきているのか、安定した電気をどう管理しているのかといった話をするのですが、「全然知らなかった」と皆さんびっくりされます。

–確かに、普段はそういったことをほとんど意識していないと思います。

鈴木さん:

コンセントの向こう側の仕組みを教えてあげると、「電気ってそんなに面白いんだ」ということに気づかれる方が多いです。

–活動を続けていく上で、面白いと感じることは重要かもしれませんね。

鈴木さん:

はい。藤野電力の活動のベースとして、こうじゃなくちゃいけないとか責任感を負わせるということは一切ありません。

どれだけ楽しんで帰っていただけるかを大事にしています。「我慢して少ないエネルギーで暮らしましょう」ではなくて、少ないエネルギーで暮らすことが実はすごい面白いんだっていうことに気づいていただきたいと思っています。

あえて目標は作らない。「楽しさ」で暮らしを変えていく

–今後の展望について教えてください。

鈴木さん:

実は具体的な将来の展望はありません。トランジション活動自体に「目標を作らない」という考えがありますから大規模な目標や、まして企業のように売上目標などはありません。これは他の団体にはない藤野電力の特徴だと思っています。

–あえて目標を作らず、楽しさ・面白さだけを伝えていくということですね。

鈴木さん:

はい。強いて言えば、今やってるワークショップや施工の取り組みを続けていって、参加した方が面白かったと伝えてくれて、また別の方が来てくれてという風に広まっていってくれるといいですね。

–他には何かありますか?

鈴木さん:

SDGsが個人個人の暮らしに繋がるようにもっと上手く提供できたらいいなと思います。

–例えばどういった形でしょうか。

鈴木さん:

各家庭にソーラーパネルがあって、太陽が出ていれば簡単に電気は作れます。そうすれば、自分で使う電気を自分で作れますので、電力会社が電気を作りすぎてしまったり、いざというとき足りなくて困ったりすることはなくなります。手作りごはんと食品ロス、家庭菜園と大規模農園の関係性ですね。

–そうすると、色んな社会課題が一気に解決しそうですね。

鈴木さん:

企業や自治体のSDGsも大きな力として必要ですが、まずは個人個人が意識を改革していって、市民の側からボトムアップで暮らしを変えていくという考え方が大事だと思います。

–既存の仕組みや、ムーブメントに頼るのではなく、一人一人が自らの意識で変えていくことが重要なのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

藤野電力:https://fujino.pw/