ICTとは?ITやIoTとの違い、ICT教育の現状、身近な活用事例も

総務省 通信利用動向調査を参考に筆者作成


2000年の時点では30%程度しかなかったインターネット普及率が、2020年には80%を超えるほどまで成長し、今や若年層だけでなく、高齢者層も利用できるようになりました。

それに伴いICT、ITやIoTなどの言葉も広まりつつありますが、何が違うのか分からないという方もいると思います。そこでこの記事では、ICTの言葉の意味から関連用語の違い、ICTの重要性を具体例を交えながら説明します!

目次

ICTとは何?ITやIoTとの違いは何なのか

まずは、ICTの意味を把握しましょう。

ICTは簡単に言えば情報通信技術

ICTとは「Information and Communication Technology」の略称で、日本語では情報通信技術という意味となります。

一見すると仰々しい印象を持ちますが、身近なところではTwitterやLINEなどのSNSもICTの一部です。他にもGoogleドキュメントをはじめとする、データのクラウド管理システムもICTと言えます。

続いては、ITやIoTとの違いを確認しましょう。

ICTとITとの違い

ITはInformation Technologyの略で、日本語では情報技術を意味します。

ITとICTは同じような意味合いで用いられる場合がありますが、パソコンやスマホ、アプリケーション、インターネットなどといった、コンピュータやデータ通信に関する「通信技術」全般を指し、ICTより広い範囲を含んでいます。

一方、ICTは「情報を伝達する」ことを重視しているので、ITに内包される言葉といえるでしょう。

もともと日本では、2000年11月にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が制定されたことがきっかけで、ITという言葉が広がっていきました。当時は、高速インターネットを普及させるための技術やインフラ整備を重要視しており、ITを「技術」そのものとして認識されていました。

しかし、時代が進むにつれてインターネットやコンピューターを利用した、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーションが重要視されるようになりました。そこで、「技術」そのものを指しているITではなく、「コミュニケーション」を含むICTが生まれ、使い分けられるようになったのです。

そのため似たような意味ではありますが、現在ではITとICTを呼び分けるようになっています。

ICTとIoTとの違い

IoTとはInternet of Things の略称で「モノのインターネット」を意味します。

ここでの「モノ」とは、私たちが普段使っているような家電製品や家、車など、ありとあらゆるモノを指します。

「モノ」がインターネットに接続することで、さらに便利なものへと進化させることをIoTと呼ぶのです。

例えば、「カギ」をIoT化すると、登録した人のスマホで施錠できるようになり、カギの紛失や合鍵を作成する手間がなくなります。また、引っ越す際はカギの登録を解除すれば開けられなくなるため、カギを付け替える必要もありません。

ICTは「情報を通信・伝達する」ことを指すのに対して、IoTは「既存のモノをインターネットに接続する」ことを指している点が大きな違いといえるでしょう!

IoTとは?Internet of Things(モノのインターネット)の意味や事例を簡単に

次からはさらに踏み込んで、活用が期待される分野について見ていきましょう。

例として「教育業界」「ジェンダー」「地方創生」をピックアップして紹介します。

ICTの活用が期待されている分野①教育業界でのICT教育

今までは一方通行のやり取りになりがちだった教育を、ICTの活用により、双方向のやり取りをしながら行うことが期待されています。

ICT教育によるメリット|学習能力の向上が見込める

例えば従来の授業では、毎回教師が板書したものを生徒はノートに書き写す時間が必要でした。このやり方では、扱う問題が複雑になると、教師が一方的に説明し、生徒は板書を書き写すだけで授業時間が終わってしまうということも少なくありませんよね。

そこで、電子黒板や電子プリントなどのを導入し、「先生が板書を書く」「生徒がノートに書き写す」という段階を省略できれば、「生徒に考えさせる時間」をつくったり、「質問する時間」を設けられたりすることができます。これにより、受け身な姿勢の授業はなくなり、生徒自身が能動的に授業に参加できるのです。

この能動的な教育は「アクティブラーニング」と呼ばれ、従来の授業よりも学習能力の向上が見込めると、現在注目されている分野でもあります。

また、コロナ禍の学校教育でもICT教育が重要な役割を果たしています。コロナによって対面での授業の改善が求められ、Zoomなどを用いて遠隔授業が行われるケースが増えてきました。このように、ICTは従来の学校教育とは異なる、新たな教育の方法を可能にしています。

ICT支援員の増加も

このように、現在教育業界ではICT教育の重要性が注目されており、それに伴うICT支援員を増員すべきだとの声が上がっています。

ICT支援員とは以下の通りです。

学校における教員のICT活用(例えば、授業、校務、教員研修等の場面)をサポートすることにより、ICTを活用した授業等を教員がスムーズに行うための支援を行う。

文部科学省「ICT支援員について」
出典:ICT 支援員の配置状況と支援事例等

現状、ICT支援員の配置状況は都道府県、市区町村ともに50%を下回っています。未配置の学校でも支援員の増員を検討してはいるものの、予算や適切な人員の確保などが課題となっており導入できていない状況です。

今後、ICT支援員を配置しやすくなるような環境整備が求められるでしょう!

ICTの活用が期待されている分野②ジェンダー平等の実現

ICTはジェンダー格差を是正する一歩としても注目されています。ここでは、「遠隔学習」と「テレワークの実現」の2つの点から見ていきましょう。

遠隔学習

内閣府が行った「平成26年度 女性の活躍推進に関する世論調査」では、「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成している人の割合は44.6%でした。また「子どもができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよい」と答えた人の割合が31.5%となっていることからも分かる通り、女性は家で子育てをすべきという価値観がまだまだ日本には残っています。

子育てなどの事情で家にいなければならない女性は、まとまった時間を確保することが難しいため、移動時間のかかる対面授業を受けることは現実的ではありません。また、参考書や問題集を用いた自主学習も、分からないことを気軽に聞ける先生がいないため、効率的とは言えないでしょう。

例えば、英語や中国語などの語学の勉強では細かな発音の違い教えてくれる先生が必要になり、FP(ファイナンシャルプランナー)や簿記のような資格の勉強も専門の知識を持った講師から教わった方がすぐに理解できるはずです。

このような課題を受け、今では就職に有利になるような授業を、スマホやタブレットなどを用いてオンラインで受けられるようになっており、ICTが女性の能力強化につながっていることが分かります。

テレワーク

近年、コロナウイルスの影響もあり、テレワークを実施する企業も増えてきました。まだまだコミュニケーションやマネジメントの面での課題は残しますが、このままテレワークが広がれば、子育てによって家を空けられないという理由から、仕事を辞めざるを得なかった女性も仕事を続けることが可能になります。

財務省のコラムでは、テレワークが男女に限らず広まることで、夫婦間の家事・育児の分担を見直すきっかけになるとしています。

女性の社会進出には、現在の正社員の仕組みや仕事の価値観を変えるだけではなく、家庭における夫婦間の連携も不可欠であるため、テレワークを導入することは非常に大きな意味があるといえるでしょう。

ICTの活用が期待されている分野③地方創生

ICTの導入によって「都市圏の人口集中」「地方の過疎化」などを解決することも期待されています。地方は都市部に比べて家賃や物価が安いというメリットがある反面、雇用や教育機会が少ないという課題がありました。

そこでICTの導入によってどこでも働けるようになる、遠隔で教育を受けられるようになる環境を整えられれば、地方の活性化が期待できます。

ICTを活用することによってIT企業のオフィスを呼び込んだ 徳島県 神山町 

徳島県神山町は地方創生の聖地として、注目を集めています。神山町は徳島県の県庁所在地である徳島市まで車で約40分、人口は5,000人弱の町です。日本の町村単位の平均人口が約10,000人強であることを考慮すると、比較的小さな街といえるでしょう。

そんな神山町では、2005年に町内全域に「光ファイバー」が開通されたことにより、山小屋の中や川の近くであっても、Wi-Fiを利用できるようになりました。

それだけでなく、神山町にあるそれぞれの家に光回線を接続することによって、インターネット回線の高速化を実現しました。その速度は東京よりも早く、仕事の環境に回線速度を重視するIT企業にとっては嬉しい条件です。

そこに目を付けた名刺関連サービス会社のSanSanをはじめとするIT企業が、神山町に次々とオフィスを構えるようになりました。

町民もこれらのIT企業を嫌悪するのではなく、こころよく招き入れたとのことです。企業側からしても、外部からの流入者を受け入れる開放的な雰囲気であれば進出しやすくなります。

また、都会的なコワーキングスペース(共同の仕事場)も開設され、豊かな緑に囲まれながら綺麗な作業場で働くというライフスタイルは、実際に訪れた視察者にも好印象を与えたでしょう。

徳島県ではこのような事例をテレビなどのメディアを通して全国に発信し、「神山町で働きたい」と考える若者も増えてきたと言います。そして、2011年には転入者数が転出者数を上回り、全国的に見ても珍しい人口増加を達成しました。

このように、ICTが普及することによって様々な課題の解決が期待されています。そのため、政府もICTの推進に向けた取り組みを積極的に行っているのです。

次では、そのなかから「ICTを推進するために行った政策」「地方創生関連」「Society5.0」の3つをピックアップして紹介します。

ICTの活用が期待されている分野④医療

医療分野でもICTを活用することで、業務効率の向上や遠隔での治療が可能になります。

電子カルテ

これまで、患者の症状などの情報は紙のカルテにまとめられていました。これをICTを活用して電子カルテにすることで、記入する時間の短縮につながったり、看護師が医師の字の癖を読み解く必要がなくなったりと業務効率の改善につながります。

また、検査結果をリアルタイムにカルテに反映することも可能です。

オンライン診療

従来、医師に診てもらうためには病院に出向く必要がありました。この場合、例えば中山間地域では、電車が通っていない、バスが1日数本しか走っていないなど、交通環境が整っていない地域では、高齢者の通院が困難という課題がありました。

オンライン診療はインターネット環境と端末さえあれば見てもらえるため、この課題をクリアできます。

またコロナ禍では、人と人との接触を極力抑える必要があるため、ICTを活用した診療が急速に普及しています。

ICTの推進に向けた政府の取り組み①社会全体にICTを推進するための政策を展開

政府は社会全体でICTを活用していくため、さまざまな政策を打ち出しています。

教育情報化の推進

これまで教育現場のICT導入が進まなかった原因として、貧困世帯への対応が挙げられていました。

一般的な家庭ではスマホやパソコンを用意し、インターネット環境も整備されていますが、貧困世帯ではそうはいきません。

政府はこういった課題に対しても対応策を講じており、令和3年3月末時点で効率の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校(前期課程)および特別支援学校(小学部・中学部)の児童生徒に端末を支給するよう動いています。

総務省によると令和2年度内に、全自治体のうち97.6%には納品を完了する見込みをたてています。

テレワークの推進

中小企業を支援する団体と連携して、テレワーク導入のための初期相談問い合わせを受け付けており、セミナー相談会も開いています(テレワーク・サポートネットワーク事業)。

また、情報セキュリティやICTツールについて具体的な悩みを持っている企業や団体に対しては、テレワークの専門家が無料のコンサルティングを行うことも可能です(テレワークマネージャー相談事業)。

このように、テレワーク推進のサポートをコンサルティング会社などのビジネス市場にゆだねるのではなく、積極的に政府がサポートする政策を行っているのです。

ICTの推進に向けた政府の取り組み②地方創生のためICTの導入を推進

先述した徳島県神山町の事例から、地方であってもICTの導入によって人を呼び込むことは可能ということが分かります。

しかし、ICTを導入し運用していくためには費用の負担は避けられません。地方自治体は、厳しい財政のなか運営を行っていることも多く、現実的にICTの導入が難しいという意見も考えられます。

そこで、政府は「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金」という地方創生を目的とした自治体の取り組みに対して、交付金を支給する政策を行っており、これまで15,453の取り組みを対象に合計1,598億円を支給したと発表しています。

ICTの推進に向けた補助金や給付金交付事業

また、政府は交付金支給の一環として、利用目的別に地方自治体の取り組みを募集し、それに伴う費用の一部を補助する事業を行っています。

以下では、具体的に行われた事業とその予算案について紹介していきます!

ふるさとテレワーク推進事業

テレワークの普及や環境の構築を目的にした「ふるさとテレワーク推進事業」は、7.2億円を平成28年度初期案として提出されました。地方自治体が、この事業に応募するためには、拠点を置く地域の指定や、拠点を利用する従業員・個人の有無など、いくつかの条件を満たしている必要があります。

ICTまち・ひと・しごと創生推進事業

ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」では、ICTを導入することで得たデータを、地域情報として共有する取り組みを行う自治体を対象に、初期投資、継続的な体制整備などのための補助金を給付しています。こちらの給付金も平成28年度に初期予算案として2.5億円が提出されています。

これらのように、政府が長期的に給付金の支給を行っていれば、導入の敷居も低くなり、日本社会にICTが広がっていく土台を築くことができるでしょう。

また、政府はICTの発展により、これからの社会を変革できると期待を寄せており、Society 5.0と銘打ち、取り組みをさらに加速させようとしています。ICTの重要性を理解する上で大切な内容なので次で詳しく見ていきます。

Society5.0の実現に向けた取り組み

まずはSociety 5.0について簡単に説明します。

これまで人間の社会は以下のような段階を踏みながら、徐々に変化していきました。

Society1.0:狩猟社会

野生の動植物の狩猟や採集を生活の基盤とする社会

Society2.0:農耕社会

土地の耕作が富の源であり、経済が農業によって成り立っている社会

Society3.0:工業社会

工場を利用した大量生産を特徴とする、工業化の進展した社会

Society4.0:情報社会

情報そのものが土地や物などの資源と同等以上の価値を持ち、それらを中心として機能する社会

そしてSociety5.0は、情報社会に代わる新しい社会の特徴を指します。内閣府によると、Society5.0は「サイバー空間(仮想空間)フィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のこと」と記述されています。

具体的に言うと、Society5.0ではIoTやICTによって全ての人とモノがつながることにより、知識や情報が共有されます。これによって、今までにない新たな価値を生み出すことが可能になり、自治体や教育、企業などの課題や困難を克服できると期待されているのです。

Society5.0には自治体、住民、大学、産業界の連携が不可欠

数多くの国際会議に出席し、国内外の都市・地方開発事情に精通している河野通長氏は自身の著書「スマートシティモデルで拓く未来社会」(※)にて、Society5.0を実現するためには「(1)住民」「(2)自治体」「(3)研究機関」「(4)産業界」の連携が必要であると主張しています。3

スマートシティ

内閣府によると、

ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場

スマートシティ

と定義されています。

では、それぞれの役割を見ていきましょう。

(1)住民

Society5.0を実現するためには、住民が抱えている問題や不満をあぶりだし、それを解決するために適切な方法を開発していかなければなりません。

ここでの「住民」とは、実際に都市や地域に住んでいる人だけではなく、訪問者や観光客、事業者なども含まれます。

(2)自治体

地方自治体はこれらの市民の意見を正確に吸い取ることで、都市の課題点を見出し、適切な対策を講じます。

(3)研究機関・大学

大学をはじめとする研究機関は、まだ実用化されていない技術も保有しており、それらの新技術を都市の課題解決に用います。

(4)産業界

産業界では、大学と同じく都市の課題解決の技術を保有している企業だけではなく、エネルギーや交通などのインフラサービスを提供している企業の協力も欠かせません。

Society 5.0を実現するためには、これら四者が独立して動くのではなく、連携を取り合い、協力して課題の解決に取り組むことが求められています。これを「官民連携」と呼びますが、これまでの社会は官民が連携を取りにくい現状がありました。

そこで政府が連携基盤を構築するため、2019年8月「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立しました。

政府が連携基盤を構築「スマートシティ官民連携プラットフォーム」

スマートシティ官民連携プラットフォームとは、Society5.0の実現に向け、IoTやICTなどの新技術やデータを活用したスマートシティを街づくりの基本コンセプトとして位置づけ、官民が連携して取り組むため、自治体および企業・研究機関・関係府省などを会員とするプラットフォームです。

企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省等から構成されるこのプラットフォームを軸に、官民が一体となって全国各地のスマートシティの取組を強力に推進していくことを目的にしています。

令和2年3月時点では、企業314団体、大学・研究機関43団体、地方自治体114団体の計471団体が所属しています。

ICTの身近な活用事例

ここまで見てきたように、ICTはただ単に私たちの生活が便利になるだけでなく、国家レベルで、これまで難しかった問題の解決に導くことが期待されています。

そして政府が音頭をとってICTの活用を推進した結果、さまざまな場面で着々と成功事例が見られるようになりました。ここでは活用事例を見ていきましょう。

【農場とつながることで、どこからでも現地の情報が分かるように】北海道水穂農家のスマート農業

スマート農業とは、ロボット技術やICT等の先端技術の活用する新たな農業の形です。

農林水産省では「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト(平成27、28年)」でスマート農業の成功例をいくつか発表しており、そのなかから「現場とつながる」ことで、ICTの恩恵を受けられるようになった北海道の水穂農家の例を紹介します。

北海道の水穂農家では、大規模経営によって、

  • 農場数が多い
  • 成長度合いによって別の場所に移し植える必要がある
  • 同じ品種でも農場間で生育進度が異なる

などの理由から、適正な水管理への労力的な負担が大きいことを課題としていました。

水管理の省力化につながった

そこで水田の水位、水温、気温などの環境データを自動で計測する水田センサを導入。これにより、いつでも水温や水位を確認することができ、天候に適した水管理を行えるようになったと報告しています。

省力化以外のICT導入のメリット

また、水田センサの導入以前は、農業の数値化がされていないため、経営は農家の勘と経験によって行われていました。これがセンサによって正確な水位・水温・気温データを集められるようになることで、数値に基づく生育予測や生育状態の把握ができるようになったのです。

このようなメリットは、農業のマニュアル作成に役立ち、新規就農者が短期間でのノウハウ習得を可能にします。また、全国的にこうした動きが広がっていけば、農業における高齢者問題後継者問題の解決にもつながることが期待されています。

顧客とつながることで「余剰在庫問題」を解消したアパレルブランド 『foufou』

次は、「顧客とつながる」ことを目的にしたアパレルブランドのICT活用事例を見ていきましょう。

ICTを利用することは、最先端の機器を購入しなければいけないというわけではありません。foufouはSNSを活用することで顧客とつながり、アパレルブランドが抱える余剰在庫問題を解消しました。

まずは余剰在庫問題について説明します。

アパレルの課題:余剰在庫問題

アパレル業界では、季節を先取りした商品を顧客に届けるために、販売時期の1年前から受注と生産が始まります。また、「必要な分だけ作って消費する」方法よりも、「低価格で大量に生産して大量に販売する」方法のほうが利益を出しやすい側面を持つビジネスモデルです。

そのため、販売予測の精度が不安定で、余剰在庫を抱えやすいといった課題がありました。

余剰在庫を抱えることで、

  • 売れ残った商品を保管するための、倉庫の賃料や管理するための人件費
  • 最終的に廃棄となった場合の処理費用

など、金銭的な負担がかかるうえ、焼却処分する際には大量のCO2が排出するため、環境への影響も懸念されています。

地球環境問題の権威として位置する国連環境計画(UN environment programme )は、アパレル業界が世界の炭素排出量の2~8%を占めていると発表しており、問題の深刻さがうかがえるでしょう。

そのため現在、アパレル業界全体で余剰在庫問題に対して取り組むことが推進されていいるのです。

ブランドの顧客と直接つながることで在庫消化率90%を達成

この余剰在庫問題を解決するため、foufouではTwitterやInstagramなどのSNSを利用することで顧客と直接つながり、相互コミュ二ケーションを行いました。Instagramのライブ配信では、視聴者からの質問にスタッフとデザイナーが直接答えるだけでなく、商品のデメリットもしっかりと説明します。

こういった取り組みは顧客との信頼関係の構築や、届いた商品の満足度向上、ブランドのファン化につながり、在庫消化率は90%以上を誇るとのことです。一般的なアパレルでは「プロパー(定価)価格での在庫消化率は60%」が標準的なところを考えても、破格的な水準です。

また、商品を破棄しない方針を取っており、売れ残っても在庫として抱え、シーズンを過ぎても売り続けています。

最近ではコロナ禍の影響もあり、SNSを利用して顧客と直接コミュニケーションをとるブランドも増えてきましたが、foufouはその先駆けともいえるでしょう。

紙資料のデータ化によって業務改革を行った建設設計事務所

次はICTを利用して「従業員とつながる」ことにより、業務効率化に成功した例を紹介します。

東京大学情報工学系研究科の教授江崎浩氏の著書「サイバーファースト インターネット遺伝子が創るデジタルとリアルの逆転経済」にて、ICT技術を用いて業務効率化に成功した実例を紹介しています。4

建設設計を中心に都市設計に関するコンサルティング業務などを行う株式会社プランテックは、設計図をオンライン化することで根本的な業務改革を行いました。

従来の設計図作成業務では、

  1. 各設計者が担当の部位の設計図を作成
  2. 設計図を同じ場所に持ち寄る
  3. 全員で見ながら全体像を再構成・整理する

の3つの段階を踏んでおり、従業員の場所・時間的拘束が必要になります。

そこで、プランテック社ではアナログな設計図を完全に排除し、全ての設計図をCAD※によって作成するよう変更しました。同時に、作成した設計図を関係する設計者がいつでもアクセスできるようにし、オンライン上で連携した作業ができるように移行したのです。

CAD(Computer Aided Design)

コンピュータを用いて設計すること、もしくはコンピュータによる設計支援ツールのこと

資料のデジタル化によるテレワークの推進とリスク管理

これにより、設計者同士が集まらなくても、全体像や詳細な仕様もオンラインで確認できるようになりました。こういった業務効率化によるメリットは、従業員の柔軟な働き方を可能にすることだけではありません。

今まで紙で設計図を管理していたので、自然災害や事故などにより、これまでの設計情報を失う可能性がありました。しかし、重要な情報をすべてデジタル化することによって、このような危険性を軽減できています。

また、紙媒体の資料が無くなることはオフィスの環境をより快適にするだけでなく、廃棄する紙の量を減らし、環境への負担を軽減することにもつながるのです。

このように、さまざまな業界でICTが活用されており、今後益々需要が増えていくことでしょう。また、繰り返しになりますが、ICTの活用により、これまで解決できなかった課題の解消も期待されます。

そのため、最近注目を集めるSDGsでもICTを活用して課題に取り組むことが求められているのです。

SDGsとの関係

SDGsは、「社会」「環境」「経済」の3つの側面から17の目標が掲げられてた国際目標で、2030年を達成期限としています。目標には最新技術を駆使して解決を目指すものもが多く、そのなかにはICTも含まれます。

ここでは特に関係している目標をピックアップして詳しく見ていきます。

目標1「貧困をなくそう」

貧困が生み出す問題として、子どもが十分な教育を受けることができないことが挙げられます。発展途上国では、初等教育すら受けられない状況の子どもが大勢いるのです。

また日本でも、貧困世帯の子どもは学校の教育についていけずに、不登校になってしまうケースも多いとされています。

十分な教育を受けられなければ、就職面でも正社員になりにくいなどの影響を及ぼします。これにより安定した収入を得られず貧困から抜け出せないため、その人の子供も教育が受けられないといった負の連鎖が発生します。

このような問題を、ICTの活用によって断ち切れる可能性があるのです。

ICTを利用した教育は「子どもが勉強する場所」「勉強する時間」「子ども個人の進捗」にとらわれることがありません。これにより、どのような環境の子どもであっても、自分のペースで教育を受けられるようになります。

十分な教育を受け、高校、大学に進学できる子供が増えれば、貧困から抜け出せる可能性が高くなるのです。

SDGs1「貧困をなくそう」の現状と取り組み事例、私たちにできること

目標4「質の高い教育をみんなに」

ICTは目標4「質の高い教育をみんなに」の達成にも貢献します。

貧困に苦しむ人たちはもちろんのこと、障害者や先住民など、社会的に脆弱な立場にある人たちも、あらゆるレベルの教育や職業訓練を受けられるようにすることが必要です。

また、時代の変化によって細分化されている専門的な知識や技術を学ぶことは、若者の働きがいのある仕事や企業につながり、ひいては新たな雇用を生むことにもつながります

SDGs4「質の高い教育をみんなに」の現状と取り組み事例、私たちにできること

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

総務省統計局による「平成 28 年社会生活基本調査― 生活時間に関する結果 ―」によると、30~34歳の男性は1日平均約7時間(428分)働いているのに対して、30~34歳の女性は1日平均約4時間(218分)働いているという結果になっています。5

一方、同年齢帯における男性の子どもの世話をする時間は一日平均21分、家事をする時間が12分なのに対して、女性は子どもの世話をする時間が一日平均約2時間(111分)、家事をする時間も約2時間(117分)という結果でした。

このような結果からも分かる通り、子どもがいる家庭において、男女間で過ごす時間の種類に大きな差が生じています。

男性は仕事を通じて、様々なスキルを得ているのに対して、女性は家事や育児に時間をとられ自身のキャリアのために時間を費やせていません

この現状では目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成に近づけるとは言えないでしょう。

ICT教育の普及によって時間や場所に制限のある女性でも、知識やスキルを得る環境が整えば、目標5の達成に近づくことができます!

SDGs5 「ジェンダー平等を実現しよう」の現状と取り組み企業をわかりやすく解説

目標12「つくる責任つかう責任」

ICTを利用した双方向のコミュニケーションが取れるようになると、企業と顧客の間、製品の機能と要望の間でのミスマッチが少なくなります。

企業は、どのような機能を持った製品が求められているのかが把握でき、大量の在庫を抱え込む必要がなくなります。また、顧客も製品の機能について理解を深めることで、満足度の高い買い物が可能になり、一つのものを長く使う習慣につながるでしょう。

このようにICTを利用した市場が広がれば、企業側でも顧客側でも最終的に廃棄するゴミの量の削減につながります。

さらに、企業内だけに注目しても、ICT技術の利用は環境面の負担を抑えられると予測されます。

会社内のやり取りに必要な紙の資料をデジタル化し、従業員同士で共有できるようになれば、廃棄するゴミの量をぐっと減らすことが可能です。また、対面会議の頻度を減らすことができれば、自動車や公共交通機関の利用頻度も下がり、そこで排出されるガスの総量も削減できるでしょう。

SDGs12「つくる責任つかう責任」現状と取り組み、私たちにできること

ICTの普及によってSDGsの達成にもつながる

この記事では、ICTについて詳しく見てきました。ICTの普及によって教育面テレワークの推進など、様々な分野で抱える問題を解決することにつながります。そのため、現在世界中でICTの利活用を推進しようと、取り組みを行っています。

しかし、日本の現状ではICTが普及しているとは言えません。

そのため、私たち1人1人がICTについて理解を深め、生活や業務に取り入れていくことが必要です。もし、この記事を読んでICTに関心を持っていただけたなら、ぜひ自分の周りで利用できることはないか考えてみてはいかがでしょうか。

そういった取り組みが世界を少しづつ良い方向へと動かし、2030年のSDGs達成にもつながるでしょう!

参考文献
1内閣府 平成26年度 女性の活躍推進に関する世論調査
2広報誌 「ファイナンス」 女性の労働とテレワーク
3河野通長氏,スマートシティモデルで拓く未来社会,初版,株式会社ミチクリエイティブシティデザイナーズ,2019,第2章
4江崎浩氏,サイバーファースト インターネット遺伝子が創るデジタルとリアルの逆転経済,ver1.1,東京,株式会社インプレスR&D,2019,Chapter 4
5総務省 平成 28 年社会生活基本調査― 生活時間に関する結果 ―

この記事の監修者
阪口 竜也 フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)