佐伯 美紗子
大阪府生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、その時の経験から「いつか社会や経済の仕組みを変えたい」という想いを抱くようになる。帰国後は国内の大学に進学し、2008 年、新卒で大手総合商社に入社。2019 年より「imperfect 株式会社」立ち上げに携わり、 同社マーケティング部⻑に就任。2019 年7 月にオープンしたウェルフード マーケット&カフェ「imperfect 表参道」の企画運営を主導。2022年8月より、imperfect株式会社 代表取締役社長に就任。
introduction
「実業を通じた社会課題の解決」を目指し、2019年に設立されたimperfect(インパーフェクト)株式会社。サステナビリティに配慮した原材料を使った商品を扱うことにこだわり、消費者が商品購入などで世界中の食と農を取り巻く社会課題への取組みに参加できる仕組み「Do well by doing good.(いいことをして世界と社会をよくしていこう)」活動を展開しています。
今回は代表取締役社長の佐伯美紗子さんに、事業内容や「Do well by doing good.」活動について、今後の展望などをお聞きしました。
社会課題の解決のため、たとえ不完全でも最初の一歩を踏み出す
–まずはじめに、imperfect株式会社のご紹介をお願いいたします。
佐伯さん:
imperfect株式会社では「あなたの『おいしい』を、だれかの『うれしい』に。」のテーマを掲げ、チョコレートやコーヒー・ナッツなどのサステナビリティに配慮した原材料を使用した商品を展開しています。
社名であるimperfectには2つの想いを込めています。
一つは、弊社が扱っている食品の原材料の生産現場には、貧困、不平等などいろいろな社会課題があります。その課題を世界の不完全(imperfect)の一つとし、日本の消費者にそのような課題があることを知ってもらいたいということ。
もう一つ、知るだけでなく、少しでもその課題に向き合い「たとえ不完全(imperfect)でも自分たちにできることから取組み、世界と社会を少しでもよくしていこう」という想いをこめ、お客様とともに社会課題の解決を目指しています。
–では、御社の事業内容をお聞かせいただけますか。
佐伯さん:
弊社は、ナッツ・スパイス・カカオ・コーヒーなど、生産者の労働環境や生活環境、自然環境の改善などに配慮された原材料を使った商品を扱っています。それらの商品を、「私たち生活者のみならず、世界や社会にとってもWell(よい)」という意味を込めた「ウェルフード&ドリンク」と呼んでいます。
商品に使用する原材料には、どんな人達がどのような想いを込めて生産しているのか、サステナビリティに配慮し生産されているのかを、きちんと把握することを心がけています。
取引をお願いする農家は、例えば「児童労働はさせない」や「環境に配慮した生産方法」など、弊社と取り決めた基準をきちんと満たしているかを確認して決めています。
「ウェルフード&ドリンク」は、消費者が美味しいと感じた喜びを、生産者、社会全体につなげていくサイクルを作ることが目標です。
サステナブルだから、社会に良いからという理由で、美味しくないもの、好きでないものを消費し続けるのは無理があると思います。そのため、お客様に美味しい、可愛い、食べたら幸せになると感じてもらえる商品を第一に考え、そのうえで社会課題の解決にも繋げて、消費者、生産者双方にとっての「Well」の提供を目指しています。
生産者の方々は、最終的にどのような商品が消費者に提供されているのかを見る機会は多くありません。私達は生産者と消費者の距離を縮めるという目標を掲げていて、どんな商品がつくられたかを生産者の方々にもお伝えしています。皆さんご自身が作った作物が丁寧に扱われ、素敵な商品になっているのを見てとても喜んでくれています。
そして、商品を手にとっていただくお客様にも、社会課題の解決を目指した取り組みに参加してもらえるようなプロジェクト「Do well by doing good.」活動を行っています。
生産者と消費者をつなぐ「Do well by doing good.」活動
–では、「Do well by doing good.」 の取り組みについて詳しくお聞かせください。
佐伯さん:
2019年からスタートした「Do well by doing good.」活動は、毎年、売り上げの一部を還元して、生産地において社会課題解決プロジェクトを実施するという取り組みです。
どんなプロジェクトを実行するのかは私達が決めるのではなく、店舗やオンラインストアなどで、弊社の商品を手に取っていただいたお客様に参加して決めていただきます。
具体的には、まず商品を購入いただくと投票チップが1枚渡されます。
毎年、3つのプロジェクト候補が決まっていて、ご自身が応援したいと思うプロジェクト1つにチップを使って投票していただきます。1年間の投票期間で最も多くの票を集めたプロジェクトが次の年に現地で実施される仕組みです。
画像提供 imperfect
投票チップを手にしたほとんどのお客様が、投票に参加してくださいます。
プロジェクトの説明をすると、非常にポジティブに受け止めてくださり、関心を持ってくださっていると感じます。「そんな課題や問題があることを知らなかった」とか「普段食べているチョコレートの原料はこんなふうにできるのか」などの声を聞きますね。「自分達にも何かできることがあるのではないか」と気づくきっかけになっていると実感しています。
3つのプロジェクトのテーマは「環境」「教育」「平等」で、お客様に親しみやすく、興味を持ってもらいやすいことを重視し選んでいます。
また、各テーマのプロジェクト候補の設定には弊社として大きな指針があります。
それは、 その産業が抱える 本質的な課題に、きちんとアプローチしているかどうかということと、 生産者の方々が自発的に継続できる仕組みになっているかどうかということです。
「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」という言葉がありますが、私達はその考えを大事にしてプロジェクト候補の設定をしています。
–商品を購入したお客様が投票するというのは興味深いですね。3つのプロジェクトについて詳しく教えていただけますか。
佐伯さん:
それぞれのテーマのプロジェクト候補は毎年変わりますので、今回は2023年度のプロジェクト候補を例に説明しますね。
「プロジェクトテーマ1環境」は、「生物の多様性を活かしたカカオの森をつくる!」で、世界第2位のカカオの産出国、西アフリカガーナ共和国でのプロジェクトが候補です。
カカオは整備された農園で育つというよりも、森にカカオの木を植え、森と共存しながら育てていく作物です。カカオの森には生物の多様性が重要で、豊かな土壌はカカオの品質や収穫量にも関係します。
しかし、過度な化学肥料の使用や農地開拓のためにカカオの育つ森が減ってしまうことが社会問題になっています。
そこでこのプロジェクトでは、森の保全を目指して、化学肥料から有機肥料へ転換する意義や、動植物を守ることがカカオの生産を維持するということを啓蒙し、持続的な有機農法への転換を目指しています。
–次に「プロジェクトテーマ2教育」 の取り組みについてお聞かせください。
佐伯さん:
教育のプロジェクト候補は「よりよい農園経営へ、学びの機会をつくる!」で、グアテマラのコーヒー農園でのプロジェクトです。
グアテマラのコーヒー農家は小規模の家族経営がほとんどです。
子どもが労働力になっている児童労働や、家族が農園で働く間に家で待っている幼い子どもたちの安全や教育などが課題の一つとなっています。
このプロジェクトでは、高品質なコーヒーを生産する技術を習得することで収入を増やし、児童労働をなくす仕組みを構築すること、子どもたちが安全に安心して過ごせる施設を開設するなどして、持続可能なコーヒー栽培のサポートを目指します。
–では3つ目の「プロジェクトテーマ3平等」はどのような取り組みでしょうか。
佐伯さん:
平等のプロジェクト候補は「だれもが安心して活躍できる社会を目指して!」で、ベトナムのカシューナッツ生産工場でのプロジェクトです。
カシューナッツの生産工場では、品質検査や管理を多くの女性が担っています。しかし妊娠や出産などライフステージの変化で、仕事を続けることを断念する女性も多くいます。
そこで、ベトナムの5つのカシューナッツ工場で働く約2,000人の女性のために、働き続けられる環境をどのように整えるのか、経営者の方々にどのように意識改革をしてもらうのかを一緒に考え取り組んでいます。
具体的には、授乳ができるマタニティーケアルームの設置、妊娠出産の正しい知識を身につけるための「プレママセミナー」や会社全体でマタニティーケアの理解を深めるセミナーの開催などをしています。
このプロジェクトは、女性たちが安心して働ける環境、いきいきと活躍できる場所を作ることで、働くことへの意欲や雇用の促進を目指します。
結果だけでなくプロジェクトの過程を知ってもらうことが重要
–これらのプロジェクトを展開するにあたって、何か課題はありますか。
佐伯さん:
農業に関わるこれらのプロジェクトは自然が相手で、なおかつ一年に一回の収穫に向けての取り組みです。長期間のプロジェクトとなるため、難しいことも多いと感じます。
もちろん現地の農業のエキスパートと一緒に連携して取り組んでいますが、本当に生産者や現地の方々の理解を得て取り組みが行えるのか、その後も継続していけるのかなど、確認しながら進めることは重要だと思っています。
また、気候変動などの大きな課題がある中で、プロジェクトが上手くいかなかった場合、それが悪天候が続いたせいなのか、プロジェクト自体に問題があるのかなど見極めるのも非常に難しいと実感しています。
–投票に参加したお客様の声や反応などはいかがでしょうか。
佐伯さん:
プロジェクトにただ投票するのではなく、一年間の投票期間の過程がどうなっているのか、どのプロジェクトが選ばれたのか、どのように生産者達とプロジェクトが行われ、結果はどうなのかなど、全てDo well by doing good.プロジェクトのサイトからご覧いただくことができます。
お客様と取り組みについて共有することにより「投票がこんなことに繋がっている」と感じてもらうことが重要です。
「世界にこんな課題があることを知らなかった」という声はやはり多いですし、動画や写真を見てもらうことで現地の生産者に親近感を持ったと聞くこともあります。「社会課題に興味を持ち、次のアクションに繋がっていくきっかけにしたい。」と言っていただくのは本当にありがたいと思っています。
サステナビリティをもっと身近に届けたい!
–自分も課題解決の一助になれるのは嬉しいですね。ここで気になるのが、なぜimperfect株式会社を設立して、このような事業を展開しようと思ったのでしょうか。
佐伯さん:
弊社は、世界中の農村、農園からコーヒーやカカオなどの食品の原材料を調達して、日本に輸入するビジネスに携わっていたメンバーを中心に設立しました。
仕事をする中で世界中の社会課題を目の当たりにし、このままこのビジネスモデルや環境が50年100年と続けられるのかと考えました。私自身もたくさんの農園を見てきましたが、その中で、生産者に負荷をかけて消費していくビジネスの仕組みが、持続可能ではないと感じていました。
そのビジネスモデルを、生産者も消費者も、そしてビジネス自体も継続していける仕組みに変え、成り立たせることが重要なのではないかと考えたメンバーが集まり、ビジネスを通して課題を解決したいと会社を立ち上げました。
私達は、会社を設立した2019年当時から、今後、日本の消費においては、サステナビリティが主流になると考えていました。
しかし、当時はまだ世の中にはSDGsやエシカルなどの言葉や考えが浸透していませんでしたので、本当にそのような流れになるのかという懐疑的な見方も多くありました。
そのため、私達の目指しているものを理解してもらうのは非常に大変でしたが、この5年間でSDGsの考えが浸透したこともあり、ご理解いただけるようになったと感じています。
–最後に、今後どのように事業を展開していくのか、展望をお聞かせください。
佐伯さん:
今後は、お客様の生活のより身近なところへ、そしてより多くの方へサステナビリティに配慮した商品を届けたいと思っています。
SDGsへの理解が進んだとはいえ、まだまだサステナブルな商品に対する購買行動は高くないと感じています。
それには、3つの原因があるのではないかと思います。
1つは「商品がどこで買えるのかがわからない、特殊な場所でしか購入できないと思っている」ということです。
これに関しては、私達がお客様との距離を縮めることで解決したいと思っています。店舗展開だけでなく、コンビニでの商品販売や、催事やポップアップの出店、EC事業など、商品をより身近に手にとっていただきやすくするために、さまざまな場所でお客様のニーズに合わせたサステナビリティをお届けしていきたいです。
2つ目は「サステナブルな商品は高いというイメージがある」ということです。
高額なものは日常的には購入しにくいですから、手にとっていただきやすい価格帯の商品をコンビニなどで展開したいと考えています。
ギフトに使っていただくような特別なものと、日常使いのできるものと商品構成を検討していきたいですね。
最後は「サステナブルな商品は、本当のところ誰のためになっているのか見えづらい」ということです。
弊社は生産者の方たちと直接繋がっている強みがありますから、そこを可視化してお客様にお届けすることで、この問題が解決できるのではないかと。
私達の活動をよりわかりやすく、いろいろな方面からお伝えし、より身近に感じてもらえるように強化していきたいと思います。
以上のことを実現するため、それぞれのお客様に合った事業の形で、より幅広く展開していきたいと考えています。
–「Do well by doing good.」プロジェクトがこの先も広がっていくのが楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
imperfect 表参道 : https://www.imperfect-store.com/
imperfect オンラインストア :https://imperfect-onlinestore.com/shop
Do well by doing good.プロジェクト:
環境:https://dowellbydoinggood.jp/contents/project/a013/