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ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社|女性リーダーの育成で、意思決定層の多様性を

ウーマンズリーダーシップインスティテュート 川嶋さん インタビュー

川嶋 治子

早稲田大学経営学修士(MBA) 。米国留学を経て市長秘書として 2002年日韓FIFAW杯などのグローバル案件、国内外のトップリーダー対応等に従事。2007年より上場企業の経営幹部育成を手がけ、2014年に欧州の教育機関日本代表に就任。 グローバル企業の女性経営者/役員のリーダーシップ開発、エグゼクティブ教育に従事。海外教育プログラムの日本市場展開をリードする。2015年にInstitute of Women’s Leadership(IWL)社を設立、代表取締役に就任。 女性リーダー育、Diversity&Inclusionに関する官公庁・上場企業のアドバイザリー、経営幹部育成教育プログラム開発、リーダー育成等を支援。 10代20代の女性と一緒に考える生き方トークなど、Z世代との対話の場を定期的に開催している。 EY EWW 女性起業家アクセレレーターメンター。

introduction

企業や組織の女性リーダーの割合が他国に比べてまだまだ低く、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の実現が課題となっている日本。そんな現状を、人事コンサルティングや研修事業を通して解決に導く「ウーマンズリーダーシップインスティテュート」の川嶋さんに、女性が活躍できる社会への課題や解決策などをお聞きしました。

伴走支援で、組織の中からD&Iを推進する

事業内容についてお聞かせいただけますか?

川嶋さん:

主に企業のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)領域の組織・人事コンサルティングやオーダーメイドプログラムの提供を行っています。

単発型の支援ではなく長期的に伴走していくことで表面的な改善ではなく組織の中からD&I推進を加速させることを大事にしています。具体的には、上場企業や外資系企業の経営陣と共に、戦略や目標数値、施策の立案などをしています。

その中でも特に女性リーダー向けの研修に強みをお持ちと伺いました。

川嶋さん:

世界で最も女性役員比率が高いのはヨーロッパなのですが、ヨーロッパの女性リーダーは女性リーダー育成専門の研修を通し、マイノリティである女性リーダーとしての現状を客観的に理解し、リーダーシップを発揮する方法を学んでいます。

私はその研修を行う教育機関の日本代表をしていた経験があるので、海外の先進事例や再現性の高いメソッド、ロジックを日本流にアレンジして提供しています。経営陣へのアドバイスから、女性リーダーの研修など、プランニングから実行まで一貫して行えるところが強みですね。

コンサルティングのポイントは、世界の先進事例や再現性のあるスキームを日本流にアレンジすること

実際にいただく相談は、どのようなものが多いですか?

川嶋さん:

女性の管理職を増やしたいが、どのように進めたらいいか分からないというご相談が圧倒的に多いですね。そういった場合は、現状のヒアリングやコンサルティング、オーダーメイド研修で根本的な改善を図ります。他にも、女性活躍に役立ちそうなものを導入したが、一向に結果が出ないというお話も多いですね。

その原因はどこにあるとお考えでしょうか?

川嶋さん:

D&I・女性リーダー育成を成功に導くためのスキームを知らないこと。これに尽きると思います。

日本企業でよくあるご相談は、「両立支援やアンコンシャスバイアスの研修を導入したけれど、女性管理職が増えない」というご相談です。

これは、目的と施策の不一致が引き起こした、日本に多くある事例です。

両立支援は確かに重要な施策ですが、それだけでは女性リーダーは育ちません。専門の女性リーダー育成の教育プログラムが必要です。

内容を具体的に教えてください。

川嶋さん:

D&Iの取り組みは、①イノベーション創出、②リスク管理、③働き続けやすい組織づくり、と大きく3つに分かれます。

日本企業は、この棲み分けができていないために、目的と施策がズレていて結果が出ないというケースが非常に多いですね。

弊社では、この目的と施策を一致させ、女性リーダー育成に関して、世界で確立された再現性のあるスキームを活用してコンサルティングを行なっています。その際に大事なのは日本流にアレンジすることです。

具体的なエピソードはありますか?

川嶋さん:

ある外資系企業の日本支社を例としてご説明します。その会社では、本社やその他の国に比べて、日本の女性の役員比率が著しく低かったため、本社で定評のあった女性リーダー研修を行うことになったそうです。外国の講師の方が日本に派遣されたのですが、「仕事にまい進することで家庭がおろそかになるのではないか」「旦那さんやそのご両親に良く思われないのでは」といった日本人社員特有の悩みや葛藤が理解できず、「そんなことはシッターに頼めばいいのよ」といったアドバイスで終わってしまったそうです。

海外ではシッター文化が確立されているので、仕事を頑張る=家事に手を抜いているという偏見を持つ人は少なく、女性役員のご自宅には必ずシッターや家事を担う方などがいます。日本の場合はまだまだそういった古い価値観が残っている家庭があることも事実です。

そこで先ほどおっしゃった日本流というのが大切になるのですね。

川嶋さん:

はい。海外の女性リーダー育成のプログラムでは、リーダーシップを高めることに重点を置きます。日本では、それに加えて、日本人の価値観や文化的な特徴も加味したコンサルティング力が求められます。

こういった日本特有の課題に対するアプローチを求めて、特にグローバル企業から私共のところへご相談いただくことが多いです。

では先ほどの育児と仕事の両立に悩んでいる女性役員さんに対しては、どのようなアドバイスをされるのですか?

川嶋さん:

「ヨーロッパだと『ホールライフ』という考え方があります。個人としての人生・幸せがあり、プロフェッショナルとしての人生・幸せがある。自分の中には両方あって自分の人生全体=ホールライフという考え方です。また、それは両方均等にバランスしていなければならないものではなく、それぞれのウェイトはいつでも状況に応じて変更していいという考え方です。

日本で言われている「ワークライフバランス」との違いは何でしょうか?

川嶋さん:

日本では、時間配分の観点から仕事と育児を両立しなければならないという強迫観念があると思いますが、それを捨てましょう、ということですね。育児やライフイベントがキャリアアップの中でたくさん起きますが、ライフイベントが重なる時期は一生は続きません。同様に仕事で大きなプロジェクトを抱えているという状況も一生は続かない。

人生は常に変動します。

常にウェイトは変動するけれど、その軸となるのは、私はどういう人生なら幸せなのか?という、一人一人の価値観や信念、人生観です。理想とする人生も、望む生き方も、一人一人違う。だからこそ、自分の価値観や信念を明確にすることで、自分の人生とキャリアを主体的に創っていく。それがホールライフの考え方です。

小さいお子さんを抱える女性は特にこのバランス感覚が大切ですね。

川嶋さん:

そうですね。加えて、自分一人で頑張るのではなく、『ホームチームを作りましょう』というアドバイスをよくしています。そのためにも、まずはどのような人生を歩みたいか、ご主人やパートナーとよく話してホームチームを作ること。

もちろん家族だけでなく、家事代行や保育園の先生などにも理解してもらってその応援団になってもらうというのがホームチームの概念です。そうした関係性を意識するだけで変わってきます。一人で抱えず、周りに支えてもらえばいいのです。

それを受け入れる会社の経営側にはどうアドバイスされていますか?

川嶋さん:

女性リーダー育成は企業にとって生命線ですから、会社は女性リーダーを育成するための専門的な研修に加えて、人事制度の見直しや、多様な働き方を可能にする制度を整えていくことが大切ですね。また、管理職の意識改革、男性の育児休暇取得の促進や研修など時代に合った取り組みをしていくことが重要です。

女性リーダーを増やすことが、多様性の第一歩

日本でのジェンダー平等において解決すべき一番の課題とはなんだと思われますか?

川嶋さん:

やはり一番の課題は女性のトップリーダーが少ないことだと思います。日本企業の役員の方はほとんどがダークスーツを着た男性です。同質性が高すぎるので、市場や組織の多様な声を理解することが難しくなるんですね。

具体的にはどういったことでしょうか?

川嶋さん:

例えば若い世代の中では、多様性はあって当たり前。全ての人が対等に、尊敬し合うことが当たり前。サスティナブルな社会のあり方が当たり前、という感覚の方が増えていますよね。

また子どもが小さいときには仕事だけではなく育児にも参画したい。それが、幸せ度をアップする、と考える人が、女性だけでなく男性にも増えています。企業としても、こういった考えを支援する働き方などを整備しなければ、優秀な人材獲得、維持は難しくなってくるでしょう。つまり会社として未来がないわけです。

しかし役員が男性ばかりで、その方の奥様は皆さん専業主婦という場合、上記のような話は実感としてイメージを持ちにくい。もしそこに女性役員が一人でもいれば、状況は一変します。お客様の半数以上が女性なのに、経営の意思決定をする役員は全員男性というケースも同様です。顧客ニーズを的確に捉えて、サービスに反映させていく為には、多様な視点が必要です。

多様性を受け入れる側も多様であるべきだということですね

川嶋さん:

その通りです。同質性が高すぎると、集団的な心理が働いて、自分たちにとって都合の良い情報ばかりを取り入れてしまい、結果的に企業をリスクにさらしてしまうことは有名です。

もちろん意思決定をするメンバーの中に、LGBTQ+の方や、多様な世代、さまざまな国籍の方がいるのが理想なのですが、日本の場合、まずは女性リーダーを増やすことが第一歩であると言えます。

女性リーダーが増えれば、組織全体の選択肢も増えそうですね。

川嶋さん:

はい、女性リーダーの多様性が重要だと考えています。

今の若い世代の女性たちの中には、必ずしもキャリアアップを望まないという人も増えています。それは、キャリアアップ=がむしゃらに働くといったイメージが横行しているからではないでしょうか。いろいろなタイプの女性リーダーが増えると、身近に「あんなふうになりたいな」という女性像が増えていくと思うのです。自分らしく活躍する女性リーダーが増えてくると、選択肢のたくさんある社会が可視化されます。そうなったときに若い世代に、自分らしく、本当にやりたいことが見えてくるのではないかと思います。

今後取り組んでいかれたいことは何ですか?

川嶋さん:

女性のトップリーダーの多様性を増やすことです。女性リーダーにもそれぞれ個性があり、いろんな女性リーダーがいる。カリスマ的な人もいれば、とても穏やかなタイプの方もいる。華やかな方もいれば、寡黙な方も。

家族構成も、生き方も、それぞれに自分の価値観を大事にした多様な女性のトップリーダーたちが日本に溢れれば、女性のキャリアや生き方の選択肢の多様化が可視化されることに繋がります。

そのことで、より一層、若い世代にとって魅力的な会社が増え、若い世代の女性たちにとって、一切の妥協せず自分らしいキャリアを築きたいと思える社会を作りたいと思います。

そうした社会づくりを目指して、女性のリーダー育成に取り組んでいきたいと思います。

SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の実現を促進している素晴らしい事業であるということがわかりました。とても勇気の出てくる貴重なお話をありがとうございました!

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