#インタビュー

Maito Design Works|草木染めをもっと気軽に!日本のものづくりの伝統を未来へ

Maito Design Works 小室さん インタビュー

小室 真以人

1983年 福岡で生まれ、東京で暮らす。

福岡県朝倉市秋月に越し、家業の草木染工房(工房夢細工)で草木染めに触れる。

東京藝術大学美術学部工芸科で染織を専攻。在学中伝統技法を学ぶ傍ら、革の草木染めなどの新しい技術表現を模索。2007年 ホールガーメントニットを導入と技法を習得。

2008年 自身のニットブランド「MAITO」をスタート。

2010年 株式会社マイトデザインワークス設立。同年、東京都台東区上野の2k540に直営店を出店。

2012年 東京都台東区蔵前にアトリエショップをオープン。

Introduction

Maito Design Worksでは、植物を使って色を染める「草木染め」の技法を使い、生地や糸、その素材を使った衣服のほか、建築など暮らしに関わるあらゆるものづくりを展開しています。

今回は、代表取締役の小室真以人さんに、草木染めにまつわるさまざまなお話や、ものづくりへの想いを伺いました。

幼いころから身近な草木染めを、後世に繋げたい

–はじめに、草木染めをはじめたきっかけを教えてください。

小室さん:

実家が染物屋で、福岡県朝倉市秋月にある「工房夢細工」を営んでいます。そのため、幼いころから草木染めに親しんできました。江戸時代以前は丹後ちりめんという生地をつくっており、糸偏(いとへん)といわれる、繊維に関わる仕事を代々受け継いできました。自分自身は家業のほか、学校でものづくりを勉強したのですが、中でも草木染めが一番自分に合っているなと感じたのです。

草木染めは昔からあった技術ですが、現代は化学染料に切り替わってしまいました。長い年月をかけて受け継がれてきた技術がなくなってしまうのは、純粋にもったいないと思いました。せっかく自分は草木染めについて知る機会に恵まれてきたので、この技術を後世に伝えていくために、今こうしてものづくりをしています。

–草木染めといえば、個人的には布を浸すイメージなのですが、メインは服作りなのでしょうか。

小室さん:

いえ、実はそうでもありません。現在Maito Design Worksでは、たまたまものづくりの延長線上で衣服や靴下といったアイテムを取り扱っているのですが、業界の枠を超えて、陶器や建築の分野へも幅広く展開しています。

–そうだったのですね。草木染めは、現在もご実家の工房で行っているのでしょうか。

小室さん:

はい。染料となる植物を採集する土地や旬によって、福岡の工房と東京・蔵前の店舗に併設する工房を使い分けています。植物だけでなく、水の違いによっても仕上がりが変わるんですよ。

–草木染めは本当に奥深い世界なのですね。

「移り変わるから楽しい」草木染めの色

–染料となる植物は、どこから仕入れているのでしょうか。

小室さん:

染料によってさまざまですが、福岡や東京周辺で育てているものもあれば、周囲に自生している植物もあります。中には海外から仕入れなくてはならない染料もあるので、直接買い付けることもあります。

また、農家さんがたまたま「売り物にならないから使ってほしい」と、作物を分けてくれることもあります。私たちのものづくりは手仕事なので大量には扱えませんが、出来る範囲で活用するようにしています。

–SDGsの観点でいえば「フードロス」に貢献できる活動といえますね。

ところで、ウェブサイトにある「草木染めの色辞典」を拝見すると、必ずしも色持ちがよいものばかりではない植物が扱われていることに驚きました。普通のアパレル企業であれば、色持ちのよい染料を選ぶのが普通だと思ったのですが、なぜあえてそうではないものも選んでいるのでしょうか?

小室さん:

そうですね。例えばクサギという植物は青色を出す数少ない染料のひとつで、山地や原野に自生しています。藍などに比べると色持ちは劣りますが、昔から「幻の染料」として親しまれてきました。私たちは、こうした「古くからの知恵」という部分も大切にしています。

ブランドさんによってコンセプトは異なりますし、自分も「せっかく染めた色が長持ちしないのは悲しい」と感じることもあります。しかし、そもそも色は永遠ではない。たとえ化学染料であっても10年程度で色あせてしまいます。

私としては、草木染めにもメリットはあると感じているんです。

草木染ならでは!染め直して、長く楽しくものを使う

–草木染めのメリットとして、例えばどういった点が挙げられますか?

小室さん:

色が褪せてしまう特性をメリットと考え「色が落ちる」ではなく「変化する」と捉えています。つまり、色の変化は草木染めの楽しみ方のひとつで、色が薄くなってしまったら、上から染め重ねればいいのです。すると、また違った色に生まれ変わる。自分色に何度も染めていくという楽しさも見出だせます。

–ひとつのものを、長く大切に使うことにも繋がりますね。

小室さん:

色がムラになった、褪せてきたからもう捨てよう!と考えてしまうのは純粋にもったいないですよね。それなら、上から染め直して、新たなアイテムを手に入れたかのように楽しむことができるはずです。飽きがこないし物を長く愛せるという意味で、草木染めの色持ちについてはメリットと捉えることができるのです。

–Maito Design Worksでは染め直しサービスは提供していますか?

小室さん:

はい。Maito Design Worksのアイテムを購入してくれたお客様には、染め直しができることを伝えています。安心して、ひとつのアイテムを長く使ってもらいたいからです。

これまではお客様から個人的に問合せして頂き、染め直しを行ってきました。しかし近年はそのほかに、当社以外のアイテムを染めてほしいという依頼も増えています。そのため、近いうちに「染め直し」専用の窓口を設置する予定です。

ワークショップを通じて、草木染めをもっと気軽に

–多くの人が草木染めの面白さを知る機会として、Maito Desin Worksでは定期的に草木染めワークショップを開催していますね。

小室さん:

はい。私がワークショップを開く意義として、ただの体験で終わらせたくないなというのがあって。ワークショップで学んだことを通して、自宅でも気軽に楽しんでもらい、ものを大切にする文化が広まったらいいなと考えています。

–毎回盛況のようですが、どのような人が参加していますか?

小室さん:

全体として女性が多い印象はありますが、夫婦や親子で来てくれる人もいますし、遠方からはるばる参加してくれる人もいます。最近、中学生がひとりで来てくれたことに驚きました。

–草木染めは、誰にとっても暮らしの中で身近な習慣になりうるんですね。

小室さん:

染物のほとんどは、料理の延長という感覚でとらえていただければいいと思っています。鍋や箸・ボウルなど、すでにある道具で簡単にできますし。

草木染めにも、チャーハンのようにシンプルなレシピから、フランス料理みたいに工夫の必要な技術まで幅広く存在します。ワークショップでは、誰にでも挑戦しやすい簡単なやり方を教えていますので、まずは簡単なところから入っていき、ライフワークにしてもらえたらうれしいです。

–自分で染めれば、喜びや愛着もひとしおです。

小室さん:

そうですね。実は染料って暮らしの中に溢れていて、玉ねぎの皮やコーヒー・紅茶の出がらしなどは、色の定着がよいのでおすすめです。ほかにもさまざまな材料で試してみれば、色のバリエーションも広がります。

そうして、本来なら捨ててしまうものを再利用し、物に新たな命を吹き込んで楽しめばいいのです。このように、新たなものの楽しみ方を見出せる点は、草木染の醍醐味と考えています。

日本の職人の技術を未来へ伝えたい

–草木染めで陶器や建築業界へも展開しているとのことですが、どのように取り組まれているのですか。

小室さん:

はい。私たちは繊維だけに限らず、木工や陶器・建築といった業種の枠を超えたものづくりにも取り組んでいます。

同じ「ものをつくる」という視点から、すでにすばらしい技術を持っている先輩はたくさんいます。みんなお互いに知恵を出し合いながら、出来ることを進めようとしているところです。

–業界の枠を超えたコラボレーションに取り組むきっかけは何だったのですか?

小室さん:

糸編(いとへん)と呼ばれる繊維業界はもともと分業制で、素材を育てる農家さん、繊維を紡ぎ、糸に撚る専門の会社、そのあとに染物や織物、縫製と各工程ごとに職人が技術力を合わせてひとつの商品を作り上げています。しかし現代では、かつてあった技術もどんどん失われつつあります。日本でこれをつくるなら、全国にたった1軒しかない職人さんに頼まなくてはならない、というケースもあるほどです。

こうした職人の減少は繊維業界にとって深刻で、なんとかこの状況を打破するために取り組んでいます。

–特に近年はグローバル化の影響もあり、流通や販売価格も下がってきている点が、日本の繊維業界を窮地に追い詰めているように感じました。それに対して、どのような解決策があると考えていますか?

小室さん:

海外にも質のいい商品はたくさんありますが、品質を重視したものづくりを国内でやろうとすると、どうしてもコスト面で不利になってしまいます。それでもMaito Design Worksの商品を見て、素材や質のよさ・デザインの美しさに魅力を感じて購入してくれるお客様が多いのも事実です。今後は、日本のものづくりの魅力を分かりやすく、フラットな方法で多くの人へ伝える方法を模索しています。

また、食だけでなく衣服や身のまわりのアイテムに関しても、地産地消という視点は必要だと思います。そのスタンスで、自分たちの取り組んでいるものづくりにどのような魅力があるのかを当事者として見つめ、発信していきたいです。

透明性は、消費者行動を変えるカギ

–もう1点繊維業界の大きな課題として、トランスペアレンシー(透明性)が挙げられると思います。この点についてどう考えていますか。

小室さん:

この業界は、素材の産地からお客様の手に届くまでのプロセスが見えにくく、どうしても出所を辿りにくいという問題点があります。また、原材料や製品を「オーガニック」と呼ぶには認証基準が定められていますが、認証や表記についてのルールがまだ曖昧で、違反に対する罰則もありません。

そのため、どうしても微妙なラインで「草木染め」や「オーガニックコットン」を謳っている商品も少なくありません。

Maito Design Worksでは、素材はオーガニックコットンを使用しているほか、草木染めの染料や職人さんの情報は、できるだけ分かりやすく公開しています。消費者にとって分かりやすく、本当に必要なものを選んでいただけるように、透明性は大事だと考えています。

–Maito Design Worksのウェブサイトには、染めやニット・織りといった技法の説明があり、ものづくりのストーリーが伝わりやすいと感じました。消費者の行動を変えるためには、企業側もできるだけ透明性を確保し、ものを通して持続可能な社会を考えるきっかけづくりが必要ですね。

小室さん:

昨今はSDGsという言葉が台頭しはじめたこともあり、多くの人が持続可能な社会を考えるようになりました。私自身も、既にこれだけものがあるなら、もう新しいものづくりはいらないんじゃないか、と思うことも正直あります。それでも、本当にステキで必要なアイテムだけを、適正な量で作れるのが理想ですね。

これまで受け継がれてきた職人さんの技術を後世に伝えていきたいという想いもあるので、関わってくれている繊維業界のみなさんがもっと安定して暮らせる商売の形をどうやってつくるか、新しいものと古いもののバランスが上手に回るような仕組みづくりが課題かなと思っています。

–ものづくりや循環を考えるという点で、SDGs12「つくる責任、つかう責任」への貢献につながりそうです。

自然の恵みと、人ありきのものづくり。技術を後世につなげたい

–最後に、今後の展望や目標があれば教えてください。

小室さん:

私たちが行ってきた草木染めという取り組みは、今もこれからも変わらないと思います。しかし草木染めは、自然の恵みを頂くことから、環境ありきの仕事です。環境問題については、ものづくりを通して意識向上に努めていきたいです。

また、ものづくりの雇用環境や、次の世代に繋げられる仕組みづくりにも目を向けたいと考えています。すでに友人の中には、職人と職人を目指す人のマッチングに取り組んだり、技術を後世へ伝える取り組みを進めている人もいるので、私は自分のできる範囲で人と人をつなげることができれば、これからものづくりの世界はもっと面白くなるんじゃないかと思います。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー動画

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