公益財団法人日本環境協会こどもエコクラブ 善生由華さん インタビュー
公益財団法人日本環境協会こどもエコクラブ
「こどもエコクラブ」は、3歳児から高校生まで、子どもなら誰でも参加することができる環境活動のクラブです。1995年の事業開始から今年で29年目を迎えました。これまでに延べ300万人の子どもたちがクラブに登録し、2023年度は約2,200クラブ、9万2千人を超える子どもたちが全国各地で環境活動に取り組みました。クラブの活動はごみ拾い、生き物の観察・調査、農業体験など多岐にわたり、子どもたち自身が「環境にいいことって何だろう?」「地域の環境を守るために何ができるだろう?」と考えたり話し合いながら活動しています。
目次
Introduction
こどもエコクラブは、全国の子どもたちのエコ活動の先駆けといえる存在です。大人1名、子ども1名の合計2名から登録することができ、子どもたちの興味関心に応じて自由に活動に取り組みます。こどもエコクラブのウェブページは、エコ活動の情報の宝庫。ウェブページには豊富な活動事例やプログラムが掲載されており、登録メンバーのエコ活動へのチャレンジをしっかりとサポートしてくれます。
今回は、教育事業部の善生由華さんに、同クラブの取組みや子どもたちの活動状況について語っていただきました。
子どもとおとなをエコ活動でつなぎ、持続可能な社会へ
-まずは、こどもエコクラブの活動の概要をご紹介ください。
善生さん:
こどもエコクラブとは、幼児(3歳)から高校生までなら誰でも参加できる環境活動のクラブです。1995年に環境省の事業としてスタートして、2011年に弊協会が引き継ぎました。通算して、2024年で29年目を迎えます。
サポーター(大人)1名とメンバー(子ども)1名からグループを作り登録することができます。家族、地域の友だち、学校や幼稚園・保育園や、市民グループ、児童館などでの登録もたくさんあります。ウェブページでは、こどもエコクラブの概要はもちろん、エコ活動をスタートする時に役立つさまざまな情報やプログラムを掲載しています。登録料・年会費どちらも無料です。
こどもエコクラブは、事業の事務局である「こどもエコクラブ全国事務局」、「登録クラブ」、「コーディネーター(地域事務局の担当者)」、さまざまな形で事業をサポートしてくださっている「企業・団体」によって構成されています。現在のところ、すべての都道府県に登録クラブがあります。
クラブの基本的な活動は、「エコロジカルあくしょん」(各グループのエコ活動)、「エコロジカルとれーにんぐ」(事務局が発信する、誰でも取組める環境運動プログラム)、「Eco Study」(エコスタディ:教育指導者が利用するための環境教育プログラム)、アシストプログラム(企業・団体・自治体が提供するプログラム)、全国一斉活動(全国事務局から登録クラブに呼びかけ、希望するクラブが取り組むプログラム)が挙げられます。
-ビジョン・ミッションをご紹介いただけますか?
善生さん:
子どもが一人で動くことはなく、必ず周りの大人が関わります。そこで、こどもエコクラブのビジョンは、<だれでも参加できるこどもエコクラブが、学校、市民グループ、企業などの各主体をつないで持続可能な地域社会に向けて活動を行う>ことです。ミッションは<環境学習・環境保全活動を通じて、子どもたちの「未来を創る力」を育て、地域において環境に関心を持つ人を増やし、環境保全を促進する>ことです。例えば地域の川で環境活動に取り組んだことのあるお子さんは、その川に目を向けることも増え、変化があれば気付くことができます。そこに興味・関心が向けば、地域環境を良くしたいという心が育っていきます。
子どもを中心にそういう人間が増えていくことが環境保全に繋がると思うんです。知らないものを守ろうという気持ちには、なかなかなれないものです。土や水などの自然に実際に触れることで、それらを大切にする気持ちが醸成されると考えています。
子どもたちの努力で川の特定外来生物が減少し在来種が増えた
–こどもエコクラブの構成やシステムの詳細を教えてください。
善生さん:
こどもエコクラブは、誰でもいつでもどんな形でも登録することが可能です。クラブのサポーター(大人)をつとめてくださっている方は、保護者、先生、地域住民の方など、クラブの形態によりさまざまです。ご自分のお子さんがいるクラブのサポーターをされていた方が、お子さんが成長しクラブを卒業した後も引き続きサポーターを続けてくださっているケースもあります。
メンバー数、サポーター数どちらも上限はなく、登録後も人数変更が可能ですので、クラブの状況に合わせてご登録いただくことができます。
こどもエコクラブは、環境省(後援)のほか、こどもエコクラブの窓口を設置してくださっている自治体の協力を受けて実施している事業です。現在47都道府県すべてと、491の市区町村がこどもエコクラブの窓口を設置してくださっています。
こどもエコクラブでは、地域事務局のご担当者を「コーディネーター」とお呼びしています。コーディネーターの方には、管内の登録クラブへの連絡のほか、こどもエコクラブの紹介など様々なご協力をいただいています。
また、こどもエコクラブは企業・団体から寄付や協賛プログラムなど、さまざまなサポートを受けています。毎年3月に実施している「こどもエコクラブ全国フェスティバル」にもたくさんの企業・団体がブースを出展して、全国から集まった子どもたちに企業団体が取り組む最新の環境技術等を紹介してくださいました。2023年度の全国フェスティバルでも参加者のみなさんから大好評をいただきました。各自治体のコーディネーターさんや企業・団体のみなさんは、環境活動に取り組むクラブにとってとても大切な存在です。
登録いただく際には、まずは代表サポーター(大人)とメンバーを決めてください。ウェブページ、または登録用紙に登録内容を記入し、送付したら登録完了です。登録時に送付を希望した幼児メンバーには、「エコカード」をお送りしています。エコカードは身に付けてもらいたいエコ習慣などをイラストで紹介、できた項目に色を塗ることができる幼児向けツールです。
そのほか、サポーター用の応援マニュアル、メンバー用のメンバー手帳はウェブページからダウンロードができます。その他、クラブ限定のメンバーズバッジ等、各種ツールは実費頒布(1アイテム100円~)もしております。ツールに加えて、登録後はサポーター宛に月に二度ほど、季節限定プログラムや各地域の環境情報等、活動に役立つさまざまな環境情報満載のメルマガをお送りしていますので、登録後活動に迷った際にご活用いただければと思います。
【ツールの紹介画像】
-それでは、実際の活動やプログラムについて具体的にお聞かせください。まずはベースである「エコロジカルあくしょん」から伺います。
善生さん:
「エコロジカルあくしょん」は、地域やメンバーの興味に合わせて自由に取り組む活動です。
1つ目にご紹介する活動は、兵庫県の「玉一アクアリウム」さんの活動です。玉一アクアリウムさんは主な活動場所である明石川で定期的に魚や水生物を採取するなど、地道な環境調査を続けています。調査したあとの生き物はリリースしますが、外来種は駆除しています。駆除した生き物は無駄にすることなく自分たちで食べたり、サポーターでもある果樹園主の方の協力を得て堆肥化しています。作った肥料を活用して育てた農産物もメンバーで食べ、生態系の循環を作り出しています。玉一アクアリウムさんは、調査結果をもとに毎年オリジナル図鑑を作成し、神戸市のウェブページにも掲載されています。明石川では玉一アクアリウムさんが活動を開始した2007年以降特定外来生物は減少、在来種は増えてきており、これからの取り組みもとても楽しみなクラブです。
2つ目にご紹介するのは大阪府の「せいわエコクラブ」さんです。
せいわエコクラブさんは「水はどこから」をテーマに活動されているクラブです。大阪の水は琵琶湖から届いていることから、毎年夏に琵琶湖でごみ拾い活動をしています。また、琵琶湖にそそぐ川の水を守るために森での下草刈りや間伐にも取り組んでいます。そのほか大気中の二酸化窒素の観測にも長年取り組んでいます。他県のクラブとも連携しながら、自分たちの地域の観測結果と他地域の結果を比較、分析し、考察した結果をまとめています。
玉一アクアリウムさん、せいわエコクラブさんともに活動内容を壁新聞・絵日記・動画等にまとめて、こどもエコクラブが募集している全国エコ活コンクールに応募、その取り組みを全国に発信しています。
子どもたちが自由に使える多彩なプログラムを提供
-「エコロジカルとれーにんぐ」とは、どのような取り組みですか?
善生さん:
「エコロジカルとれーにんぐ」は、「誰にでも取り組める環境活動プログラム」です。「自然」「生きもの」「空気」「水」「まち」「くらし」「まちづくり」のテーマに添った複数のプログラムを用意しています。プログラムごとにリサーチ方法や進め方を書いてありますので、どんな活動をしようかな?と迷うときは、興味のある分野のプログラムをまずは開いてみてもらえたらと思います。
私がお勧めしたいプログラムは「長生きの木をさがそう」です。まずは「町で一番長生きの木」を探すことからスタートします。長年住んでいる地域でも、一番長生きの木と言われると、どの木だろう?と思われる方が多いのではないでしょうか。そうした時は、年長者に聞くとすぐに分かることもあります。プログラムを通して、人とのコミュニケーションも生まれます。
プログラムには「その木が生まれた頃の町の環境」と「今、生きている地域の環境」を調べて比較する項目もあり、そのためのヒントなども記載されています。さらに、その木に住んでいる虫、飛んでくる鳥を調べるなど、一本の木から町の歴史などさまざまなことを知ることができるプログラムとなっていますので、ぜひたくさんの方にチャレンジしてもらいたいと思います。
‐つぎに「Eco Study(エコスタディ)」の取り組みについて教えてください。
善生さん:
このプログラムは主に学校のクラブを対象に、教員・指導者のための「子ども向けの環境教育の支援」を目的としています。子ども用ワークシートと指導者用マニュアルがセットとなっており、こどもエコクラブに登録していない方でもご自由にダウンロードしてご利用いただけます。
プログラムの例をいくつか挙げますと、「水の汚れ★へらし隊」(対象小学校4~6年生)「食べ物からエコを考えよう!」(対象小学校5年生)「エコ・マーケットをひらこう!」(対象小学校4年生)「たねのひみつ大発見!」(対象小学校2~3年生)「町のしぜん探検」(対象小学校2年生)など、多様なテーマに添った授業に使えるプログラムを学年別で提供しています。
子どもたちと一緒に活動する際にオススメのプログラムをいろいろ掲載しており、年間通して500件以上のアクセスがあります。事務局としてもたくさんの方に活用頂けていることがとても嬉しいです。
-「アシストプログラム」とはどのようなものなのでしょうか。
善生さん:
こどもエコクラブを応援してくださっている企業・団体・自治体が提供するプログラムです。その内容は様々で、イベント、コンテスト、各種体験、役立つ資料・教材の提供や学習プログラムなど、多種多様です。プログラム一覧をウェブページに掲載しているので、これから迎える夏休みなどに向け、登録クラブのみなさんに積極的に活用頂きたいと思っています。
-「全国一斉活動」ではどのような取り組みをされているのですか。
善生さん:
こちらは、年ごとにテーマを決め、時には企業・団体と連携しながら全国的に参加を呼びかけているプログラムです。2021年からはこくみん共済 coop 様との連携で、「防災」と「エコ」をテーマにした「Bosai×Eco CAMP」を展開しています。電気やガス、水道など、当たり前に使用しているものが、災害により使えなくなることがあります。自分たちの身を守るために、そのような状態を想定した防災アクションに挑戦してみよう、という企画です。普段の暮らし方を見直すエコ活動にもつながります。
2021年は、ライフラインが使えない状況を乗り切るためのチャレンジ、2022年企画には災害時の避難のめやすとなる「警戒レベル」の説明なども盛り込みました。2023年は、屋外に出て防災標識を確認したり、トイレについて考えたりするテーマとしました。毎年防災ワークブックを作成し、希望者に配布しています。
2023年のもうひとつの取り組みは、ごみ拾いSNS「ピリカ」のアプリを用いた「GO!美らくるリサイクル2023!」です。内容は「①外に落ちているごみを拾い、そのごみの写真を撮って「ピリカ」で報告、「②毎日の生活で出たペットボトルや缶など、リサイクルできるものの写真を撮ってウェブサイトで報告する」というもので、夏休み中に家族でできるの期間限定の企画でした。3回以上参加したメンバーには抽選でのプレゼントもありましたし、投稿するとサイトを見た方から「いいね」もついて励みにもなったようです。
「自らの活動に社会や環境を変える力がある」と知る大切さ
-取り組みやプログラムを伺うほどに、いかに御サイト自体が子どものエコ活動のための情報の宝庫であり、優れたマニュアルとなっているかが分かります。
善生さん:
ありがとうございます。こどもエコクラブのウェブページを、ぜひたくさんの方に活用いただきたいと思っています。各クラブの活動内容が届く「活動レポート」ページは地域や季節、クラブの形態によって検索可能となっています。どんなエコ活動をしようかな?と迷った時に参考にしてくださっている方も多いページです。
また、ウェブページに掲載されることでクラブの活動が記録され、広く全国に知られるということもとても大切なことだと思います。子どもたち同士の刺激になることはもちろん、実は大人たちにも良い気づきとなっていると感じます。同じ地域に住んでいても、子どもと大人では活動時間帯が異なることも多くあります。地域で子どもたちが環境活動をしていても気付けない大人も多いのですが、ウェブページであればいつでも「活動レポート」を見られるため、自分の住む地域でこんな活動をしている子どもたちがいる、と知ることができます。知ることでその活動を応援したいと思う方や地域の自然を大切にしたいと思う方も出てくる可能性があります。子どもたちの活動から驚きや共感を得たというお話を頂くこともあり、環境活動に取り組む子どもたちが大人に気づきや啓発を与えているということを実感しとても嬉しく思います。
IT環境のない時代は、子どもたちがどんなに良い活動をしていても、ほぼ知られることなく終わることが多い状況でした。今は大人だけでなく子どももタブレットやPCを使う時代ですから、「ほかの地域の子どもたちがどんな気持ちでどのような活動に取り組んでいるのか」を地域や世代を超えてシェアすることができます。そういう意味でも、登録クラブには積極的に「活動レポート」を活用いただきたいと思っています。
-そのほかにも、子どもたちにとって参加の励みや喜びとなる試みはありますか?
善生さん:
はい。例えば、年間5回以上活動したメンバーには、「アースレンジャー認定証」をお送りしています。毎年デザインを変えていますので、楽しみにしているメンバーも多いようです。また、3年間継続して活動したメンバーには銀バッジ、6年間継続すると金バッジをお送りしています。年上のメンバーが金銀バッジをつけているのを見て、年下のメンバーが憧れ、それも励みにして活動を続けているというお話を聞くこともあり、私たち事務局もとても嬉しいです。
【アースレンジャー認定証と金バッジ・銀バッジ】
また、全国でがんばって活動しているクラブが一堂に会する「こどもエコクラブ全国フェスティバル」を毎年3月に開催しています。2023年度は5年振りに完全対面にて開催し、地域に根差した環境活動に取り組む都道府県代表クラブが、年間の活動をまとめた作品を通じてそれぞれの活動を紹介し合う「エコ活セッション」や、作品や活動にまつわるクイズを出題し、みんなで答え合う「みんなでクイズ大会」で相互の交流を深めました。
その他、企業団体で環境に取り組んでいるご担当者と直接話ができ触れ合える出展ブースは今年も大人気でした。
全国フェスティバルは、こどもエコクラブの卒業生である「All Japan Youth Eco-club」をはじめ環境問題に関心のあるたくさんのユース世代が前日準備から当日のプログラム実施までサポートしてくださっており、現役メンバーの子どもたちにとってあこがれの先輩となっています。
-子どもたちにとって、大きな励みですね。29年のご活動を通じ、どのような成果がありましたか?
善生さん:
サポーターに対して、活動の様子に加えて子どもたちの成長について毎年アンケートを実施しています。こどもエコクラブを通じて身近な環境への関心や道や新たなものへの興味が高まっているほか、仲間と協力したり人の意見を聞いたりする態度が育まれているという結果が継続的に出ています。
さらに、2023年は初めてメンバーにもアンケートを実施したところ、こどもエコクラブで活動してよかったこととして「家や学校ではできない活動ができた」「学校では習えないことを知ることができた」「地域の環境を良くすることができた」という回答が上位3つとなりました。こどもエコクラブの活動を通して、学校や机上ではできないことを感じたり体験したりしてくれているメンバーがいることを嬉しく思いました。
また活動を通して身に付いたこととしては「地球全体の環境は自分たちにとって身近な問題とわかった」「近所や知り合いに挨拶ができるようになった」「知らないこと、新しいことに興味を持つようになった」が多数の回答でした。環境学習・環境保全活動を通じて、子どもたちの「未来を創る力」を育むというミッションに対して、これは大きな成果だと考えています。
併せて、環境問題を「自分ごと」として自分たちが行動して変えていきたいと思ってくれていることが伝わってきます。また、活動を通してコミュニケーションスキルも向上し、好奇心が刺激されていることが分かる結果でした。先程お話しした兵庫県の明石川を守る活動をしている玉一アクアリウムさんは、調査結果をもとに自治体への提言などもしています。自分たちの活動が環境計画に反映され、実際に社会や環境を変える力があることを体験するお子さんが育っていることがとても頼もしく、地域において環境に関心を持つ人を増やし、環境保全を促進するという、もう一つのミッションにもつながっていて、私たちも励まされています。
-将来への展望をお聞かせください。
善生さん:
環境活動に楽しく取り組みながら、地域や環境に興味、関心を持つ健やかな子どもたちが、自分たちが作った自然豊かで持続可能な社会でのびのびと暮らしていけるようになることを願っています。
そのために、今後はよりたくさんの方にこどもエコクラブの活動を知っていただき、さまざまな主体とこどもたちが連携しながら楽しく環境活動に取り組めるように進めていきたいと思います。
-子どもたちは、未来の地球への希望ですね。今日はありがとうございました。
公益財団法人日本環境協会こどもエコクラブ公式HP:https://www.j-ecoclub.jp/