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Less is moreとは?実践するポイントや注目されている理由も

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サステナブルな社会が求められる今、ミニマリストのように「最低限のモノだけで生活する」暮らし方が一定の評価を得る一方で、よりひとつのアイテムの質にフォーカスする「Less is more(レス・イズ・モア)」もまた注目を浴びています。

現代のモノづくりの在り方や、わたしたち消費者としてのモノ選びの態度が問われる中、Less is moreの考え方は、より暮らしと社会を豊かにするキーワードになり得るのです。

そこで今回は、Less is moreの定義に始まり、言葉が着目されるようになった背景や実践のヒントまでを幅広くお伝えします。

ミニマリストやデザインに興味がある人だけでなく、環境にやさしい暮らしのポイントを知りたい人も、ぜひ読んでみて下さいね。

Less is moreとは

Less is more(レス・イズ・モア)とは、「少ないほうがより豊かである」という意味の言葉です。

この言葉は、18世紀にイギリスの詩人によって残された言葉ですが、ドイツの建築家でありデザイナーであるルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe:1886-1969)によって広められました。

20世紀のモダニズム建築において重要な人物のひとりとされ、彼の建築や家具のデザインは今も多くのデザイナーたちに影響を与えています。

ただLess is moreの意味を聞くと、似た言葉である「ミニマル」との違いにピンとこない人もいるかもしれません。

そこでまずは、Less is moreとミニマルの違いを、簡単に確認しておきましょう。

ミニマルとの違い

ミニマル(Minimal)とは、英語で「最小限の」という意味を表す言葉です。

例えば、毎日の暮らしの中で必要なものを最小限にし、インテリアや家具・衣服といったアイテムを必要以上に持たないようにする、といったことが「ミニマル」に当てはまります。

またミニマルは、モノに対してだけでなく、質にも言及できます。

Less is moreが「少ないほうがより豊かである」という意味を持つ言葉であるように、両者はよく似た概念をもっており、しばしば同じような意味合いで使われることもあります。

しかし明確な違いとして、ミニマルが「数・質ともに最低限であること」にフォーカスしているのに対し、Less is moreではひとつのアイテムに対し、「シンプルで上質なデザインを選び抜くこと」を表す言葉だといえます。

【関連記事】ミニマルとは?ミニマムとの違いやライフスタイルの実践方法・注目の背景をわかりやすく解説

Less is moreの考え方について

Less is moreの根本的な考え方を理解するには、ミースがこの言葉を使い始めた当時の背景を知る必要があります。

19世紀ごろまで、高く評価されてきた建築や家具などの中には、華美な装飾を持ったものが多くありました。人々はそうした豪華な装飾を目にして「美しい」と判断していたのです。

しかし一方で、そうしたデザインは機能性・汎用性が低く、使う場面も限られてしまうのが実情でした。

ドイツで石工業を営む父を持つミースは、その後家具デザイナーの弟子を経て、モダニズム建築の中心的存在であったピーター・ベーレンス(Peter Behrens)の元で働きはじめました。

そこでピーターから「建築の装飾ではなく、構造そのものに目を向けるべきだ」と学び、できるだけ余分な要素をそぎ落とした、シンプルかつ実用性の高いデザインを求めるようになったのです。

Less is moreを実際の作品から感じ取ってみよう

ミースの代表作のひとつである「バルセロナ・パビリオン(Barcelona Pavilion)」を見ると分かるように、ガラスとスチール、4種類の石を用いた建築が特徴です。

ゴシック建築のような細やかな飾りなどは一切なく、水面も含めてすべて垂直に設計され、外と中の明確な区別を感じさせないデザインは、当時の建築界において革新的だと評価されました。

シンプルながら建物に用いられた素材の美しさが際立ち、かつ建物として十分な機能を果たしている点からも、Less is moreの考え方がうかがえるのではないでしょうか。

もうひとつ、このパビリオンと同時期に考案されたミースの代表作「Barcelona Chair(バルセロナ・チェア)」を見てみましょう。

(Barcelona Pavilionの内装とBarcelona  Chair、引用元:The Pavilion – Fundació Mies van der Rohe

当時、スペイン国王を座らせるために作られたというレザーを張った金属製の椅子は、現在も生産・販売が続くほど、その美しさと機能性を持ち合わせたデザインが評価されています。

素材の性質を活かしつつ、出来るだけ余計な要素を削りとったことで、より構造と素材の美しさが引き立つデザインが目を惹きます。

このように、モダニズム建築や家具などのデザインにおいてLess is moreとは、あるモノが持つ構造自体に着目し、上質な素材を用いてシンプルかつ機能性を持たせたデザインを指す言葉として広まったといえます。

1930年以降は、ミースも教鞭をとったドイツのデザイン学校・バウハウスなどでLess is moreの概念がデザインの基本として採用された経緯もあり、建築や家具をはじめとした幅広いアイテムに対し、Less is moreを適用した上質なデザインが「美しい」と評価されるようになりました。

こうした背景から、現代の暮らしにおけるLess is moreとは、ミニマルのように「モノを持つ数を減らす」というだけでなく、選ぶアイテムひとつひとつの「質を重視する」という考え方にも使われるようになりました。

Less is moreが注目されている背景

Less is moreの基本的な考え方が分かったところで、次は「なぜ今Less is moreが注目されているのか」について、背景を見ていきましょう。

大量生産・大量消費の社会

まずは、工業革命以降の社会において大量生産・大量消費が当たり前になっている状況が挙げられます。

工場での大量生産が進めば、使う資源や加工に用いる燃料・水の量が自然と増加します。

また、機械を使った大量生産にあたり、安価で扱いやすい素材が採用される傾向が高くなっている現状もあります。

こうした社会において、消費者側も次々と新しい商品を手に出来るようになり、大量消費もまた当たり前になってしまったのです。

人々が欲しいものを好きな時に買い求められる状態を消費者の「需要」と認識することで、企業側もどんどん商品を生産するようになっていきました。

この大量生産・大量消費のループから脱却するために、シンプルな素材と外見・機能性を併せ持つモノづくりにシフトするLess is moreの考え方が注目されるようになりました。

環境汚染による地球温暖化・気候変動

大量生産・大量消費の社会が進む一方で、工場の排水・排煙に含まれる汚染物質が周囲の生態系を阻み、深刻な環境汚染の被害が引き起こされています。

現代に生きるわたしたちが、たくさんの商品を手に入れることができる裏側で、同じ地球上で暮らす生き物たちの命や住処を奪ってしまっているのです。さらに、ゆくゆくは自分たち自身もまた、地球温暖化による気候変動の波を受け、いつも通りの生活ができなくなってしまう可能性が高まっています。

地球を壊し、生態系や環境をおびやかすモノとの付き合い方を改め、Less is moreの概念に基づいたアイテム選びへシフトしたい消費者や、地球を傷つけない方法でサステナブルなモノづくりを続けたい生産者が増えていることから、Less is moreへの注目が集まっています。

このように、従来の大量生産・大量消費を続けること自体が難しくなっている状況で、どのようにLess is moreを実践すればよいのでしょうか。

次で詳しく見ていきましょう。

Less is moreを実践する際のポイント

ここでは、Less is moreを実践する際のポイントをご紹介します。

場面別に「日常生活」「ビジネス」の2つに分けて、それぞれポイントを挙げてみました。

【日常生活】本当に必要なモノを「厳選する」

Less is moreを生活の中に取り入れる際、ミニマリストのように「最低限」を優先することとは少し異なる点があります。

それは、最小限で暮らしをより豊かにしてくれるアイテムを選ぶことです。

そのためには、以下の3つを抑えてみましょう。

  • 汎用性
  • 素材・機能性
  • シンプリシティ

例として、衣服は次のような条件を考えて選ぶとよいでしょう。

TPOに関係なく、さまざまな場面に着て行きやすいデザインの服を選ぶ(汎用性)

天然素材で、1枚でも重ね着でも楽しめるような衣服を選ぶ(素材・機能性)

服に華美な装飾や柄を求めて沢山の服を持つよりかは、アクセサリーなどで雰囲気を変えられる服を少量だけ持つ(シンプリシティ)

自分にとって本当に必要なものだけを選び取ることで、たくさんのアイテムを持たなくても豊かに暮らせるようになるはずです。

今回は衣服を例に挙げましたが、家具や日用品といったアイテムを選ぶ際も「汎用性」「素材・機能性」「シンプリシティ」を意識すれば、長く大切に愛せるモノを見つけられるのではないでしょうか。

【ビジネス】Less is moreを体現したモノづくりに必要なこと

モノづくりを行う側にとっても、Less is morの適用が求められます。

そこでまずお伝えしたい実践のヒントとして、Less is moreの言葉を広めたミースがデザインの中で大切にしてきた「無駄な要素を極限までそぎ落とすこと」が挙げられます。

そのうえで素材選びもまた、大切な要素です。値段を抑えられるからといって安価なプラスチックなどの素材を不用意に選んでしまうと、結果として耐久性に欠けてしまい、使用者がひとつのアイテムを長く使えないまま廃棄になってしまう場合があります。

以上2つのポイントを踏まえたうえで、商品の機能性と美しさを両立させ、シンプリシティを追及することで、Less is moreを体現したアイテムが生まれるでしょう。

かつて日本で「民藝の父」と呼ばれた柳宗悦は、自身の著書『民藝とは何か』などで、真に実用性を備えるものにうつくしさが宿る「用の美」という言葉を繰り返し語っています。

日常生活の中で欠かせない家具やキッチン用品・衣服といったアイテム作りにおいては、観賞用の芸術品や娯楽品とは異なる観点を持ち、できるだけ無駄のないデザインと機能性を持たせることが求められます。

この際、どうしても値段が多少張ってしまうかもしれません。しかし、長期的な視点で考えれば、長く使えるアイテムはコストパフォーマンスが良いと言えるでしょう。

Less is moreとSDGs

最後に、Less is moreとSDGsの関係性について、簡単に確認しておきましょう。

2015年に国連で採択され、社会・環境・経済の3つの柱からなるSDGs(Sustinable Deveopent Goals:持続可能な開発目標)ですが、今回は特にかかわりの深い目標12「つくる責任つかう責任」をご紹介します。

目標12「つくる責任つかう責任」と関連!

sdgs12

SDGs目標12「つくる責任つかう責任では、素材と商品の生産から廃棄までのすべての過程において、環境や社会に配慮を求め、持続可能なモノづくりと消費ができるシステムの構築を目指しています。

Less is moreは、ものづくりの「生産」の段階で「誰か(消費者)の暮らしを豊かにすること」を見据えたデザインを大切にしています。

またひとつのアイテムを長く大切に使い続ければ、結果として資源を抑えられ、地球にやさしい選択になる点も忘れてはなりません。

まとめ

今回は「Less is more(レス・イズ・モア)」について、言葉の意味や考え方・Less is more実践のヒントまでを幅広くお伝えしました。

20世紀モダニズム建築の世界から広まった言葉ですが、わたしたちの暮らしの身近な場面にも適用できます。

すべてのモノは、地球の貴重な資源を使って作られるからこそ、できるだけ少ない量で豊かさを得られるように、ご紹介したヒントをもとにぜひ実践してみて下さい。

Less is moreは人々の暮らしと地球の環境、どちらにもやさしい選択なのです。

<参考リスト>
Mies van der Rohe, the Modernist Maestro of Less is More
Ludwig Mies van der Rohe | STUDIO | Knoll Japan 公式サイト
ミニマル:minimal 意味・用語解説 – ファッションプレス
The Pavilion – Fundació Mies van der Rohe