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妊産婦死亡率とは?日本は高い?世界の現状と命を落とす原因を解説

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日本を含む先進国では、医療が発達してきた今でも、私たちの知らないところで妊娠や出産時に亡くなっている人がいます。また、医師不足や衛生環境が整っていないことが原因で、多くの妊産婦が犠牲となっている状況です。

妊産婦死亡率とは?

妊産婦死亡とは、妊娠中または妊娠終了後(42日未満)の女性が、妊娠と関連した原因で命を落としてしまうことを指します。

妊産婦死亡率は、出産数10万例に対する1年間の妊産婦死亡数の割合です。

昭和53年(1978年)までは妊産婦死亡率の定義は産後42日未満ではなく90日以内でしたが、昭和54年(1979年)以降、現在の定義に変更されています。

続いて、妊産婦死亡率の計算式を見ていきましょう。

妊産婦死亡率の求め方

妊産婦死亡率は下記の式で求めることができます。

      年間の妊産婦死亡数

――――――――――――――――――――――      ×100,000=妊産婦死亡率

年間出産数(出生数+死産数)(または年間出生数)

妊産婦死亡率の数字が高ければ高いほど、妊娠や出産時に亡くなっている人が多いことが分かります。

では実際に、2017年厚生労働省の人口動態統計のデータを用いて、年間妊産婦死亡率を求めてみましょう。

2017年に946,065人の子どもが生まれ20,358人が死産、33人の妊産婦が亡くなっています。

     年間の妊産婦死亡数:33人

―――――――――――――――――――――― ×100,000=妊産婦死亡率:3.4

    年間出生数+死産数:966,423人

となります。

日本の妊産婦死亡率の現状

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妊産婦死亡率がどのようなものか分かったところで、日本の現状を、最新のデータや推移を確認しながら解説していきます。

2022年最新版|日本の妊産婦死亡率データ

ユニセフによると、2017年の妊産婦死亡率は5で、世界ランキングでは180ヵ国中、163位(低いほど死亡率が低い)という結果となっています。

日本の妊産婦死亡率の推移

続いて、日本の妊産婦死亡率の推移を見ていきましょう。下記は1899〜2020年の日本の妊産婦死亡数および死亡率の推移です。

1969年は妊産婦死亡率が53.9と高い結果となっていますが、2020年には死亡率が2.7と減少していることがわかります。日本の妊産婦死亡率が激減している理由としては、医療技術の発達や衛生、定期検診の質が向上した点が挙げられるでしょう。

日本の妊産婦死亡の原因

世界的に見て妊産婦死亡率が低い日本ですが、完全にゼロとなった訳ではありません。ここではその原因について確認します。

日本の妊産婦死亡の原因は「直接産科的死亡」と「間接産科的死亡」

妊産婦死亡の原因は、「直接産科的死亡」「間接産科的死亡」の2つに分けられます。

妊産婦死亡原因概要
直接産科的死亡妊娠時における合併症によって死亡すること
間接産科的死亡妊娠前に患っていたまたは妊娠中に発症した疾患で死亡すること

日本産婦人科医会によると、日本の妊産婦死亡の原因は直接産科的死亡が多く、その中でも、

  1. 産科危機的出血
  2. 脳出血

が大きな割合を占めています。

妊産婦死亡リスクにつながる症状を把握しておきましょう。

1.産科危機的出血

産科危機的出血とは、妊娠高血圧症候群や癒着胎盤による産科出血で、血栓ができやすくなったり、出血しやすくなったりする症状を指します。

2.脳出血

脳出血とは、脳内の血管が破れ出血してしまう病気です。脳出血を発症する年齢は50~60歳が多く「脳出血が妊産婦の死亡につながるの?」と驚く方もいるかもしれません。妊産婦が脳出血やくも膜下出血になりやすい原因として、妊娠中は胎児に血液を送る必要があるためと予測されます。

特に、7ヵ月目以降は循環する血液が、妊娠していないころに比べて、約1500mlも血液量が増加します。妊娠すると高血圧になるのも血液増加が原因と言われています。

世界の妊産婦死亡率の現状

次に、世界の妊産婦死亡率の現状を確認しましょう。

世界の妊産婦死亡率ランキング

世界の妊産婦死亡率ランキングは、次の通りです。

順位国名妊産婦死亡率(出生数10万人あたり)
1位南スーダン1150
2位チャド1140
3位シエラレオネ1120
4位ナイジェリア917
5位中央アフリカ共和国829
5位ソマリア829
7位モーリタニア766
8位ギニアビサウ667
9位リベリア661
10位アフガニスタン638

上位10位には南スーダンやチャド、シエラレオネなどの後発開発途上国がランクインしています。

一方で、妊産婦死亡率が低い国は下記の通りです。ポーランドやイタリアが182位(妊産婦死亡率の低さだと1位)とヨーロッパ圏が上位を占めていることが分かります。

順位国名妊産婦死亡率(出生数10万人あたり)
143位韓国11
156位ドイツ
161位キプロス
165位日本
165位オランダ
182位イタリア
182位ポーランド

全体のランキングを見ても上位は途上国、下位は先進国が集まっている傾向にあります。

世界の妊産婦死亡率の推移

下記は世界および地域別の基本統計と保健・医療指標のデータです。

世界全体の1990年と2017年の妊産婦死亡率を比較してみると、約60%減少しており、医学の進歩や環境の整備によって改善されていることが見て取れます。なお、地域ごとの妊産婦死亡率を見ても、北米と東アジア以外は減少しています。

とはいえ1990年から約30年以上経っても、多くの妊産婦が亡くなっていることには変わりありません。一向に死亡率が下がらない原因としては、次の章で説明します。

世界の妊産婦死亡率の原因 

世界の妊産婦死亡は、下記のような原因が挙げられます。

  • 医療体制が整っていない
  • 感染症
  • 保健教育がされていない

医療体制が整っている日本とは異なり、世界では医療体制が整っていないことが根本原因となっています。それぞれの原因について見ていきましょう。

医療体制が整っていない

先ほど提示した世界および地域別の基本統計と保健・医療指標を再度見てみましょう。

先進国の妊産婦死亡率は10万人中5.1人に比べて、チャドやシエラレオネなどの後発開発途上国(世界のなかでも特に開発が遅れている国)は、381.5人となっています。

その背景として後発開発途上国は、医師や看護師が不足しています。日本は国民414人に1人は医師がいるのに対し、アフリカにあるマラウイは63,694人に1人しかいません。そのため、私たちが当たり前に受けている定期検診は実施できず、出産も自宅で行う人も少なくないのです。

感染症

感染症に罹患している女性が妊娠すると、妊産婦死亡率が高まると考えられています。途上国では、水道やトイレなどの衛生に関する施設が整っていないことで、マラリアエイズが蔓延しています。

さらに医師の不足により、定期的な検診やワクチン接種が受けられません。結果的に、その母親から産まれた子どもも合併症や感染症を発症し、亡くなるケースが後を絶たない状況です。

保健教育がされていない

保健に関する教育は自身の健康や病気のリスクを防ぐためには欠かせないものですが、途上国では学ぶ機会が少ない状況です。

つまり、妊娠しても母になるための体づくりや妊娠中にすべきこと、リスクなどを知る環境が整っていません。そのため、妊婦になっても自身の体の変化や病気などに気づかず、妊産婦死亡率が上がってしまうと言えます。

妊産婦死亡率の改善に向けた取り組み事例

このような状況の中で、妊産婦死亡率の改善に向けた取り組みも進められています。

ここでは取り組み事例を6つ紹介します。

日本政府|パレスチナの妊産婦の健康改善

日本政府は国連人口基金(UNFPA)とともに、パレスチナの妊産婦の健康改善を支援する活動を行っています。パレスチナのガザ地区では、以前から合併症によって亡くなる妊産婦が多いことが問題となっていました。

そこで国連人口基金と日本政府が行ったこととして、

  • 妊産婦の命に関わる事例の記録システム開発
  • 妊婦が引き起こしやすい静脈血栓塞栓症の規定・手順を作成し医療従事者にトレーニング
  • 分娩後の出血を防ぐバクリバルーン※の調達・配布

などがあります。2020年はパレスチナの妊産婦死亡は2019年に比べて約43%増えましたが、2021年以降は出血による死亡が減少しているとのことです。

バクリバルーン

分娩後に出血を止めるための医療器具

世界|ネパール・ヒマラヤでの出産

ネパールは国土の35%を山脈が占めており、急こう配の地形で交通手段が整っていません。そのため、妊娠しても病院や保健所にアクセスしにくく、定期的な検診が受けられなかったり、医師がいない状況で出産したりする女性も多くいます。1990年、世界のなかでも妊産婦死亡率が高かったネパールは、

  • 一次的な保健・医療のサービスを提供するヘルスセンターやヘルスポストを増設
  • 中絶の合法化
  • 出産費用の無料化
  • 交通網の充実化

などにより、1990年は10万人あたり750人以上だった妊産婦死亡数が、2015年には250人に減少しました。

日本企業|塩野義製薬

塩野義製薬株式会社は、2015年より妊産婦死亡率が高いケニア共和国で「Mother to Mother SHIONOGI Project」という取り組みを行っています。ケニア共和国は日本に比べて水衛生のインフラが整っておらず、医療を受けるにもアクセスが良くありません。そのため、妊産婦死亡率は日本の約68倍となっています。

そこで塩野義製薬では、

  • 病院や保健所などにアクセスしやすくした
  • 衛生環境や石鹸を使用した手洗いなどの教育の実施

などを展開。施設での分娩割合が2018年、約4%だったのに比べて2021年には約12倍の47%に向上しました。

世界企業|Delfina

アメリカ合衆国・サンフランシスコにあるDelfinaは、医療やヘルスケアの効果をデジタルによって向上させるデジタルヘルス領域のスタートアップ企業です。

先進国のなかでも、比較的妊産婦死亡率が高いアメリカ。そこでDelfinaは、シードラウンドとして530万ドルを調達しました。

DelfinaはAIプラットフォーム「Delfina Care」を提供しており、EHR(電子健康記録)や妊産婦、臨床医のデータを組み合わせて妊産婦のリスクをいち早く予測、管理を実現しています。

日本の団体|NPO法人ピープルズ・ホープ・ジャパン

NPO法人ピープルズ・ホープ・ジャパンは、カンボジアを中心にアジアの母と子の健康を支える活動を行っています。カンボジアは、ポルポトによる1976年から約4年間の政権により大虐殺時代を迎えました。特に政権崩壊後は、衛生環境や健康状態が最悪の状況が続き、2017年のカンボジアの妊産婦死亡率は10万人あたり160人という結果が出ています。

ピープルズ・ホープ・ジャパンは、カンボジアの各地域に赴き、保健や栄養教育、保健サービスのスタッフがクオリティの高いサービスを提供できるように研修などを行っています。

世界の団体|JICA

SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では「2030年までにエイズ・結核・マラリア・顧みられない熱帯病といった感染症の流行を終焉させる」というターゲットがあります。

JICAでは、

  • 感染症について研究・早期警戒体制の強化
  • 感染症の診断や治療体制の強化

などを実施。現在、ガーナやザンビア、ミャンマーなどに保健所や研究所を置き、迅速に対応できるよう万全な体制を整えています。

妊産婦死亡率の改善に向けて私たちができること

最後に、妊産婦死亡率の改善に向けて個人ができることを紹介します。

寄付をする

私たちができる身近なこととして、寄付が挙げられます。「妊産婦死亡 寄付」と検索すると、たくさんの団体が表示されます。各団体のサイトでは、団体が抱える理念や活動報告の確認が可能です。

例えば、先ほども紹介したピープルズ・ホープジャパンでは「こんにちは!お母さん募金」という寄付を募っています。

なるべく多くのサイトを閲覧して、自身が寄付したいと思える団体に寄付すると良いでしょう。ここでも、妊産婦死亡に関する活動を行っている団体のリンクを貼っておくので、ぜひご参考ください。

まとめ

日本の妊産婦死亡率は低いのに対し、依然として世界(特に後発開発途上国)は妊産婦死亡率が高い状況です。世界の妊産婦死亡率を減らすためには、質の高い日本の保健教育を伝えていくのも一つの方法です。また、妊娠や出産を経験する立場になったら自身の健康管理を行いましょう。

<参考文献>
厚生労働省|厚生労働統計に用いる主な比率及び用語の解説
厚生労働省|平成29年(2017年)人口動態統計(確定数)の概況
政府統計の総合窓口 e-Stat
国際貢献・国際交流に必要な準備開発途上国・地域における医療事情・特徴
ナースタ
日本ユニセフ協会|世界子供白書2021
日本ユニセフ協会|いま、この瞬間にも。救える命がたくさんあります。
日本産婦人科医会|妊産婦死亡の原因別頻度
ワールド・ビジョン|乳児死亡率が高くなる原因は? 生まれた日に亡くなる子どもは世界で90万人
国連人口基金 駐日事務所|日本政府とUNFPA、パレスチナの妊産婦の健康を支援
PR TIMES|ケニアの母子支援活動「Mother to Mother SHIONOGI Project」包括的な取り組みの成果を公表
GLOBAL NEWS VIEW|ヒマラヤでの出産:「成功例」ネパールの現状とは?
海外資金調達ニュース:AIを用いて妊産婦死亡率低下に取り組む米・Delfinaは530万ドルを調達|Healthtech DB
ピープルズ・ホープ・ジャパン
JICA|JICA開発途上国課題発信セミナーー感染症対策ー