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【SDGs未来都市】香川県三豊市|自然を生かしつつスマートアイランドの実現を目指す、三豊市独自のまちづくり

香川県三豊市

香川県三豊市 森さんインタビュー

森 誠

1988年8月10日、香川県三豊市生まれ。大学卒業後、2011年4月に香川県三豊市役所入庁。農政、総務、教育部局を経て、政策部地域戦略課にて2021年よりSDGsに関する業務を担当。業務に携わる中でSDGsの重要性を実感し、一人でも多くの市民にその理念と大切さを伝えるため、「みとよSDGsパートナー」制度やセミナーを通して、SDGsの普及推進に取り組んでいる

introduction

香川県の西部に位置する三豊市。そこにある父母ヶ浜が、フォトジェニックな写真が撮れる海岸としてInstagramで話題になったり、紫雲出山から撮影した瀬戸内の島々が、ニューヨーク・タイムズの「2019年行くべき52カ所の旅行先」として日本で唯一ランクインされるなど、観光地として注目を集めています。

その一方で、少子高齢化人口減少の課題を抱えており、解決に向けてさまざまな取り組みを進めています。その結果、2020年度にSDGs未来都市に選出されました。今回、三豊市役所の森さんに市独自の先進的な取り組みについてお伺いしました。

少子高齢化・人口減少を止めようと、SDGsに関連付けた発信をスタート

-三豊市がSDGsに力を入れることになったきっかけについて教えてください。

森さん:

最初は「SDGsのために」と活動を始めた訳ではありませんでした。

三豊市では、昭和60年頃に人口のピークを迎え、その後はどんどん減少しています。人口減少を食い止めるには、今いる市民のための公共の福祉や生活の基盤維持はもちろんのこと、本市の良さを発信し、外から三豊に来てもらうことが必要でした。

持続可能な行政を維持するための施策として注目したのが、当時ちょうど話題になり始めたSDGsと絡めた発信活動だったんです。

-外部に市の魅力を発信するきっかけがSDGsだったんですね。

森さん:

確かに最初は、SDGsに取り組んでいることを市の魅力を発信する手段の一つとしていた面もあります。

しかし、市の職員たちと学んでいく中で「SDGsは本当に必要なものなんだ」と知ることができました。現在は、市全体で力を入れて取り組むようになっています。

SDGsを学ぶ三豊市役所の職員の方々

粟島をスマートアイランドに。古さと新しさが混ざり合う三豊市

-三豊市は、香川県初の「SDGs未来都市」に選出されています。具体的には、どのような活動をしているのでしょうか。

森さん:

SDGs未来都市計画の中心事業が、三豊市が持つ離島の活性化を目指した「スマートアイランド推進プロジェクト」です。

離島は本土よりも少子高齢化や人口減少が進んでいる地域でもあります。

そこで、ICTやドローンなどの新しい技術を駆使して、離島が抱える課題の解消を目指しています。

-スマートアイランドプロジェクトは粟島にスポットを当てて展開されていますよね。三豊市には他にも島がありますが、粟島を選んだのはなぜですか?

森さん:

粟島はかつて、日本最古の海員養成学校があり、多くの人材を輩出してきましたが、昭和62年の廃校などを経て、その後は島民の減少、高齢化が進み、現在の高齢化率は86%となっています。打開策を考えていたタイミングで、瀬戸内国際芸術祭の会場の一つに粟島が選ばれたんです。

古い土壁の続く路地や昔ながらのどこかノスタルジックな雰囲気のある街並みの島に、最新のアートも展示され、古さと新しさが混じる特異な場所となりました。これが注目を集め、観光客が増えました。このことが粟島にスポットを当てるきっかけの一つですね。

瀬戸内国際芸術祭開催時の粟島

グリスロやドローンで悩み事を解消

-具体的に、どのような取り組みを進めているのでしょうか。

森さん:

島の高齢者の悩み事を解決するために、グリーン・スロー・モビリティ(以下グリスロ)やドローンを活用した実証を行いました。

グリスロは、環境に優しくゆっくりと走る電気自動車で、細い道にも入っていける特徴があります。一番の困りごとが高齢者の方の島内移動だったことから、テスト導入しました。現在、島民の皆さんの声を聞きながらコース設定をしており、航路への接続など日常生活の移動手段として、また、観光客にとっては、観光スポットを巡るコースとして喜ばれています。

合わせて、島内では、買い物の不便さも課題でした。島内には商店もあり、船の定期便もありますが、「必要なものが必要な時に」という点では、本土に比べ島は不便だと言えます。そこで、スマートアイランドの実証後、昨年8月から民間企業によるドローン輸送の定期便が開始され、本土から粟島へ一日一回、ドローンによる物資の運輸を行っています。

ドローンによる物資の運輸

-三豊市観光交流局のInstagramなどからも魅力が伝わってきました。

スマートアイランド構想を進めてから、何か変化はありましたか。

森さん:

これらがきっかけで、市内には宿泊施設や商業施設もどんどん増えており、粟島が盛り上がっていることは、市民の皆さんも実感してくださっていると思います。

AIやIoTを活用した公共交通で三豊市内の移動を便利に

-では、本土についてもお話を伺いたいと思います。粟島で交通が整理される一方で、本土の移動事情はどのような状況でしょうか。

森さん:

例えば父母ヶ浜のある仁尾地区ではみかんの栽培が盛んですが、それは斜面を使える山が多いからでもあって。

そのためアップダウンがある細い道が多いので移動は大変ですね。

-何か対策はあるのでしょうか?

森さん:

公共交通機関の整備に力を入れています。

コミュニティバスが12路線ありますし、周囲の市にも路線を伸ばしているんです。

とはいえバスだと細い道に入ることができないので、ラストワンマイルは課題になっています。ただ、父母ヶ浜など観光地への移動手段は民間サービスの動きもあります。駅から乗り合って移動できるサービスが始まりました。

三豊市コミュニティバス

-三豊市は、最先端のものを積極的に取り入れている印象があります。

森さん:

そうですね。AIやIoTに力を入れており、公共交通にも導入していく予定です。

2022年4月には、スマートフォンでバスの現在地を調べられるようになります。「バスの見える化」ですね。今後も市民の皆様の声を聞きながら、さまざまな技術を取り入れていきたいと考えています。

地域ごとの魅力を活かしたゾーニングで市全体を盛り上げる

-続いては、地域活性化の観点からお話を伺います。粟島・紫雲出山・父母ヶ浜など、市の北部が観光で盛り上がっている印象ですね。

森さん:

現在は、北部の方がにぎわっていますね。もともとある観光資源に加えて体験型の施設も増えています。

例えば父母ヶ浜のある仁尾町。コーヒーの淹れ方を豆の焙煎から体験できるカフェや、キャンドルやハーバリウムづくりを体験できるお花屋さんがあります。また、昔ながらの街並みが保存されている地区で、街歩きにも向いています。

-南部はいかがですか。

森さん:

南部はこれから盛り上げていこうと、色々と取り組みを進めています。

例えば、南部にある「道の駅 たからだの里さいた」の産直市場を拡張しました。また、現在整備中の「宝山湖ボールパーク」は、サッカーJ3のカマタマーレ讃岐の活動拠点になる予定です。さらには、ここをお子さんやお年寄りが集まれる健康の拠点にもなるよう計画中です。学生さんに合宿で使ってもらえるようにもしていきたいと考えています。

宝山湖ボールパークの整備イメージ

-地区ごとの特色を活かしたまちづくりを進めているんですね。

森さん:

そうですね。まちづくりの方針として、ゾーニングしていく構想があります。

北部は観光地として盛り上げていく。田園風景が豊かな中央部は、商業施設・病院・行政施設などを充実させ、市民の方が暮らしやすさを重視。南部は、都会の方が自然を感じながらゆったりと過ごせるアグリツーリズム地区にしていく。そんな風に、それぞれの地区の良さを生かしつつ市全体を盛り上げていきたいですね。

健康と教育を柱に、少子高齢化に負けないまちづくりを

-最後に三豊市の今後の展望をお聞かせください。

森さん:

少子高齢化が三豊市の大きな課題ですので、柱として特に力を入れたいのは健康と教育です。

高齢者に向けては、健康寿命を伸ばす取り組みを進めていこうと考えています。

教育面では、少子化により各学年1クラスになっている学校がほとんどですが、そのなかで子どもの可能性を広げられる方法を検討したい。三豊からでも世界に羽ばたいていけるような教育施策を進めていきます。

-サッカーチームとの協定やAI・IoTを積極的に導入してらっしゃるのはお子さんたちのプラスになりますよね。

森さん:

そうですね、そういう狙いもあって積極的に進めています。

-環境面でも取り組みを検討されているそうですね。

森さん:

はい。自然が非常に豊かな市ですので、自然を生かした再生可能エネルギーの導入も検討したいですね。どのような方法が市に合うのか調べ、脱炭素にも取り組んでいきたいと考えています。

SDGsが広く知られるようになったので、市民の活動とうまく連携しながらまちづくりを進めていきたいですね。

-本日は貴重なお話をありがとうございました。

取材・大越/ 執筆・荒川

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>>三豊市観光交流局