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ニューツーリズムとは?メリット&デメリットと6つのテーマと具体事例を解説

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新たな旅行形態「ニューツーリズム」。マスツーリズムとも呼ばれる従来型の旅行とは異なり、各地域の特性を活かした、テーマ性のある旅行のあり方が広がっています!

ニューツーリズムの展開により、地域活性化やリピーターの獲得といったメリットがある一方、一筋縄ではいかない難しさもあります。

この記事ではニューツーリズムの特徴や事例、メリットや課題点などを解説します。

ニューツーリズムとは

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ニューツーリズムとは、各地域の特性を活かして、体験や交流といった要素を取り入れた新しい旅行の形態です。

日本国内における従来の観光旅行は、数日から1週間程度の期間、旅館やホテルに宿泊して各地の観光名所を見学するなどの形式が中心でした。戦後経済発展とともに広がったこのような旅行形態は、「マスツーリズム」とも呼ばれます。一方で2000年ごろからは旅行者のニーズの多様化が進み、新たな形態の観光が求められるようになりました。

このような背景のもと、ニューツーリズムが広がっています。

モノ消費からコト消費へ

ニューツーリズムが求められる背景には、消費者の価値観が、「モノ消費」から「コト消費」へ変容してきていることが挙げられます。

モノ消費とは、商品やサービスの持つ機能に価値を見出して消費することを指します。一方でコト消費とは、商品やサービスを利用して得られる経験に価値を見出して消費することを指します。

訪日観光客(インバウンド)に関しても同様の現象が見られます。2015年に「爆買い」という言葉が流行したことに象徴されるように、以前はモノ消費型の旅行も多く見られましたが、自然や文化体験といったコト消費を求める訪日観光客も増えています

ニューツーリズムのメリット

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それでは、ニューツーリズムが広がることによるメリットはどのようなものがあるのでしょうか。いくつか見ていきましょう。

地域活性化につながる

ニューツーリズムにはさまざまなテーマがありますが、そのほとんどが地域のもつ資源を活用するものです。また、従来のように旅行会社が主導するのではなく、地域が主体となって進めることが中心です。

ニューツーリズムのために地域を見つめなおしたり、地域人材を活用することで、その場所の活性化につながることが期待できます。経済的な活性化だけでなく、その地域に暮らす人々がその土地に誇りを持って暮らすことのきっかけにもなり得ます!

再訪率が高まる

これまでの観光名所をめぐるタイプの観光は、一度見たら満足する人も多く、リピーターを増やすことが難しい傾向にありました。

一方ニューツーリズムでは、その地域のもつ魅力を押し出すものが多いため、旅行者にまた来たいと思ってもらいやすいとされています。特にグリーンツーリズムやロングステイといったテーマのニューツーリズムでは、その地域に滞在することそのものが旅行の目的であるため、一度満足した旅行者は何度も繰り返しその土地を訪れることが期待できます。

※グリーンツーリズムやロングステイについては後述します。

訪日観光客の増加

ニューツーリズムの展開は、訪日観光客の増加にも繋がります。先ほども述べたように、自然や文化などの体験を求める傾向は訪日観光客にも広がっています。特に国内観光客と比べ、長期で滞在する傾向にある訪日観光客は、ニューツーリズムとの親和性がより高いと言えるでしょう。ただし、国内観光客と訪日観光客の求めるテーマが異なる傾向にあることには、注意が必要です。

このように、ニューツーリズムには様々なメリットがあるため、観光庁も力を入れています。そして、観光庁ではニューツーリズムのテーマ例を6つ挙げています。次からは、6つのテーマと事例を紹介していきます。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例①産業観光

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一つ目は「産業観光」です。

産業観光とは

「産業観光」で観光の対象となるのは、地域特有の産業にまつわる工場、職人、製品などです。加えて、工場の跡地やリノベーション施設なども含まれます。「ものづくり大国」とも呼ばれる日本には、各地に産業観光の資源となり得るものが隠れています。例えば、

  • 現在も稼働している工場見学(食品類、酒類、玩具、自動車、部品、エネルギーなど)
  • 鉱山跡地
  • 過去に稼働していた工場の遺構(世界遺産・富岡製糸場など)
  • 企業や特定産業の博物館・資料館

などが該当します。

産業観光の事例

静岡県は、ピアノ出荷額日本一の県として知られています。国内最大のピアノメーカーであるヤマハ株式会社も、掛川市に「ヤマハ掛川工場」を持っており、平日のみの予約制で工場見学を受け付けています。

工場ではグランドピアノを製造する様子を間近で見ることができ、製造過程を学ぶことができます。国外からも見学者が訪れるため、外国語対応を行うなどの工夫も見られます。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例②エコツーリズム

次に、エコツーリズムをご紹介します。エコツーリズムとはその名のとおり、自然環境保全に着目した観光旅行のことをいいます。エコツーリズムは2007年に成立した「エコツーリズム推進法」によって推進されることとなりました。

エコツーリズムとは

推進法によるとエコツーリズムの基本理念は、「自然環境の保全」「観光振興」「地域振興」「環境教育の場としての活用」の4つとされています。推進することで、旅行客が精神的な満足感を得られるほか、地域の魅力を再発見することにもつながります。

エコツーリズムの事例

北海道の最東部に位置する、知床半島。「流氷が育む豊かな海洋生態系と原始性の高い陸息生態系の相互関係に特徴があること」などが評価され、2005年には世界自然遺産にも指定されています。

世界遺産指定後はより多くの観光客が訪れるようになり、固有の自然環境を保全していくための方策が模索されました。そこで知床エコツーリズム推進協会により「知床エコツーリズムガイドライン」が作成され、観光客に知床の自然を守るためのマナーやルールを啓発しています。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例③グリーンツーリズム

農村地域に滞在して過ごす観光の形「グリーンツーリズム」も、ニューツーリズムのテーマとして挙げられています。

グリーンツーリズムとは

グリーンツーリズムは、緑豊かな農村に宿泊して農業や林業、またその土地の自然や文化などを体験する「滞在型」の余暇活動のことをいいます。また漁村や離島での滞在型余暇活動をブルーツーリズムと呼び、広義ではグリーンツーリズムに含めることもあります。

旅行者が豊かな経験を出来ることに加え、地域活性化にもつながるとして、国内でも多くの地域で推進されています。

グリーンツーリズムの事例

徳島県では、県の農林水産部が「とくしま農林漁家民宿」を推進しています。これに関連して、農林漁業者が民宿設置する際の条件を緩和し、新規参入を後押ししています。

とくしま農林漁家民宿として認定されるためには、運営者(農林漁業者)自らが農林漁業体験を提供することが必要です。そのため、旅行者はとくしま農林漁家民宿から滞在先を選ぶことで、農村や漁村に宿泊し、農業・林業・漁業を体験するグリーンツーリズムを楽しむことができます。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例④ヘルスツーリズム

続いては「ヘルスツーリズム」をご紹介します。

ヘルスツーリズムとは

ヘルスツーリズムとは、健康維持や疲労回復などを主な目的とする旅行のあり方を指します。古くから続く湯治をはじめ、ヨガやウォーキングなどのアクティビティ、ヘルシーな食事を通して、旅行者は自らの健康意識を高めることができます。

また、主に医療水準が高くない国・地域の人が、別の国・地域に出向いて治療や診察・検診、リハビリなどを受ける「メディカルツーリズム」もヘルスツーリズムに含むことができます。

ヘルスツーリズムの事例

新幹線を使えば東京から1時間程度でアクセスできる群馬県みなかみ町では、「みなかみヘルスツーリズム」の取り組みが行われています。運動・アクティビティ(ハイキング、ラフティングなど)、(地元食材・発酵・デトックス)、休養(温泉・睡眠・休息)の3つの領域でプログラムが用意されており、旅行者は総合的にヘルスツーリズムを楽しむことができます。個人での利用のほか、企業の研修旅行としての利用も推奨されているのが特徴です。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例⑤ロングステイ

長期滞在型旅行である「ロングステイ」も、ニューツーリズムのテーマのうちの一つです。

ロングステイとは

従来型の旅行は、数日~1週間程度の期間が一般的でした。対してロングステイは、1箇所に1週間以上滞在して生活をする旅行形態のことを言います。ロングステイは、国内に限らず、海外に2週間程度以上滞在する旅行形態も該当します。

時間に余裕のある高齢者が増えてきたことや、近年の働き方の多様化により、国内でもロングステイの旅行が広まってきています。ロングステイの広まりにより、「暮らすような旅」という言葉もよく聞かれるようになりました。

ロングステイの事例

東京都・伊豆諸島の最南端に位置する八丈島では、観光協会がロングステイを推進しています。「八丈島ロングステイプラン」に参加する宿泊施設では、泊数が増えるほど宿泊料が割引される取り組みを展開しているのが特徴です。キッチン付きの素泊まり宿もあるため、島の食材を使って自分で料理することもできます。

また、ロングステイ中に仕事もできるよう、島内にシェアオフィスも設置されました。

ニューツーリズムの6つのテーマと事例⑥文化観光

最後に、文化観光をご紹介します。文化観光は2020年に「文化観光推進法」が成立されたことで、推進されるようになりました。

文化観光とは

文化観光推進法によると、文化観光とは、

有形又は無形の文化的所産その他の文化に関する資源の観覧、文化資源に関する体験活動その他の活動を通じて文化についての理解を深めることを目的とする観光をいう。

引用元:文化庁

と定義されています。

文化観光の振興により、旅行者が文化への理解を深められるとともに、経済発展への寄与も期待されます。

文化観光の事例

佐賀県嬉野市は、「嬉野茶」の産地として広く知られています。その嬉野では、嬉野茶に加えて400年以上の歴史を持つ「肥前吉田焼」と「嬉野温泉」という3つの伝統文化を融合した体験を提供するプロジェクト「嬉野茶時」に取り組んでいます。お茶の生産者が栽培、製茶、ティーセレモニー 、サーブ(提供)まで全てを行う企画などを行っており、「お茶」という文化を体験するために嬉野に出向くという観光の形が実現しつつあります。

ニューツーリズムの課題

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ここまで、ニューツーリズムのメリットや6つのテーマ、事例をご紹介してきました。一方でニューツーリズムには課題もあります。

旅行者の集客が難しい

一つ目の課題は、従来型の観光に比べて集客が難しいということです。

地域団体などの企画者が、どれだけ自分たちのツーリズムが魅力的であると実感していたとしても、実際に旅行者を惹きつけることが出来なくては、来訪は望めません。旅行者の好奇心を湧き起こすようなテーマを計画することは、簡単ではないのです。さらに旅行者の趣味嗜好は日々変化しており、ニーズの把握が難しくなってきています。

加えて、ニューツーリズムは従来型観光に比べて、対象が細分化されています。つまり、販売という視点から見れば、少ロットの商品となります。そのため、従来型の観光のように大型旅行業者を通して広告・販売することは困難です。このことも、集客が困難であることの要因の一つと言えます。

一方でSNSや動画配信サービスなどを活用して、特定の層にリーチできるよう広告を工夫することもできます。

地域住民のモチベーション維持

グリーンツーリズムなどの形態においては、地域住民がこれまで以上に積極的に観光に関わることとなります。行政や観光協会などが主導した場合など、地域住民のモチベーションを維持出来るかどうかは、ニューツーリズム成功の鍵となります。

  • 住民の負担が大きくなりすぎないことに注意する
  • 農林漁業などの本業に影響の無いようにする
  • 無償のボランティアではなく適切に報酬を支払えるような運営にする

などの工夫が必要です。

ニューツーリズムとSDGsの関係

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最後に、ニューツーリズムとSDGsの関係についても確認しておきましょう。

目標4・8・11・13・14・15などに関連

SDGsには16の目標がありますが、ニューツーリズムはこのうち目標4・8・11・13・14・15の達成に寄与できます。ツーリズムの内容によっては、他の目標にも関連することがあります。

目標4は「質の高い教育をみんなに」、目標8は「働きがいも経済成長も」、目標13~15は気候変動や海陸の自然保護に関する目標です。

そして目標11は「住み続けられるまちづくりを」は特に関係する目標と言えるでしょう。

それぞれの地域における魅力を再発見し、地域の活性化にもつながるニューツーリズムのあり方は、この目標達成に大きく寄与します。ターゲットにも掲げられている「都市部と農村部のつながりを良好にする」ことにも繋がります。

>>SDGsのそれぞれの目標についてはこちらをチェックしてみてください。

まとめ

新しい旅行形態「ニューツーリズム」について、基礎知識から事例、メリットや課題点まで紹介しました。6つのテーマとして、グリーンツーリズムやエコツーリズムを紹介しましたが、これらについては当サイトでさらに詳しく説明しています。気になった方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

<参考文献>
JTB総合研究所 観光用語集
国土交通省 観光立国推進基本計画
国土交通省 産業観光に取り組む工場施設の 先進事例調査報告書
観光庁「ニューツーリズム旅行商品創出・流通促進ポイント集」
観光庁 エコツーリズムのススメ
徳島県 「とくしま農林漁家民宿」のすすめ
北海道 知床の適正利用とエコツーリズム
フコク生命「アナリストの眼」
みなかみヘルスツーリズム
嬉野茶時