#インタビュー

【SDGs未来都市】新潟県新潟市|豊かな田園と都市を活かして持続可能な社会を実現する

新潟県新潟市

新潟県新潟市 政策企画部 政策調整課 金成 洋さん インタビュー

新潟市

日本最長を誇る信濃川の河口に位置する新潟市は、ラムサール条約湿地である佐潟をはじめとした多くの水辺空間と里山などの豊かな自然に恵まれている。信濃川と阿賀野川の2つの大河が運んだ肥沃な土壌のもとで、国内最大の水田面積を有し、米や果樹など全国に誇る魅力的な農産物の生産が行われるなど、他に類をみない規模の農業基盤を有しており、更には、北前船交易によってもたらされた「みなとまち文化」や発酵食などに代表される特徴的な食文化などが息づく政令指定都市である。

introduction

令和4年5月にSDGs未来都市に選定された新潟市は、都市部と豊かな田園地域が混在するまちです。日本一の水田面積を誇る農業都市でもありますが、近年では、農業の担い手の高齢化や後継者不足などの課題に直面しています。この課題に取り組み、新潟市の強みである「食と農」を将来に向けて持続可能なものにしていくため、作るから食べるまでを一貫してサポートし、次世代を担う人材の育成をはかっています。農業DXやフードテックを活用したその取り組みとはどのようなものなのでしょうか。

新潟市政策調整課でSDGsを担当されている金成(カナリ)さんにお話を伺いました。

背景は人口減少と高齢化。課題への取り組みから新潟市の「食と農」を支えていく持続可能な開発目標につながった。

‐‐まず、新潟市についてご紹介ください。

成さん

新潟市は新潟県の下越地方、日本海沿いに位置する市です。日本一の長さを誇る「信濃川」と一級河川「阿賀野川」の大きな川の河口域で発展してきました。

人口約78万人の政令指定都市ですが、全国随一の水田面積を有しており、都市部と農地がともにあることが新潟市の大きな特徴です。

農業の産出額が全国6位であることに加え、農林水産業によって生産された食材を処理・加工する食品関連産業の集積率も高い状況です。この農業と食品関連産業が新潟市の重要な基盤産業となっています。

‐‐SDGsに取り組むようになった背景を教えてください。

金成さん

人口減少や食の多様化を背景に米の国内需要が減少するに伴い、稲作農業や農林水産業が元となっている食品関連産業に影響が見られるようになりました。

また、高齢化による離農や新規参入者が少ないことから、農業の担い手が不足していることも大きな課題です。

他にも、農業から排出されるCO2の削減がなかなか進まないこと、フードロスとなる野菜が多いことなど、環境面に関する課題も抱えています。特にフードロスについては、世界に7億人以上もの人が飢餓に苦しんでいるという現状も考えると、削減に向けた取り組みに力を入れる必要性を感じていました。

これらの課題の解決に向け、新潟市ではこれまでスマート農業やフードテックなどの取り組みを進めるほか、食と農を通じて多様な価値を生みだす基盤を築いてきました。こうした取り組みは、市内はもちろんのこと、世界中で起きている課題にも通じていくのではないかと考え、SDGs未来都市に応募しました。

農作物を作ってから売る・食べきるまでを学習に組み込み、教育を通じて人材育成をはかる

‐‐では、具体的にどのような取り組みを進めているのかを教えてください。

金成さん

新潟市は、2030年のあるべき姿を「誰もが田園の恵みを存分に実感できる豊かな地域社会」と掲げています。この実現に向け、「作るから食べるまでフードサプライチェーン一気通貫プロジェクト」を行っています。これは、農作物の生産から流通・販売、消費されるまでのサプライチェーンを一体的に捉え、モデルとなる取り組みを行うもので、「学ぶ」「作る」「売る」「食べきる」の4つの段階で構成しています。教育を通じた人材の育成を基礎に、各段階でリーディング事業を実施し、「社会」「経済」「環境」の三側面すべてにおいて価値の波及を行うことで、食と農のサプライチェーン全体の活性化を目指しています。

それぞれの段階について順を追ってお話ししますね。

学ぶ

まず「学ぶ」についてですが、新潟市では平成26年度から「アグリ・スタディ・プログラム」を実践しています。これは、市内の全小学校に農業体験を授業科目に位置づけて、学校教育のカリキュラムとして実践していく取り組みです。

総合的な学習の一環として農業体験を実践している学校はあるかもしれません。しかし、国語や算数のように、授業科目として農業体験を取り入れているのは珍しい事例ではないかと思います。

児童が年間を通じて米や野菜作り、牛の乳搾りや、収穫した食材を使用した料理作りに取り組んでいます。

現代の農業は最新技術を取り入れているため、昔のイメージとは変わってきていることを教育を通じて理解してもらう狙いもあります。

そして現在、この「アグリ・スタディ・プログラム」を拡大させた事業として、「食と農のわくわくSDGs学習」がスタートしました。主に小学生を対象としていた「アグリ・スタディ・プログラム」に対し、こちらは小学校高学年から大学までの世代が切れ目なく農業に関心が持てるようなプログラムに発展させています。

今は小中高大学の中からモデル校を選定し、そこでどのような学びの種があるか、食と農にもっと深く入っていけるのかを模索している段階です。モデル校でプログラムやカリキュラムを検討し、有効なものを全校へと波及させていく予定です。

農業を学習対象として組み込むことで、子どもたちと地域産業をより身近なものとし、将来の食と農の産業を支える人材育成へとつなげていければと考えています。

作る

続いて「作る」についてです。現在、新潟市は農業DXを推進しており、農業者にロボット活用やデータ管理など、スマート農業を進めてもらうことで、生産性の向上を目指しています。これは脱炭素社会の実現に向けての取り組みとしても有効だと考えています。

具体的には、GPSを活用して農薬や肥料をまく場所を管理し、適切な量をドローンなどで散布しています。これにより農薬や肥料をまく量を減らせることはもちろんですが、散布にかかる労力や温室効果ガスの削減が期待できます。

新潟県新潟市

現在、取り組みを進める農業DX事業は、環境負荷を低減させ、農作業の自動化や効率化に有効な技術を持っている企業に、その力を新潟市内で発揮してもらうための事業です。

一般的にスマート農機は、テスト用のほ場で試したものが販売されていますが、実際の生産現場では使用環境が異なります。そこで、農機具メーカーに実証の場を提供して、販売前に改良を重ねることを目指しています。最終的には、新潟市の土地の特長を捉えた技術開発や商品化を促したいと考えています。

さらに、農業外で使用されている技術の農業転用を促して、異業種からの農業参入を進めていきます。

この取り組みによって得られる生産性向上や脱炭素の効果、データなどの情報を発信し、JAなどと連携しながら農業現場で実践していきます。

売る

「売る」の段階では、バーチャル都市空間を活用して需要を掘り起こし、販路を拡大する取り組みを行っています。

新潟市の都心部の2km圏域を「にいがた2km」と称していますが、その「にいがた2km」の万代島地区をフィールドに、「新しい食農のニーズをDXで叶える”ちょっとミライのニイガタ”」を目指し、デジタル事業者と市内8区の事業者が連携して様々な取り組みを実証しています。(チラシ参照)

その取り組みの一環で、万代島にある産直市場もバーチャル化し、スマホからでも市場を訪れて買い物ができるようにしました。バーチャル産直市場は、単に3D空間で商品を選ぶだけではなく、自分がアバターとして入り、自由に歩いて、商品を探索することが可能です。

また、実店舗では店員さんに聞かないと分からないような産地や旬の情報を付け加えています。ネット通販では分かりにくい大きさや形も、ARの技術を使用しスマホから自宅の机の上に投影してイメージ化させることもできるんです。

また、AIカメラで、リアル店舗の売れ筋や販売状況がリアルタイムで把握できるので、生産者にとっても、在庫管理の省力化やフードロスの削減などにつながります。

この取り組みにより、新たな購買体験を創出し、まだ店に来訪したことのない方や、遠方の方からの新たな需要創出を目指しています。

食べきる

「食べきる」では、フードロス削減のための取り組みとして、フードシェア事業を行っています。具体的には、市内の食品工場や販売店から出た、売れ残ってしまったものや、期限切れ間近の食品を、WEB販売を手がける事業者と連携しネットで全国に販売しています。従来廃棄していた食品が販売に回ることで、フードロスの削減をしつつ、事業者の収益向上も見込めます。

また、フレッシュフードシェアという事業も行っています。これは市場に出回らない規格外の野菜を農家さんに持ち寄っていただき、子ども食堂に届ける取り組みです。市では、子ども食堂と農家さんがつながることができる、受け渡しの拠点運営などをサポートしています。

現在、規格外の野菜を集めている拠点は数カ所しかありません。今後はこの拠点を増やしていき、廃棄となる野菜を少しでも減らしていきたいです。

目標達成のために不可欠なのは農業に対する価値観を高めていくこと

‐‐今後の展望をお聞かせください。

金成さん

食と農を取りまく課題の解決を加速させるためには、まず、今お話ししたような取り組みの情報や成果を市内外に発信し、認知を広めていくことが必要だと考えています。事実、SDGs未来都市に選定され、以前より発信力が高まったことで、様々な業種・業態の企業さんからお声がけいただくようになりました。こうした企業の皆さんと一緒に取り組みを進めることで、より加速していくと思っています。

また、この新潟の地で育った農産物が、こんなにも貴重で価値あるものなのだということを、まずは地元から、多くの消費者に実感してもらいたいですね。これは願いですが・・・。

-そう実感する消費者が増えるには、なにが重要だと思いますか

重要なことはまず、ひとつに“教育”だと感じています。「アグリ・スタディ・プログラム」や「食と農のわくわくSDGs学習」を通じて、子どもの時から、農産物の魅力や農業が抱える課題に深く触れて、その価値に気づいて欲しいですね。

そして、大人になって自分たちが消費者になったときに、農作物に関わる様々な人や新潟の豊かな自然環境を想起しながら、手にとってもらえるといいなと思います。

いろんな人の手がかかり、農業者の品質や味へのこだわりが高まるほど、自ずと値段も高くなってしまいますが、その過程や思いの「価値」と認めて、好んで買ってくれたら嬉しいです。

‐‐貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。