#17の目標

都市化から生息地を保護する!州のシンボル・黒鳥を守るために西オーストラリア州の州都パースが行うエコ活動

パースが位置する西オーストラリア州は、生物多様性を持つにもかかわらず環境破壊が懸念され続けている地域です。

そこで、パースは州の都市化と自然保護の両立を実現すべく、州のシンボルにデザインされている黒鳥を守る取り組み・ブラックスワン生息プロジェクトを立ち上げました。

この記事では、ブラックスワン生息プロジェクトの詳細と具体的な活動を解説していきます。

プロジェクトの結果も併せてお話ししていくので、野生動物保護や自然との共存に興味がある方は参考にしてくださいね。

黒鳥は西オーストラリア州のシンボル!

西オーストラリア州は、生物多様性ホットスポットのひとつです。

生物多様性を損なうほどの環境破壊が指摘されており、州規模での改善と対策が求められています。

そんな西オーストラリア州のシンボルが、州旗や西オーストラリア大学の校章にもデザインされている黒鳥です。

市街地である州都パースにも数多く生息していますが、黒鳥もそのほかの野生動物と同様に、生息地の消失や水質汚染などの危機に晒されています。

ブラックスワン生息プロジェクト

州のシンボルである黒鳥を守るべく、パース市街地の南側に位置するサウスパース市は2021年9月にブラックスワン生息プロジェクトをスタートさせました。

生物多様性保全観光局(Department of Biodiversity, Conservation and Attractions)と協力して行った取り組みで、プロジェクトの目的には黒鳥の個体数増加、黒鳥の研究、地元の学校が野生動物保護について学ぶ機会の創出が挙げられます。

プロジェクトでは、黒鳥が生息するための人工島が形成されました。

人工島の規模は5,000平方メートルで、植物が生い茂る2つの岬、ビーチ、岩などで作られています。

黒鳥の生息地確保のために作られた人工島でしたが、損傷した川壁の修復などによって多くの野鳥が避難所や営巣地として使用できる環境が完成しました。

さまざまな野生動物にとって重要な生息地が創出されたと言われており、2024年現在でも黒鳥を含むたくさんの固有種が人工島を活用しています。

尚、プロジェクトで作られた人工島は、原住民族・アボリジニのNoongarの人々の言葉で「鳥の故郷」を意味する「ジルダ・ミヤ」と名付けられました。

以下では、プロジェクトの遂行にあたって実施された取り組みについて説明していきます。

①植林

黒鳥にとってより自然な環境を実現すべく、プロジェクトのために約11,000本の自生植物と20本の樹木を植林しました。

自生植物にはスゲとイグサが含まれており、野生動物の避難場所となることで生物多様性をサポートしています。

②標識の設置

「ジルダ・ミヤ」の周辺地域に設置されているのが、さまざまな種類の標識です。

市街地周辺に生息する野生動物が多いオーストラリアでは、年間に1,000万頭の動物がロードキルで命を落としています。

「ジルダ・ミヤ」の対岸は遊歩道や狭い道ですが、自転車やスクーターが頻繁に通る道として知られています。

黒鳥と接触することで黒鳥の怪我・死亡などに繋がる恐れもあることから、「ジルダ・ミヤ」の近くでは自転車やスクーターに対する道路標識を設置しているのです。

また、自転車道には低速ゾーンが設けられているほか、黒鳥やその他の野鳥と適切な距離感を保つための教育目的の常設標識も置かれています。

③データ収集

「ジルダ・ミヤ」を作るにあたって、黒鳥にとってどのような環境が良いのかをリサーチする必要がありました。

そこで、サウスパース市は地元のボランティアとコミュニティグループ・Friends of the South Perth wetlandsと協力して、野鳥の数、種、繁殖、渡り鳥に関するデータを収集しました。

「ジルダ・ミヤ」は、ボランティアとコミュニティグループから寄せられたデータを基に形成されています。

結果として黒鳥が住みやすい生息地の創出に繋がっており、より効果的にプロジェクトを達成するのに貢献しました。

④立ち入り禁止区域の設置

「ジルダ・ミヤ」は、パース市街地から程近い位置にあります。

休日にウォータースポーツなどを楽しむ地元住民も多く、水上バイクや遊泳者が目撃されていました。

水上バイクは時速8~12kmほどのスピードが出ており、目の前に黒鳥が出てきても急に止まることはできません。

特に雛の黒鳥は動きが遅く、水上バイクと接触することで命を落とす恐れもあります。

音や水しぶきなども大きいことから、黒鳥がゆっくりと休む上で悪影響が大きいと考えられてきました。

また、黒鳥は縄張り意識が強く、遊泳者に対して強い警戒心を抱く可能性が高くなっています。

大きな羽や嘴を使って人を襲うリスクもあるため、立ち入り禁止区域を設置することで黒鳥と人々の住み分けを実施しました。

「ジルダ・ミヤ」の周囲5メートルが立ち入り禁止区域に設定されており、適切な距離を保ちながら共存できる環境を実現しています。

また、「ジルダ・ミヤ」の周辺で野生動物の見学をしている人々に対しても、黒鳥に近づかないように注意喚起を行っています。

⑤犬の管理

「ジルダ・ミヤ」の対岸の遊歩道では、犬の散歩をしている人が多く見られます。

人通りが少ない早朝や田舎エリアでは犬をリードに繋がず散歩する人もいるオーストラリアですが、実は犬が野生動物を襲ってしまう事故も頻繁に発生しているのが実情です。

そのため、「ジルダ・ミヤ」の周辺では犬の管理におけるルールを設けています。

散歩中は犬をリードに繋ぐことが義務付けられており、犬の湖への立ち入りも全面禁止です。

尚、「ジルダ・ミヤ」の近隣では、常に野生動物保護レンジャーがパトロールを実施しています。

犬の管理に関する問題が見つかった場合、飼い主は州の法律に則って責任を負うという厳しいルールが設定されています。

⑥野生動物写真撮影ガイドライン

独特の生態系を持つ西オーストラリアでは、至る場所でさまざまな野生動物が見られます。

「ジルダ・ミヤ」の周辺でも多くの固有種が生息していますが、写真撮影を目的に野生動物に近づきすぎる人々も頻繁に目撃されてきました。

そこで、生物多様性保全観光局による野生動物写真撮影ガイドラインが設定されました。

周辺地域で黒鳥を含む野生動物の写真撮影を行う場合、以下のようなルールに従うように推奨されています。

・撮影に関わる最大人数の制限

・撮影者による生息地や植生の除去の禁止

・動物の逃げ道を塞がない位置での撮影を意識する

・動物の追跡の禁止

あくまで野生動物と適切な距離を維持しながら撮影することを推奨しており、野生動物との接触はもちろん、生息地の移動なども禁止されています。

また、ウェディングフォトや雑誌の写真撮影などでプロのフォトグラファーが撮影を行う場合は、主任動物取扱者が撮影の案内・指導・決定権を持つというルールが定められています。

プロジェクトの効果

さまざまな取り組みを経て遂行されたブラックスワン生息プロジェクトですが、結果は大成功に終わりました。

黒鳥は縄張り意識が強く、本来は新たな生息地の開拓などは好まない傾向にあります。

しかし、「ジルダ・ミヤ」では2023年時点で2つのグループで黒鳥の雛が誕生しており、今後もモニタリングと改善に力を入れる予定です。

黒鳥以外に得られた保全効果もある!

ブラックスワン生息プロジェクトでは、黒鳥の個体数増加以外にも、環境保全に関する以下のような効果が得られました。

・クロハクチョウやペリカンなどの水鳥が水辺にアクセスできるため、陸上の食料源、淡水湖、塩水川との繋がりが改善された

・島と岸の間の浅瀬において絶滅危惧種であるオオアジサシをはじめとする多彩な動植物が生息している

・強風で水面が乱れる日に大型の鳥が島を利用できる

・海草が川底に生育することで鳥や水生生物の食料源となる

・植生と丸太によって在来動植物である水鳥の寝床や止まり木を提供できる

・貝礁が形成されたことで水質改善と海洋生物の食料源確保に繋がった

周辺で生息する野生動物、植物、水質など、多方面においてさまざまな利点を生むプロジェクトとなりました。

まとめ

州のシンボルである黒鳥を守るために立ち上がったブラックスワン生息プロジェクトは、人工島の形成だけでなく、事前リサーチや規制なども徹底して行われました。

人々と野生動物が共存できる環境を整えることにより、黒鳥だけでなく周辺の自然環境の改善にも繋がっています。

今回の黒鳥を例に、私たちも都市化と自然との共存について考えてみてはいかがでしょう?