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【浮気とは違う】ポリアモリーとは?意味や当事者の悩みなどを解説

「愛のかたちは一つではない」というのはよく聞く言葉です。しかし、実際に愛する人が同時に二人、あるいはそれ以上できてしまったら、あなたやあなたのパートナーは、その感情と正面から向き合うことができるでしょうか。そうした悩みを抱えながら生きているのが、ポリアモリーと呼ばれる人たちです。一般にはなかなか認識されにくいポリアモリーについて、その実情や当事者が直面する問題について見ていきたいと思います。

ポリアモリーとは

ポリアモリーという言葉は、ギリシア語の「複数(poly)」とラテン語の「愛(amor)」を組み合わせた造語で、1990年代にアメリカで提唱された「複数愛」という概念です。

一言でいうと、同時に二人、あるいはそれ以上の人に対する性愛感情を抱いてしまうことであり、より詳細に定義すると

親密な関係にあるすべての人と合意を得た上で交際状況をオープンにし、同時に二人以上の複数のパートナーと、感情的に親密な性愛関係を持続的に築くことを実践するもの

となります。

ただし、同時に複数を愛する人すべてがそうした交際を実践できているわけではありません。

また、ポリアモリーという言葉自体まだ広く知られていないこともあり、

・自分自身がポリアモリーである

・またはその傾向がある(ポリアモラスである)

という自覚がない人も数多くいます。

ポリアモリーのかたち

ポリアモリーは、相手とどのような関係を築くのが好ましいかという関係指向と、その人が実際に選んだ形態や置かれている状態を指す関係様式という、二つの概念によって多種多様な交際スタイルがあります。その主な例は以下のとおりです。

  • オープンマリッジ:夫婦間以外の性愛関係に両者が合意している結婚
  • オープンリレーションシップ:カップルが性愛関係を互いに限定しないと両者が合意している関係
  • グループマリッジ:3人以上が結婚と似た形式で暮らすこと
  • ポリフィデリティ:3人以上のグループ内に性愛関係を限定すると約束したもの
  • トライアッド:3人全員が互いに性愛関係にあるもの
  • ヴィー:1人に2人のパートナーがいて、それぞれのパートナー同士は性愛関係がないもの
  • クワッド:4人からなる性愛関係で全員がパートナー関係にある場合もない場合もある

ポリアモリーの大切な6つの倫理

こうした関係を良好な状態に保ち、心的・社会的な問題に対処するために、ポリアモリーには通常の単数愛(モノアモリー)とは異なる独自の倫理が求められています。ポリアモリーの知識を体系化した、デボラ・アナポール『ポリアモリー 恋愛革命』という書籍では、以下のような6つの倫理が示されています。

  1. 意思決定は合意の上で:それぞれが自由に意見を出し、付き合いの条件を決める
  2. 正直であれ:嘘やごまかし、隠しごとをせず、自分にもパートナーにも正直でいる
  3. 相手を思いやる:みんなが揃って幸せでいられるよう常に配慮する
  4. 本気で関わる:現在の関係を深め、より良くしていこうという強い意志を持つ
  5. 誠実であれ:約束を守り信頼を高め、守る気がない約束はしない
  6. 個性を尊重する:パートナー同士の一体感と同時に、一個人としての各自の欲求を尊重する

こうした倫理に基づいた複数愛を実践するために、多くのポリアモリーは知性理性コミュニケーションが何より重要なことであると考えています。

ポリアモリーの4つの特徴

では、ポリアモリーである人、またはポリアモリーという関係性にはどのような特徴があるのでしょうか。

長年ポリアモリーについての調査研究を行っている深海菊絵さんは、自身の著書でポリアモリーを特徴づける要素として、以下の4つを挙げています。

合意に基づくオープンな関係

ポリアモリーは、他の人も愛している状況をパートナーに隠さずにオープンにし、相手にも同じであることを望みます。これは「ありのままの自分」を伝えることで、大切な相手との関係を大事にしたいという姿勢です。

身体的感情的に深く関わり合う持続的な関係

ポリアモリーは「複数と性的な関係を持ちたいための言い訳」という誤解を受けがちです。しかし、ポリアモリー実践者はあくまでも特定複数の相手との感情的・精神的な結びつきを、長期にわたって持続的に持つことを目指しています。また、ポリアモリーの中には、必ずしも性的な関係を目的にしていない人も存在しています。

所有しない愛

ポリアモリーは一人の相手だけを独占的に所有し束縛する、排他的な愛とは真逆の考え方です。ポリアモリーは「愛は無限」という思想のもと、愛は人数によって分けられたり、目減りしたりするものではないと考えます。だからこそパートナーになることは相手を所有することではなく、互いを縛るものでもないのです。

結婚制度にとらわれない自らの意思と選択による愛

ポリアモリーはあくまでも当事者同士の関係性の問題であり、結婚など社会制度にとらわれるものではありません。誰がどのような相手と、何人を愛するかは当人の意思と選択に委ねられ、婚姻という形をとるか否かも当事者同士が選ぶべき問題とされます。

バイセクシュアルが多い

同様に深海さんは、ポリアモリー、またはポリアモラスな傾向がある人の特徴として、バイセクシュアル(両性愛者)が多いという調査結果を紹介しています。性的指向が異性に限らず、どちらも愛することがあるという点でも、これは納得できるものと言えるでしょう。

ポリアモリー当事者が抱える生きにくさ

ポリアモリーの当事者たちは、現在多くの困難や生きづらさを抱えながら生活しています。

その背景には世間一般の認知度がLGBTQ+やセクシュアル・マイノリティなどよりもはるかに低いこと、社会を取り巻くさまざまな制度や習慣が、ポリアモリーの存在を認めないものになっていることなどがあげられます。

複数愛に対する社会的・道徳的偏見からの不安

ポリアモリーの最大の困難は「複数の人を愛する」ということへの社会からの根強い偏見です。

こうした偏見の背景については後述しますが、日本に限らず世界の多くの国では、パートナーは同時に一人でなければならないという「モノガミー(単数婚)」「モノアモリー(単数愛)」を当然としています。

こうした社会に生きていると、ポリアモリーやポリアモラスな傾向のある人たちは

  • 自分は道徳的に間違っているのではないか
  • パートナーを裏切っているのではないか
  • ポリアモリーという考えを理解してもらえず非難されるのではないか
  • ポリアモリーであることを表明すると相手を傷つけてしまうのではないか

といった不安や怖れに常に苛まれ、生きづらさを感じながら暮らしているのです。

単数愛を前提とした社会制度での困難さ

もう一つの困難は、制度面での不便や不利益を被ることです。

現在の婚姻制度は言うまでもなく単数婚が原則であり、多くの社会制度もまたモノガミーを前提とした制度設計になっています。

そのため複数パートナーとの関係を求めるポリアモリーは

  • 出産や医療サービスを受けるとき
  • 給付など福祉サービスを受けるとき
  • 学校など子どもの教育に際しての情報開示

などの場面で家族やパートナーとしての法的な扱いを受けられず、困難な状況に置かれている人も少なくありません。

複数の相手との生活を成り立たせる難しさ

ポリアモリーを実践している人が抱える困難として、複数の相手との関係を続けるために、時間場所など生活のリソースをやりくりする難しさを訴える人も少なくありません。例をあげると

  • デートの時間や性生活の頻度など、平等に過ごすためのスケジュール調整
  • 同居していないパートナー、特に遠距離に住む相手との交際
  • 当事者の家族(親・親戚)や子どもたち、友人などにどう説明するか

などは避けることのできない問題です。これらの問題を克服し、仕事や自分自身の生活を円滑に保つために、ポリアモリーの人たちは多大な負担を強いられることがあります。

ポリアモリーに関してよくある疑問

こうした背景を説明しても、単数愛の規範や価値観で生きている人々にはまだ受け入れられない疑念や疑問が少なくないでしょう。そうした疑問のへの答えをいくつかあげていきます。

嫉妬しない?

複数人が絡む恋愛で避けて通れないのは「嫉妬」の感情です。ポリアモリーにとっても例外ではなく、ポリアモリー実践者の80%が、嫉妬を経験したことがあると答えています。

ただしポリアモリーが感じる嫉妬は、モノアモリーのそれとは内容においてかなり異なります。

まず違うのが、ポリアモリーが嫉妬を感じる原因です。そこでは「不安」「ライバル意識」「疎外感」が多く、「独占欲」は非常に少数であるというものでした。

そしてポリアモリーは、嫉妬という感情を肯定も否定もしないという人が多く、「意識的に嫉妬と向き合うことで、自分のため、相手たちとの関係のために活用する」と考える人が多いようです。

コンパージョンという感覚

そして、ポリアモリーの多くの人が感じる特有の感覚が「コンパージョン」です。

これは「自分のパートナーが他の人も愛していると知った時に感じる幸福感」であり、背景には愛は所有する物ではなく、分け合うものという考え方があります。

これは筆者を含むモノアモリー的な感覚では理解しがたい考え方ですが、ポリアモリーの中には、理性的に向き合うことで嫉妬もコンパージョンへ転換しうると考える人も少なくありません。

浮気と何が違う?

ポリアモリーに対してよく言われるのが「単なる浮気と何が違うのか」という疑問や批判です。

これは、前述の6つの倫理や4つの特徴をもう一度確かめてみればわかりますが、ポリアモリーが浮気と大きく違うのは

  • 関係をオープンにする
  • 互いに合意と理解を得る
  • 全員の関係を深め、全員が幸せでいられるよう本気で努力する

という、当事者全員の理性と積極的なコミュニケーションが不可欠である、という点です。

したがって相手の同意なく、隠れて他の人と関係を持つ浮気は、ポリアモリーではありません。

気持ち悪い・頭がおかしいと言われるのはなぜ?

ポリアモリーというあり方に対し「気持ち悪い」「頭がおかしい」など否定的な反応を示す人は少なくありません。こうした無理解は、前述のポリアモリーの生きづらさの原因でもあります。

そうした反応の背景には、私たちの社会では、一人だけを愛することが「誠実」で「真面目な」「正しい」ことだという、習慣や道徳レベルで深く浸透しているモノアモリー的な社会規範があります。そうした規範を内面化する人たちは

  • 一人だけを愛するのではなく同時に複数を愛するのは不誠実であり異常な感覚
  • 一夫一婦制が正しいあり方であり、複数婚は社会秩序を乱す
  • ふしだら性に奔放で乱れている(←性的な問題のみに矮小化して解釈している)

と考え、道徳や倫理の面からポリアモリーという概念を受け入れることができません。

特に宗教的な規範が厳しい国や、日本のように画一的な価値観に染まりやすい社会では、婚外恋愛や婚外性交を「不倫」と呼ぶように、複数愛への道徳的・社会的反発は強くなります。

そうした「愛は一つでなければならない」「複数愛は抑制し無くすべきもの」という価値観が、ポリアモリーへの強い忌避感情を引き起こす大きな要因となっています。

ポリアモリーかどうかを判断する方法はある?

ポリアモリーはセクシュアル・マイノリティ同様、その人の心のあり方や相手との関係性の問題であり、病気ではありません。なので、病気の症例のような具体的な判断方法はありません。

自分にポリアモリーの要素があるかどうかに関しては、前述の深海菊絵さんの著書によると

  • 交際相手がいるのに他の人を好きになったことがある
  • 夫・妻がいるのにデートしたいと思う相手が現れたことがある
  • 既にパートナーがいる人を好きになったことがある

のどれかに当てはまれば、その人がポリアモラスである可能性を示唆しています。それに加えて

  • 実は浮気をしたことがある
  • 実は二股をかけたことがある
  • 実は不倫をしたことがある

のいずれかに該当する人は「平等で誠実」かどうかはともかく、ポリアモラスな経験があると言えるでしょう。逆に上の6つのどれにも当てはまらず、「あってはならない」「許されない」という感覚を持つ人はモノアモリー的な規範が強いと言えます。

ポリアモリーに関する制度はある?

現在世界の多くの国は一夫一妻制であり、ポリガミー(複数婚)は認められていません(※)。

しかし、ポリアモリーという考え方が広まるにつれ以下のような国・自治体では、婚姻に準じたパートナーシップ制度が制定されるようになっています。

  • オランダ:2005年にシビル・ユニオン(法的に承認されたパートナーシップ)で3人のユニオンを認可(ただし重婚は禁止)
  • ブラジル・サンパウロ州:2012年に3人婚が公認される
  • アメリカ・マサチューセッツ州:サマービル市とケンブリッジ市でポリアモリーを含むドメスティック・パートナーシップ制度が制定

一方日本では、法律上の重婚が禁止され、ポリアモリーを前提としたパートナーシップ制度も存在しません。そもそもポリアモリーに対する認知度が低く、同性婚や選択的夫婦別姓すら実現していない現状では、既存の婚姻制度にすら疑問や諦めを抱くポリアモリーも少なくないようです。

(※)イスラム教系の諸国での一夫多妻制は伝統的な家父長制に基づくものであり、当人同士の意志に基づく自由な関係構築ではないため、ポリアモリーとは異なる

ポリアモリーとSDGs

SDGs(持続可能な開発目標)では、ポリアモリーに直接関連する目標はありません。

ただしポリアモリーは、男性と女性が対等な立場で話し合いながら関係を築き、複数のパートナーを持つことを主眼としています。

そこでは従来の一夫多妻制のように、男性だけが複数の配偶者を持つ制度としての複数婚を否定し、すべての性の平等で自由な意思と選択を最重視しています。

これは目標5「ジェンダー平等を実現しようの達成にも関わってくると考えられます。

まとめ

人の愛し方、他者との関係性のあり方は、私たちの人生において不可欠な問題です。ポリアモリーとして「複数の人を真剣に愛する」ことは、自分とも相手とも深く本気で向き合い、愛することの意味や自分自身の生き方を問う、真摯でストイックな態度と言えます。

日本でポリアモリーについての認知はまだ少なく、モノアモリー規範の強い社会で生きる私たちにとって、ポリアモリーを理解し受け入れるにはかなりの時間と努力が必要です。

一方でポリアモリーは、感じ方や心のあり方を一つに縛る社会規範が、必ずしも人を幸せにするとは限らない、ということを気づかせてくれます。私たちが豊かで自由な人生を送るためには、ポリアモリーという生き方を知ることも大事なことなのではないでしょうか。

参考文献・資料
ポリアモリー 複数の愛を生きる:深海菊絵 著,平凡社,2015年
もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル:荻上チキ 著,新潮社,2023年
複数パートナーとの合意ある恋愛「ポリアモリー」とは? [深海菊絵] |Worksight
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