#SDGsに取り組む

【アート×SDGs】オーストラリアの美術館・QAGOMAが目指すサスティナブルな未来

オーストラリアのブリスベンで運営されているQAGOMAは、アートの展示だけでなく環境問題への解決や啓発にも力を入れている美術館です。

バックヤード、展示室、レストラン、イベント、ショップといったさまざまなエリアで環境負荷低減のための取り組みを行っており、アートを通してサスティナブルな未来をつくることを目標としています。

この記事では、そんなQAGOMAが実践するエコ活動について解説します。

QAGOMAの基本情報

クイーンズランド州の州都・ブリスベンに位置するQAGOMAは、クイーンズランド美術館(Queensland Art Gallery – QAG)と現代美術館(Gallery of Modern Art – GOMA)の総称です。

QAGOMAは1895年にクイーンズランド国立美術館として仮設建設され、1982年に現在の建物に移動しました。

その後、2006年に第2美術館として150mほど離れた場所に現代美術館のGOMAがオープンし、オーストラリアおよび世界中の2万点を超える芸術作品を保有・展示しています。

QAGOMAが掲げる環境目標

QAGOMA では、2024~2025年末までにオーストラリア政府環境エネルギー省を通じて気候活性炭ニュートラル認証(Climate Active carbon neutral certification)の準備を完了することを目標にしています。

気候活性炭ニュートラル認証とは、環境対策に関する一定の条件を満たした企業、サービス、イベント、商品、建物などに与えられるエコ認証のことです。

QAGOMAでは完了の実現に向けて、以下のような環境目標を満たす予定にしています。

  • ギャラリー運営による環境負荷の削減
  • エネルギーと温室効果ガスの排出量管理
  • プラスチックの購入削減
  • 材料の再利用
  • 廃棄物のリサイクル促進

ここでは、それぞれの目標を達成するためにQAGOMAが行うエコ活動を見ていきましょう。

エネルギー管理

温室効果ガスの排出量を削減すべく、QAGOMAではエネルギー管理を徹底しています。

施設内のエネルギー消費に関する調査及びアップグレードを定期的に行っており、主な取り組みには以下が挙げられます。

①温度と湿度に関する調査

QAGOMAが位置するブリスベンは、年間を通して温かい亜熱帯地域です。

美術作品の保存には温度18~22度、湿度50~70%が理想とされているものの、亜熱帯気候は高い温度と湿度をもたらすため、美術作品を適切に保存するためには冷房設備が必要不可欠です。

そこでQAGOMAの文化遺産保存チームは、2019年にロサンゼルスのゲッティ保存研究所に2ヶ月滞在して作品保存における温度と湿度の研修に参加しました。

また、アメリカのスミソニアン博物館や香港及びシンガポールの文化遺産保護センターなども訪問し、多様な気候における作品管理について調査を行いました。

その結果として、QAGOMAが作品を保存する上で適切かつ環境負荷低減のバランスが取れた温度と湿度で館内の空調を維持できています。

②LEDへの切り替え

QAGOMAでは、エネルギー効率の高いLED照明への切り替えによる環境負荷低減を目指しています。

館内ロビー、展示室、バックヤード、オフィスといったさまざまなエリアの照明がLEDに変更されていますが、中でも特に有名なのがアートギャラリーに設置されている巨大なシャンデリアです。

展示品のひとつとして2006年から館内に設置されているシャンデリアは、2020年に工事を経て100%LEDに切り替わりました。

QAGOMAを代表する展示物となっていることから、訪れた人々がサスティナブルなエネルギーについて改めて考える機会を提供しています。

廃棄物処理に関する管理戦略

年間を通してさまざまな展覧会を開催するQAGOMAでは、展示会の設置中に以下のような廃棄物が発生します。

  • 手袋
  • プリンターカートリッジ
  • 軟質プラスチック
  • 電子廃棄物
  • 紙やボール紙
  • ペンやマーカー
  • 電球
  • 解体廃棄物

QAGOMAでは廃棄物処理の管理も行っており、廃棄物のほとんどは寄付、再利用、リサイクルのいずれかに回されます。

また、リサイクルが難しい素材については現代美術館のGOMAでアートとして生まれ変わることも多く、施設内で発生する廃棄物の有効活用に努めています。

エコな製品を取りそろえたミュージアムショップ

QAGOMAでは、クイーンズランド美術館と現代美術館の館内に複数のミュージアムショップを完備しています。

「SHOP SUSTAINABLE」をテーマに掲げており、至るところに環境に優しい製品が取り揃えられているショップです。

例として、100%リサイクル素材のビーチタオル、認定オーガニックコットン及びリネンを使った布巾、大豆を原料にした環境負荷の低いキャンドル、再利用可能なメイク落としパッドなどが挙げられ、年々販売されるエコな製品の割合は増加しています。

環境イベントの開催

QAGOMAは環境保全の一環として、Into the Greenの主催を務めています。

Into the Greenは科学と自然が調和した世界をテーマにしており、年によって食料、環境再生型農業、エネルギー、樹木と昆虫といった異なる環境分野を題材にする環境イベントです。

イベントではさまざまなモチーフを使ったドキュメンタリーを流し、市民が世界の環境問題についてより身近に考えられるよう工夫が凝らされています。

また、定期的にワークショップを開催することで、より実践的な環境問題への解決についても提唱しています。

レストランでのエコ活動

QAGOMAには、複数のカフェやレストランなどの飲食施設が設置されています。

飲食施設では地元産の食材を多く使っており、食材の輸送時に発生する温室効果ガスの排出削減に努めています。

また、旬の食材を中心としたメニューづくりを心掛けることで、季節外れな食材の生産に起こりがちなビニールハウスの使用による温室効果ガスの排出を回避しているのも特徴です。

QAGOMAでは廃棄物削減にも力を入れており、元々は使い捨てプラスチックのカトラリーなどを使用していたものの、現在では全ての飲食施設において堆肥可能な素材のものを採用しています。

環境に関する作品の展示

美術館=アートを鑑賞するだけの場所とイメージしがちですが、教育目的の場としての役割も担っています。

観光スポットとして人気のQAGOMAも来場者が環境問題について学習できるように工夫しており、以下のような環境関連の作品を展示することでサスティナブルな未来について考えるきっかけづくりを行っています。

①RE FORMATION

2019年にミーガン・コープ氏が制作した「RE FORMATION」は、カキの殻を使った貝塚をモチーフにした作品です。

クイーンズランド州のノース・ストラドブローク島では、1949年以降にはじまった銅採掘の副産物である銅スラグによってカキ場とサンゴ礁が汚染及び破壊されてきました。

ノース・ストラドブローク島は内海と外海の両方に挟まれた特殊な地形をしており、さまざまな海洋生物や貝類などが生息するエリアとして知られています。

しかし、現在ではオーストラリアの貝礁の推定96%が消失するなど、銅採掘によるエコシステムの崩壊は非常に深刻です。

「RE FORMATION」は大量に積まれたカキの殻の下から灰色に汚れた銅スラグが染み出ている様子を表しており、銅採掘による環境破壊を人々に伝えています。

②Romuald Hazoumè’s masks 

アフリカ大陸ベナン共和国のアーティストであるロムアルド・ハズメ氏(Romuald Hazoumè)は、廃棄物を使ったマスクシリーズを1980年代から制作してきました。

西洋とアフリカの間で起きていた不平等な歴史や交流をテーマにしている作品で、工業化が進んでいる国がお金と引き換えにアフリカ諸国への廃棄物の投棄を許可するよう提案してきたことなども作品に影響を与えています。

政治的な問題を浮き彫りにしているのはもちろん、家電製品、布地、プラスチックなどをリサイクルすることで制作しているため、環境問題にも焦点を当てている作品として知られています。

まとめ

QAGOMAはアートの美しさや素晴らしさだけでなく、環境問題について考えることの大切さも人々に伝えている美術館です。

次に美術鑑賞をする際は、エコな取り組みやアート作品を取り扱う美術館を探してみてはいかがでしょう?