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地域振興とは?コロナ禍の影響は?目的や取り組み事例も

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2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、最近は行動制限も少しずつ緩和されています。これに伴い、人口移動が「東京都集中」へ戻りつつあるようです。地方移住やリモートワークなどによって、少しずつ人口が増えていた地方都市ですが、このままではコロナ禍以前の状態に戻る可能性もあります。

そういった地方都市が抱える問題を解決するためにも、各自治体は「地域振興」を進めなければいけません。本記事では、地域振興のメリットやデメリット、取り組み事例、SDGsとの関係性をまとめました。まずは、地域振興について知りましょう!

地域振興とは

地域振興とは、それぞれの地域がもつ特性を生かし、人々の「住居」「職場」「学習」「娯楽」などの環境を整え、地域の魅力を引き出したり創り出したりする計画のことを言います。地域振興は、主に自治体が中心となり取り組みますが、それぞれの地域で必要な分野の専門家や企業が計画に加わり、協力して進めていくことも大切です。

例えば、丹波市は、近郊都市部からのアクセスも良好で、自然環境や食に恵まれた地域ですが、魅力を伝える情報発信力の弱さがこれまでの課題でした。そこで、凸版印刷株式会社の力を借りて、食や文化、自然環境などの魅力を市外に発信するために、市民参画型のシティプロモーションを実施しました!

SNSとフリーペーパーを使ったPRや、特設WEBサイトの設置、ワークショップの開催などを行ったことによって、SNSでの拡散やメディアでの報道につながったと言います。

目的

地域振興の目的は、

  • 暮らしている人々が誇りをもてる、個性豊かで魅力的な地域づくりを進めること
  • 地域の資源を有効的に活用し、持続可能な発展をすること
  • 過疎化や都市部と地方の経済格差の改善
  • 都市部へ行かなくても、個人のやりたいことや能力を生かした職に就ける(お金を稼げる)地域にすること

などが挙げられます。

地域振興の基本的方向

地域振興を進めるにあたって、

  • 国は国土形成計画
  • 県は総合計画
  • 市町村は振興計画

といった、基本的な方向性を示す計画が定められています。それぞれ見ていきましょう。

【国】国土形成計画

国土形成計画とは、

  • 地域整備
  • 産業
  • 文化
  • 観光
  • 社会資本
  • 防災
  • 国土資源
  • 自然環境

などを含めた、10年間ほどかけて行う「国土づくりの指針」です。

国土政策を行ううえで発生する課題への対応策や、国民が安心して暮らせる国土の将来像(ビジョン)などを示したものになります。

また、この計画は、下記の2つの仕組みをもとに国と地方の協働によって進められます。

全国計画国土の形成に関する基本的な方針や目標、全国的な見地から必要とされる施策を定めたもの。
広域地方計画47都道府県を8ブロック(広域地方計画区域)に分け、国土の形成に関する目標や方針、広域の見地から必要とされる政策を示している。

【県】総合計画

総合計画は、市の将来像やまちづくりの基本的な方向性を示したものです。市民や行政に対する、まちづくりの共通の指針でもあり、県によって多少異なりますが、主に「基本構想」「基本計画」「実施計画」などから構成されています。

基本構想それぞれの市が定めた将来像や目標、基本的施策を明らかにしたもの。
基本計画基本構想で示した将来像を実現するための施策をまとめ、その方策(方法)を明記している。
実施計画基本計画で決定した方策を実現するために、具体的な事業を示している。

【市町村】振興計画

振興計画は、各地方自治体のあるべき将来都市像を示したものです。県の総合計画と同様に、「基本構想」「基本計画」「実施計画」から構成されており、まちづくりに対する将来目標や施策の基本方針が記されています。市は振興計画を基盤に、さまざまな計画を進めていくのです。

基本構想それぞれの市が定めた将来像や目標、基本的施策を明らかにしたもの。計画期間を10年にしている自治体が多い。
基本計画基本構想で示した将来像を実現するための施策をまとめ、その方策(方法)を明記している。計画期間は、基本構想を前期・後期に分け、それぞれ5年と設定している自治体が多い。
実施計画基本計画で決定した方策を実現するために、具体的な事業を示している。(現在の財政環境を踏まえて、どの事業をどのように進めていくかなど)。多くの自治体が計画期間を3年に設定しているが、現状と計画のずれを調整するために、施策や事業の見直し・部分的な修正を毎年度定期的に行っている。

【補足】地域振興とまちづくりの違い

地域復興とまちづくりの大きな違いは、「自治体が主体となって行うのか、住民主体で行うのか」です。

「まちづくり」という言葉は1952年に誕生し、戦後復興による狭小住宅の増加や住環境の劣悪化、急激な高度経済成長による公害などを解決するために、「自治体任せにせず、暮らす人々が主体となって動き、改善しましょう」と住民に働きかける意味で使われたことが始まりです。

その一方で地域振興は、先述した通り、自治体の「地域振興課」が先頭に立ち、取り組みを進めていきます。

地域振興課が旗振り役に

地域振興を円滑に進めるためには、「地域振興課」の存在が重要になってきます。続いては、地域振興課がどのようなことを行っているのか見ていきましょう。

仕事内容

自治体によって多少異なるものの、地域振興課の仕事内容は多岐にわたります。

主に、

  • 地域振興施策の企画・推進・総合調整(※)
  • 離島・山村・過疎地域の調査や振興
  • 文化の振興
  • 地域づくり団体の活動支援
  • イベントの開催や運営
  • 地域づくり
  • 移住・定住の推進
  • 地域のコミュニティ支援
  • 公民館や地域集会所などの整備や施設維持
  • 交付金や助成金などの申請受け付け
  • 空き家の適正管理
  • 広報広聴業務
  • 市町村や公共団体の行財政に関する業務
  • 災害対策

などが挙げられます。

地域住民の生活に関する業務を行いつつ、地域の活性化や魅力の向上、地域内外へのPR活動なども進めています。

総合調整

各行政機関の諸活動に、統一性や一体性をもたせること。目的・手続き・手段・経費・タイミングなどの観点から、必要な活動を行う。

地域振興の取り組み事例

基本的な内容を把握したところで、続いては地域振興の取り組み事例を見ていきましょう。

【観光】尾道の空き家再生事業

江戸時代は港町として栄えた尾道ですが、空洞化や高齢化によって500件以上の空き家が点在し、その面影も薄れつつありました。空き家の中には、建築的価値が高いものや景観が優れたものも含まれていました。そこでNPO法人尾道空き家再生プロジェクトは、「尾道市空き家バンク」を開始。

「建築」「環境」「コミュニティ」「観光」「アート」の5つの柱を立て、各柱に応じた専門のメンバーが中心となり、地域の人々や行政、その他の団体と助け合いながら活動しています。活動内容も、移住希望者への空き家紹介だけではなく、

  • 空き家問題に関係のあるゲストを招く「尾道空き家講義
  • 空き家の修繕費用を捻出するための「空き家再生チャリティイベント

などを開催しています。

その結果、約100件の空き家を再生し、150人以上の移住者を生み出しました

【大学】慶応義塾大学が山形県鶴岡市に研究所を設置

慶応義塾大学は、生命科学と情報科学を融合した先端生命科学研究所(以下 先端研)を山形県鶴岡市に設置しました

先端研では新たな研究成果が続々と誕生し、国際的な科学雑誌に論文が多数掲載されたり、賞を受賞したりと、世界的に注目される研究所となっています。さらに、理化学研究所や国立がん研究センター、多くの民間企業などが先端研と提携し、研修生の派遣や鶴岡市が用意した研究スペースを借りて研究拠点にしています。

その結果、鶴岡市は世界的に注目されるバイオクラスター(※)となり、先端研や企業からなる地域は「サイエンスパーク」と呼ばれ、経済波及効果は、これまで平均約30億円(2015〜2017年頃)であったものが、10年後には2.1倍の65億円になると推測されています。

バイオクラスター

バイオテクノロジー関連の企業や機関などが集中している地域。

【企業】凸版印刷株式会社による埼玉県川島町の特産品ブランド力の向上事業

少子高齢化や都市部への人口流出により、人口減少が進んでいた埼玉県川島町。これ以上の人口減少に歯止めをかけるために、川島町の政策推進課と凸版印刷株式会社が手を組み、特産品の磨き上げや都心及び埼玉県内でのPR活動を開始しました。

地域資源を生かした「KJブランド」のブランド力向上を目指し、

  • パッケージデザインの改良
  • 町の事業者を対象とした、販売経路を拡大するための知識や特産品を磨き上げるための方法などを教えるセミナーの開講
  • WEBコンテンツの制作
  • マルシェや物産展などのPRイベントの開催

などを行いました。

【芸術】石川県小松市の「町人文化のまち再生構想」

240年の伝統を誇る「曳山子供歌舞伎(ひきやまこどもかぶき)」で知られる石川県小松市は、「町人文化が残る町」です。しかし近年は、急速な都市化によって伝統文化の継承が困難になったり、人材不足や伝統的な町並みの喪失が進行したりするなど、多くの問題を抱えています。

そこで小松市は、政府の「地域再生推進のためのプログラム」を活用し、「町並み景観の保全」「歌舞伎文化の継承」「新たな産業と文化の発信」「観光の再生」をテーマに掲げ、「町人文化のまち再生」を目指すことにしました。

特に歌舞伎文化の継承では、指導者の育成は勿論、学校の授業計画に地域の伝統文化を加え、歌舞伎の演目『勧進帳』の上演や、市立高校で邦楽部を結成しています。その他にも、周辺地域にも伝統文化を理解してもらうために歌舞伎の講座を開講し普及に努めています。

地域振興のメリット

これらの事例を踏まえて、地域振興を進めることによって得られるメリットを見ていきましょう。

人口増加によって新たな雇用が生まれる

地域振興によって、企業や大学の研究所などを誘致すると人口増加につながる可能性もあります。取り組み事例で挙げた「慶応義塾大学と山形県鶴岡市」も、鶴岡市内に慶応義塾大学の研究施設を置いたことによって認知度が上がり、有名な研究所から研修生が派遣されたり研究拠点にしたりと、活性化につながりました。さらには、多くのベンチャー企業を輩出し、雇用機会の増加につながっています

雇用機会が増えれば、就職を理由に都市部へ出た若者が戻ってくるかもしれません。地域振興による人口増加は、このような良い流れを生み出すこともあるのです。

文化や芸術の保護にもつながる

少子高齢化や若者が都市部へ流出すると、伝統文化や芸術を受け継ぐ人がいなくなると危惧されています。この問題を、先述した石川県小松市のように政府のプログラムを利用したり、広島県尾道市のようにNPOの力を借りたりすることによって、伝統文化や芸術の消失に歯止めをかけることができます

文化や芸術はその地特有のものであり、観光資源やPR材料など重要な役割を担う存在です。それらを守り次世代へ繋ぐためにも、地域振興は最適な方法だと言えるでしょう。

地域振興のデメリット・課題

とはいえ地域振興には、デメリットや課題も存在します。

数字だけを追いかけてしまう

地域振興を行うと、誘致した企業の数や、それによって生まれた雇用数ばかりに目がいってしまうケースがあります。いくら数値上で目標を達成したとしても、地域住民が不満を持ったり、自然環境が悪化したりするなど、ほかの面で問題が発生してはいけません

計画段階で、「誰のための、何が目的の地域振興なのか」「この地域を、どういう風にしたいのか」などを明確にし、常に配慮しながら進めましょう。そのためには、地域の実態をしっかりと把握することが大切です。

外部の企業やコンサルタントにすべてを任せてしまう

地方では、「情報発信やブランディングの仕方がよくわからない」という自治体も珍しくありません。そのため、マーケティングやブランディングを企業やコンサルタントにお願いすることもあります。しかしなかには、すべてを任せてしまい、やり方や知識を自治体側が学ばないケースも存在するのです。

すると、「契約終了後に、自分たちでどのように進めていけばよいのかわからない」「自分たちなりに実施してみたが、効果が出ない。しかし、それがなぜなのかもわからない」などという状況になる自治体もあると言います。せっかくお金を払ってお願いするのであれば、その期間にノウハウを学ぶことも大切でしょう。

コロナ禍による地域振興の現状

続いては、コロナ禍による地域振興の現状を確認しましょう。

新型コロナウイルスの影響により、国内外への移動が制限され、生活スタイルも大きく変わりました。地域振興は、どのような影響を受けているのでしょうか。

増加する市区町村内での滞在人口、集客と交流の場に変化が起きている

外出自粛や度重なる緊急事態宣言により、人の流れや都道府県をまたぐ移動が減少したことは事実です。しかしその一方で、市区町村内での滞在人口が増加するという面白い結果もでています。

つまり、企業の集客の場や人との交流の場が、国外や都道府県をまたぐ大掛かりなものではなく、自宅や地元、近隣に変化しているのです。このような現状もあり、「マイクロツーリズム」を地域振興のプロジェクトとして取り入れる自治体も増えています。

マイクロツーリズムによる地域振興

マイクロツーリズムとは、自宅から1〜2時間ほどで行ける近場で過ごす旅行スタイルです。コロナ感染のリスクを下げられるだけでなく、近隣地域の魅力を再確認したり、地域経済に貢献したりと多くのメリットがあります。

例えば、埼玉県小鹿野町は、2017年に過疎地域に指定され、産業経済の衰退も進んでいました。そのような現状もあり、新たな地域振興を図るために「地域商社おがの」を2021年に設立。

増加するマイクロツーリズムへの対応や地域経済の発展を進める基盤として、

  • 地域ブランドの魅力発信
  • 観光の流通・プロモーション
  • 町有観光施設の管理運営
  • 空き公共施設を活用した管理運営
  • 観光商品の企画販売
  • 地域産品のマーケティングやブランディング

などを行っています。

地域振興とSDGsの関係

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最後に、地域振興とSDGsの関係を見ていきましょう。

2015年の国連総会にて193カ国が賛同したSDGsは、世界が抱える「環境」「社会」「経済」の課題を解決するために、17の目標と169のターゲットが設定されました。現在、政府や企業、団体など多くの人々が、2030年までに全ての目標達成を目指し取り組みを進めています。

そして、目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成には、地域振興が深く関係していると言われています。

SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」と関係

目標11はキャッチコピーの通り、「住み続けられる(持続可能な)まちづくり」を目指す内容になっています。

例えば、

  • 都市部と地方のつながりの強化
  • 災害リスクの管理
  • 地元の資材を使用した強靭かつ柔軟性の高い建造物の整備
  • 中山間部や過疎化が進む地域の交通問題の改善
  • 参加型のまちづくりを計画・管理する能力の強化
  • 自然及び文化遺産の保護・保全を目的とした取り組みの強化

など、多種多様なターゲットが設定されているのです。

そのなかでもターゲット【11.3】の達成には、地域振興が鍵となるでしょう。

“2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。”

引用元:JAPAN SDGs Action Platform|外務省

また地域振興は、それぞれの地域が抱えている課題を解決し、持続可能なまちづくりを目指すため、課題によっては他の目標の達成にも貢献できます。

まとめ

衰退する地方都市の増加に、歯止めをかけるために始まった地域振興。現在、自治体の地域振興課が先頭に立ち、時に企業やNPOの力を借りながら地域住民と協力して進めています。新型コロナの影響で計画が思うようにいかないこともありますが、「マイクロツーリズム」事業を行うなど、現状を受け入れ、工夫しながら魅力ある地域づくりを行っており、今後も様々な取り組みが進められていくことでしょう。

〈参考文献〉
SDGs(持続可能な開発目標)|蟹江憲史著
地域再生計画|埼玉県小鹿野市
マイクロツーリズムとは|星野リゾート
コロナ後の地域における集客・交流のあり方 ―地域の魅力に深く触れる、解像度の高い観光体験のために― |三菱UFJリサーチ&コンサルティング
地域で学び、地域で支える。大学よる地方創生の取組事例集|文部科学省
活動趣旨|NPO法人尾道空き家再生プロジェクト
第4次久喜市総合振興計画 後期基本計画について|久喜市
歴史的資源を活用した観光まちづくり成功事例集|内閣官房 歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進チーム
総合振興計画|越谷市公式ホームページ
栃木県/国土形成計画(全国計画・広域地方計画)|栃木県
丹波市キャンペーン2019プロモーション業務交流人口・関係人口の増加と地域経済の活性化|凸版印刷株式会社