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香害とは?症状や原因、対策、香害にならない洗剤2選も

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近年、合成洗剤や柔軟剤・パーソナルケア用品といった、さまざまな香り付きの製品が出回る中、その人工的なにおいに悩まされる人が増えています。

公害になぞらえて「香害(こうがい、かおりがい)」と呼ばれるこの現象は、化学物質過敏症との関係も深く、普段の暮らしを脅かすリスクもあるほど深刻です。

今回は香害について、症状や原因のほか、香害の人にやさしい洗剤選びなど、初めての人にも分かりやすく説明します。

香害とは

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香害とは、主に人工的なにおいを嗅ぐことによって心身に不調が現れる現象を指す言葉で、「こうがい」や「かおりがい」と読みます。

特定の香りによって基本的な生活が阻害されることから、「公害」になぞらえて「香害(こうがい、かおりがい)」と呼ばれるようになりました。

化学物質による人工的な香りに反応する人に対して、よく「過敏症状だ」といわれることもありました。しかし、ほんの少し前までは何も感じなかった、という人でも、ある日突然「いつも使用している洗剤で洗った服が臭い」「学校や職場で人工的なにおいを嗅いだ途端、気分が悪くなった」といった症状を訴えることがあります。香害は決して敏感な人だけにでなく、誰にでも起こり得る症状なのです。

こうした症状は、化学過敏症とよく似ているともいわれています。そこで先に、化学過敏症との関係についてチェックしておきましょう。

化学物質過敏症との関係

化学過敏症とは、殺虫剤や農薬・PM2.5など、身のまわりに存在するさまざまな化学物質に触れると吐き気やめまい・心身の不調が現れる症状を指します。

日常に潜むさまざまな化学物質に触れ続けた結果、ある日突然発症する慢性的な後天性疾患のひとつです。

発見された当初は、生理学および精神的な問題とされてきましたが、近年の議論や研究によって、化学物質が神経系に影響を与えている可能性が明らかになっています。

重症の場合、たとえ少量の化学物質に触れただけでも上記のような症状が出てしまうため、日常の生活を送ることすら困難になってしまうのです。

ただし現時点では、科学的なメカニズムや特定の原因物質までは解明しきれておらず、効果的な治療法も発見されていないため、発症者が自ら化学物質の少ない環境に身を移すことが最善とされています。

香害は、現時点で化学物質過敏症の症状の一部、または化学物質過敏症を引き起こす一因といった位置づけとなります。

化学物質調査と香害の関係が分かったところで、香害について詳しく見ていきましょう。

香害の症状は?

香害の症状は人それぞれですが、

  • 香りによる不快感
  • 頭痛やめまい
  • 吐き気
  • 下痢・便秘
  • 目が赤くなる、涙が出る
  • せき・くしゃみ
  • 呼吸困難
  • 手足の冷え・ふるえ
  • 疲労感
  • 気分の落ち込み・うつ
  • 身体のふらつき・耳鳴り など

が特に多く報告されています。

症状が重くなるほど、通勤・通学や買い物が難しくなり、やむなく退職または引越しを選択する人もいるのが現状です。

こうした症状は単なるアレルギー反応とは異なり、アレルギー検査をしても陽性反応が得られないこともあります。そのため周囲から理解を得られにくく、被害者が孤立してしまうことも少なくありません。

香害の原因は?

このように、さまざまな症状を引き起こす香害ですが、そもそもの原因は何でしょうか。

マイクロカプセルに閉じ込められた化学物質が原因か?

香害を引き起こす原因はさまざまで、特定の原因物質が分かっているわけではありません。

そうした状況の中で、近年最も大きな原因とされているのが、マイクロカプセルに閉じ込められた化学物質です。洗濯用洗剤や柔軟剤を筆頭に、食器用洗剤、化粧品類、ボディケア用品など幅広い製品に含まれています。

2020年に「香害をなくす会」が行った9,000件以上もの回答をまとめた調査では、香害の被害を受けている原因の1位は柔軟剤(86%、6,134件)、2位は香り付き合成洗剤(73.3%、5,259件)でした(※複数回答可)。

通常、地球上に存在する自然由来の香りは、それほど長続きしません。例えば花は受粉の役割を果たしてくれる蜂などを引き寄せるために香り成分を放出しますが、同じ成分が大気中にずっと残り続けることはまずありえないのです。

また人間の暮らしの中でも、料理のおいしそうなにおいや、植物の香りを閉じ込めたエッセンシャルオイル(精油)など、自然由来のさまざまな香りも存在しますが、一般的に数時間以上同じ香りが継続することはありません。

しかし、近年問題となっている「香害」に挙げられる製品、とりわけ合成洗剤や柔軟剤は、技術の改良により特定の化学物質を目に見えないマイクロカプセルの中に閉じ込めています。そのため、衣服や皮膚に付着するだけでなく、大気中や土壌・水の中に長時間漂ってしまうのです。

こうした物質を、空気や皮膚からの吸収を通して触れ続けると、アレルギー反応のような症状を起こすことがあります。これが香害の原因です。

とりわけ近年は、合成洗剤や柔軟剤といった商品で「消臭」「香り長持ち」を謳ったものが増え、それに伴って香害に遭う人が多くなってきています。

ほかにも、塗料や接着剤・スプレー類といった、VOCs(揮発性化学物質。かつて化学過敏症の一員とされ問題視されている物質のこと)を含む製品もまた、香害の要因となっています。

またこの数年では、感染症の対策としてアルコール消毒液や除菌効果を謳う製品の増加も一因とされています。

香害の対策は?

このように、香害はさまざまな製品によって引き起こされていることが分かりました。しかし、これだけ多くの製品が出回る中で、果たしてわたしたちができる対策はあるのでしょうか。

現状では効果的な対策は難しい

香害の原因は各製品に含まれる化学物質なので、被害者本人が対策として出来ることは少ないのが現状です。自分だけが該当製品の使用をやめても、家族や友人・周囲の人々が普通にそのアイテムを使い続けている限り、香害が収まることはありません。

そのため、重度の場合はちょっとした外出でも防塵・高性能マスクを着用するなど、重装備をしないと家を出られないといった人もいます。

こうした香害を根本から解決するには、周りが商品の使用をやめることと同時に、消費者であるわたしたちが、企業に販売の規制または中止を求めるほか、自治体・政府に化学物質の使用に関する規制を要望することが、遠いようでいちばんの近道かもしれません。

香害に関してよくある疑問

ここまで香害の基本についてわかったところで、次はよくある質問についてお答えします。

診断方法はある?

香害は現在、病気の扱いではないため、単独で診断してくれる病院はありません。ただし化学物質過敏症に関しては、全国に数か所の病院・クリニックで対応しています。

多くはアレルギー科の受診となり、問診のほか自律神経検査、平衡機能検査、眼球検査などを経て問診・各検査を経て診断されます。

化学物質過敏症と診断されると、障がい者手帖を受け取る資格を得られます。しかし化学物質過敏症は、さまざまな症状を示すことから診断が難しく、心理的な問題やうつ病と誤診されることもしばしばあります。そのため、信頼できる病院を探し、適切な受診を受けられるようにチェックしておきましょう。

科学的根拠はある?

香害を発生させる明確な原因となる物質は、一概に特定できていないものの、近年は複数種の化学物質が神経などに影響をおよぼし、心身の不調を招いている可能性があると指摘されています。

洗剤や柔軟剤・香水などに用いられる人工香料は、およそ4,000種類あるといわれ、その「香り」の多くは、50~300種類が組み合わさって出来ています。

2018年、アメリカの団体・乳がん予防パートナーズ(BCPP)が行った調査では、対象となった140のパーソナルケア用品・洗剤類製品で検出された有害物質のうち、1/3が人工香料に由来するものでした。それらの中には、慢性疾患や癌を発症する危険性が指摘されています。

香料に使用される化学物質として、例えばフタル酸エステル類が挙げられます。これはプラスチックを柔らかくする際に使用されている物質で、日本、アメリカ、EUでは食品衛生品・玩具への使用が禁止されています。この類の物質は、洗剤類などにおいては香料を溶解・長持ちさせるために使われることがあり、生殖器への影響や発がん性・甲状腺ホルモンへの影響などが懸念されています。

もし製品にこのような化学物質が入っていても、メーカーによる成分開示が義務ではないため、わたしたち消費者はどの製品にどの成分が入っているかを把握するのが難しい状況に置かれています。

また疫学調査でも、さまざまな結果が出ています。たとえば、2019年に発表されたメルボルン大学の調査「香害に悩まされる人の割合」では、イギリス・アメリカ・スウェーデン・オーストラリアで調査に協力した4,435人の成人のうち、32.2%が化学物質のにおいに悩まされていると回答しています。

日本でも同様の調査が行われており、2013年は化学物質過敏症の割合が人口のおよそ7.5%を占めると推定されています。なお、日本の人口の数にすると、7.5%はおよそ110万人となりますが、これはリウマチの患者とほぼ同数といわれています。

※明確な研究結果はありませんが、香害は男性よりも女性が発症する傾向が強いといわれています。

香害は病気なの?

現時点で香害は、病気という認識ではありません。しかし、香害が重症化すると化学過敏症を発症する可能性があります。

もともと人工的な香りが苦手な人に限らず、疾患のない人でも十分になり得る可能性があります。普段から人工香料を使用した洗剤類や香水・パーソナルケア用品を使用していると嗅覚が慣れてしまい、香害に気づきにくくなるため、なかなか自分の不調の原因を特定できません。

普段から無香料のアイテムを選ぶようにすると、自分も周りも香害を被らないのでおすすめです。

香害にならない香水はある?

現代の香水には、人工香料を使ったものが多く出回っています。その一方で近年はオーガニック・自然由来の原料のみで作られた香水も増えています。

たとえば、Cosme Kitchen HERBORISTERIE(コスメキッチン エルボリエステリエ)が展開するHappy Oilは、天然の植物から採れた精油のみを使用した香料で、手首や顔まわりに少量だけ塗って香りを楽しめます。やさしい香りで持続力もさほどないため、周りに不快感を与えない点がうれしいポイントです。

このように、香水選びの際も人工香料をやめ、自然由来の香りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

また自宅でも、天然のエッセンシャルオイル(精油)を使ったスプレー・ブレンドオイルを作ってみるのもおすすめです。鎖骨まわりや手首に付けるだけでも、気分に合わせてリフレッシュ・リラックスできますよ。

香害にならない洗剤2選

ここで、香害のダメージを受けることなく、快適に衣服を洗える洗剤を2つご紹介します。

シャボン玉せっけん|粉の無添加せっけん

最初にご紹介するのは、天然素材の石けんや洗剤を多く取り扱う老舗企業・シャボン玉せっけんの洗剤です。

原料に天然油脂を使用し、添加物や香料は一切入っていません。粉状の石けんはそのまま衣服の洗濯に利用できるほか、食器やシンク洗い・家じゅうの掃除に活躍します。

天然由来成分のみを含んだ粉せっけんは、排水後の水質汚染が少なく、プランクトンの餌などとなって数日後には完全に分解されるため、環境にもやさしいアイテムです。

またシャボン玉石けんは、香害の啓発活動を積極的に行っています。企業として香害に反対する姿勢を示してくれるのは、消費者であるわたしたちにとって心強い存在ですね。

地の塩社|セスキ炭酸ソーダ・クエン酸

もうひとつは、近年エコな掃除アイテムとして注目を浴びている「セスキ炭酸ソーダ」「クエン酸」です。

セスキ炭酸ソーダは、炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)と炭酸水素ナトリウム(重曹)が混ざりあった物質で、自然界ではトロナという鉱石などに含まれています。

化学物質を使わずに精製でき、洗剤として利用する際も人体・環境ともにやさしいため、毎日の洗濯にぴったりのアイテムです。

汚れやにおいがひどい場合は、セスキ炭酸ソーダを混ぜた水に数時間~1日浸け置きしてから洗うとよいでしょう。汚れが落ちにくい衣服には、粉せっけんとの併用がおすすめです。

洗濯物をふんわりと仕上げたい場合は、すすぎのタイミングでクエン酸を加えてみましょう。食品添加物としてもよく使われるクエン酸が加わると、衣服のにおいを取り除き、すっきりと仕上げてくれます。

粉せっけんと同様、セスキ炭酸ソーダとクエン酸もまた、衣服の洗濯だけでなく、日常の掃除や身体ケアに活躍します。香害に長年悩まされている筆者は、セスキ炭酸ソーダとクエン酸を洗濯・掃除に、シャンプーやリンス・歯みがき粉の原料などには、セスキ炭酸ソーダの代わりに食品グレードの重曹をクエン酸と組みあわせて利用しています。もし香りを付けたいときは、お気に入りの精油を加えれば、自由自在にカスタムできるのでおすすめです。

香害とSDGsの関係

最後に、香害とSDGsの関係性についてお伝えします。

香害は人体だけでなく大気・水質汚染にもつながるため、社会や環境に関連しますが、今回は特に関連の深いSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」について紹介します。

SDGs3「すべての人に健康と福祉を」に関連

sdgs3

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」では、性別や年齢・出身地に関係なく誰もが健康と福祉にアクセスできる状態を目指しています。

香害は、主に化学物質によって体調を崩してしまう人たちを悩ませています。誰もが健康で快適な生活を送れるよう、個人だけでなく企業や自治体が連携し、この問題を解決する必要があるのではないでしょうか。

また、香害が重度化すると化学物質過敏症にも繋がってしまいます。そのため、香害を経験していない人もできるだけ化学成分由来の香料が入った製品の使用を避け、周りの人の健康へ配慮することが求められます。

【関連記事】SDGs3「すべての人に健康と福祉を」私たちにできること・日本の取り組み事例

まとめ

今回は「香害」について、基本的な知識や化学物質過敏症との関係、洗濯洗剤のおすすめなどを幅広くご紹介しました。

記事の中では伝えきれませんでしたが、人工的な香りを形成する化学物質は、人々への健康だけでなく大気・水質を汚染することから、あらゆる生態系への影響も懸念されており、環境問題にも繋がっている深刻な公害のひとつです。

ようやく日本でも認知が広まりつつある今こそ、まずは香害の実態を学び、出来ることを行動に移してみませんか。

<参考リスト>
日本に新しい公害が生まれています。その名は「香害」 | シャボン玉石けん
「化学物質過敏症」で苦しんでいる人がいます | 済生会
Multiple Chemical Sensitivity | Johns Hopkins Medicine
香害図書館 -Kogai Library
化学物質過敏症 ―歴史,疫学と機序―
「香害」アンケート集約結果発表|香害をなくす連絡会
VOCとは?|東京都環境局
Why smelling good could come with a cost to health | Fragrance | The Guardian
エアゾール式芳香剤・消臭剤に含まれるフタル酸エステル類の分析とその曝露評価|佐藤芳樹、菅谷なえ子、中川友夫、森田昌敏
International prevalence of chemical sensitivity, co-prevalences with asthma and autism, and effects from fragranced consumer products | SpringerLink
Prevalence and Characteristics of Chemical Intolerance: A Japanese Population-Based Study: Archives of Environmental & Occupational Health: Vol 70, No 6
カナリアからのメッセージ〜化学物質過敏症のない未来へ〜(25分フルバージョン)|シャボンちゃんねる