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分離教育とは?メリット・デメリット、国連が止めるように訴えた理由も

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みなさんが学校に通っていた頃、クラスに障害のある同級生はいたでしょうか。

いつの時代でも障害を抱える子どもは一定数存在しますが、その多くは障害児のみの学校・学級へ通い、通常の学校では学ばないのが日本の教育現場では当たり前とされてきました。しかし近年、こうした教育は分離教育と呼ばれ批判の対象となっています。分離教育はどのようなもので、何が問題とされ、どのような是正が求められているのでしょうか。

分離教育とは

分離教育とは、心身に障害を抱える子どもと健常な子どもとを、別々の環境に分けて教育することを言います。

日本では、障害のある子どものほとんどが養護学校や特殊学級、あるいは盲学校、聾学校などに在籍し、通常の学校に通う子どもとは時間も空間も分けられた状態で学んできました。

現在でも、障害や特別なニーズを必要とする子どもは健常児とは別に、特別支援教育という形で医療ケアや教育を受けています。

特別支援教育とは

特別支援教育とは、障害児の自立・社会参加や生活・学習の困難改善のために適切な指導や支援を行うことを目的として、2007年にそれまでの障害児教育制度を改めた教育制度です。

現在の特別支援教育は、主に以下の3つからなります。

特別支援学校

従来の盲・聾・養護学校を改めたもの。視覚・聴覚・知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者が対象で、幼稚園、小・中・高に準ずる教育や、学習や生活上の困難を克服し自立を図るための知識技能を学ぶ学校

特別支援学級

従来の特殊学級。通常の小中学校に設けられ、通学はできても障害で学習が遅れる子どものための学級。知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱者、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害などの児童が対象。

通級指導

障害を持つ児童が通常の学級に在籍し、大部分の授業を受けながら一部の授業で障害に応じた特別な指導を受ける形態。特別支援学級と同じ障害に加え、学習障害、注意欠陥多動性障害を抱える児童が対象。

分離教育はなぜ行われてきた?

日本の障害児教育の歴史は、そのまま分離教育の歴史とも言えます。

富国強兵を目指して整備された明治期以降の学校教育では、産業や近代化の発展に貢献する健常者の教育が優先されました。一方、弱い存在である障害児は教育ではなく医療の対象として、通常の学校教育からは排除されました。

第二次大戦後、学校制度が改められるものの、

  • 1947年:障害児は義務教育制度の対象外…施設の未整備などを理由に多くの障害児の入学を拒否/就学困難とされた場合は就学義務の猶予や免除
  • 1979年:養護学校が義務教育の対象に…通常の学校に在籍した障害児を特殊教育へ囲い込むことを義務化
  • 2007年:それまでの障害児教育を改め、特別支援教育と名称を変える

といった経緯で現在に至りますが、障害児教育の基本は実質的に分離教育であることは変わりません。

日本における分離教育の現状

分離教育をめぐる日本の現状はどうなっているのでしょうか。

日本で障害児教育の基本となる特別支援教育(特別支援学校・特別支援学級・通級)ですが、その規模は施設数・児童数のいずれも年々増加しているのが現実です。

令和4年度の「特別支援教育の充実について(文部科学省)」によれば、特別支援学校などの児童生徒の増加の状況は

平成24年(2012年)令和4年(2022年)
特別支援学校6.6万人8.2万人 (1.2倍)
特別支援学級16.4万人35.3万人 (2.1倍)
通級による指導(通常学校)7.2万人16.3万人 (2.3倍)
合計30.2万人59.9万人 (2.0倍)

となっており、この10年で倍増しています。

これは以下の表に見られるように、自閉症・情緒障害で特別支援学級に在籍する児童生徒の数が急増したのが大きな要因です。知的発達に遅れがないにも関わらず、身体障害や発達障害などのために学校に適応できない子どもが、受け皿として特別支援学級へ追いやられているとも言えます。

また施設数を見ても、平成24年の特別支援学校の数が1,039校だったのに比べ、令和4年度には1,171校へと増加しています。

こうした数字を見ても、通常の学級から離されて学ぶ障害児の数は、増えこそすれ決して減ってはいないことがわかります。

分離教育への批判

一方で、こうした分離教育中心の方針への批判や抗議も少なくありません。

文科省は2022年(令和4年)4月に、特別支援学級の子どもは授業の半分以上の時間を特別支援学級で過ごすよう求める通知を出しました。これに対し、通常学級での時間を最大限確保してきた保護者や関係者らは、分離教育の促進になるとして抗議し、撤回を求めています。

この他にも、

  • 公立高校で定員割れにも関わらず障害のある生徒を定員内不合格にしている
  • 私立学校に対する合理的配慮の義務化(2024年〜)を知らず、障害のある生徒への配慮を拒んだり、入学を門前払いする
  • 障害児の親が通常の学校への入学・入園を断られる、通常の学校に通える自治体を探し引っ越すなどの負担を強いられる

といった問題が起きており、分離教育の是正を求める声は高まりつつあります。

分離教育のメリット

こうした批判にも関わらず日本の分離教育は、それまでの日本の障害者教育を踏まえ、現実に即した対応が採れるという利点があります。そうしたメリットゆえ、たとえ分離教育だとしても特別支援教育をあえて選ぶ保護者も少なくありません。

メリット①障害児へのサポートが手厚い

日本の特別支援教育のメリットは、個々の障害児の事情に応じたサポートが手厚いことです。

例えば特別支援学校では、

  • 特別支援学校教員免許など障害や専門知識・ノウハウを持った教員による指導
  • バリアフリーや個別の教育プログラム、医療ケアなどニーズに合わせた指導や福祉環境
  • 専門のセラピストによる家庭訪問や適切な療育方法の指導など家族へのサポート
  • 一般就労やB型事業所(通常の就労困難者に働く機会を提供する場所)などへの就労支援

など、重い障害を想定したサポートにも対応できます。

また特別支援学級でも、個別の学習カリキュラムの提供により自分のペースで学習を進められ、学びの成功体験を得る機会があるという点は否定できません。

メリット②いじめの不安は少ない

障害児と健常児を分けるもう一つのメリットは、いじめが起きないことです。

特に障害を個性として受け入れる用意ができていない子どもにとって、自分たちとは異質なものに対して排除やいじめを行う可能性は常に起こり得ます。

通常学級でのいじめを不安視する保護者からすれば、健常児は健常児、障害児は障害児同士の同質な空間のほうが、差別の対象が少ないと考えるのも不思議ではないでしょう。

分離教育のデメリット

上記のようなメリットがある反面、障害児と健常児を分けて教育するやり方にはそれ以上のデメリットが指摘されています。

デメリット①障害児と健常児の接点が失われる

問題のひとつは、障害児と健常児が日常的に接する機会が少なくなることです。

健常児だけの同質な場しか知らなければ、障害児に対する理解や共感は生まれにくくなります。

しかし、毎日同じ教室で障害児と共に過ごすことが当たり前になれば、クラスメイト、友人としての親近感だけでなく、障害や多様性に対する理解も深まる可能性が高まります。

もちろんメリット②のようないじめへの危惧もありますが、互いのことをよく知っているか知らないかでは、その乗り越え方や解決も違ってくるでしょう。

一つだけ言えることは、互いを「自分とは関係ない存在」と見なすことは、決して共生にはつながらないということです。

デメリット②教育の内容や機会に不平等が生じる

もう一つのデメリットは、特別支援教育のような分離教育は、障害者の教育やその後の人生における不平等の助長につながるということです。

確かに特別支援教育による積極的なサポートは、個々のニーズや特性に応じた教育を提供できるかもしれません。しかし、現行の教育体制には

  • 特別支援学校を卒業しても高卒資格とはならず、学校によっては大学進学を想定した教育内容が提供されない
  • 通級による指導と、特別支援学校/学級との間にはカリキュラムに差がある
  • 健常児と同じ教育を受けても、能力主義や成果主義により生きづらさを感じる

などの問題があるため、障害児は学校を卒業した後の社会移動についても不利や不平等を被り続けることになります。

こうした状況で特別支援教育を受ける子どもたちは、たとえ排除はされなくても、教育制度やアクセス機会、成人後の公平性や公正性については健常児たちと同じ権利があるとは言えません。

デメリット③差別や排除を助長する

分離教育の最も大きなデメリットは、両者を分けて遠ざけることで、障害者を社会の中で「目に入らない方がいい存在」「望ましくない存在」と見なす差別や排除の風潮を生み出してしまうことです。そこには「できないこと」を否定し、障害の有無、生産性や有用性で人間の価値を測ろうとする暗黙の前提が潜んでいます。

人格形成の場でもある教育現場において、障害児と健常児とを分けること自体が、社会における差別や排除の温床として批判されてきたのは、決して大袈裟なことではありません。

なぜ国連は分離教育を止めるよう訴えているのか

こうした日本の障害児教育に対し、国連の障害者権利委員会は、2022年9月に障害者の権利に関する条約に定める内容について日本政府に勧告を行いました。

その内容は、国の教育政策から分離教育を終わらせ、障害児がインクルーシブ教育を受けるための計画を進め、その計画を採択することを求めるものです。

インクルーシブ教育の実現を阻害する

ここで国連が言及したインクルーシブ教育とは、

  • あらゆる段階で包摂的な教育を保障し、個人に必要な合理的配慮が提供されることで人間の多様性や子どもの最善の利益を尊重する
  • 子どもたちを障害の有無によって分ける必要がなく、障害の有無に関わらずともに学ぶこと
  • 障害のある者が教育制度一般から排除されないこと

であるとされています。そして2014年に障害者権利条約を批准している日本もまた、インクルーシブ教育推進を求められています。しかし国連は

  • 現行の日本の特別支援教育が分離教育であること
  • 2022年4月の特別支援学級で過ごす時間を半分以上に求める文部科学省の通知

の2点が、インクルーシブ教育実現を阻害するものであるとして問題視しました。そのため国連は分離教育としての特別支援教育の廃止または改善を求める勧告に至ったのです。

日本政府の対応は

これに対し永岡文科相(当時)は、特別支援教育の中止を「考えていない」と答え、特別支援学級の生徒が通常学級で学ぶ時間を制限する通知も撤回しないとして、国連の勧告を拒絶します。

日本政府や文部科学省側は、

  • 可能な限り障害児・生徒が健常児童・生徒と共に教育を受けられるよう配慮し、教育内容や方法の改善・充実を図っている
  • 特別支援教育の発展による「多様な学びの場」はインクルーシブ教育推進に必要である
  • 「交流及び共同学習」によって共に学べる環境を確保している

といった見解を示し、特別支援教育は分離教育であるという国連の意見と真っ向から対立します。

なぜ国連と日本の意見は食い違っているのか

国連と日本の意見が食い違う背景には、日本政府が「インクルーシブ教育」を国連とは異なる解釈をしているためと指摘されています。

インクルーシブ教育は、障害のある人とない人が共に学ぶ場として、特別支援教育を通常教育に統合する流れが世界の主流です。しかし日本ではそれを、特別支援教育を推進して実現されるものと解釈しています。結果、学校に適応できず特別支援学級に振り分けられる子どもが増え、健常な子どもとの分離がますます進んでいます。

そこには、通常教育を変えず特別支援教育の枠組みを維持しつつ、障害者権利条約との矛盾を曖昧にする意図があるように思えてなりません。

「交流及び共同学習」は有効か

文部科学省の唱えるインクルーシブ教育では、交流及び共同学習で健常児と障害児が共に学ぶ場を保障しているとされていますが、これにも疑問の声が上がっています。

交流及び共同学習に実際に参加した生徒や保護者、教員へのアンケートを行った結果、

  • 遠巻きに眺めるだけでお客さん扱いだった
  • 1、2回会っただけでは形だけの交流に過ぎず、深い人間関係は築けない
  • 交流先の児童の態度がその場限りであり、教員に言われて仕方なくやっている様子が窺えた

といった意見が数多く見られました。結果として交流及び共同学習は、かえって「自分たちとは違う子」という印象を深めてしまい、インクルーシブ教育の実現にはならないと指摘されています。

【関連記事】インクルーシブ教育とは?必要な理由や日本の現状、実践例も紹介

分離教育から脱却するために必要なこと

分離教育となっている現在の障害児教育を改善するためには、教育制度・環境を根本的に変えることが必要です。そして変わるべきは特別支援教育の側ではなく、通常の学校教育の現場です。

制度の柔軟化

通常学校に必要なのは、一人の教員が多数の子供を一斉に教えるような画一的指導法を見直し、さまざまな制度を柔軟にすることです。具体的には

  • 学級定員:障害児が学級に在籍するときは定員を減らす/複数教員が必要に応じて入るなど
  • カリキュラム:健常児と同一歩調での学習が困難な子たちに配慮/教育内容を複数学年でまとめるなど
  • 学年編成:同一年齢同一学級をやめ、複数年齢の子供が同一学級で学べるようにする/権利としての就学猶予と権利としての留年を導入
  • 融通性のない学校ルールの柔軟化

といった提案がなされています。

東京都の特別支援教室も参考に

参考になるのが、東京都が実施している「特別支援教室」です。この仕組みでは、障害児が普通学級に在籍することを前提に週に数回、担当教員が巡回指導することで、自校で特別支援教育を受けられるようになっています。

環境整備

通常学校と特別支援教育を統合させるためには、設備教員、ケアスタッフの配置などを整えることも必要です。とはいえ通常学級では、特別支援教育のような手厚いサポートにも限界があるため、個別のニーズに応じた合理的配慮の提供が必要でしょう。

教育現場における合理的配慮は、保護者や当人と対話を行った上で、医師などの判断により特別な措置を合理的配慮として請求できます。

能力主義・競争主義からの脱却

通常の学校における、過剰な能力主義・競争主義を改めるような教育もまた、分離教育からの脱却に求められることです。

障害児と健常児の共学を不安視する親の中には、障害児に授業のレベルを合わせることで、自分の子供の学習も遅れ、成績や入試に影響が出ると考える人も少なくありません。

しかし、画一的な環境で他の子どもたちと同様の結果を求められる能力主義や競争主義は、本来の学校教育に必要な共生・協働を認めず、非包摂的な学校文化を強めてしまいます。

単なる点数やできる・できないで人間の価値を測らない教育方針は、障害の有無を問わず子どもの健全な成長に必要なことではないでしょうか。

分離教育とSDGs

分離教育の解消は、SDGs(持続可能な開発目標)目標4「質の高い教育をみんなに」と、目標10「人や国の不平等をなくそうに関連してきます。それぞれの関連ターゲットでは、

4.5:2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。

4.a:子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。

10.2:2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

10.3:差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、ならびに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。

など、教育の機会や、能力開発、機会均等や不平等の是正が謳われています。

まとめ

分離教育は、長きにわたり日本の障害児教育の根幹でした。しかしその陰で、障害を抱えた多くの人々を経済成長の足かせとして切り離してきたことは否めません。

分離教育の問題は、教育機会の不平等のみならず、障害の有無で社会参加の道をも閉ざしてしまうことであり、突き詰めれば差別や排除につながる、重大な人権問題でもあります。

個別の特性に合わせた特別な支援や配慮は必要です。しかし、障害を抱えた子どもたちを社会との関係から切り離すこともまた、大きな差別であることに私たちは気づかなければなりません。

参考文献・資料
インクルーシブな教育と社会 : はじめて学ぶ人のための15章 / 原田琢也, 伊藤駿編著. — ミネルヴァ書房, 2024.
アジア・日本のインクルーシブ教育と福祉の課題 : ベトナム・タイ・モンゴル・ネパール・カンボジア・日本 / 黒田学編. — クリエイツかもがわ, 2017. — (「世界の特別ニーズ教育と社会開発」シリーズ = The comparative studies series in special needs education and social development ; 4).
特別支援教育 – 文部科学省
特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について(通知)
04 【文科省】R5特別支援教育の充実について – 厚生労働省
令和4年度 特別支援教育資料 第1部 データ編
野崎泰伸,分離教育か共生共育かという対立を越えて-「発達」概念の再検討: 立命館大学人間科学研究所,25–41p.2010,立命館学術成果リポジトリ
インクルーシブ教育への反対意見や課題とは?教育の受け方を考えよう|D-commu でぃーこみゅ
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号 当事者・関係者の声 分離教育から抜け出すために―特別支援学校の考察―尾上裕亮
分離教育は分離した社会を生む | 小西みか
発達支援における分離教育 | 発達障害・ギフテッドのオンライン個別指導塾リバランス
多様な子どもたちが共に学ぶ「インクルーシブ教育」は、いまなぜ必要か? | 日本財団ジャーナル
突然の文科省通知は障害者分離か 「ともに学ぶ」大阪の特別支援教育に逆行で保護者困惑|産経ニュース 2024/4/22
私立学校も義務化「合理的配慮」、多くの経営層に欠けている「コンプラ」の視点|東洋経済education×ICT education特集
分離から混ざり合う教育へ 株式会社日本総合研究所 調査部上席主任研究員 池本 美香
インクルーシブ教育とは?必要な理由や日本の現状、実践例も紹介| Spaceship Earth
髙橋純一・松﨑博文: インクルーシブ教育への変遷と課題 人間発達文化学類論集 第19号;2014年6月|福島大学学術機関リポジトリ
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