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炊き出しとは?誰でも参加できる?ボランティアに参加する方法も紹介

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何らかの事情により食事をとることが困難な状況の人を対象に、一斉に調理した料理を提供する「炊き出し」。大きく分けて、災害時や戦争時などに被災者を対象として行われるものと、ホームレス(路上生活者)や生活困窮者を対象に行われるものがあります。

この記事では、主にホームレス・生活困窮者を対象として行われている炊き出しについて、歴史や日本・各国での現状、またボランティアとしての参加のしかたまで解説します。

炊き出しとは

炊き出しとは先述のとおり、経済的・環境的な事情により食事をすることが困難な人々に対して、一斉に調理した料理を提供する活動のことを指します。

我が国におけるホームレス・生活困窮者対象の炊き出しの主催者は、市民団体や非営利法人(NPO)、宗教団体など様々です。基本的に、被支援者は無償で食事をすることができます。宗教団体の行う炊き出し(特にキリスト教の教会が主催することが多い)は、牧師・神父など宗教者の講話を聞いたのちに食事をすることが多いようです。

海外ではスープキッチンなどと呼ばれている

炊き出しは、英語では「スープキッチン(soup kitchen)」と呼ばれています。

ただし日本の「炊き出し」は、屋外などで仮設的に行われることがほとんどであるのに対し、海外における「スープキッチン」は仮設のほかに、常設の施設が用意されていることも多くあります。ほかに炊き出しを表す英単語として、「ブレッドライン(bread line)」「スープライン(soup line)」なども挙げられます!

日本の炊き出しの歴史

続いて、日本における炊き出しの歴史を見ていきましょう。

飛鳥時代に聖徳太子が設立した「悲田院(ひでんいん)」は、困窮者や身寄りのない弱者を収容する福祉施設です。日本における炊き出しの一つの起源とも言えます。聖徳太子が仏教を篤く信仰し布教していたことからも分かるように、悲田院は仏教における「慈悲」の思想をもとに設立されました。

また757年に施行された養老律令では、困窮者の救済が規定されました。その後、平安時代に律令制が形骸化して以降は、突発的な救済措置が行われるのみで、政権における体系的な困窮者救済の制度はない状態が続きました。

江戸時代には「救小屋」が設けられる

荒歳流民救恤図
渡辺崋山;荒歳流民救恤図(国立国会図書館デジタルコレクション

江戸時代になると、幕府・藩によって「救小屋(すくいごや)」が設けられるようになります。飢饉・火災・水害などが発生すると、多くの人々が困窮しました。この様な人々を収容し、食事を与えたのが「救小屋」です。また「施行米(せぎょうまい)」と呼ばれる救援食糧の供給も行われていました。

このように江戸時代においては、幕府・藩といった統治機関によって、現代の炊き出しのような困窮者に対する救済が行われていました。

近代・戦中における炊き出し

1923年には関東大震災が発生し、発災当日の夜から各地で被災者に対する炊き出しが行われました。府県・市町村が整備を進めましたが量的に十分ではなく、一般市民のボランティアが果たした役割も大きかったようです。

第二次世界大戦の末期、日本本土への空襲が始まると、焼きだされた人々のためにおむすびやすいとんなどの炊き出しが行われました。しかし、戦争が激化すると食料や飲み水の不足が深刻となりました。

戦後しばらくは深刻な食糧不足が続いたため、いわゆる炊き出しが行われる余裕はなかったようです。

ホームレス・生活困窮者に対する炊き出し

現代のような、ホームレスや生活困窮者の方々を対象にした炊き出しがいつ頃から行われているか定かではありません。1992年のバブル崩壊後にホームレス問題が深刻化したことや、現在炊き出しを行っている団体の一部が1990年ごろに設立していることを踏まえると、このころにはすでに実施されていたと考えられます。

なお、以前はコンビニや飲食店の「廃棄」となった食品で凌いでいたホームレスの方も多かったようですが、廃棄方法の変化や、炊き出しが広く行われるようになってきたことにより、減少しています。

日本の炊き出しの現状

では次に、日本における炊き出しの現状を見ていきましょう。

大都市では曜日ごとに各種団体が実施

東京、大阪、名古屋、福岡といった大都市では、多くの民間団体や宗教団体などが炊き出しを行っておりターミナル駅の近く日雇い労働者が集まる町での開催が多い傾向にあります。

それぞれの団体が開催する頻度はまちまちですが、大都市では毎日どこかで炊き出しが行われています。各団体は「毎週○曜日に開催」と定めていることが多いため、支援団体が曜日ごとの炊き出し開催場所をまとめて、web上で情報公開しているケースもあります。またホームレスの方々の間でも、盛んに情報交換がされているそうです。

一方で大都市以外の地方都市では、路上生活者の絶対数が少ないこともあり、炊き出しが行われている場所は少ない傾向にあります。

生活困窮者が増加

これまで主にホームレスの方々を対象に行われてきた炊き出し活動ですが、近年は住居を持っているものの生活に困窮したために訪れる人が増えてきています。

特にコロナ禍・物価高の影響は大きく、ここ数年で住まいのある人が炊き出しに訪れる割合が大きく上昇しています。渋谷区で支援を行う団体の調査では、炊き出し参加者の中で「住まいのある人」の割合が、2014年時点では1割強でしたが、2022年時点で3割強にまで増加したことが分かっています。

また、新宿都庁前で行われている食料の配布会の参加者も増加しており、住まいのあるなしに関わらず、支援を必要とする人が増えていることが分かります。

海外の炊き出しの現状

ここまで、日本における炊き出しの現状を見てきました。では、海外の現状はどうなのでしょうか。ここでは、アメリカと台湾を取り上げてみていきましょう。

アメリカ

アメリカでも、日本と同じように慈善団体や教会などが、ホームレス・生活困窮者を対象とした炊き出しを行っています。

例えばニューヨーク市では「Food Help NYC」というwebサイトが政府機関により開設されており、スープキッチン(炊き出し)フードパントリー(食糧配布)の行われている場所が分かるようになっています。以下を見ると、非常に多くの箇所で開催されている様子が分かります。

また、アメリカでも日本と同じく生活困難者が増加しており、炊き出しの需要も増えています。

炊き出し・配給品は、ただ空腹を満たすだけのものではなく、十分な栄養価を摂取できるよう工夫されています。さらに各宗教に対応できるようハラルフード・ベジタリアンフードなどの配給も行われています。

さらに、炊き出しとは別に公的扶助として、低所得者向けに通称「フードスタンプ」と呼ばれる食料品購入補助が、政府により行われているのも特徴です。

台湾

ホームレスや筆者の暮らす台湾では、ホームレスの人々を指す言葉がいくつかありますが、中には「街友(ジエヨウ)」という、当事者たちにより敬意を払える呼び方もあります。台湾でも、そんな「街友」や生活困窮者を対象とした炊き出し活動が行われています。

台湾各地に、人安基金会という財団法人によって「平安站(平安ステーション)」が置かれており、ここを拠点に支援活動が行われています。炊き出しのほか、医療、社会復帰のための支援もこの「平安站」がプラットフォームとなって実施しています。さらに、一般の飲食店による食事提供も行われることもあります。

炊き出しに関してよくある質問

ここで、炊き出しに関して感じやすい疑問について解説していきます。

ホームレス以外も食べられる?

殆どの炊き出しは、参加をホームレスに限定していません。住む場所がある人でも困窮していて、食べることに困っている人であれば参加できます。

ただし炊き出しはあくまでも食べることに困っている人のために、多くの方の善意の下で成り立っている活動です。本当に必要な人々の機会を奪わないよう、食べることに困っていない方の利用はモラル的に避けるべきと考えられます。

反対に、経済的な事情で満足な食事が出来ない方は、積極的に参加するべきとも言えます。栄養のある食事をとることは、困窮から脱出するための大切なエネルギーとなるからです。

どんなメニューが多い?

炊き出しのメニューとしてよくあげられるものは、以下のとおりです。

  • カレーライス・ハヤシライス
  • お弁当
  • おにぎり
  • 豚汁などの汁物
  • 具だくさんスープかけご飯
  • パン
  • 果物
  • 飲料

一度に大量に調理出来るもの、配布しやすいもの、エネルギー量の高いもの、野菜がとれるもの、(冬場は)身体の温まりやすいものがよく提供されます。

また、調理済みの料理を提供するいわゆる「炊き出し」のほか、野菜やパン、缶詰といった食料配布も行われています。加えて、行政による乾パンやビスケットなどの配布を行う自治体も見られます。

炊き出しは個人でも行える?

炊き出し活動そのものに関しては、個人で行うことは現実的な考えとは言えません。炊き出しは食材調達、調理、盛り付け、配布、人員整理など、多くの人出を必要とする活動だからです。多くの団体では個人ボランティアを募集していますので、そこに応募するのが良いでしょう。

個人でできる活動としては、金銭や物資の寄付が挙げられます。

炊き出しに参加するには

ここまで読み進めて、ボランティアとして炊き出しに参加したいと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで続いては、実際に炊き出しに参加するための手順や注意点をご紹介します。

ボランティア

炊き出しを行う団体は、多くの個人ボランティアによって支えられています。金銭・物資の支援も欠かせませんが、炊き出しには多くのマンパワーが必要なのです。今日もどこかで生活困窮者の方々の力になりたいと願う人が日々集まり、炊き出し活動のボランティアを無償で行っています。

なお2023年1月現在、新型コロナウィルスの影響により、新規のボランティア受け入れを中止している団体もあります。

探す方法は?情報はどこから得るの?やり方は?

「炊き出し ボランティア 地域名」でweb検索をすると、ボランティアを募集している団体の情報を見つけることができます。ボランティア募集をしていれば、応募方法が明記されているので、それに従いましょう。

また、炊き出しが行われている場所に実際に出向き、スタッフにボランティア募集をしているか尋ねるのも一つの方法です。

炊き出し以外のボランティアも

ホームレスや生活困難者の方々に対するボランティアは、炊き出しだけに限りません。

衣類や日用品など支援物資の整理、困っている人の話を聞く傾聴ボランティア夜回り(ホームレスの方々の元を訪ねる活動)、車の運転など、ボランティアの活動は多岐にわたります。中には炊き出しの会場で、マッサージや針灸などのサービスを提供する、専門の資格を持ったボランティアもいます。このように、自身の得意分野を生かすこともできるかもしれません。

注意点・ポイント

炊き出しボランティアは調理に関わりますので、衛生面には特に注意が必要です。自身や周囲の体調に異変がある場合は、参加を取りやめる勇気を持ちましょう。

またホームレスの方々の中には、複雑な事情をもって今の生活となった方もいます。ホームレスの方々に対するステレオタイプを持たず、現状を十分理解してから活動に望む必要があります。

加えてどのようなボランティアにも言える注意点として、目的意識を持つこと、お互いに気持ちよく作業ができるよう心掛けること、団体のルールを守ることなどが挙げられます。

炊き出しとSDGsの関係

最後に、炊き出しとSDGsの関係についてみていきましょう。

目標2「飢餓をゼロに」と関係

炊き出しは、困窮者に食事を提供する活動です。そのため、SDGs目標2「飢餓をゼロに」と大きく関係しています。

日本で暮らしていると「飢餓」を身近に感じることはあまりないかもしれません。ですが実際に多くのホームレスや生活困窮者が、食事を満足にとることが出来ず、栄養不良の状態にあります。炊き出しはそのような人々に対して、直接食事を提供する、まさに第一線でこの目標2の解決に携わる活動と言えます。

目標1「貧困をなくそう」にも関係

炊き出しの現場では、食事の提供に加え、今後の生活再建に向けた相談なども合わせて行われることが多くあります。

また路上生活を送る方々の中には、冬季に凍死してしまう人もおり、これは貧困が産む最悪の結果と言えるでしょう。

貧困から抜け出すために、生活保護やシェルターなどの制度・資源を活用する事ができます。炊き出しは、ホームレスや生活貧困者を、様々な制度・資源に繋げる役割も果たしているのです。

まとめ

この記事では、炊き出しについて、主にホームレスや生活困窮者を対象にしたものに着目して解説してきました。炊き出しはこのような方々にとって、命をつなぐために欠かせない活動です。

さらにどんな人でも、生活が困窮してしまう、もしくは住む場所を失ってしまう可能性はゼロではありません。炊き出し活動を「見て見ぬふり」するのではなく、関心を寄せ、余裕のある方は支援の手を差し伸べてみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
Soup Kitchens to Volunteer at in NYC (Manhattan, Brooklyn, Queens)
奈良女子短期大学 寅垣内すが-大阪を中心とする社会事業の歴史
H27 農業農村工学会大会講演会講演要旨集-災害時における政府の救済活動の歴史的変遷
内閣府-防災情報のページ 報告書(1923 関東大震災第2編)
松山市-空襲の恐怖と空腹、不自由を強いられた市民生活
東京新聞-炊き出しに集う人達、「まん延防止」解除後も後絶たず 市民団体「生活困窮の実態は変わっていない」
東京新聞-「ないと生きていけない」…物価高で延びる生活困窮者の列 都庁前の食品配布に初の600人超え
神戸学院大学 高間満「ホームレス問題の歴史・現状・課題」
NPO自立センター ふるさとの会
ホームレス支援全国ネットワーク
Food Bank for NYC
コロナ禍のNY 救済活動で浮き彫りになった貧困と食料問題(思いが込められたランチはおいしかった)(安部かすみ) – 個人 – Yahoo!ニュース
東洋経済online-ホームレスは普段どこで何を食べているのか
財団法人人安社会福利慈善事業基金会
自由時報電子報-善心「刈包吉」復出街頭 發放500份便當供街友溫飽
鈴木 淳(東京大学)-関東大震災時の救援
山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)