この記事では、これからの社会に不可欠と言われるSTEAM教育の理念について、クローズアップされた背景やメリット・デメリット、世界と日本の取り組み事例などをまとめていきます。興味深い施設や研究なども紹介しますので、楽しみながら見ていきましょう。
STEAM教育とは
STEAMとは、スティームと読み、Sience、Technology、Engineering、Art/Arts、Mathematicsの5つの教育境域の頭文字を組み合わせた造語です。AIやIoTなどの技術が急速に発展している現代社会は、日々激しい変化や様々な課題が生じています。この社会の中で生き抜く力を身につけるための教育方針となるのがSTEAMです。
それぞれの分野について簡単に内容を確認しましょう。
①Sience(サイエンス)
SはSience(サイエンス)、科学です。
せまい意味では自然科学を指しますが、広く身の回りに目を向ける学問を指すこともあります。小・中学校では、普通「理科」といいますね。
②Technology(テクノロジー)
TのTechnologyは、さまざまな知識を生かして実際に作った道具や装置、そしてその方法や技術のことです。
③Engineering(エンジニアリング)
EのEngineeringは、よりよいものを作るために、基礎科学を生産に応用していく学問です。
④Art/Arts(アート/リベラルアーツ)
AのArt/Artsは、アート・デザイン・リベラルアーツのことです。「リベラル(liberal)」は、「進歩的」「自由主義的」の意味を持ちます。
「リベラル」のニュアンスを加えたのは、アメリカ・バージニア大学のヤックマンで、芸術・哲学・歴史・語学・政治など広い分野を含んだプログラムを提案しました。
⑤Mathematics(マセマティクス)
MのMathematicsは、算数・数学です。
日本の初等教育では、数と計算・測定・図形から始まり、変化と関係・データの活用などの分野があります。学年・学校が進むと、代数・幾何・解析と進んでいきますね。
これらを踏まえて、STEAMを簡単にまとめると、STEM(Sience、Tecnology、Engineering、Mathematics)つまり理数教育に、A(Art/Arts)の創造的な教育を加えた、分野横断的な学びを指します。
文部科学省では「各教科での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な教育」ととらえ、Aを広い範囲で定義しています。
STEM教育とは
STEAM教育の理解を深めるためには、前身であるSTEM教育について知る必要があります。ここからはSTEMについて掘り下げます。
2000年代にアメリカで始まった
STEMとは、Sience:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学の教育分野を表します。
言葉の元は、1990年代にアメリカの国立科学財団が用いた「SMET」です。しかし発音が smut(汚れ)と似ていたため、TとMが入れ替えられSTEMとなって広まり始めました。
2000年代に入り、アメリカではOECD(Organization for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)による国際学力調査で、STEM領域の学力低下が顕著に見られ、経済界や学術機関から懸念する声が大きくなりました。これには、中国の経済的台頭や移民問題に対する危機感も背景にありました。
そこで、2006年にはブッシュ大統領が「STEM教育教強化のための10の方針」を発表。その後、2013年にオバマ大統領が「STEM教育拡充」を重要な国家戦略として位置づけたのをきっかけに、世界的にも広がっていきました。
STEM教育の目的
STEM教育は、ただの理系強化教育ではありません。前述のアメリカ国立科学財団によるガイドラインでは、領域や対象をかなり広く捉えているばかりではなく、横断的・総合的なプログラムを推奨しています。そして、「STEMリテラシーのある一般市民の両方を準備する」ことで「グローバル リーダーとしての米国を維持する」という目的を明確に打ち出しています。
つまり、21世紀のIT社会において、
- 知識や技術を横断的総合的に使って
- 問題を実践的に解決できる
- 国際競争力のある人材
の育成を重視しているのです。
STEM教育にAが加えられた理由
次に、STEMに「A」が加えられた背景を見てみていきましょう。
ジョーゼット・ヤックマンの「A」:リベラルアーツ
2006年、当時バージニア工科大学の大学院生であったジョーゼット・ヤックマン( Georgette Yakman )は、芸術や哲学、歴史、語学、政治など幅広い一般教養、つまり「リベラルアーツ」をSTEMに加えることを提案しました。
社会や人間とのつながりをより意識したプログラムに目を向けたのです。
ジョン・マエダの「A]:アート/デザイン
ジョン・マエダは日系の両親をもつ、グラフィックデザイナー・ソフトエンジニアです。
2008年、全米最高峰の美大RISD(Rhode Island School of DEsign:ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)の学長に就任し、STEMにアートを加えることを強く発信しました。
この2人以外にも、アップル社の「iPhone」の本体やアイコンのデザインは、スティーブ・ジョブズの「STEMプラスA」のこだわりから生まれた製品と言われており、Aの考え方が重要視されつつあったことが読み取れます。
このように、STEMで培われる科学的な知識や技術に、創造性を加えることで、よりよい社会の実現を目指すことが唱えられたことを受けて誕生したのが、STEAM教育です。
【捕捉】STEM教育から派生した言葉
STEAM以外にも、STEMから派生した教育のバリエーションはいくつかあります。代表的なものをご紹介します。
eSTEM(イーステム)
eSTEMは、environmental(環境)教育をプラスしたSTEM教育です。
環境問題をSTEM教育の観点からとらえ、環境と経済の対峙を解決するための実践的な学びを目指します。
風力やソーラー発電モデルを工作したり、生態の実地調査に取り組んだりする実践が見られます。
STREAM(ストリーム)
STREAMのRは、何種類かの解釈があります。
Robot(ロボット)のR、Reading (リーディング:読解力)のR、ほかにもReality (リアリティ:現実性)または Reviewing(リビューイング:評価)のRとする考えもあります。
GEMS(ジェムズ)
GEMSは、Great Explorations in Math and Science の頭文字で、幼児から中高生を対象とした科学・数学の体験型プログラムです。アメリカのローレンス科学研究所で研究開発されました。
また、ジェムズは Girls in Engineering, Math, and Science を表す言葉でもあります。
これは、女子中高生を対象としたワークショップシリーズで、STEM分野に携わったり目指したりしている女子をサポートすることを目指しています。
なぜSTEAM教育が必要なのか
現在、世界に広まっているのがSTEAM教育です。日本の文部科学省も明確にSTEAM教育の推進を打ち出しています。
新しい教育システムが求められる背景には、それまでのシステムが抱える問題点があります。まずその原因や背景を整理していきたいと思います。
それまでに教育が抱えていた課題
下のグラフは、PISA学習到達度調査 ※ の日本の結果です。
科学・数学的リテラシーは依然としてトップレベルにあることが分かります。
しかし、次の「学習に臨む生徒たちの気持ち」の調査結果を見ると、疑問が生まれます。
算数・数学・理科の学習「楽しい」と思う児童生徒の割合が、国際平均を下回ってます。高い水準で知識を身につけつつも、楽しいと思って学んでいない現実が浮かび上がってくるのです。
「楽しいと思えない」のですから、次のような結果に結びついてしまうのも当然かもしれません。
この結果を見ると、力はあるものの、身につけた知識や技術を自分の生活向上、もしくは社会のために使う方向が見えていないのではないでしょうか。自分がワクワクして学んでいないのですから、それを他の人や社会のために役立てたいとは考えにくいでしょう。
つまり今求められているのは、生き生きと学び、学んだことを有効に使っていける、進んで使いたいと思えるような教育です。
今後求められる力
AI技術の急速な進展と、それに伴う急激な社会の変化により、世界が抱える課題は多様化しています。その中で日本は、我が国が目指すべき未来社会の姿として、Society 5.0を提唱しました。
Society 5.0は、狩猟社会( Society 1.0 )、農耕社会( Society 2.0 )、工業社会( Society 3.0 )、情報社会( Society 4.0 )、に続く新たな社会を指し、先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決の両立していくことを目指します。
そして、Society 5.0 において求められる力として、以下が挙げられています。
- 文章や情報を正確に読み解き対話する力
- 科学的に思考・吟味し活用する力
- 価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力
また求められる人材像の1つとして、
- 様々な分野においてAIやデータの力を最大限活用展開できる人材
を挙げています。
文部科学省も、中央教育審議会答申(令和3年)の中で、文系・理系といった枠にとらわれず、各教科の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見や・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力の育成が求められている、としています。
堅い文言が使われていますが、そのような力をつけるために「創造的な教育を加えた、分野横断的な学び」であるSTEAM教育の推進が提言されたのです。
【関連記事】Society 5.0とは?わかりやすくSDGs・DX・IoTとの関係を取り組み事例を交えて説明!
STEAM教育の萌芽
実は、STEAM教育における効果の萌芽(芽生え。物事が起ころうとするきざし)が、日本の教育課程改訂の流れに見えているのです。
日本では、小学校では2002年から、中学校ではその翌年から「総合的学習の時間」をカリキュラムに位置付けてきました。
それまでも、小学校低学年の理科や社会を「生活科」としたり、1教科の枠にとらわれない「合科」という考えを取り入れたり、教育課程を工夫してきました。その成果や反省を積み重ね、次のような目標を持つ「総合的な学習の時間」を設けたのです。
下の図は、文部科学省が示したイメージ図です。
「総合的な」という名前や、学習スタイルを説明する言葉に、STEAM教育の理念に通じるものを感じることができます。
総合的な学習の時間が導入された当初は、教育現場に戸惑いも多くありました。
筆者も、小学校教員であった当時、地域の題材や発掘や方法の構築に苦慮しました。各教科の基礎基本を全生徒に身につけさせるだけでも大変で、それがおろそかにならないか、本当に子ども達に必要なことなのか、疑問に思いながら進めていたことを覚えています。
その中で、2015年の学力・学習状況調査では次のような結果が見られたのです。
総合的な学習の時間に対する筆者の戸惑いを打ち消すように、「探求的な」学習スタイルは、読解力、算数・数学、理科等の基礎学力も向上していたのです。
総合的な学習の時間の成果を受けて考えられるのは、「課題を整理し、さらに現代や未来を見通した教育」、つまりSTEAMにおける教育方針が求められているということです。
ここまで読むと、STEAM教育の重要性がなんとなく分かっていただけたと思います。しかし、新たな教育システムに取り組むには、不安が伴うものです。そこで次からは、STEAM教育のメリット・デメリットをきちんと整理し、内容を把握していきましょう。
STEAM教育のメリット
STEAM教育のメリットについてはこれまでも触れてきましたが、ここでは「学び方と育まれる力」を柱として整理していきたいと思います。
能動的に学ぶ⇒問題解決能力がつく
STEAM教育では、まず自分の「なぜ?」から課題を設定します。その課題を解決するために試行錯誤をしながら前に進みます。その中で、調べ方もいろいろあることを経験します。この経験を積み重ね、段々と効率の良い解決方法を発見していくでしょう。つまり、問題解決能力がついていくのです。そしてそれは論理的思考力となっていきます。
1つの結論を得て、さらにそれが現実問題の改善につながった時は、さらなる学びに向かう意欲も生みます。生き生きと学ぶ生徒の姿が見えてきそうです。
創造的に学ぶ⇒創造力を育む
すでに社会の様々な分野でロボットが人間の代わりに働き始めました。IT化はますます進み、より多くの職業に進出していくでしょう。
では、人間がする仕事はなくなってしまうのでしょうか。なくなるのではなく、
- ITを使ったシステムを創造する
- ロボットを効果的に動かすアイデアを創造する
といった仕事が人間のすべき大切な領域になってきそうです。
STEAM教育では、知識や技術をどのように課題解決に使うか自分で考えることによって、創造力を育みます。
横断的・協同的に学ぶ⇒広い視野と他者を尊重する姿勢を培う
STEAM教育で設定された課題は、「設定から解決」まで横断的で総合的なプロセスが重視されます。
様々な資料をあらゆる方法で集め、時には他の人と協力して答えを探っていきます。
多くの情報に出会い、自分と異なる考えを持つ人と交流することで、視野が広がり、他者を尊重する姿勢を身につけていきます。
協同して学習することで、自分が周囲に受け入れられたり役立ったりしている経験は、きっと成就感にも結びつくことでしょう。
次にデメリットも確認していきましょう。
STEAM教育のデメリット
新しいシステムの導入には、不安以外にも混乱も伴うことが多いものです。特に教育現場からの声は大きい傾向にあります。解決の糸口を見つけるためにも、どのようなデメリットがあるか考えていきましょう。
指導者の不足
例えば、中学校のあるクラスの総合的学習の時間に、生徒たちがそれぞれ課題を見つけられ、解決へ進み始めたとします。課題や取材対象、調べたい資料やアプローチの方法など、最大でクラスの生徒の数だけになります。
しかし、担任は普通ひとりです。副担任がいたり、学年で指導者チームができたとしても、指導者数の不足は否めません。
指導者の不安
STEAM教育は始まったばかりで、指導者自身が経験不足です。プログラミングをうまく教えることができない、受験・進路指導との両立に苦慮しているなど、先生たちのため息が聞こえるようです。
高校の指導者は、幼児教育から積み重ねられた個人差を持つ生徒を指導しなければなりません。令和元年、高校教育に携わるSTEAM教育WG( Working Grpup:特定の問題の調査や計画の推進のための部会)では、次のような点について話し合われました。
- STEAM教育の定義の確認
- 文部科学省と学校の共通理解
- 専門学科との関連
- 学習意欲に問題を抱える生徒への対策
- 小・中学校との連携
- 各教科の学習との接続
(出典:新学習指導要領の趣旨の実現とSTEAM教育について ー「総合的な探究の時間」と「理数探)
明確な方向が出るには、まだ時間がかかりそうです。
家庭や地域によるICT活用の差
ICT( Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用は、コロナ禍で対面学習や業務ができないことを補う方法として、学校や職場に急激に広がってきました。とはいえ、まだまだ各家庭には格差があります。端末を購入できなかったり、インターネット環境を整えられなかったりする家庭もあります。
また、学校の指導者にも不安があるのですから、教育の専門家ではない保護者の方はさらに戸惑っているのではないでしょうか。仕事や家事の他に幼児や小学生の家庭学習サポートをする時間を見つけるのも、大変だと思います。
加えて、高齢化の進んでいる地方では、ICT活用に速やかに対応できないでいるケースもあります。
このような課題を抱えつつも、模範や参考になる多くの先駆者がいます。次からは、世界や日本の取り組みを見ていきましょう。
STEAM教育の世界の現状と取り組み事例
ここでは、STEAM教育の先駆けであるアメリカ、そしてアジアの先駆けシンガポールの取り組み事例をご紹介します。
【アメリカ合衆国】STAR Net STEAM Equity Project(スターネット・スティーム エクイティ・プロジェクト)
STAR Net STEAM Equity Projectは、宇宙科学研究所の国立対話型学習センターが主導し、アメリカの図書館とSTEAM専門家コミュニティSTAR Net が取り組んでいるプロジェクトです。
小規模および農村地域の公共図書館が、優れたSTEAM教育を利用者、特にラテン系アメリカ人に提供するのを支援するというもので、優れた取り組みをする図書館には、国立科学財団からの助成金が提供されます。
例えばアーカンソー州のベリービル公共図書館。そのモットーを「本や映画をチェックすることは、Berryville Public Library でできることの始まりにすぎません。」「私たちは、フルサービスの図書館です。」とし、STEAMメイキングプログラムや電子リソースの利用を支援しています。
エクイティ(公平性)をもってSTEAM教育を担う役割をもつので、サービスの重点対象は少数人種にばかりでなく、男女平等や障がいを持つ方々にも向けられています。
図書館には本の貸し出しや学習場所を提供するだけの場というだけでなく、STEAM教育の拠点となる可能性があるのですね。
【シンガポール】Science Centre Singapore (サイエンスセンター・シンガポール)
サイエンスセンター・シンガポールは、1977年、当時の科学技術大臣トーチェン博士によって開設された施設です。その後、「世界クラスの科学センター」をめざし、段階的にギャラリーやアクティビティを加えています。
同センターでは、「シンガポールを科学に精通した人々の国に育てる」をコンセプトに、
- 科学を身近で魅力的なものにする。
- シンガポール人が未来に向けて主体的に学習する環境をつくる。
を目的として、STEAM教育を推進しています。
対象年齢を限定せず、小さな子どものための体験教室「Kids Stop」や、「ヤングエンジニア&サイエンティスト アカデミー」のような専門家を目指す人々のためのプログラムが準備され、質の高いSTEAM教育を受けることができます。
「Snow City」では科学技術で体験学習の可能性が広げられ、雪のない国の少年少女たちの歓声が聞こえてくるようです。
日本の取り組みも見ていきましょう。参考になる例や、応援したくなる事例がきっと見つかります。
STEAM教育の日本の現状と取り組み事例
日本では、文部科学省と経済産業省と連携して取り組んでいます。現場では、新しい方向を模索したり、今までの実践を修正したりしながら、様々な取り組みが始まりました。
文部科学省での取り扱い:経済産業省とタイアップして
文部科学省は、2018年度から段階的に学習指導要領の改訂を行ってきました。学習指導要領は、学校における教育課程の基準となるもので、社会の変化に応じて約10年ごとに見直されてきました。
この学習指導要領に「STEAM」の言葉はありませんが、上の概要パンフレットの表紙には「学びが進化する」とあります。
内容を見ると、進化の方向を「アクティブ・ラーニング」「カリキュラム・マネジメント」とし、これから重視することの筆頭に「プログラミング教育」を挙げています。まさに「学びのSTEAM化」と言えるでしょう。
2018年6月には「Society 5.0に向けた人材育成〜社会が変わる、学びが変わる〜」を公開し、その中では「STEAM」の文言が要所々々で使われています。
特に高等学校から社会人の教育におけるSTEAMや、デザイン思考の必要性が挙げられています。
経済産業省でも、2018年「未来の教室」を起ち上げたり教育に関する研究会を開いたりしており、活動の柱としての第1に「学びのSTEAM化」が挙げられています。
そして、「STEAM Library 」や「EdTech (Education + Tecnology)ライブラリー」を開設し、プラットホームの役割を担っています。
それではこれから実際の取り組み事例をみていきましょう。
【関連記事】
アクティブラーニングとは?メリット・デメリット、問題点や具体事例・SDGsとの関係
EdTech(エドテック)とは|なぜ注目されている?メリット・デメリット、具体的な導入事例も
幼児の取り組み事例
幼稚園の学習指導要領の改訂は、1番早く2018年に行われました。
この発達段階では、五感を使った遊びそのものがハンズオン(体験学習)となります。
洗濯・掃除・料理などの家事や、ペットの世話もハンズオンです。子ども達が好きなことのできる環境をつくることが大切になってきます。
多くの幼稚園ではすでに、パズルやブロックなどの知育玩具を使った科学遊び活動を取り入れています。
家庭ではその環境を作るのが難しい場合は、地域の体験学習施設を利用するのもおすすめです。筆者の地域ではこんな施設が子ども達の人気を集めています。
ムシテックワールド(ふくしま森の科学体験センター)
工作・実験・自然体験の多様なプログラムのほか、サイエンスショーや展示室「なぜだろうランド」などがあります。
小学校の取り組み事例
小学校でのSTEAM教育は「総合的学習の時間」を中心に行われます。高校での実践的STEAMに備えて、基礎的な経験を積む時期になります。すでに小学校ではプログラミングが必修になり、コンピュータースキルの基本を学んでいます。
ここでは、「未来の教室」で紹介された、デジタル教材で実績をあげた小学校をご紹介します。
静岡県袋井市立浅羽北小学校
利用した教材はボードゲームの1種である「学校向け “STEAM Tag Rugby “」です。
ワークシートを使ってタグラグビー ※ をする小学校高学年向けゲーム教材で、指導教本もあります。
6年生が取り組んだ結果、問題解決力、情報収集力、対人関係・自己統制力などのライフスキルが、いずれも向上したという結果が報告されています。
中学校・高校の取り組み事例
文部科学省では、将来の国際的な科学技術系人材の育成をめざして、先進的な理数教育を実施する高校をスーパーサイエンスハイスクール(SSH)として指定し、支援をしています。
2008年からSSHの指定を受けている高校の取り組みをみていきましょう。まさに、STEM + Aの取り組みです。
多摩学園中等部・高等部「ハンドクワイア」
玉川学園は東京都内の幼稚部から高校までの一貫教育を行っています。ここで紹介するハンドクワイアは、部活動の1つです。
部員たちは、ハンドベルの演奏を聴覚に障がいのある人たちにも楽しんでもらうために、プログラミングを活用して、曲に合わせた映像を作り演奏しました。
プログラミング初心者の生徒たちはいろいろな人の協力を得て学び続け、音を映像化するだけでなく、光や振動も演出に生かせるようになっていったとのことです。
大学の取り組み事例
文部科学省は、大学・大学院と社会人に対しては、グローバルサイエンスキャンパス(GSC)を指定しています。
これは、次世代のSTEAM教育の推進力となる人材の育成をねらったもので、主に高校の生徒に対して、高度で体系的な育成プログラムを実施することを支援しています。そのため、若い受講者に効果的な研究が評価されます。
金沢大学
金沢大学理工研究域生命理工学系の松原教授 (金沢大学能登海洋水産センター センター長)を中心とした研究チームは、昨年度「受講生投票賞」を受賞しました。
テーマは「ヒラメのストレスは光で緩和できるか」。受講したのはSSHの指定を受けている富山県立富山中部高等学校の生徒で、動物福祉の発想で、炭酸麻酔の効果を見える化した実験を行いました。
この他にも多くの学校や研究機関が、自分たちの願いや好奇心を出発点に、ICTと今までの枠にとらわれない広い分野の人材や資料を活用しながら、STEAM教育に取り組んでいます。
【関連記事】金沢大学|キャンパス内外で人と”繋がる”ことでSDGsを体得できる大学
では最後に、STEAM教育とSDGsの関連を考えてみましょう。
STEAM教育とSDGsの関連
SDGsとは、2015年に国連で採択された国際的な目標で、持続可能な社会の実現をめざして17の目標と169のターゲットが掲げられています。
17の目標は、「社会」「経済」「環境」の3つの側面から設定されていますが、どれか1つの達成をめざせばよいというものではなく、すべてに同時進行で取り組むことが求められています。
STEAM教育に取り組むことも、様々な目標の達成に関りますが、ここでは特に密接なかかわりを持つSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」との関係について説明します。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」
「すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」が目標4の目指すところです。
この目標は、7つの内容・3つの方法に分類された10のターゲットを掲げていて、ジェンダー格差をなくし、障がい者やマイノリティなど社会的弱者であっても平等に教育を受けられるようにすることを目指しています。
先ほど紹介したアメリカの「STAR Net STEAM Equity Project」は、少数民族に配慮しており「すべての人々」「公平」に大きく貢献しています。
また、袋井市立浅羽北小学校の報告結果にもある「問題解決力、情報収集力、対人関係・自己統制力などのライフスキルがいずれも向上」という結果は、「持続可能な開発のための教育」の成果を示しており、目標4との関連が高いことが分かります。
さらにSTEAM教育は、ターゲットにも大きく関連しています。
ターゲット<4.b>には、「ICT、技術・工学・科学プログラムなどを含む高等教育を受けるための奨学金制度」を充実させることが明記されています。
これらの達成のためにも、日本の文部科学省が推進するスーパーサイエンスハイスクールやグローバルサイエンスキャンパスは、これからも広げていってほしい支援です。
そして、「質の高い教育」はSDGs全ての目標実現の前提になり得ます。
Society 5.0 に向け、多くの生徒を同じ目標に到達させる「量」で評価するのではなく、自分の思いや願いをどれだけ具体化するかを分野横断的学びのスタイルで支援するSTEAM教育は、まさに「質の高い」教育と言えるのではないでしょうか。
【関連記事】SDGs4「質の高い教育をみんなに」の日本の現状と企業の取り組み、私たちにできること
まとめ
新しいシステムを受け入れるには、大きな不安や混乱が伴います。まして教育というフィールドは、成果を確認するのに時間がかかる分野です。
長年学校の教師をしてきた筆者は、学習指導要領改訂の度に「総合的学習の時間は何をすれば?」「英語も教える?!」「プログラミング?!」等と、右往左往しながら夢中で対応してきたことを思い出します。
しかし、様々な取り組み事例を通して、世界中のいろいろな世代・分野の人々が、これから目指すべき社会に向けて自分なりのアプローチをし、成果をあげていることも一緒に確認してきました。
ICTを自分や社会を幸せにするツールと考え、官民のサポートを使って、身近なSTEAM教育に目を向けたり体験したりしていきましょう。
<参考資料>
国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント
総合的な学習の時間について
新学習指導要領の趣旨の実現とSTEAM教育について ー「総合的な探究の時間」と「理数探
スティームエクイティ・プロジェクト:STEAM Equity Project Guidelines | Tools,
ベリービル公共図書館» Programs & Services | Berryville Public Library
サイエンスサービスセンター・シンガポール:About Science Centre Singapore| Family Attractions
学びの、その先へ
未来の教室 ~learning innovation~
ムシテックワールド
ハンドベルクワイア|中学部・高等部|玉川学園【幼小中高】
グローバルサイエンスキャンパス 令和4年度企画提案募集の概要
国際連合広報センター https://www.unic.or.jp/files/sdg_icon_04_ja_2.pdf
アメリカ国立科学財団(NSF:National Science Foundation)「STEMとは」https://search.nsf.gov/search?query=STEM%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3&affiliate=nsf&search=
STEAM教育等の教科等横断的 な学習の推進について
<参考文献>
ICTことば辞典:大谷和利他(三省堂)
STEMで未来は変えられる:Gitanjali Rao (くもん出版)
STEAM教育:中島さち子(幻冬舎)
SDGs:蟹江憲史(中央公論新社)