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SYRINX|「もったいない」から始まった革商品の循環型ビジネスとは

SYRINX 代表 佐藤さんインタビュー

佐藤 宏尚

兵庫県加古川市生まれ。1996、東京大学工学部建築学科卒業。1998、東京大学大学院修士課程修了、プランテック総合計画事務所入社。2001、佐藤宏尚建築デザイン事務所設立。2014、慶應義塾大学大学院非常勤講師。2016、東京大学・東京大学大学院特別講師、SYRINX 設立。

introduction

「あったらいいな」をカタチにする革小物商品を販売するSYRINX。元々はオーディオブランドとしてスタートしたSYRINXが、なぜ革小物に着目し取り組みの幅を広げたのでしょうか。そこには一般的なビジネスのカタチとは少し違った「とある想い」が根底にあります。

今回は、SYRINX代表の佐藤宏尚さんをお迎えし、取り組みに対する想いと事業内容についてお話いただきました。

「いただいた命を大切にしたい」。コンセプトに隠された想い

–本日はよろしくお願いします。SYRINXというブランドについて教えてください。

佐藤さん:

SYRINXは“「あったらいいな」をカタチに”をコンセプトに、革小物をデザインし販売するブランドです。

–どういった商品を展開されているのでしょうか。

佐藤さん:

財布、アクセサリー、バッグといった日常で使える革商品がメインとなります。

小物以外ですと、オーディオの受注生産を行っています。というのも、SYRINXは元々、革で仕立てたスピーカーを生産するオーディオブランドとしてスタートしているんです。

すべての始まりは「もったいない」

–オーディオ生産で始まったSYRINXが、なぜ革小物商品を作るようになったのでしょうか。

佐藤さん:

私どもの扱う革はイタリアから取り寄せたヴァケッタレザーという、植物性のタンニンや天然オイルで時間と手間をかけて作られる伝統的な”なめし製法”で作られた一流品なのですが、スピーカーを製造するときにどうしても端材が出てしまっていました。

その状況に「端材だからといって捨てるのは非常にもったいない!」と、なんとか有効活用できないか考えたところ、端材で革小物を作ろうと思い立ったのです。

–もったいないという想いから始まったアイテムだったんですね。

減プラスチックで販売時のゴミも削減

–「もったいない」の想いを大事に革小物を展開されるSYRINXですが、商品販売時にも気をつけていることがあるそうですね。具体的に教えていただけますか。

佐藤さん:

まずは商品販売時の減プラスチック(減プラ)に取り組んでいます。革の製品はプラスチックの一種のポリエチレンフタレートでできた不織布で包むことが一般的ですが、代替え品として紙製の包みに変え、化粧箱を包むOPPというビニール袋もやめました。

–すべての梱包材でプラスチックを廃止しているんですか。

佐藤さん:

梱包材に関しては廃止ができていますが、どうしても必要となるプラスチックがあります。それが、財布やパスケースのカード部分を予め使いやすくするために販売時に付属するダミーカードというものです。

–こちらに関してはゴミにならないよう何か対策を取られていますか。

佐藤さん:

使い捨てとならないよう、定規として使えるようデザインしました。これが結構使い勝手が良くて、長さだけでなく角度、曲線、線の太さまで測れるといった多機能なものなんです。

こうした機能を付けることで、ダミーカードとしての使命を果たして捨てられるのではなく、便利アイテムとして長く使っていただけると思います。ものを販売するなら、お客さんの手に渡った後のことも考えなければなりませんから。

海洋プラスチックゴミの8割は街中から発生している

–こうした努力も、もったいないという想いが根底にあるんですね。プラスチック由来のものをなくしたい理由として、「もったいない」気持ち以外のものもあるのでしょうか?

佐藤さん:

海洋汚染問題の原因は、私たちの生活で出る使い捨てのプラスチックが8割を占めていると言われているので、使い捨てプラスチック自体を減らさないといけません。そのために、販売時からプラスチックを減らそうという取り組みに至りました。

–そういった背景があったのですね。実際、紙製のスリーブに変えることで、購入した方の反応はありましたか?

佐藤さん:

高級感が増したという声をいただいています。ただ、保管時や配達時に紙製のスリーブにキズがつきやすいので、これを実現するには、脱プラに対するお客様のご理解も不可欠です。商品ページなどでもご理解を頂けるよう尽力していきます。

サンプル品の貸し出しで廃棄物を削減!新しいショールームの形

–ほかにもSYRINXでは「どこでもショールーム」という取り組みを行っていますね。「どこでも」というワードに興味が湧きましたが、どういったショールームなのでしょうか。

佐藤さん:

一般的にイメージされる、店舗で商品が並んでいるショールームとは異なります。どこでもショールームは、商品を手にとってみたい方に現物を発送し、お試しとして1週間使っていただくというシステムです。

発送する商品は販売用のものではなく、メディア撮影用で使われたサンプルや、販売に至らなかったB級品などです。我々は実店舗販売をしていないため、実際に使っていただくことで使い勝手を確認頂けると思います。

–それは面白いですね。どんな商品が対象となるのですか。

佐藤さん:

革財布などです。対象商品は限られてはいますが、弊社サイトの”どこでもショールーム”のページから希望の商品を選んで頂けます。

–商品を体験できることって購入後のイメージをつかみやすいですし、プレゼントとして考えられている場合は判断材料になりますね。

佐藤さん:

そうですね。サンプルとして使用された商品がそこで役目を終えることに対しても、”もったいない”という想いがあります。

革というのは動物の命を頂いて作られたものなので、その命をできるだけ長く大切に扱えるように「どこでもショールーム」というスタイルを考えました。

–もったいないという言葉の奥底には「いただいた命を大切にしたい」という想いが込められているんですね。

佐藤さん:

そうですね。中古の状態ではありますが、商品の良さは十分に伝わると自信を持っています。多くの方に利用していただきたいですね。

革はエコな素材。革商品に対するイメージを変えていきたい。

–これまでお伺いしてきた脱プラのお話や、端材の有効活用は、SDGsでいうと目標14「海の豊かさを守ろう」、目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献していると感じました。今後、SYRINXの目指す方向性を教えていただけますか。

佐藤さん:

脱プラを引き続き強化していくことと、革業界に対する誤解を解きたいという目標があります。

–どういった誤解があるのでしょうか。

佐藤さん:

革商品が環境に悪いのではないか、といったイメージですね。

革自体は本来、食肉用として使われる以外の部分をリサイクルして作られています。そうした理由から、革で商品を作ること自体は非常にエコなのです。しかし、牛の飼育自体が環境問題の対象として上がってきているため、革商品に対する印象もそうした負のイメージとして見られやすくなります。

–牛の飼育自体は環境問題にどう関わっているのでしょうか。

佐藤さん:

牛のゲップに地球温暖化の原因となるメタンが含まれていて、それがCO2よりも温室効果ガスの濃度が25倍濃いと言われています。

脱炭素が求められている今、代用肉にして牛の飼育自体を減らしていこうという話もあります。それに伴って革商品も減っていくかもしれません。

しかし、革は本来廃棄するしかない部位を有効に利用した大変エコな素材です。そうした正しい情報をSNSやメディアを通して発信し、革商品の魅力を感じていただきたいですね。

–SYRINXの声を通して、革の持つ魅力を伝えていきましょう。本日はありがとうございました!

取材 Mai Nagatani / 執筆 Mayu Nishimura

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