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株式会社TENGA(後編)|「誰もが表通りに性を楽しめる世の中に」タブー視された障がい者の性の問題とは

株式会社TENGA 松本さん インタビュー

松本光一

1967年静岡県焼津市生まれ。幼少期からモノづくりが好きで、自動車整備や販売の仕事を経て2002年に退職。「性的欲求は人間の根幹であり、従来のアダルトグッズのイメージを刷新するようなポジティブでオープンなアイテムを作りたい」と36歳でTENGAを開発。2005年に株式会社TENGAを立ち上げ、現在はセクシャルアイテムだけでなく雑貨やアパレル等、製品の幅を広げている。

introduction

TENGAは今までにLGBTQ、女性、中高生、高齢者など、さまざまな人に向けた商品やサービスを展開してきました。そして今年から新たに、障がい者の就労支援を行う「able! project」がスタートしました。本記事では、TENGA代表の松本さんに、障がい者の就労支援を行うable! projectの取り組みの一つでもある「障がい者の性」についてお伺いしました。

「卑猥ではないプレジャーアイテム」を展開するTENGA

–後編では「障がい者の性」について伺います。早速ですが、able! projectが「障がい者の性」にアプローチしようと考えたきっかけはありますか?

松本さん:

TENGAの活動は、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」という想いから始まっています。3大欲求とも言われている「性欲」は、人間の根源的欲求であり、食欲、睡眠欲と同じように尊重されるべきです。男性、女性、高齢者、LGBTQ、障がいの有無などにかかわらず、誰もが性に対して後ろめたさを感じることなく楽しめる世の中にしていくため、able!projectでは障がい者の性にもアプローチしていきます。

–たしかに、世間一般的に性欲は隠すべきものだと認識されていますよね。

松本さん:

そうですね。アダルトコーナーに行くと、アダルトグッズがいかにも見られたら恥ずかしいような卑猥なものとして販売されています。性欲は多くの人が当たり前に持つ欲求であるのに、なぜ特殊な括りにする必要があるのか。特別な存在としてではなく、「人の性生活を豊かにする」という一般的な括りとしてのアダルトグッズがあってもいいと思うんですよね。この疑問がTENGA誕生の始まりとなります。

障がい者の性に対する世の中の認識とは

–「性」というジャンル自体が表に出づらい雰囲気はありますね。そのなかでも、「障がい者の性」に対する世の中の認識とは、どのようなものでしょうか。

松本さん:

性欲は、食欲、睡眠欲と同じように、人が当たり前に持つ欲求ですよね。しかし「障がいのある方は、性を楽しまなくてもいい」とされることが多いんです。当事者は、性欲を満たさなくていいと扱われることで苦しさを感じています。それは、目の前に大好きなカレーライスがあるのに、食べられない状態が何日間も続くことと同じです。それなのに、もともと食欲がないから食べなくていいと言われてしまうのです。

–なぜ、性欲はなくてもよいものとして捉えられてしまうのでしょうか。

松本さん:

もともと性欲がない人も存在しますし、生きる上で必要な食欲、睡眠欲とはイコールにならないと思うんですね。性欲は生存本能にもとづいた欲求ですが、なくても生きていけるからこそ、蔑ろにされてしまうのだと考えています。その結果、障がい者の性について語られる機会も極端に少ないのだと思います。

–私たちは性についてもっと知る必要がありますね。

松本さん:

知る以前に、障がいの有無に関係なく性欲があることは決して珍しくないという意識を持つことからがスタートです。そうすることで、性との向き合い方が変わってくると思います。

–そうなれば、障がい者の性についても目が向けられるようになりそうです。

松本さん:

そうですね。とはいえ、障がい者の性について書かれている専門書はありますが、やはり手に取る機会は少ないはずです。そのため、このような記事を読んだり、Youtubeを見るなどして、カジュアルに情報収集していけたらいいですね。

常に常識を疑う大切さ

–ここまでお話を伺い、性が蔑ろにされてしまう状況の中で、悩みを抱える当事者の方は多そうだと感じました。

松本さん:

はい。ある障がい者の方から、「セックスできたら死んでもいい」と本気で言われたことがあります。したくてもずっと欲求を抑えているから、少しでも考えると一日中頭の中がそのことでいっぱいになってしまうんですね。それを聞いたときに、それほど大きな苦悩なのだと気付きました。

–当事者の声に耳を傾けることで認識が変わっていったのですね。

松本さん:

もう一つ、とある障がい者から聞いたマスターベーションの話も印象に残っています。

–どのようなお話でしょう?

松本さん:

その方は私に「マスターベーションの良さってわかりますか?」と質問してきたんです。「良さってなんだろう」と悩んでいたのですが、彼はその答えとして、「自分の意思で始められて、自分の意思で止められるからいいんですよ」と言いました。

例えば、手の不自由な方は、誰かに手伝ってもらわないと始められず、後処理もしてもらわなければならない。つまり、自分の意思だけで完結させることができないんです。当事者の声を聞いて、そういう心情を初めて知りましたね。

–自分にとっての当たり前が違うこともあるのだと気づいたのですね。

松本さん:

その通りです。実際に当事者が抱える悩みや意見を聞いて向き合ってしていかないと、問題は解決していかないんですよね。

アップデートすることで人々の幸せにつながる

–法律や世の中のシステムを見ても、なかなか現状のあり方を変えるまでには至らないように感じます。新しい取り組みを行うことは、同時に責任が問われるプレッシャーもあるかと思うのですが、それでもTENGAが常に認識をアップデートして行動に移している秘訣はありますか?

松本さん:

たとえば「こういうモノを生み出して、もっと世の中を良くしたい」という信念が強くないと、周囲の意見を過剰に気にしてしまい、決断が遅くなります。

また、すべての意見に反しないような決断をすると、最終的には新しいものはできません。全ての人に受け入れられなかったり、賛否両論あったりしても、信念がブレないことが大切です。だからこそ、私たちは常に新しいことにチャレンジできているのだと思います。

–障がい者の性の悩みを解決したいという明確な想いがあるからこそ、そこに向かって行動できるのですね。

松本さん:

そうですね。例えば、今や誰もが知るiPhoneでも開発当時は賛否両論あったはずです。「割れたらどうするの?」という誰かの意見で立ち止まってしまったら、プロダクトは完成していません。割れる可能性はあるけど、一定の安全性を保ちながら開発を進めていくというバランスが求められます。目的のためにどう行動するかが大事なのかなと。

–今までにない取り組みだからこそ、信念をもとに行動に移し、軌道修正しながら進めることが大事なのですね。

松本さん:

はい。最近ではSDGsについて語られることが増えましたが、誰も正解はわかりません。46億年も存在する地球に対して、人間は比較できないほどの短い時間しか生きていない。そのため、人間が考える地球に対する対策が、正しいかどうかはわからないと思います。ですがいま最善だと思うことに取り組んで、行動しながら変えていく。それが私たちが大事にしている向き合い方です。

–そうやってアップデートされていくことで、より多くの人の幸せに繋がっていくということですね。とても貴重な話をありがとうございました!

関連リンク

株式会社TENGA  https://tenga-group.com/