飯島
一般家庭向けのLPガス販売を担当するお客様サービスグループを経て、環境事業課に配属。現在は排水処理事業や食物残渣処理の削減を中心とした省エネ・BCP提案や防災イベントを通じた地域連携、SDGsの推進、WEBによるニュースレターを担当。
湊谷
2022年に東上ガスに入社し、3ヶ月間の研修を経てソリューション営業部に配属。同11月にふじみ野市・志木市で開催された埼玉県主催のイベントである「防災フェスタ2022」にて、事務局として運営の一端を担った。
目次
introduction
70年以上LPガスや都市ガスを供給し続ける東上ガス株式会社。「朝起きてご飯を食べる。夜には温かいお風呂で疲れを癒す」この当たり前を守るために、また災害時に備えて地道な努力を積み重ねることに誇りを持っているといいます。
ライフラインであるガスを支える責任の重さや、安心・安全であることが当たり前とされる期待に応えるためにどのような努力をされているのでしょうか。
今回は東上ガス株式会社の飯島さんと湊谷さんに企業理念や災害時への備えなどについてお聞きしました。
人と地域に寄り添う企業理念の実践がSDGsにもつながっている
–最初に東上ガス株式会社の事業内容をお聞かせください。
飯島さん:
弊社は1951年に創業した、LPガス・天然ガスを一般家庭や工場に供給することを主な事業としている会社です。
ガス業界のパイオニアとも呼ばれており、従来ガスの供給といえばガスボンベから各家庭に接続する方法しかなかった中で、弊社はガス供給設備から地下の導管を経由する「導管供給」に国内で初めて成功しました。これにより、集合住宅や団地に効率的にガスを供給できるようになりました。
2021年には70周年を迎え、現在はグループ会社である大東ガス・山二ガスと共に東上ガスグループとして、プロパンガス、都市ガスを関東一円に約20万件のお客様にお届けしています。
また、ガスの供給以外にも、太陽光発電設備、空調機器の取り扱い、コインランドリーの運営や電力の販売など事業内容は多岐にわたります。
創業当時から、弊社のテーマとして地域密着・顧客密着を掲げていましたが、全社員が一丸となって事業を進めていくために、2018年1月に企業理念を新たに策定しました。
策定するにあたり、現会長の清水と社長の角田をはじめ社内プロジェクトチームを発足させ、計10名で議論を重ねました。
その中で、大事なポイントが2つあります。
1つは、過去から現在、未来までの事業を段階的に見返すことです。
「【過去】創設時にさかのぼり転換点は何だったのか?」、「【現在】強みや弱み、お客様からなぜ選ばれているのか」、そして「【未来】お客様に提供したい価値、他社との差別化やチャンスやリスクの整理」など、企業としてのあるべき姿を議論しました。
2つ目は、民間企業としての業績向上、組織強化についてです。この2つを大事にしながら新たに取り組むこと、現在取り組んでいる中で、残していくこと又は捨てなければならないものなどを議論してできたのが「人と地域により添い、笑顔あふれる生活を支えます。」でした。
策定後には全社員が一堂に会し「共有会」が開かれ、社内に展開しています。このような背景から私たちは、「朝起きてご飯を食べる。夜には温かいお風呂で疲れを癒す。」といったお客様の普段通りの生活、当たり前の生活を支えるためにも、日々の業務を通じてガスを安心・安全に供給することがミッションだと考えています。
そのためには、小さな気づきが大事です。
ガスの定期点検や器具の点検などを通じて、一般家庭のお客様に関わる機会が多くありますが、例えばお子さんが誕生した際など家族構成に変化があった場合、ガスの使用量も変わってきます。そういった小さな情報を日ごろのコミュニケーションから集め、お客様からのご相談に対する対応や安心・安全で安定的な供給に繋げています。また、行政と共に防災イベントの運営などを通じて地域の皆様により添い、そこから皆様の笑顔につなげたいと考えております。
災害時こそ安心を届けられるよう、そのための備えは万全に!
–続いては、SDGsに関する取り組みを教えてください。
湊谷さん:
SDGsについても企業理念に沿った考え方となっていて、「地域への取り組み」「エネルギーの安定供給への取り組み」「環境への取り組み」「働き方への取り組み」を軸に取り組みを進めていますが、その中でも不測の事態が発生した際の対策には力を入れています。
一例を出しますと、災害時でも安全にガスを皆様にお届けできるように、「中核充てん所」や「LPガススタンド」を構えています。
LPガスをボンベに詰める(充てんする)設備のある基地を「充てん所」と呼び、全国に約2,200ヵ所あり、そのうちの340ヵ所が「中核充てん所」に指定されています。
国から指定される「中核充てん所」は各ガス会社が所有し管理しているものですが、災害時に自立的に稼働できるように「非常用発電設備」「緊急用通信設備」「LPガス車」などが備えてあります。東日本大震災をきっかけに整備され、停電が起きたり、通信網が破壊されたりした場合でもLPガスを安定供給するため、LPガスを燃料とする自家発電設備や衛星通信設備が備えられているんです。弊社でも首都圏統括支店の設備が「中核充てん所」に指定されています。
「LPガススタンド」ではLPガスを燃料として走る車両にLPガスを供給しています。LPガスを燃料として走る車両には当社のサービスカーやLPガスボンベを配送するトラック、タクシーなどがあります。
LPガススタンドは災害時でもガソリンスタンドと比べて安定したガスの供給を見込めます。弊社首都圏統轄支店併設のLPガススタンドは敷地内にあるストレージタンクによってLPガスを供給しています。ストレージタンク内には十分なLPガスが貯蔵されているため災害時においても安定的な供給が可能です。また、LPガスを燃料とする配送トラックを使用しているため、ひいてはお客様へのLPガス継続配送も可能にしています。
また、災害時に役立つ設備としては、災害用バルクがあります。災害用バルクとは「災害対応型LPガスバルク供給システム」のことで、LPガスの貯槽と供給装置(ガスメーター・調整器・ガス栓 等)が一体となった設備です。
災害用バルクは日常使いを前提としていますが、災害時にはLPガスのメリットを最大限に発揮できるように考えられた設備です。
《災害用バルクの写真》
参照:日本LPガス協会/災害対応型LPガスバルク供給システム
災害バルクは、ガスを使用するのに必要な供給設備とガス器具を一緒に使います。
例えばバルクとガスコンロなどの調理器具を使えば炊き出しができ、給湯器を使えばお湯が、ガス用発電機を使えば電気が、ガスヒートポンプ(GHP)を使えば空調設備がそれぞれ使えます。
ガスヒートポンプ(GHP)は簡単に言うとガスで動くエアコンです。電源が自立しているものもありますので、そういった機種は停電時にも空調が使えるほか、発電した電力で照明、通信機器などに使え不測の事態に備えられる強い味方なんです。
体育館に避難した際などにも、暑さ寒さを凌ぐのに空調設備は不可欠ですから。
弊社では、災害用バルクやガスヒートポンプ、LPガスを使用した非常用発電機などを事務所や工場、商業施設などに設置するように推進しています。
–災害時もガスを安定供給するのは大変だと思いますが、そのために他にはどのような取り組みをしていらっしゃいますか。
飯島さん:
弊社では災害を想定した大規模な訓練を年に2回行っています。それ以外にも発電機の始動確認やメンテナンスなどは日々の業務の中で定期的に行います。24時間集中監視システムが稼働していて、ガス漏れやガスの残量なども把握しているんです。
万全の備えを日ごろから心がけますが、そのときに難しいのは「災害時にどんなことが起こるのか」「どのような備えが必要なのか」の想定です。
東日本大震災のときの実例ですが、ガソリンを求める車でガソリンスタンド周辺に大渋滞が起き、LPガスの配送に遅れが出てしまったことがありました。ニュースでも燃料の不安などが報道されたためお客様からの問い合わせが多くあり、ご心配をおかけしてしまいました。様々な不測の事態を予測し、備えることが大事だと実感しましたね。
また、いざという時に社員が万全の体制で対応できるように、地域との連携も欠かせません。弊社は「災害時におけるLPガスの提供に関する協定」を自治体と締結しています。もちろんガス会社は、災害時には自主的に動く基準が定められていますが、協定を結んでいれば自治体との連絡もよりスムーズに行えますし、垣根を越えて他の事業者と協力して迅速に恒久対策が行えます。
加えて、災害時は社員や近隣の方々が滞在できるように、水・食料・救急セット・段ボールベッドなども各事業所に備蓄しています。
他にも、避難所に指定されている小学校にはLPG発電機と炊き出しセットを寄贈し、災害バルクを活用した炊き出し訓練なども行っています。
「東上ガスがいるから何があっても大丈夫」と言ってもらえるように地道な努力で笑顔あふれる生活を支えたい
–いざというときのために、様々な取り組みが進められているのですね。では、環境や働き方、社員の方へのSDGsの取り組みはどんなことに注力されていますか。
湊谷さん:
エネルギーを取り扱う事業者としてCO2の削減は大きなテーマです。
弊社では事業所・営業所の給湯や空調、展開しているコインランドリーやLPガス車にはカーボンニュートラルガスを使用しています。
LPガスは採掘から家庭などで最終的に燃焼するまでに、どうしても削減しきれないCO2が発生します。対してカーボンニュートラルガスは、この発生するCO2相当量を、新興国の環境保全などのプロジェクトで創出されたCO2クレジットで相殺し、CO2が発生していないとみなされるガスです。
他にも高圧電力を使用している事業所では、太陽光発電などの再生可能エネルギー100%の電力を使用しています。
今後ガス業界は多様なエネルギーを扱う「総合エネルギー企業」へと進化を求められると思います。メガソーラー事業や電力事業への参入も進めています。
飯島さん:
働き方としては多様性を大事にしています。
外国人、女性営業職の採用や定年後の再雇用などを積極的に行っています。
また、ガス業界は資格が必要な業務も多いので、社内での勉強会や資格取得の支援もしています。
男性の育児休暇制度も始まり、私も昨年、産後育児休暇を1ヶ月間取りました。新生児期にわが子と一緒に過ごせたことは良い経験でしたし、共働きの妻が普段何に困っているのか、苦労しているのかがわかって本当に良かったです。何よりも妻からの会社への評価が非常に上がったのが良かったところでしょうか。
これからは社員もSDGsの知識が必要ですので、2020年、2021年に勉強会を実施しました。
SDGsとは何かから始まり、どのようにこれからのビジネスに結び付け展開するのかなどを外部講師を招いて講義してもらいました。
社内表彰制度にも、2021年度からSDGs賞を取り入れました。各支店がSDGsに関する目標を定めて取り組んでおり、2021年に受賞したのは、社内のペーパーレス化です。これはコピー機での印刷枚数の削減を目指したもので、支店内でどれだけ印刷枚数があるかを可視化することで紙の使用を削減しました。
弊社ではガス定期点検などの際に多くの紙が使われていましたが、タブレット使用に変えるなどペーパーレス化に努め、前年比22%の紙の削減ができました。
このように、社内でも小さなことからですがSDGsへの貢献に取り組んでいます。
–では、最後に今後の展望をお聞かせください。
飯島さん:
今後の展望のキーワードは「つながりと笑顔」です。
一般向けの事業ではLPガスと器具などの販売が中心ですが、売って終わりではなく使っているお客様の笑顔につながるサービスを提供していきたいと考えています。
例えば洗濯乾燥機を使うことで家事の時間が短縮でき、その時間を家族団らんにあてることができれば笑顔に繋げられると思います。
また、LINE公式アカウントでは地域や飲食店の情報などを配信していますが、それを見たお客様が飲食店に行き、地域のつながりを構築することで笑顔が広がれば良いと考え積極的に発信しています。
弊社のホームぺージにもありますが「東上ガスがいるから何があっても大丈夫」と思ってもらえること、お客様の期待に120%応える仕事をすることで未来へ挑戦し続けたいと思っています。
–本日は貴重なお話をありがとうございました。
東上ガス株式会社:https://www.tojogas.co.jp/