#インタビュー

社会福祉法人 東京児童協会|地域企業と共に子どもへ届けるSDGs教育。社会と保育を繋げる「保育の社会化」を進めたい

社会福祉法人東京児童協会 有金さん インタビュー

有金 淳
1975年千葉県柏市生まれ。広告代理店AEを経て、国内大手イベントプロモーターにて国内外の様々なアーティストライブ、ミュージカル、スポーツ興行の宣伝・制作担当として活動。担当公演・事業はこれまでに1,000件を超える。大人をターゲットに、感動を提供するエンタテイメント業界での経験を異業種で活用できないかと模索。数社の経験を経て、親子のお出かけ情報メディアにて、子ども・親子向けの体験事業制作を行う。その活動の中で、「子どもの感動体験は成長機会に繋がる。=社会的価値の高い活動」であることを実感する。
その活動を追求する中、現在は都内24園2200名の園児が集う認可保育園の運営組織、社会福祉法人東京児童協会にて広報・制作活動を行う。保育のPR活動の一環として、保育と異業種のコラボ事業を推進。おとな社会とこども社会をつなぎ、子ども達の「体験価値の最大化」をテーマに「体験価値開発ディレクター」として活動中。

introduction

2030年で創業100年を迎える社会福祉法人 東京児童協会は、東京都内で24園の運営をしています。

東京児童協会の取り組みのベースにあるのは、園を第二の家と捉える「大きなおうち」という考え方。保育園内外を問わず様々な人に保育に携わってもらうため「保育の社会化」に力を入れ、子どもたちへたくさんの体験を届けています。

今回は同協会の取り組みについて、広報担当である有金さんに伺いました。

社会課題の解決を目指し園を運営

ー東京児童協会様の概要を教えてください。

有金さん:

東京児童協会は1930年に創設されました。建物もすべて倒壊してしまった関東大震災のとき、子どもたちを救おうと「青空保育」の形でスタートしています。1960年には「社会福祉法人」の認可をとりました。

まず大きな変化があったのは、保育所保育指針が改訂された1990年です。それまでの保育園は一斉保育が主流でしたが、「個を大切に」という方針に転換したんです。そのため、現在の理事長は北欧やヨーロッパに視察に行き、社会ニーズに合う保育方法を模索しました。そして導入した考え方のひとつが、「人との関わり」が自然と生まれる子ども達の空間づくりです。今では一般的になった子ども自身が遊びを選べる「コーナー保育」もその一つです。このように我々は、社会ニーズや課題を真っ先に捉えて解決法を独自のメソッドで立ち上げてきました。

ー子どもに関する社会課題の解決を目指して活動されてきたのですね。

有金さん:

保育指針改定の次に社会課題として上がったのが、「保育園が足りない問題」です。7年ほど前には「保育園落ちた日本◯◯。」というワードが話題になりましたよね。

その中で「個への保育」を確立した我々は、それを多くの人へ届けるべく、2004年から2023年の間に5園から24園に拡充しました。ただ、園を増やす中で「保育士が足りない」「労働環境が厳しい」など働く側の課題も出てきたんです。働く環境が良くない限り、子どもたちによい保育は届けられませんよね。

そこで、結婚や出産後も働きやすいように時短勤務をいち早く取り入れたり、男性職員の育児への意識を高める目的で「男性育休取得率100%」を実施したりしてきました。また、職種にかかわらずチャレンジできる制度も取り入れています。例えば、保育園の園長先生は保育士の方がなる、というイメージですよね。でも保育園には保育士以外にも、看護師や栄養士、事務員がそれぞれの専門性を持ち、プロフェッショナルに活躍しています。職種は違っても、子どもたちが健やかに育ってほしいという想いは同じです。だからうちの園では誰もが園長を目指せますし、実際に3つの園では看護師が園長先生を勤めています。このような取り組みが評価されて、健康経営優良法人や「えるぼし認定」をいただきました。

子どもたちの可能性を広げる多くの体験を

ー働く側の話をお伺いしてきましたが、続いて子どもたちへの取り組みについて教えてください。どのようなことを重視されていますか?

有金さん:

質の高い多くの「体験」を、子どもに届けることを重視しています。例えば今後の社会課題の1つに「AI」への適応がありますよね。子どもたちは「誰でもできることはAIがこなす時代」を生き抜いていかないといけません。きっとこれまでよりも「自分で考える力」が必要になります。そのためには、幼少期にどれだけ体験するかが重要です。なぜなら、たくさん体験をすればするほど、その後の関心の幅が広がるからです。だから我々は「体を動かす体験」や「食べる体験」をはじめ、さまざまな体験の機会を提供し、子ども達が自分で考える機会を意識して作っています。

もちろん直接的に「考える力を養う」手助けもします。例えば子ども同士が喧嘩をしたとき。なぜ喧嘩になったのか、相手の気持ちを考えさせるタイミングを作るんです。そして、どうしたら仲直りできるかの話し合いや「ごめんね」の握手ができるまで先生が見守ります。毎日の活動の中で「自分で考える機会」を確保していますね。

ー子どもにいろんな体験をさせているとのことですが、「体を動かす体験」とは具体的にどのようなものですか?

有金さん:

月1回、スポーツ界のトップアスリートに保育園へ来てもらい、年長クラスの子どもたちを指導してもらっています。競技は、フットボール、陸上、ラグビー、ダンス、体操、バスケットボールなど様々な種目を取り入れています。この企画は「クリアソン新宿」というプロのサッカーチームと、我々の新宿の園が地域交流をしたことからスタートしました。子どもたちから何かをやりたいという興味や意欲、関心を引き出したい。そんな共通の想いから「スポーツを通じて子どもたちの可能性や興味関心をひろげる」をコンセプトに、クリアソン新宿を運営する「株式会社クリアソン」と協力して実施しています。

企業と一緒に子どもへ届けるSDGs教育

ー「食べる体験」作りでは、どのような取り組みをされているのでしょうか?

有金さん:

弊法人では約40年ほど前から、食育に大きく力を入れてきました。園長も歴任する弊法人の理事が、内閣府が主催する「食育推進評価専門委員」として活動もするなど、評価を頂きました。

例えば、子どもたちが種から育てた食材を給食に入れたり、魚の解体の様子を見せたりすることを通して、「いただきます」「ごちそうさま」の意味、命をいただくありがたみを体感させています。また多くの園では、給食室をガラス張りにして調理の様子やにおいがわかるようにしたり、年齢関係なくランチルームで給食を食べたりもしていますね。これは食育だけでなく、うちの園を第二のおうちと捉える「大きなおうち」の活動の1つでもあります。家でご飯を食べるときには、リビングに全員集まりますよね。だからランチルームでみんなで食べるようにしているんです。

ー食育は、SDGsの教育の1つでもありますよね。

有金さん:

そうですね。SDGsの取り組みは他にも、イベントの舞台美術や会場運営の大手企業、シミズオクトと実施している「端材を使ったプランターの制作」などがあります。シミズオクトでは、ステージを製作するときにでてしまう端材をリユースしたいと考えながらも、廃棄するしかない状況に悩んでいたそうです。同社の社員さんが、当法人の保育園にお子さんを通わせる保護者だったことから、端材を園で活用する企画が立ち上がりました。シミズオクトの方からどんなお仕事をしているのか、材料となる木材はどこからやってきたのか、などを聞くことで、「同じ地域にある会社がこんな働きをしているんだ」「自分がしている工作も、突き詰めていくとこんなプロになれるんだ」などの気づきも得てくれればと考えています。この活動は、今年で3年目を迎えました。

企業とのコラボでいうと、バナナジュース専門店「BANANA JUICE TOKYO」を展開する株式会社クオリとのバナナをテーマにした食育の企画もありました。バナナは捨てるところがないにもかかわらず、日本だけで東京ドーム何十杯分ものゴミとなっています。どうすればそれをなくせるのか。「バナナを通してフードロスを学んでもらおう」と子どもたちにバナナの皮から肥料を作る方法を教えてもらいました。また、BANANA JUICE TOKYOにバナナを提供している繋がりから、エクアドル大使館の公使にも来ていただきました。バナナがやってきたエクアドルという国についての話を聞いたり、民族舞踊も見せてもらったりするなど、貴重な異文化交流の機会にもなりましたね。

保育と社会をつなげる施策「ONE ROOF ALLIANCE」

ー東京児童協会様の取り組みは、地域や企業との連携が多い印象です。

有金さん:

子どもに関わる社会課題を解決したり、子どもにさまざまな体験をさせたりするには、保育園だけで完結せず、地域や社会と連携することが不可欠です。ですから、一見関係ないと思われる人たちにも保育に関わる機会を作る、「保育の社会化」を進めることが我々のミッションだと考えています。

そして、そのミッションを果たす手段の1つに、ONE ROOF ALLIANCEがあります。我々は「社会福祉法人」なので、できることは保育園の運営に絞られているんです。でも保育園以外にも子どもに関わる社会課題は多いですよね。例えば待機児童が問題になっている学童保育。そこで、ONE ROOF ALLIANCEの中に立ち上げた株式会社ONE ROOFでは学童を運営しています。

ー保育と社会をつなげる施策として、ONE ROOF ALLIANCEを立ち上げたのですね。

有金さん:

保育士は保育のスペシャリストとして、保育を学びノウハウを身につけています。また、子育てに関する新しいエビデンスや知見を持ってる方は、大学の先生やサービスを生み出している企業の方にもいらっしゃって、保育士には限らないですよね。そういう方々と連携をしていかないと、保育の質は上がらないと思います。だから、我々の想いと合致するものであれば、研究やサービス作りにも協力しているんです。将来的には、さまざまな大学の先生や企業の方々と組んで「保育あるある」を科学的に検証したら面白いんじゃないかなと思っています。保育の現場にあるもの、逆にないものについて「これは本当に必要なのか?」「これは実は必要なんじゃないか?」と慣習に縛られずに検証し、保育の質を高めていきたいですね。

ー今後の展望をお伺いできますか?

有金さん:

経営の視点でみると、大きな社会課題の1つに児童の減少があります。どういう園なら選んでもらえるのか。保育士に来てもらえるのか、働き続けてもらえるのか。保育園も生き残りをかけて、園作りに取り組まないといけません。そのような状況で、我々はやはり「どのような体験を子どもたちに届けるのか」を大切にしたいと考えています。個人的な話になるのですが、私はもともとライブやイベント、アーティストの制作をする仕事をしていました。そこで、たまたま子ども向けの体験コンテンツを作る機会があり「自分が考えたものが、すべて子どもたちの成長に繋がる」ということに、ものすごい社会的価値を感じました。それを追求したくてこの業界に入ってきました。

保育園では、子どもたちへの取り組みを知れば知るほど感動しました。例えば、「ふわふわ言葉」と「ちくちく言葉」ってご存じですか?「ありがとう、だいじょうぶだよ」など言われたら嬉しい言葉が「ふわふわ言葉」、「バカ、あっちいけ」など言われたら嫌な言葉が「ちくちく言葉」です。もしも子どもが「ちくちく言葉」を使ったら、それを紙に書くんです。紙に書いた言葉は、くしゃくしゃに丸めることはできても手元に残ってしまいますよね。それと同じで、言われた言葉は心に残るんだよと。だからちくちく言葉ではなくて、ふわふわ言葉を使いましょうと子どもに教えていました。これはコミュニケーションの原点ですよね。おとな社会のマナーとしても大切なことを幼少期から教えているんだなと、目から鱗が落ちる思いでした。こういった体験のひとつひとつが、子ども達にも社会にも大切なんだろうなと感じますね。

東京児童協会の「大きなおうち」という考え方があります。子ども達、保護者、地域、社会との関わり方を大切にしています。

保育園の取り組みをもっと多くの人に知ってほしい。そして社会全体で保育に携わってもらいたい。そんな想いを持っています。東京児童協会は2030年に100周年を迎えます。そこに向かって、子どもたちへ素晴らしい体験を届ける活動を積み重ねていきたいと思います。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

社会福祉法人東京児童協会ホームページ:https://tokyojidokyokai.com/index.shtml