#インタビュー

Twinkl Ltd.|長引く避難生活を支えるために。子どもたちへの学習教材とメンタルヘルスのサポート教材支援を「世界難民の日」にスタート

Twinkl Ltd. 藤原さん インタビュー

introduction:

Twinkl Ltd.は、英語教材を中心に100万点以上もの子供向け学習教材を制作、提供しているオンラインの教育出版社です。

教師をはじめとした「教える人」の負担を減らして「教育の質を高めたい」という思いからイギリスでスタートした同社。現在では200か国以上に1,800万人の会員をかかえています。

最近では、日本に避難してきた難民の子ども向けに、日本語とウクライナ語の学習教材とメンタルヘルスのサポート教材の無償提供を開始しました。

今回、Twinkl JAPANの藤原さんに、提供している教材の特徴や同社の取り組みなどについてお話をお伺いしました。

教える人へのサポートを通して「教育の質」を高めたい

–まずは会社概要と事業内容について教えてください。

藤原さん:

Twinklは、2010年にイギリスで誕生したオンラインの教育出版社です。

企業理念として、「Lead the Way(イノベーティブなアプローチで教育支援を変革する)」、「Go Above and Beyond(お客様の期待のさらに上をいくような学習支援サービスの開発をする)」、「Do the Right Thing(人道的で正しいサービスを提供する)」、「Be Lovely(誰もが心地よく使えるサービスを目指す)」の4つを掲げています。

具体的には、教師や教えることに従事する人たちを支え、「教育の質を高める」ことをミッションに、教員の免許保持者や、学校・教育現場で指導経験がある人の手で、学習教材を制作しています。現在、英語をはじめとした多国語教材や幼児から小学生向けの学習教材、教員の方が使えるような指導用の副教材など、扱う教材は100万点以上に上ります。

創業者はスージー・シートンという教師です。イギリスには、国や自治体で定めた検定の教科書がありません。そのため彼女は、自分ですべての教材を手配することに膨大な時間が奪われ、「教えること」に注力できないという課題に直面していました。そこで、この手間を減らし教師が教えることに集中できるためのサービスを作ろうと、Twinklを創立しました。

イギリスに限らず、「教師が忙しい職種である」ことは世界で共通しています。検定教科書がある日本ですらそうですよね。ですから、Twinklの教材は世界中から支持を受け、現在では200カ国以上の国に展開しており、1,800万人もの方に会員になっていただいています。日本の支部であるTwinkl JAPANは2021年に立ち上がり、現時点での会員数は5万人です。

英語だけじゃない!教科の枠を超えた学びを提供

–Twinklの教材の特徴を教えてください。

藤原さん:

それぞれの国の教材に、どの国からもアクセスできるというのが大きな特徴になります。

例えば日本からですと、日本語の教材を使っている方もいれば、英語学習のためにイギリスの教材に直接アクセスしている方もいます。教育現場での利用が多いものの、日本でも小学校から英語教育が始まっているため、おうちで自主的に英語を教える目的で利用される方も増えていますね。音声で読み聞かせをしてくれるe-bookも用意していますので、英語が苦手な親御さんでも使いやすいと思います。(現段階で国のカリキュラムに完全に沿えているのは、イギリス、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアの4カ国)

日本で人気があるのは、母国語式の英語教材です。その中でも特に「日本文化や海外の文化について英語で学ぶ」といった異文化教育の教材は人気があります。

季節の行事に沿ったものや、何らかの記念日にあわせて教材を作ることも多いので、教育現場やおうちで話題にしやすいという特徴があります。

他にも、算数とサイエンスが混ざっていたり、英語と算数が混ざっていたりといった「教科横断型」の教材も人気がありますね。

例えば、足し算の解答とアルファベットを組み合わせると、隠された英語の単語やメッセージが出てくる暗号解読ゲームなど、単純な数の学習や英語のとどまらない工夫がされているんです。そのような教材を日本語の説明文をつけるなど日本の学習者にも使いやすいようにしてご提供しています。

難民の方がもっとも苦労する「日本語の習得」をサポート

ー御社では、各国で「世界難民の日」に合わせて学習教材支援をされています。具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?

藤原さん:

世界各国にいる難民の方に無償で教材を支援する取り組みです。今回Twinkl JAPANでは、ウクライナから避難してきた方々に教材を支援しました。

この目的は大きく3つあります。

1つ目は、日本に来られた避難民や難民の方が「より質の高い教育」を受けられるようにすることです。特に、難民の方が日本でもっとも苦労するのが「日本語の習得」だと言われています。ですから、もともとあったオーストラリアの方向けの日本語教材と、ウクライナ語の教材を無償で提供しました。

2つ目は、避難が長引いてしまっているお子さんのメンタルサポートをすることです。そのために、ウクライナのチャリティー団体さんと協業して、心の健康の状態をチェックできるような教材をご用意しています。

そして3つ目は、日本の子どもたちに「難民問題」を知ってもらうことです。難民がテーマのオリジナルの英語絵本を2パターン無料で提供しています。1つは10歳以上が対象の大人でも読めるしっかりとした内容のもの、もう1つは5〜7歳の難民問題を理解するのが難しいお子さまへも「思いやり教育」として使っていただけるような内容のものです。

ー今回の学習支援をスタートされるにあたって、ご苦労されたこともあったのではないでしょうか?

藤原さん:

一番大変だったのは、ウクライナ語の翻訳者の手配です。最初に、日本語をウクライナ語に翻訳するといった「ローカルの言語とウクライナ語との翻訳が可能な人材」の確保が難しいという壁にぶつかりました。ですから、まずはウクライナ語がわかる英語話者の手配をしてウクライナ語から英語へ翻訳しました。その後に多言語へ翻訳をすることで、ウクライナの方が避難先の教材を学べるようにしました。

また、日本では難民の学習支援が初めてだったため、このサービスを知ってもらうためのネットワーク構築ができていないという課題もありました。しかし、難民支援をされているNPOの団体の方々や地域の方々のご協力を得られたことで、口コミを中心に支援の内容が広まり、教材も順調にダウンロードもしていただくことができています。

ー今回の学習支援の反響はいかがでしょうか?

藤原さん:

Twinklが提供した教材は、実際に日本に避難された方が「支援を受けるための審査が必要ない」「オンラインでメールアドレスさえあれば、無料会員登録すれば誰でも使える」という点を、とても喜んでいただきました。特に地方だと、手続きに時間がかかったり、審査自体にも時間がかかったりするため、教材がなかなか手に入らないそうです。

また、実は当初「本当に難民の方が必要としている教材を提供できるのか」という不安もありました。それについても「難民の方はどういったものがほしいのか」を、難民支援をされている団体の方々から具体的なリクエストをもらえたおかげで、需要に合ったものが作成できたと感じています。

日本の子どもたちへ「海外と直接繋がる場」を

–他にもサステナビリティやSDGsに関連する取り組みをされていれば、詳しく教えてください。

藤原さん:

2020年に新型コロナウィルスが全世界で流行り始めた際は、「180カ国以上で学校閉鎖が行われている」という話を受け、全世界の全会員に向けて教材無料開放を3ヶ月間実施しました。2023年2月にトルコシリア地震が起きたときも同様に、学校に通えなくなってしまったトルコの子どもたちのために、教材を全て無料にして、避難先で使えるようにしました。

さらに、セーブザチルドレンやユニセフと「貧困をなくすための入門書」となるような教材を提供したり、イギリスのBBCと共に、ブループラネットという「海の豊かさを守ること」をテーマにした教材を作成したりといった活動も進めていますね。

また、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」に貢献できるよう、教材の印刷に関する取り組みも進めています。具体的には、教材を印刷して使ってもらう場合に、なるべくインクを使わないで済む「エコバージョン」のものも提供しています。黒の割合を低くして、グレーと白を中心にしているんです。さらに、印刷をせずにPC、タブレット、スマートフォン上で学習をしたい方のためにインタラクティブ教材としてクリックしながらウェブ上で学習を進められる教材の提供といった工夫もしています。 

Twinkl JAPAN独自の取り組みとしては、環境問題や平和、多様性などについて学べる教材を豊富に揃えています。最近ですと、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の開催に合わせて「今の地球のあり方と10年後の地球のあり方について書く」など、子どもたちがSDGsについて考えるきっかけを作る教材を用意しました。こういった時事ニュースや社会問題を取り扱った教材は協業した団体さんと作ることもあります。

さらに、「質の高い教育をみんなに」という視点では、英語絵本の読み聞かせ会や季節行事に合わせた学習イベントを、オンライン上で無料提供をしています。また、海外の学校と日本の学校または英会話教室などを繋げて、国際交流の場を作る取り組みも行っています。

これらは、基本的に英会話塾などにお金を払わないと体験できない「ネイティブの人とやり取りをする」という経験を、子どもたちに公平に提供したいという思いで実施しています。

–今後の展望を教えてください。

藤原さん:

まずは、今回の「難民の方への学習支援」の取り組みを強化していきたいという思いがあります。日本では、ウクライナ語だけでなく他の言語の教材ニーズも高いにも関わらず、まだご提供できていないという現状があるためです。

また、世界のトレンド教材や「イマージョン教育」に対応した英語教材、社会問題やSDGsに関連した学習教材、教科横断型の知育教材について、日本ではまだまだ紹介しきれていません。今後は、日本の子どもたちにも、いち早く学習トレンドを届けられるような「スピード感」も重視したいと考えています。

その延長として、他国の教室と日本の教室をつないで、子ども同士が意見交換をできる場を作りたいと思っているんです。

SDGsの目標についても、「目標を達成するために、どのようなことを日常的にしているのか」を国境を越えて子ども同士で話し合うことで、「日本が達成できていない目標は、どうしたら達成できるか」のインスピレーションが湧くのではないでしょうか。

海外の子どもたちの意見に触れることで、日本の子どもたちに「広い視点」を持ってほしい。そのきっかけを与えることで、SDGsの目標達成に貢献できればと思っています。

ただ、これらのことをTwinklだけで成し得ることは難しいと言わざるを得ません。

現在、日本では2社の企業様と協業させていただいていますが、もっと多くの企業の方々や団体の方々と協力することで達成できればと考えています。

–貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

 Twinkl 公式サイト:https://www.twinkl.jp/

難民支援ご案内ページ:https://www.twinkl.jp/blog/world-refugee-day-educational-resources-for-children-jp

英語版:https://www.twinkl.jp/blog/world-refugee-day-educational-resources-for-children-jp-en