#SDGsを知る

色盲とは?見え方の違いや症状、遺伝要因の有無と私たちにできること

イメージ画像

筆者が子供の頃、周囲の大人たちが「色盲」という言葉を使っていました。最近ではあまり耳にしなくなりましたが、色盲と呼ばれた現象はなくなったわけではありません。今では、色覚異常として、その種類や原因が明らかにされてきたのです。

障害のある方や高齢者のためのバリアフリーやユニバーサルデザインが広まりつつありますが、色覚のバリアフリーは少し後れをとっているようです。正しい理解に基づく適切なサポートは社会全体を暮らしやすいものに変えていきます。一緒に学んでいきましょう。

色盲とは

イメージ画像

色盲とは、色の認識の感覚が正常ではない状態のことを言います。

色盲に分類される範囲は広く、幅広い色の認識が困難な場合から、一部の色の認識に異常がある場合までひとくくりにされています。

色盲はかつての俗称で、色覚の異常全般をさす言葉として用いられてきました。現在では「色覚異常」という呼称が一般的です。色覚異常には先天性と加齢や病気などによる後天性がありますが、色盲はそのうちの先天性の色覚異常と同義に使われています。

色覚異常とは

色覚とは、色の感覚です。つまり色覚異常とは、色の見え方や感じ方が多数の人と異なったり、違いを判別しにくかったりする状態をいいます。

色は目の中の網膜にある視細胞で感受され、視細胞には、赤・緑・青を認識する3種類の錐体があります。

3つの錐体の役割を表にまとめると、次のようになります。

役割色による名前波長での名前
赤(長波長)を認識赤錐体L錐体 (Long)
緑(中波長)を認識緑錐体M錐体 (Middle)
青(短波長)を認識青錐体S錐体 (Short) 

これらの錐体のいずれかに何らかの異常があり、他の多くの人と異なった色の見え方をした状態を、かつては全色盲・色盲・色弱等と呼んでいたのです。

色覚異常については医学的研究も進んできました。その種類や原因について段階的にまとめていきます。

近年「色盲」が使われなくなった理由

色覚異常について掘り下げる前に、「色盲」という呼称について、もう少し筆を加えたいと思います。

色盲という言葉は定義が曖昧だったばかりでなく、「色を全く識別できない」や、「盲目的」や「盲信」などの言葉の感じからか、誤解を招くことが多くありました。そこから差別に結びついたり、そう診断された人がとても不安に陥ったりしていたのです。

色覚検査も、以前は行われていましたが「差別につながる」という声が上がり、2002年に廃止されました。しかしその後、色覚異常であることを知らないことが、かえって職業選択等の際に不都合が生まれるおそれがあるとの意見があり、2016年からは希望者が受けることができるようになっています。

色覚異常という表現になってからも、さらに「異常」ということばに抵抗を示す人もおり、「色覚多様性」「色覚特性」「色弱」などが提案されています。しかし、これらの言葉には賛否両論があり確定されていません。現在のところ最も一般的とされているのが「色覚異常」という表現です。

他の人と違う色の見え方をしても、ほとんどの方が支障のない日常生活を送っています。その点「障害」ではありません。大切なのは「どのように違うのかを知り、必要な配慮をしていく」ということです。

色覚異常の種類

現在では、色覚異常は医学的に明確に分類されています。この章では、先天性色覚異常についてその種類を整理していきます。

機能している錐体の数での分類

色覚異常はまず、3つの錐体のうちいくつ欠損しているかによって、次の3つに大別されます。

種類錐体見え方の特徴旧称
一色覚1つの錐体のみ機能明暗・濃淡は感じる。
視力は弱い場合と正常な場合がある。
全色盲
二色覚2つの錐体が機能判別しにくい色がある色盲
異常三色覚欠損はないが正常に機能していないどの錐体の機能が、どの程度弱っているかによって、
見え方に違いがある。
色弱

どの錐体が機能しているかいないか

また、どの色を担当している錐体が欠損または正常に機能していないかによって、次のように分類されています。

  • 赤(L)錐体欠損・異常:1型
  • 緑(M)錐体欠損・異常:2型
  • 青(S)錐体欠損・異常:3型

判定例をあげると、<赤錐体だけに欠損または異常がある場合は、1型二色覚という色覚異常><緑錐体だけが欠損または異常=2型二色覚>というようになります。

実際には、重篤度の高い一色覚は少なく、ほとんどが1型または2型の二色覚、つまり赤・緑の識別がしにくい赤緑色覚異常の場合です。なぜそのようなことになるのかは、色覚異常が発現する原因に直結するので、次ではその話を進めていきましょう。

色覚異常の原因

出典:色覚多様性“色弱”について(明治安田生命)<右側は赤錐体に異常がある見え方>

色覚異常はどのようにして起こるのでしょうか。

遺伝による先天性、加齢や病気などによる後天性の2つの要因があることが知られています。

私達は、遺伝子の配列によって個々の形や質を発現させます。その特性は遺伝子に配置され、情報として親から子に伝えられます。色覚の特性も、どの錐体の遺伝情報がどのように伝えられるか、つまり遺伝によって決まります。色覚異常がどのように発現するか見ていきましょう。

先天性色覚異常は遺伝

ヒトは22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体を持っています。性染色体にはX

染色体Y染色体があり、XとYを1本ずつ持てば男性となり、Xを2本持てば女性となります。色覚異常のうち、1型と2型の遺伝子はこのX染色体に配置されています。

下の図は、色覚異常の遺伝子をX’とした時、1組の夫婦からどのように色覚異常が発現するかを表したものです。

出典:色覚異常といわれたら | 目についての健康情報(公益財団法人 日本眼科医会)

女性の場合XX’であれば通常のXがX’を補完するので色覚異常は発現せず、X’遺伝子を持つ「保因者」と言えます。X’X’であれば女性でも色覚異常となります。

男性はX染色体を1つしか持たないので、その1つがX’であれば色覚異常になります。

色覚異常は、伴性(性染色体に伴う)劣勢(X’のみ、またはX’X’で発現する)遺伝なのです。

日本人では男性の20人に1人、女性の500人に1人がの割合で色覚異常となり、保因者は女性10に1人の割合になります。この割合は、AB型血液の発現と同じです。割合から推察すると発現はそれほど稀なこととは言えません。

赤緑色覚異常はなぜ多い?

「1型と2型の遺伝子はこのX染色体に存在する」とお話ししました。1型と2型、つまり赤錐体と緑錐体に関わる遺伝子がX染色体に複数配置されているため、交叉したり過剰に影響しあったりして、通常と違う発現をしてしまうことがあるのです。

青錐体色覚異常が少ないのは、遺伝子の配置されている場所が他の2つとは別の第7常染色体で、混乱しにくいためです。

後天性色覚異常の原因は?

後天性の視覚異常は、加齢や病気などから起こります。

原因となる病気の代表的なものは、糖尿病などからくる網膜疾患です。脳梗塞などの脳の病気から発症する時もあります。まれに交通事故等の外的ショック、心因性による一時的色覚異常もあります。

色覚異常は治るのか

低くはない先天性な場合の発症率、後天的なものもあると考えると、治るかどうかはとても気になるところです。

後天性については改善する場合もある

後天性なものについては、原因となった元の疾患が治ると色覚異常も改善することが多くなります。心因性の場合は自然に改善していく例もあるようです。反対に後遺症として残る場合も少なくありません加齢によって色の感じ方が変わることもあります。

元の疾患が重くなったり加齢が進んだりすると、色覚異常も進行してしまう場合が多くあります。

先天性色覚異常は、遺伝子の配置からきています。治療は遺伝子に働きかけることになり、残念ながら現在のところ治療法はありません。しかし、先天性のものは進行はしません。

色覚異常に関するテストはある?

ここからは、色覚異常であるかを確認するためのテストについてお話していきます。

上の画像をご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。このようなモザイク模様の表をはじめ、色覚異常にはいくつかの代表的なテスト方法があります。どのようなテストがあるのかみていきましょう。

スクリーニングテスト:石原式色覚検査表、標準色覚検査表

スクリーニングテストは、色覚異常の可能性を大まかに判別するテストで、眼科医はもちろん、学校でも使用されてきました。

1番普及しているのは「石原式色覚異常検査表」で、同じくモザイク判別型テストに下のような「標準色覚検査表」もあります。

オンラインでセルフチェックできるアプリもありますが、あくまで参考に留めたほうがいいでしょう。特にスクリーンを通しての自己判定は、画面や周囲の明るさの影響が大きく、正しく判定するのは難しいと言えます。詳細な程度を判定するためには、専門医の判定検査を受ける必要があります。

判定検査:パネルD-15、ランタン・テスト

続いては、パネルD-15、ランタン・テストについて紹介します。

パネルD-15

出典:色覚異常(大阪府医療法人瞳心会)

パネルD-15は、15色のパネルを基準となる色に近いと思うものから順に並べていく検査です。間違えた場合は強度の色覚異常の判定となりますが、中度や軽度の場合は判定できないことがあります。

ランタン・テスト

出典:色覚異常(大阪府医療法人瞳心会)

中度および軽度の色覚異常を判定する検査がランタン・テストです。

信号灯がランダムに発する赤・機・緑の組み合わせに答えます。かなり軽度の人しかパスできないので、中度色覚異常を判別することができます

確定診断検査:アノマロスコープ

画像出典:色覚検査 – 名古屋市中区大須の安間眼科

アノマロスコープによる検査は、赤緑色覚異常について唯一医学的診断を下せる検査です。

検査方法は、上の右の図のように、半円を赤・緑を混ぜた光を黄色の光と比較して行います。赤と緑を混ぜた半円部分が、黄色と同じと被験者が判断した時、本当に同じ黄色か、違っていた時の赤と緑の割合などから、色覚異常の種類や程度を判別します。

このアノマロスコープで正確な検査結果を得るには、検査する側にも技術や経験が必要で、実施できる施設は限られています。

参考:色覚検査|種類や方法、セルフチェックについて | アキュビュー® 【公式】

色覚検査とは|検査のやり方やセルフチェックの方法を紹介 | 先進会眼科コラム

色覚異常の人に対して私たちができること

色覚異常は外見からわかりにくい特徴です。また正確な診断がなされたとしても、先天性の場合は治療ができません。しかも少なくない発症率です。みんなが心地よく過ごせるよう、色覚異常の人に対して周囲はどのようなことができるのか、一緒に考えていきましょう。

まず正しく理解する

原因や種類を理解すると、色覚異常も人が遺伝によって受け継いでいる外見や性格と同じように、「個人差」「特徴」ととらえることができます。走ることが遅い、歌が上手に歌えない、といった違いがあるように、色を見分けるのが苦手な人がいるのです。

検査を受けたことのない人の中には、自分が色覚異常であることに気づかず「なにかおかしいな」と不安を抱えたままの人もいるようです。

まず色覚異常について先入観だけで判断せず、原因や種類などを正しく理解して、偏見のない心地よい環境をめざすことが大切です。その上で、実際に関わる色覚異常の人が必要とする「私たちができること」を考えていきましょう。

カラーユニバーサルデザインを広める

社会には高齢者や障がい者の方に配慮したバリアフリーが進んでいます。それに比べ「色のバリアフリー」はまだ遅れていますが、近年少しずつ広がってきました。大きな流れの1つがカラーユニバーサルデザインです。

カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは、色覚異常に対するバリアフリーとして色の表示を工夫したデザインのことです。工夫の例をご紹介しましょう。

色はわかりやすく:配色・明るさ・鮮やかさへの配慮

学校現場でも色覚異常に対する理解が進んできています。緑のボードに赤のチョークで書いた文字は、赤緑視覚異常の人には上の画像の右側のように見えます。そのため最近は、ホワイトボード彩度に差をつけたチョークが使われています。

また、色の名前で答えさせる問題は出さない、などの配慮がされるようになってきました。

教壇に立つ際やプレゼンをする際には留意すべきポイントですね。

色以外の方法でも伝える

 

出典:カラーユニバーサルデザイン ガイドブック(福島県)

上の画像は、色以外で伝える方法の例です。

  • 上左:さりげなく色の名前を記載する
  • 上右:境界線をつける。
  • 下左:アイコンを加える。
  • 下右:ハッチング ※ 効果を取り入れる。
※ ハッチング

ある範囲を線や模様で埋めること。色覚異常の方は明度差に敏感なので、他の人よりハッチング効果を感じる。

近年は地方自治体でもCUDガイドラインを作成しています。

私たちもその手法を使い、知人にメモを渡すといった身近なことから、仕事で企画書を作成するような場合まで、今までより少し色への配慮をすることで、多くの人との情報交換ができるのではないでしょうか。

現在、進学の条件に色覚異常の有無を問う学校はありません。しかし、気象関連薬物取り扱い者陸海空の交通関連等の職業では、色覚制限を受ける場合があります。制限は緩和される方向にありますが、CUDがより広まればさらに加速していくことでしょう。

色覚異常とSDGs

sdgsロゴ

最後に、色覚異常とSDGsの関係を確認していきましょう。

目標10「人や国の不平等をなくそう」との関係

SDGsの17の目標のうち最も関係するのは、目標10「人や国の不平等をなくそう」です。

目標10では、国と国との間の不平等だけではなく、「すべての人に社会参画できる力を与える」(10.2)「差別的な法律や政策、慣行を撤廃し、機会均等を確実にし、結果の不平等を減らす」(10.3)というターゲットを掲げています。

色のバリアをなくすことで、色覚異常の方も情報を正確に受け取ることができます。それは、より多くの人と情報交換がスムーズになるということです。

「色盲」という差別的な慣行を捨て、色覚異常を「個性」「多様性」として認める流れが「結果の不平等を減らす」ことにつながります。

色のバリアフリーは次にあげる目標にも関連していきます。

目標8「働きがいも経済成長も」との関連

CUD等の使用で、色覚異常でも他の人と同様に職業を選択できるようになれば「働きがい」の創出、ひいては社会の経済成長を促すことになります。

目標11「住み続けられるまちづくりを

信号や案内板、公的な文書などの表示の工夫は、色を判別することの苦手な人にも使い易い道具や施設として、目標11「住み続けられるまちづくりを」の目指す「だれも排除しない安全かつレジリエントで持続可能」に直結します。

まとめ

かつての「色盲」が「色覚異常」という呼称になり、どんな種類があってどのように発現するのかをみてきました。CUDを中心に私たちにできること、それがSDGsとつながることもお話してきました。

私たちの血液型は遺伝によって種類が決まります。先天性の色覚異常も同様に遺伝します。社会にはさまざまな人がいて、それぞれ苦手なことや困りごとを抱えています。色の見え方に対しても、まずは正しい理解で意識のバリアを取り除き、自分にできる伝え方の工夫をして実践していきましょう。

多くの人が情報を正確に受け取れるということは、色覚異常の方が助かるばかりでなく、社会全体が暮らしやすくなるということなのです。

<参考資料・文献>
色覚についての基礎知識
色覚異常(しきかくいじょう)とは? 意味や使い方 – コトバンク
2.色覚障害者の実態の把握(国土交通省)
視細胞・桿体・錐体 – 生体医工学ウェブ辞典
色覚多様性“色弱”について(明治安田生命)
色覚異常といわれたら | 目についての健康情報(公益財団法人 日本眼科医会)
冊子「色覚異常を正しく理解するために」
13.色覚の異常|目と健康シリーズ(三和化学研究所)
26文科ス第96号 平成26年4月30日 各 都 道 府 県 知 事 各都道府県教育委員会教育長
カラーユニバーサルデザイン機構
東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン
カラーユニバーサルデザイン ガイドブック(福島県)
ダストレスeyeチョーク/日本理化学工業株式会社
「色のふしぎ」と不思議な社会:川端ǚ裕人(筑摩書房)
色覚の多様性:日本色覚差別撤廃の会(編著・出版)
色覚異常は障害ではない:日本色覚差別撤廃の会(高文研)
色のない島へ:オリバー・サックス著・春日井晶子訳(早川書房)
色覚差別と語りづらさの社会学:徳川直人(生活書院)
色弱が世界を変える:伊賀公一(太田出版)