#インタビュー

岐阜県恵那市 | 昔からある地域文化価値の再発見!食やアウトドアなど地域の特徴を活かしたまちづくり

恵那市まちづくり企画部 SDGs推進室インタビュー

紀岡 秀征

恵那市まちづくり企画部 SDGs推進室 室長

平成11年 恵那市役所入庁

令和4年現職

職歴:商工課、都市住宅課、災害派遣(釜石市)、財務課など

後藤 弘明

恵那市まちづくり企画部 SDGs推進室 副室長

平成12年 岩村町役場入庁

平成16年 恵那市に市町村合併

令和4年 現職

職歴:建設課(道路管理・地籍調査)、家畜診療所、幼児教育課(こども園)、民間研修(三井住友海上)など

鈴村 由佳

恵那市まちづくり企画部 SDGs推進室 主査

平成13年 恵那市役所入庁

令和4年 現職

職歴:市民課、環境課、子育て支援課、総務課など

introduction

岐阜県南東部に位置する恵那市は、山や森、川などの自然資源が豊富な地域です。しかし、日本の多くの農山間部が抱える「人口減少」の課題も抱えています。そこで、地域の伝統食である「発酵食文化」の価値を見直した食の取り組みや、豊かな自然資源を活かしたアウトドアレジャーの活用など、恵那市ならではのことに取り組んでいます。

今回は、恵那市SDGs推進室の後藤さん、紀岡さん、鈴村さんに、恵那市の特色や地域性を活かした取り組みについて伺いました。

「半分、青い」のロケ地にも!自然豊かで、伝統文化も色濃く残る恵那市

–早速ですが、恵那市はどのような地域なのでしょうか。

紀岡さん:

恵那市は、岐阜県南東部に位置する、近隣の大都市である名古屋市まで車や電車で約1時間ほどでアクセスできる地域です。さらに、近い将来JR恵那駅の隣にリニア中央新幹線が開通する予定で、名古屋まで15分、東京まで1時間で行けるようになると言われています。

恵那市の人口は約4万7,800人で、岐阜県の中での人口順位は13番目です。市の78%を森林が占める山間部で、山も川もある自然豊かな地域のため、アウトドアレジャーも盛んです。

自然だけではなく伝統文化も色濃く残る地域で、有名なものでは中山道46番目の宿場町である「大井宿」があります。日本三大山城の一つである「岩村城」もあり、その近くには岩村城下町があります。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたこと、また、NHKの連続テレビ小説『半分、青い』のロケ地になったことを受けて、活気が戻ってきました。お店も増え、観光客も増加しています。

岩村城下町

このように、恵那市は豊かな自然資源に恵まれているだけではなく、昔からの風景が保存された宿場町や城下町などの伝統文化も残っているのが特徴です。

SDGsに取り組むきっかけは「消滅可能都市」への危機感

–恵那市は2022年5月に「SDGs未来都市」に認定されました。自治体としてSDGsに力を入れ始めたきっかけを教えてください。

紀岡さん:

大きなきっかけとなったのは、日本創成会議が2014年に発表した「消滅可能都市」に恵那市も入っていたことです。日本全国の多くの地域で共通した課題だとは思いますが、恵那市も人口減少に大きな危機感を持っています。

特に若い世代の流出が顕著です。恵那市には大学がないため、大学入学のタイミングで名古屋や他の都市に出てしまうことが多いんです。そのまま就職して、恵那に戻ってくる人が少ないため、出生数も減ってしまっています。

このままでは、恵那市の持続可能性が失われてしまう。どうしたら私たちの故郷を存続させられるのだろう、と考えたときに出てきたキーワードがSDGsです。

恵那市は水資源も豊富にあり、国内初の発電用ダムである「大井ダム」もあります。これは大正時代に「電力王」と言われた、福沢諭吉の娘婿である福沢桃介氏が作ったダムです。

大井ダム

福沢桃介氏は木曽川水系の開発を進めましたが、これらの電力の多くは関西に送られてしまっている実態がありました。

恵那の豊かな自然資源を、地域のために使いたい。豊富な水資源や森林資源を活かした地域振興がしたいという想いが、SDGsへの対応を進める上での原動力になっていると感じています。

恵那の伝統食「発酵食品」が、人口減少問題解決の光に

–人口減少に対しては、どのような取り組みをなさっていますか?

鈴村さん:

恵那市では、「はたらく」「たべる」「くらす」「まなぶ」の4つを、施策の柱として掲げています。

この中で、人口減少に深く関わる施策としては、2021年に「たべる」という柱において策定した「たべる推進計画」があります。恵那市の風土を踏まえて、農産物の地産地消を推進し、伝統文化を継承する視点も取り入れた総合的な取り組みです。

「たべる推進計画」を策定した背景には、農家の減少が挙げられます。人口減少とともに農家の数が減少し、耕作放棄地が増えている問題があるんです。市内で農産物を作る基盤が失われつつあるため、地元のものを「たべる」ことで応援しようという想いがあります。

また、時代とともに地域のつながりが希薄になっていることにも課題意識を感じています。

恵那市は山間地域のため、都市部に比べれば人との関わりは多い方だとは思いますが、それでも家族が一緒にご飯を食べる機会は減少傾向にあります。

食が多様化している現代ではありますが、昔からある恵那の「伝統食」を子ども達に伝えていかなければいけないとも感じています。

–恵那の伝統食には、どのようなものがありますか?

鈴村さん:

恵那市の郷土料理に、保存食として重宝された朴葉寿司や、味噌を使った五平餅があります。また、菊ごぼうの味噌漬けや日本酒、ゆべしなどが有名なことからも、恵那には古くから発酵食品の文化が根付いていることがわかります。

これらの、恵那ならではの伝統食を地域資源ととらえ、その価値を見直すとともに市外の人にもアピールしていきたいと考えています。

菊ごぼうの味噌漬け

今年度から取り組んでいる施策としては、発酵食品ソムリエを育てる「発酵の学校」があります。発酵食品は体によく、海外からも注目を集めていますよね。その発酵についての知識を深めてもらい、発酵食品ソムリエとなった人からさらに普及してもらおうという取り組みです。

「発酵の学校」では、発酵食品ソムリエを養成なさっている東京農業大学の小泉武夫名誉教授が、恵那市のサテライト会場で講演をしてくださっています。発酵食品についての知識を、少しでも多くの市民の方に身につけてほしいなと考えているため、市民が講座を受ける際には受講料の補助もしています。

「発酵の学校」講座の様子

実は恵那にはもともと発酵食品が多かったものの、あまり認知されていなかったんです。運営側の私たち自身も、小泉先生との出会いをきっかけに「発酵食品ってこんなに体にいいものだったんだ。恵那には昔から、たくさんあるじゃないか!」とその価値を再発見したんですよ。

豊かな自然資源を活かした「アウトドアレジャー」で地域活性

–恵那市は自然が豊かで、アウトドアも盛んだと伺いましたが、アウトドアレジャーに関する取り組みも行っているのでしょうか?

鈴村さん:

恵那市の豊富な自然資源を活かし、恵那市と「ジバスクラム恵那」という地域商社が協力して「アウトドアレジャー推進計画」を2021年に策定しました。

コロナ禍で感染リスクを避けられるアウトドア需要の高まりを受け、恵那の豊かな自然資源を活かし地域活性化に繋げられると考えたためです。

もともと恵那市にはキャンプ場が多くあり、2022年にはグランピング施設もできました。

新たにできたグランピング施設

–確かに、コロナ禍になりキャンプ需要が増えましたよね。他にも体験できるアウトドアレジャーはありますか?

鈴村さん:

キャンプの他には、ボルダリングやパラグライダー、ダム湖でのSUPなどもありますよ。

笠置峡ボート・カヌー場は東京オリンピックの際に、ポーランドのカヌーチームにキャンプ地として活用していただきました。また、2022年11月には「FIA世界ラリー選手権 フォーラムエイト・ラリージャパン2022」の開催も予定しています。

SUPやカヌーなどのアクティビティ

現時点の課題としては、訪れていただいたお客様に、いかにして恵那に滞在し、魅力を知っていただくかです。恵那市は名古屋からのアクセスが便利なため、日帰りの方が多いのです。

「ジバスクラム恵那」ともしっかり連携して、さらに魅力的なキャンプ場やグランピング施設を整えることで、観光でいらした方々にゆっくり滞在してほしいと思っています。

恵那市全体で、豊かな自然資源を活用したアウトドアレジャーを盛り上げることで、観光消費が経済効果を生むのではないかと考えています。

恵那の人・産業を魅力いっぱいに育てる「ジバスクラム恵那」

–先ほどお話に出てきた「ジバスクラム恵那」とはどのような団体なのでしょうか?

後藤さん:

「ジバスクラム恵那」は、恵那市と観光協会が共同出資して、2019年に作った地域商社です。「地場」が「スクラム」を組んで、稼げる観光都市を作ろうと設立されました。

ジバスクラムのロゴマーク

シンボルマークの5色は恵那市と観光協会に加えて、商工業、農林業、市民の意味があります。恵那市全体でスクラムを組んで、持続可能な地域づくりに取り組んでいこうという意味です。様々な関係性の方たちが手を取り合うことで、行政では手の届かないようなところを担っています。

2022年にはDMO※を取得し、ますます恵那市の発展に貢献できていけたらと思っています。

DMO

日本語では、観光地域づくり法人。地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた観光地域作りを行う舵取り役となる法人のこと。観光庁がDMO登録制度を取り仕切っている。

参照:観光庁

–ジバスクラム恵那では、どのようなことを行っているのですか。

後藤さん:

ジバスクラム恵那では「販売促進支援」「人材育成」「商品開発支援」の、大きく3つの施策に取り組んでいます。

「販売促進支援」では、恵那駅前のシャッター街の一つであった空きビルを改装して、事務所と店舗を兼ね備えた「AeruSHOP」を2021年にオープンしました。

このショップでは、地元の農産物や加工品をメインで取り扱っています。加工品の中には、規格外の地元野菜などを加工して作ったクッキーなど、独自に開発した商品も並んでいます。

先ほどお話ししたキャンプ場やグランピング施設の宿泊は、AeruSHOPの公式サイトから予約可能です。

AeruSHOP

続いて「人材育成」の観点では、ビジネスセミナーなどのワークショップや勉強会を開催し、地元のビジネススキルの底上げにつなげています。

そして「商品開発支援」では、地元の農産物を「恵那山麓野菜」としてブランド化する取り組みが進んでいます。

ブランド化に伴い、プロの農家が目利きした野菜販売の仕組みもスタートしています。これは、恵那市と隣の中津川市の若手農家が中心となり、特に優れた旬の野菜をお客様にお届けする仕組みです。さらに、味には自信があるけど規格外だったり市場出荷できない完熟の野菜をレトルトなどの加工品として商品化する取り組みも行っています。

自然・文化の豊かな恵那に、誇りと愛着を

–恵那市民のSDGsの認知度や反応については、どのように感じていらっしゃいますか?

後藤さん:

昨年くらいから、SDGsについての認知や意識が高まってきたと感じています。

ロータリークラブ様や小中学校、地元企業などから「SDGsってなに?」というお声をよくいただくようになってきました。昨年からは、ロータリークラブ様が中心となり、地元の小中学校でSDGsについての講演会や発表会を開催しています。また、小泉名誉教授の発酵食についての講演会は、毎回満員になるほど人気があるんですよ。

伝統食を通した「たべる」ことにまつわる施策や、アウトドアレジャー、ジバスクラム恵那を通した取り組みについて、少しずつ認知が広がっているといいなと思っています。

– 最後に、恵那市の今後の展望や目標について教えてください。

後藤さん:

今後は、SDGsの認知を広めるとともに、SDGsを自分事として感じてほしい、恵那市に誇りを持ってほしい、と考えています。

大学進学などで一度都市部に出ていかれた方たちにも「恵那って昔からおもしろいことをしていたな。いいところだったな」と思ってもらえるようにしていきたいですね。

それで帰ってきてくれる人がいれば、なおいいかなと。

これからの取り組みとして、現在検討しているのが「恵那ふうど認証システム」や「恵那ふうどツーリズム」です。

「恵那ふうど認証システム」では、恵那の風土に合ったレストランやお土産品を作っている事業者を認証し、恵那産のものをますますPRし、活用していくことがねらいです。

「恵那ふうどツーリズム」では、食と観光を結び付けた体験ツアーをしたいと思っています。恵那市には棚田百景に選ばれた坂折棚田があるので、田植えや稲刈りの棚田体験ツアーを実施して交流人口を増やしていきたいですね。恵那の魅力を知っていただき、遊びに来たり、移住したりする人を増やしていきたいと思っています。

棚田百景に選ばれた坂折棚田

恵那には豊かな自然資源や伝統的な食文化など、誇れるものがたくさんあります。恵那市の魅力に目を向けて、恵那に興味を持って観光に来てもらったり、移住してくれたりする人が増えるよう、これからも取り組んでいきます。

–本日は、貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

恵那市HP:https://www.city.ena.lg.jp/