#SDGsを知る

グリーン革命とは?必要とされる理由や世界・日本の取り組みも

イメージ画像

地球環境の悪化と気候変動問題は、年を追うごとに深刻化しています。

そんな中、今回紹介するのが『グリーン革命』と呼ばれる概念と、そのもとになった一冊の書籍です。グリーン革命とはどのようなもので、それがなぜいま必要なのか、グリーン革命を推し進めるために国や企業が課せられた使命とは何か。書籍の内容と合わせて考えていきたいと思います。

グリーン革命とは

グリーン革命とは、環境問題・地球温暖化対策と経済成長の両立を目指す世界的、全方位的なアプローチのことをいいます。グリーン革命の他に、「グリーン・ニューディール」という呼び方をされることもあり、ほぼ同義の意味で使われることが多いようです。

具体的には、アメリカを中心とした先進国に価値観の転換を促し、

  • 再生可能エネルギーや環境効率の良い製品を積極的に導入
  • 国・政府は環境税の導入や化石燃料産業への規制強化を強める
  • 世界中が参加してクリーン電力や環境負荷の低い価値観、ライフスタイルを競う
  • 途上国に環境負荷の低いエネルギーの普及や環境教育・啓発
  • 動植物や自然の多様性を保護するための全世界的な取り組み

などを大規模に進めることを「グリーン革命」としています。

「グリーン革命」という言葉はアメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンが2008年に出版した著書『グリーン革命 温暖化、フラット化、人口過密化する世界』(上・下巻)で提唱され、翌2009年には、増補改訂版が出されています。

この本の原題は『Hot, Flat, and Crowded 2.0: Why We Need a Green Revolution–and How It Can Renew America』ですが、この中の「Green Revolution」という言葉が文中でもたびたび使われていることから、日本語版のタイトルになっています。

『グリーン革命』にはどんなことが書かれている?

では、この本の内容をもとに、グリーン革命の背景と内容について見ていきましょう。

フリードマンは、21世紀前後から起きている急激な世界の温暖化フラット化人口過密化によって、5つの重要な問題が起きていると指摘します。その問題とは

  • エネルギー・資源の需給のアンバランス
  • 石油独裁主義
  • 破壊的な気候変動
  • 途上国のエネルギー貧困
  • 生物多様性の破壊

であり、これらの問題をこれ以上放置することは、環境と経済にとって取り返しのつかない最悪な事態を引き起こすとフリードマンは訴えます。

さらに本書の下巻では、こうした危機的な状況を打開するために

  • 環境規制を強化し、グリーン法案を成立させるためのロビー活動
  • 再生可能エネルギーへの転換とインターネットを活用したスマートグリッドの導入を提唱
  • 多様なステークホルダーによる動植物の生物多様性保全

などの必要性が唱えられています。

またフリードマンは、日本の省エネ・エネルギー効率の高い家電や再生可能エネルギー事業や、トップダウンとボトムアップの併用でグリーン革命を推し進めようと国策を転換し始めた中国を例にあげて、アメリカ政府に大胆な政策転換の必要性を迫っています。

原書の副題からも分かる通り、本書は主にアメリカ社会に警鐘を鳴らすものとして書かれています。フリードマンは、大量生産・大量消費と低廉な化石燃料の浪費を続けてきた「アメリカ人」の生活様式が、どれだけ環境と経済に悪影響を与えてきたかを繰り返し批判しています。

さらに将来的に中国やインド・アフリカなど、世界中に「アメリカ人」になりたがる人々が急増することで、地球はもはや取り返しのつかない事態になる、と警告します。

そのために、規制強化も含めたアメリカ政府の根本的な政策転換と、クリーンエネルギー市場の活性化、イノベーションを進める方策を速やかに進めるしかない、というのが本書の主張です。

グリーン革命であげられているクリーン燃料とは

グリーン革命では、クリーン燃料の産業でリーダーシップをとる国、企業が今後の世界経済を牽引するとしています。フリードマンが本書で言及しているクリーン燃料の種類は以下の通りです。

どれをあげても、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料への依存を減らすために、2023年現在でも大規模な普及が急がれるエネルギー源であることに変わりはありません。

最後のCO2分離回収方式発電とは、現在も研究が進むCCS・CCUSと呼ばれるCO2回収・分離技術や貯留技術の一つです。分離したCO2を燃料に変換するクローズドIGCCは、日本でも2030年代の実用化を目指しています。

ただし、上記のクリーン燃料に原子力発電が含まれることに違和感を感じる方も少なくないと思います。執筆当時の2008年はアメリカの世論の6割が原子力発電に肯定的であり、フリードマン自身も化石燃料脱却の立場から原子力発電をクリーン燃料とみなしていることが、本書の記述からもうかがえます。

【関連記事】CCSとは?CCUSとの違い、デメリット・問題点、二酸化炭素回収・貯留の仕組みを解説

グリーン革命が必要とされる理由

前述の通り『グリーン革命』は主にアメリカを対象に、2008年に出版されました。しかしそのことで、「なぜ今さらそんな古い本を?」「それはアメリカだけの話では?」などと言うのは正しくありません。フリードマンが本書で提唱したグリーン革命は当時のオバマ大統領にも強く支持され、現在でも続く「グリーン・ニューディール」にも影響を与えています。

それ以上に、本書の中で危惧されている危機のいくつかはまさに2020年代前半のいま、現実のものになり始めています。

「地球沸騰化」への危機

最も深刻な問題は、毎年確実に上昇していく世界の平均気温です。35℃を超える猛暑日が連日当たり前のように続く今年(2023年)の凄まじい暑さは、温暖化の影響を痛感せずにはいられません。

さらに先日、世界気象機関(WMO)とEUのコペルニクス気候変動サービスは、7月の月間気温が史上最も高くなったとする結果を発表し、研究者たちはその原因として化石燃料使用からの温室効果ガス排出をあげています。

これを受け、国連のグテーレス事務総長は「地球は沸騰化の時代に入った」とコメントしています。

気候変動と自然破壊の深刻化

フリードマンが5つの危機の一つにあげた「破壊的な気候変動」は、深刻な自然災害を起こしています。干ばつや洪水、暴雨風、地滑りなどの気候災害は、2000〜09年に3,536件、2010年〜19年に3,165件を数えるなど、その数は21世紀を境に急増しています。

今では毎年のように、日本国内の豪雨水害やヨーロッパ各地での洪水、アメリカやオーストラリアなどでの山火事などが発生し、甚大な被害をもたらしています。

こうした災害は、開発による無秩序な自然破壊とも無縁ではありません。本書でも、森林や珊瑚礁などの自然と生物多様性の破壊が、深刻な気候変動と災害の引き金になることを警告しています。

中国の急成長

『グリーン革命』が刊行されて15年後の現在、フリードマンの指摘通り、中国やインド、さらには東南アジア諸国は飛躍的な経済成長を遂げました。同時に「アメリカ人」のような生活を望む人々の増加もまたフリードマンが危惧した通りです。

本書の中では、中国がグリーン政策を推し進めてグリーンビジネスでアメリカとの覇を競う将来像に期待が持たれています。しかし近年減少しているとはいえ、現状では中国は依然として世界一のCO2排出国であり、インドも年々少しずつ排出量が増えています。

世界がグリーン革命に成功するか否かは、中国とアメリカが大きく左右すると言っても過言ではありません。

国際情勢とエネルギー不安

本書であげられていた「産油国による石油独裁主義」とは、原油価格の上昇で産油国の独裁的な政権の力が強まり、言論や報道の自由、政府の透明性や法の支配が蝕まれる事態です。

2022年から現在に至る、ロシアによるウクライナ侵攻はこの事実を私たちに突きつけました。世界中がロシアの暴挙とその無法ぶりを非難しつつも、ヨーロッパをはじめ複数の国がロシアからの原油や天然ガスに依存していたため、現在でも不安定なエネルギー供給が続いています。

フリードマンはまた、グリーン革命が進んで化石燃料への需要が減れば価格も下落し、産油国の政治体制も自由化に向かうとしています。中東やロシアの不安定な政情が解消され、紛争や弾圧のない世界が来るのはいつになるのでしょうか。

グリーン革命に関する世界の取り組み

グリーン革命として提唱された取り組みは、現在では世界各国で非常に多くの事例が見られます。

その中から、注目すべき取り組みをいくつか紹介していきます。

事例①オーストリア

オーストリアでは、2017年の連立政権発足を機に脱炭素化を進めるべく、2030年までに国内すべての電力を再生可能エネルギーで賄うための法的枠組みを定めました。

内容としては年10億ユーロを投じ、太陽光、風力、水力、バイオマスの各発電に意欲的な目標を設定するほか、国をあげて「世界一の水素エネルギー国家を目指す」という公約を掲げました。

水素事業には総額5億ユーロを投資し、技術の研究や実用化の支援を進めるほか、

  • 多くの国や企業が参入するグリーン水素生産のパイロットプラントを稼働
  • 5カ所の水素ステーション設置
  • 商用トラックの燃料電池導入とインフラ整備
  • 電車・バスなど公共交通機関への燃料電池車の導入実験

などのプロジェクトが実施されています。

事例②チリ

南米のチリは国土が非常に細長く、南北で大きく異なる気候条件は再生可能エネルギーに適しています。こうした背景からチリでは太陽光発電と風力発電が急速に普及しており、2019年の再生可能エネルギー関連投資額は302%増に上り、隣国ブラジルとグリーン投資で競っています。

チリでもオーストリア同様、水素事業をグリーン戦略の中心に据え、ドイツ企業主体のもとでグリーン水素プラントの創設に乗り出しています。

将来的には、

  • 2040年までに世界トップ3の水素輸出を目指す
  • レジ袋配布禁止、廃プラスチックのリサイクルなどの法整備
  • 電気自動車を含むエコカーの普及

などの政策を打ち出していますが、エコカーの割合が非常に低い、国民の生活コスト上昇が懸念されるなど、解決すべき課題も少なくありません。

事例③イスラエル

複雑な政情と厳しい自然環境を有するイスラエルでは、ベンチャー企業によるグローバルなスタートアップビジネスが盛んです。

グリーン革命の分野でも意欲的な多数の企業が事業を展開しており、

  • 砂漠の反射熱を利用した発電装置
  • IoT対応のソーラーバッテリー内蔵チップの開発
  • 安全かつ短時間での充電を可能にする有機化合物素材電池
  • 安価で自由度の高い車体開発を可能にする、規格化されたEV専用シャーシ

など、太陽光発電やEVでのユニークな製品を作り出す企業が世界中で活躍しています。

グリーン革命に関する日本の取り組み

『グリーン革命』の中で、日本は極めて優れた環境対策と生活様式を実践しているとされています。

その後15年経った現在、日本ではどれだけグリーン革命を前進させるような取り組みがなされているのでしょうか。

事例①TGオクトパスエナジー

同社は、2020年に東京ガスと英国の老舗エネルギー企業オクトパスエナジーが提携して設立した合弁会社です。この会社では、日本でいまだ低迷している再生可能エネルギーや再エネ電源由来のエネルギーを普及させるための新しいサービスを導入します。

具体的には、AIを活用した自社開発プラットフォーム「クラーケン」の導入や、クラウドベースのスマートな料金プラン非化石証書の購入などで、よりクリーンエネルギーを広めるための課題解決に挑む姿勢を見せています。

事例②神奈川県川崎市

四大工業地帯の一角を占めている川崎市は、公害の克服を機に環境技術に注力し、クリーンなエネルギーを活用する街へと転換してきました。川崎市は長年にわたる環境技術の蓄積をもとにグリーン革命を進めており、

  • CC かわさきエネルギーパーク:大規模な太陽光、風力発電所などの環境エネルギー施設群と市内にある多様な施設をネットワーク化して、市内全域をエネルギーパークにする
  • キングスカイフロント:ライフサイエンスと環境分野の世界最高水準の研究機関を集め、革新的な産業創出の拠点を構築

といった取り組みを行っています。

これらをさらに発展させるべく、「川崎市グリーンイノベーション推進方針」が策定され、企業やNPO、大学、行政など多機関の協業による、国内外への先端的な環境エネルギー技術の発信や、産業振興などを推進しています。

グリーン・テクノロジー株式ファンドも登場

グリーン革命を進めるためには、政府や自治体の後押しによるクリーンエネルギーへの大々的な投資も不可欠です。同時に、再生可能エネルギーや脱炭素事業を展開する企業は世界中に無数に存在します。こうしたグリーン・テクノロジー関連企業に特化した投資ファンドも、国内の金融機関で扱われるようになっています。

国内の主なグリーン・テクノロジー株式ファンド

  • グリーン・テクノロジー株式ファンド(三菱UFJ国際投信)
  • 野村・グリーン・テクノロジー・ファンド(野村アセットマネジメント)
  • クリーンテック株式ファンド(三井住友信託銀行:販売/大和アセットマネジメント:運用)
  • 脱炭素テクノロジー株式ファンド(大和アセットマネジメント)

グリーン・テクノロジーとは

これらの銘柄で取り上げられているグリーン・テクノロジーとは、脱炭素社会を実現させるために必要なあらゆる分野・技術のことを言います。

グリーン・テクノロジーとしてあげられている分野には以下のようなものがあります。

  • 再生可能エネルギー:太陽光発電/風力発電/水素技術など
  • エネルギー効率化:EV/ゼロエミッションハウス/スマートグリッドなど
  • 環境汚染防止技術:排水処理技術/省水化システムなど
  • 廃棄物処理や資源の有効利用技術:バイオマス発電/再生プラスチックなど新素材の開発
  • 持続可能な食糧供給技術:スマート農業/次世代飼料・食品の開発など

グリーン革命とSDGs

『グリーン革命』刊行当時、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉も概念もまだ存在していませんでした。しかし、本書の内容を読むと、解決すべきものとしてあげられている5つの問題が、とても広範な分野においてSDGsの目標と合致していることがわかります。



エネルギー・資源の需給のアンバランス
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
目標10「人や国の不平等をなくそう」
石油独裁主義目標16「平和と公平をすべての人に」


破壊的な気候変動
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
目標13「気候変動に具体的な対策を」

途上国のエネルギー貧困
目標1「貧困をなくそう」
目標10「人や国の不平等をなくそう」


生物多様性の破壊
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標14「海の豊かさを守ろう」
目標15「陸の豊かさも守ろう」

>>各目標に関して詳しくまとめた記事はこちらから

まとめ

『グリーン革命』は、その優れた見識と世界各地で得た経験により、来るべき未来に警鐘を鳴らしました。フリードマンが当時提唱していた「温暖化、フラット化、人口過密化」によって起こる5つの問題は、15年が経った現在も私たちの社会と生活を取り巻く問題に直結しています。

つまり、私たちはいまだ本書に書かれていることを実現できていないのです。

当時から見た現在の世界はどれほど前進しているのか。グリーン革命実現にはあとどれだけの道のりが必要なのか。私たちの現在の立ち位置を知り、前に進むための指標として『グリーン革命』は多くの人々に読み返されるべき一作と言えるでしょう。

参考文献・資料
グリーン革命 : 温暖化、フラット化、人口過密化する世界 / トーマス・フリードマン著 ; 伏見威蕃訳 ; 上・下. — 増補改訂版. — 日本経済新聞出版社.2010.
特集 スマートシティ 40兆ドルの都市創造産業 『グリーン革命』の著者が語る:「東京人」を模範に|日経ビジネス = Nikkei business (1556) 38-41, 2010-09-06 (nikkeibp.co.jp)
CO 分離・回収技術の概要 – NEDO
米国における原子力発電に対する世論の考察;大磯眞一|原子力安全システム研究所
史上最も暑い7月か 国連総長は「地球沸騰化」とコメント 日米で猛暑連続記録|ウェザーニュース
7月は史上最も暑い月に 国連総長は「沸騰化の時代」と警告 – BBC
2022年に世界で起きた異常気象を振り返る。原因は地球温暖化?私たちの暮らしにある?| 日本財団ジャーナル
WMO ATLAS OF MORTALITY AND ECONOMIC LOSSES FROM WEATHER, CLIMATE AND WATER EXTREMES (1970–2019)| E-Library – World Meteorological Organization |
一緒に考えよう、気候変動のこと | つながる世界と日本 – JICA
我が国グリーンテクノロジーの開発と国内外普及における新潮流|公益財団法人 アジア成長研究所
世界一の水素大国を目指すオーストリア – 海外ビジネス情報 – ジェトロ
チリで高まるグリーン成長への期待 – 特集 – 地域・分析レポート|ジェトロ
グリーン成長分野でも、スタートアップはボーン・グローバル(イスラエル)|ジェトロ
グリーン革命に加速を。次の舞台は日本! (octopusenergy.co.jp)
グリーン・テクノロジー株式ファンド(為替ヘッジなし)|投資信託なら三菱UFJ国際投信
野村アセットマネジメント
みらいEarth S クリーンテック株式ファンド|三井住友信託銀行
【特集】脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)|大和アセットマネジメント