国土が広いオーストラリアでは、飛行機だけでなく長距離バスも高頻度で使用されています。
緑と白のロゴが目印のMurraysは、オーストラリア東部の路線を中心に発着している長距離バス会社です。
観光、ビジネス、帰省といったさまざまな目的で多くの人々が利用していますが、Murraysでは環境問題を解決するために多方面からのアプローチも行っています。
この記事では、Murraysが実際に取り組む環境保全について解説していきます。
目次
Murraysの運営について
Murrays Coaches(マレーズコーチーズ)は、オーストラリアの長距離バス会社です。
1950年代にスクールバス運営会社としてスタートし、1966年に現在の長距離専用のバスサービスへの運営変更を行いました。
日本の約20倍の国土を持つオーストラリアでは、主流な移動手段のひとつとして飛行機が挙げられます。
しかし、飛行機の路線は主に都市部を中心に就航しており、郊外や田舎エリアでは空港からさらに長距離移動しなければならなかったり、空港からのアクセスが悪かったりなどの問題もあります。
郊外や田舎エリアが発着地となっている場合、最も手軽な移動手段が長距離バスです。
Murraysはオーストラリアの東部を幅広くカバーしている長距離バス会社で、メルボルン、シドニー、ゴールドコーストといった都市部はもちろん、ニューサウスウェールズ州南部、キャンベラ、クイーンズランド州中央部などの郊外や田舎エリアにも発着しています。
郊外から出張で都市部へ行く人々や、都市部で暮らしている人々が田舎エリアへ帰省する際などに活用されており、オーストラリアで欠かせない移動手段のひとつとなっています。
Murraysが懸念していた環境負荷とは?
国土が広いオーストラリアでは、長距離バスの走行距離も長くなりやすい傾向にあります。
州を跨ぐ路線もあり、長距離バスの本数も多いことから、Murraysは二酸化炭素の排出量による環境負荷を懸念していました。
オーストラリアでは長距離バスの燃料にディーゼルが選ばれることが一般的ですが、ディーゼルバスは1.35 kg/kmの二酸化炭素を排出すると言われています。
例として、Murraysの路線のひとつであるクイーンズランド州のブリスベン(Brisbane)からチンチラ(Chinchilla)までは走行距離が約290kmとなっており、1度の走行につき約391kgの二酸化炭素を排出していることになります。
スギの木1本が1年間に吸収する二酸化炭素の量が約14kgなので、約27本分のスギの木の年間吸収量に匹敵する計算です。
Murraysが行っているエコ活動
世間の環境問題への関心が高まっていることを受けて、Murraysでも二酸化炭素の排出量削減をはじめとするサスティナブルなビジネスへの道を模索しています。
ここでは、Murraysがいち早く環境負荷の低減を目指すために行っている環境保全活動の具体例について見ていきましょう。
バイオディーゼル車両・bio-busの導入
2022年、Murraysはスウェーデンの大手メーカーであるScania社のバイオディーゼル車両・bio-busを5台導入しました。
バイオディーゼル車両の導入は試験的に行われた取り組みで、5台の車両は2024年5月時点でクイーンズランド州内にて使われています。
バイオディーゼル車両は従来の車両と同等の耐久性や持続性を兼ね備えているにもかかわらず、二酸化炭素の排出量削減率は80%以上です。
Scania社とMurraysはゼロエミッションのパートナー提携をしており、試験的なバイオディーゼル車両の使用はMurraysがエコな車両の導入を促進する上で重要なステップとなっています。
また、バイオディーゼル車両に使われている燃料は、B100バイオディーゼルと呼ばれるエコな燃料です。
石油ディーゼルと比較して74%の二酸化炭素排出量を削減するため、長期的に見て環境メリットが大きいと高い評価を受けています。
尚、バイオディーゼル車両が使われている路線は、ブリスベンから郊外のトゥーンバ(Toowoomba)やチンチラ、セントジョージ(St George)からカナムラ(Cunnamulla)などです。
特に走行距離が長いチンチラでは耐久性の高い複合パネルとステンレス鋼フレームが搭載されており、長期的に使用できる持続可能性の高さも兼ね備えています。
現在は試験的に導入しているバイオディーゼル車両ですが、今後はほかの路線でも本格的に採用していく予定です。
低排出ガスエンジン付きの車両の購入
Murraysはバイオディーゼル車両を試験的に使用する一方で、70台の低排出ガスエンジン付きの車両も購入しました。
バイオディーゼル車両の試験が完了するまでには一定の期間がかかるため、エコな車両を並行して使用することで本格的な導入が決定するまでの間も環境負荷を低減できると考えています。
購入費のコストはかかるものの、サスティナブルな車両を複数採用することによって多方面から環境問題へのアプローチを行っているのです。
車両や備品のリサイクル
大型バスを保有するMurraysでは、タイヤや自動車部品といった大型の廃棄物が日々発生しています。
そこで、車両や備品のリサイクル率を高めるために、Murraysでは倉庫や作業エリアの改善を行いました。
古いタンクの安全な撤去のほか、廃油、バッテリー、タイヤ、エアコン、その他の自動車部品の適切なリサイクルも実施しています。
オフィスやチケット販売エリアの電子機器の見直し
Murraysでは、オフィスやチケットを販売するキオスク内で使用する電子機器の見直しを行っています。
従来はコストパフォーマンスの良し悪しを重視して電子機器を選んでいたものの、近年では省エネ効果や節電性にも注目している点がポイントです。
実際にMurraysでは全ての機器を最新の省エネモデルにアップグレードしており、エネルギー消費量を最大で90%も削減することに成功しました。
バスの洗浄に関するエコな取り組み
Murraysでは、自社が保有するバスに対してコーチウォッシュと呼ばれる車体の清掃を行っています。
オーストラリア郊外は補正されていない道も多いほか、Murraysのバスは長距離を走る頻度も非常に高いため、以前は洗浄力に優れた化学薬品などを清掃に使用していました。
しかし、化学薬品による水質・土壌汚染のリスクを考えて、現在では地域、下水道、雨水規制にすべて準拠した環境に優しい製品を採用しています。
車体の洗浄後の排水なども定期的に検査し、汚染レベルの規制を超えていないかも自社で確認しています。
また、大型バスの洗浄には大量の水を消費するため、Murraysは清掃用の水を貯めるための大型雨水タンクを導入しました。
大型雨水タンクはバスステーション各所に設置されており、限りある資源である水の節約に努めています。
尚、車内の清掃でも環境に優しい掃除用品を使うことで、環境への悪影響を最小限に抑えているのが特徴です。
電子機器のリサイクル
省エネ効果の向上などを目的に電子機器を新しく購入する際、Murraysは不要になった電子機器を廃棄ではなくリサイクルしています。
これまで使っていた電子機器は従業員に配布されるか電子機器リサイクル会社に引き渡すかの二択となっており、電子廃棄物の発生はもちろん、処理の際に伴う汚染リスク軽減にも繋がっています。
エコな照明システムの完備
Murraysでは、オフィスやバスのチケットを販売するキオスク内にてセクションライトシステムを導入しました。
セクションライトシステムとは、過剰に照明が使用されているエリアを突き止めるためのシステムのことで、照明の使用の監視によって地球温暖化防止対策を強化できます。
また、従業員にも不必要な電力消費を抑えるように教育しており、使用していない電子機器をこまめに消すなどの意識改革に力を入れています。
まとめ
環境負荷が大きくなりがちな長距離バスですが、Murraysではエコな車両の導入によって長期的な視点での環境問題解決を試みています。
また、リサイクル促進や資源の節約にも配慮することで、自社の環境への悪影響を最小限に抑えています。
今はまだ5台のバイオディーゼル車両しか保有していないMurraysですが、全てのバスがバイオディーゼル車両になる日も近いかもしれませんね。