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水平リサイクルとは?メリット・デメリット、課題を例を交えて解説

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日本人になじみの深い言葉の一つであるリサイクル。その中で、今までのリサイクルよりも一歩進んだ水平リサイクルが今後のトレンドになるかもしれません。

では、水平リサイクルとは一体どのようなリサイクルなのでしょうか。

今回は水平リサイクルの概要や仕組み、注目される理由、メリット・デメリット、SDGs目標11の「つくる責任 つかう責任」との関連について解説します。

水平リサイクルとは

水平リサイクルとは、使用済み製品を原料として用いて、再び同じ種類の製品を製造するリサイクルのことです。*1)

【水平リサイクルのイメージ】

水平リサイクルの具体例としてペットボトルが挙げられます。使用済みとなり回収されたペットボトルはリサイクル工場で加工可能な状態にしたあと、あらたなペットボトルの原料として再生されています。

ボトルtoボトルとも

ボトルtoボトルはペットボトルの水平リサイクルを示す語句で、食品用の使用済みペットボトルを原料として新たに食品用ペットボトルに再利用することです。同じペットボトルを再利用するリユースはボトルtoボトルに含まれません。*3)

近年、飲料メーカー各社はボトルtoボトルを積極的に進めています。たとえば、大手飲料メーカーのサントリーは国内飲料業界初のペットボトルの水平リサイクルを実現しました。

【サントリーが推奨するボトルtoボトルの考え方】

サントリーが推奨するボトルtoボトルの考え方
出典:サントリー*4)

つまり、使用済みペットボトルを新しいペットボトルに生まれ変わらせることで、半永久的に循環させることを狙っているのです。

水平リサイクルの仕組み

水平リサイクルを実現するには、どのようにして廃棄物を再資源化するか知る必要があります。ここでは、代表的な手法であるケミカルリサイクルメカニカルリサイクルについて解説します。

ケミカルリサイクルについて

ケミカルリサイクルとは、廃ペットボトルのような使用済みの製品を化学的な手法で化学原料に戻し、新たな製品の原料として再利用することで、化学的再生法といいます。*5)

【ケミカルリサイクルのプロセス】

上の図は少し複雑に見えますが、簡単に言えば使用済みのペットボトルを粉砕し、化学薬品を混ぜて純度の高いBHETに変化させて再利用できる状態にしています。BEHTとはペットボトルの原料物質のことです。つまり、使用済みペットボトルを化学的に処理して原料に戻し、あらたなペットボトルを製造してるのです。

ケミカルリサイクルには、限りある資源を有効に使えることやCO2の排出量削減といったメリットがありますが、設備投資に多額の資金が必要であり、コストが高くなるという弱点があります。*7)

メカニカルリサイクルについて

メカニカルリサイクルとは、使用済みのプラスチック製品を回収、選別、破砕、洗浄して表面の汚れや異物を取り除いた後、高温で汚染物質を拡散させ除染する手法で、物理的再生法といいます。*8)マテリアルリサイクルとよばれますが、ヨーロッパではメカニカルリサイクルともよばれています。*9)

大規模プラントが必要なケミカルリサイクルに比べ、コスト面で優位であることから広く採用されているリサイクル方式です。

【関連記事】ケミカルリサイクルとは?メリットや問題点、企業の取り組み具体例を解説

水平リサイクルがなぜ注目されているの

ではなぜ、水平リサイクルという考えに注目が集まっているのでしょうか。その理由は、資源の長期循環と深くかかわっています。

資源の長期循環に役立つから

環境省は、いわゆる『環境白書』においてサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を推進しています。

【サーキュラーエコノミー】

サーキュラーエコノミー
出典:環境省*11)

これまでの経済は原材料を製品化し、利用した後は廃棄するという一方通行の流れでした。これを、リニアエコノミー(線形経済)と呼びます。対して、原材料から作った製品を利用したものをリサイクルし、資源を再利用する経済をサーキュラーエコノミーといいます。*11)

経済活動の中で生み出された廃棄物は、地球環境に大きな負荷をかけてきました。日本でも明治時代から昭和の高度経済成長期まで、全国各地で公害が発生したり、ごみが不法投棄されたりしています。それに付随して、プラスチックごみの海洋汚染は世界的な問題となっています。

とはいえ、日本ではリサイクルが進んでいると耳にしたことがある方も多いと思います。

高いリサイクル率の裏側

【ペットボトルのリサイクル率】

上の図からもわかるように、確かに日本のペットボトルリサイクル率は2021年度で86.0%に達しています。しかしその多くは、ペットボトル以外の製品へのリサイクルです。これは、焼却した際に得られる熱エネルギーを利用することも含まれており、すべてが一般的にイメージする「別の製品に生まれ変わる」リサイクルではないのです。

リサイクルを推進することで、ある程度は環境負荷の軽減ができています。それでも、リサイクルできないものは焼却されたり、埋め立てられたりしています。水平リサイクルを推進し、使用済みの製品を同じものに生まれ変わらせることで、焼却や埋め立てに回されるごみの量が減るのではないかと期待されるのです。

そこで政府は、ペットボトルに再生される比率を、2050年までに50%に引き上げることを目指しています。(2021年時点で20.3%)

この目標を達成するためにも、今後、水平リサイクルの動きは加速していくと予想されています。

【関連記事】

日本のリサイクルの現状と先進国ドイツの取組事例を紹介|生まれ変わって何になる?

サーキュラーエコノミーとは?企業の取り組み事例や課題を解説

水平リサイクルのメリット

水平リサイクルのメリットについて、もう少し踏み込んで見ていきましょう。

ここで注目したいのが、資源の節約やCO2排出量の削減です。

資源の節約

水平リサイクルのメリットは、何度も同じ製品に作り直せることで、資源を長い間、循環させられることにあります。これは、資源小国といってもよい日本にとって大きなメリットです。

2021年にはじまったウクライナでの戦争は世界のサプライチェーンに大きなダメージを与えました。

サプライチェーン

原料調達に始まり、製造、在庫管理、物流、販売などを通じて消費者の手元に届く一連の流れ

*12)

戦争は物流に大きな影響を与え、世界的なインフレの原因の一つとなりました。これまでのように、海外の安い製品や資源を購入するのが難しくなる可能性が出てきているのです。これに加え、2021年は記録的な円安が進みました。こうした事情は日本の原料輸入コストを押し上げています

価格上昇は石油や天然ガス、食料品まであらゆる分野に及んでいます。リサイクル率を上げることは原材料の海外依存を減らすうえでも取り組むべき課題の一つと言えるでしょう。

環境負荷の軽減

環境負荷の軽減も水平リサイクルのメリットです。特に期待できるのがCO2の排出削減です。

【ペットボトルに使用するPET樹脂のCO2排出量比較】

ペットボトルに使用するPET樹脂のCO2排出量比較
出典:協栄産業*13)

リサイクル事業を展開する協栄産業の例でいえば、原油を精製してペットボトルを作るときに発生するCO2の排出量は1kgあたり1.577kgであるのに対し、水平リサイクルでペットボトルを生産すると排出量を0.583kgまで削減できます。削減率は63%で、CO2の排出を大きく削減できています。*13) 

また、ペットボトルに限らず水平リサイクルが進めば、ごみの量をより減らせるため、海洋プラスチックごみ問題解決の一つの方法になるかもしれません。

水平リサイクルのデメリット・問題点・課題

リサイクルを推進し、サーキュラーエコノミーを実現するうえで水平リサイクルはとても有効な手法であることがわかりました。しかし、リサイクル全体の中でみると水平リサイクルの割合は低い水準にとどまっています。

水平リサイクル率が低い

繰り返しになりますが、日本は世界的に見るとペットボトルリサイクルが進んでいる国です。

【 日米欧のPETボトルリサイクル率の推移】

ヨーロッパが40%前後、アメリカが20%前後にとどまっているのに比べ、日本は86%と非常に高いリサイクル率を達成しています。しかし、水平リサイクルに限定すると、まだまだ、改善の余地があります。

【水平リサイクルされているペットボトルの量と割合】

2010年に比べると、再生PET樹脂(水平リサイクルされたプラスチック)は6倍になっていますし、年々、利用料が増加しているのは事実です。しかし、割合は20.3%に過ぎません

日本における水平リサイクル率が低い要因は以下の2点です。

  • 回収コストがかかる
  • 異物が混ざる

リサイクルには、ゴミ収集のための人件費や収集車の燃費、自治体とゴミ収集業者の契約費用などのコストがかかります。一般的なリサイクルでも費用がかかることは同じですが、純度が高いプラスチックを得るためには異物を徹底して取り除かなければなりません。

そうなると、水平リサイクル以外のリサイクルの方が低コストで済みます。つまり、水平リサイクルは、コスト、手間がかかることで効率的に進めにくい現状があるのです。今後の普及率は、新技術の開発や地域住民の仕分け協力などが得られ、コストを下げられるかどうかにかかっています。

出典:PETボトルリサイクル推進協議会*2)

ペットボトル以外の水平リサイクル例

ここまでは、ペットボトルの水平リサイクルを中心に解説してきました。ペットボトルで再生リサイクルが進むのは、原材料がほぼ単一だからです。その中で最近は、ペットボトル以外の製品の水平リサイクルも進んでいます。

紙おむつの水平リサイクル

大手衛生用品メーカーのユニ・チャームは紙おむつのリサイクルを進めています。

【紙おむつリサイクルのイメージ】

紙おむつリサイクルのイメージ
出典:ユニ・チャーム*14)

従来、紙おむつはリサイクルの対象として不向きと考えられてきました。紙おむつが複数の素材で作られていることや、衛生面の問題があると考えられていたからです。再利用するには、これらの問題をクリアする必要がありました。*14)

そこでユニ・チャームは、協力してくれる自治体に紙おむつの分別回収の徹底を依頼すると同時に、分別技術と洗浄技術の両方を確立。素材ごとに分類して選り分け、汚れやにおいが残っている素材の処理を行えるようになりました。そして、低質パルプにはオゾン処理を、低質SAPには酸を使った特別の再生化処理を行い、両方とも紙おむつとして利用可能な状態まできれいにすることに成功しました。*14)

水平リサイクルとSDGs

最後に水平リサイクルとSDGsの関係を確認しましょう。水平リサイクルを推進することは、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」と関わりが深いテーマです。

目標12「つくる責任 つかう責任」との関わり

SDGs目標12では11のターゲットが設定されています。その内容は、少ない資源で効率よく生産することや廃棄物の悪影響を減らすこと、廃棄物そのものを削減することなどです。*15)

企業には製造物に対する責任を求め、消費者には商品を使った後の廃棄に責任を持つことを求めています

水平リサイクルは企業や自治体の努力だけでは実現できません。ごみの分別を徹底する消費者一人ひとりの協力が必須です。水平リサイクルの推進により、CO2の排出削減や資源の枯渇への対応が可能となります。

【関連記事】SDGs12「つくる責任つかう責任」|日本の現状と取り組み、問題点、私たちにできること

まとめ

今回は水平リサイクルについてまとめました。日本はペットボトルのリサイクルに関してかなり先進的な国です。その中で、水平リサイクルは現在のリサイクルよりも1段レベルが高いものだといえます。

水平リサイクルはCO2の排出削減や海洋プラスチックごみの削減といった環境対策としての側面だけではなく、資源確保の面でも重要です。これまでのように、資源を海外から輸入するのは困難になるかもしれません。国内で活用できる資源をリサイクルする技術の確立は急務といえるでしょう。

水平リサイクルは、環境保護と資源の活用を両立させる画期的な技術として、今後の発展が期待されます。

<参考>
*1)環境省「○.物質循環の確保と循環型社会の構築のための取組 重点検討項目①:循環分野における環境
*2)PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルリサイクル 年次報告書2022
*3)PETボトルリサイクル推進協議会「ボトルtoボトル|もっと詳しく知る
*4)サントリー「容器包装の3R
*5)PETボトルリサイクル推進協議会「1.ケミカルリサイクル(化学的再生法)
*6)資源・リサイクル促進センター「ケミカルリサイクルによる PETボトルの循環利用
*7)Spaceship Earth「ケミカルリサイクルとは?メリットや問題点、企業の取り組み具体例を解説
*8)PETボトルリサイクル推進協議会「2.メカニカルリサイクル(物理的再生法)
*9)塩ビ工業・環境協会「リサイクルについて
*10)サントリー「パッケージ サントリーのエコ活 サントリー
*11)環境省「環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第2節 循環経済への移行
*12)SMBC日興証券「サプライチェーン
*13)協栄産業「カーボンニュートラル
*14)ユニ・チャーム「研究ノート① ユニ・チャームが実現した紙おむつの循環型リサイクル
*15)Spaceship Earth「SDGs12「つくる責任つかう責任」|日本の現状と取り組み、問題点、私たちにできること – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』