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【2024最新】今でも地雷が埋まっている国は?除去に関する取り組みも

イメージ画像

カンボジアでは、郊外の観光名所に行く道の脇の木に、「地雷多し!ここから先には入らないで!」を表す赤いリボンや紐、ボードがあちこちに見られます。せせらぎが綺麗だという観光名所へ行く道に、そのような印が見られることにゾクっとしたことを覚えています。

戦車やロケット弾でもない小さな兵器である地雷が「悪魔の兵器」と呼ばれています。埋まっている現状も深刻です。しかし難しい除去に取り組む団体もあります。地雷の埋まっているの現状やその除去ついて知り、私たちには何ができるか一緒に考えていきましょう。

地雷とは

地雷とは、地面の浅いところに埋める、もしくは地表に置かれて、人や車が乗ったり触れたりすると爆発する小さな兵器です。「悪魔の兵器」、それが地雷の別名です。

なぜそのように呼ばれるのでしょう。まずその目的と特徴を整理していきましょう。

地雷の目的

地雷は、ひとを殺すのではなく大けがを負わせることを目的に作られています。

地雷の被害者は酷い姿になり、その時の痛みばかりでなく、後遺症も一生残って苦しみます。家族や社会へのダメージも大きく、戦場で兵士が被害にあえば、部隊にも大きな負担がかかります。また、大けがに苦しむ被害者の姿は、周囲の人々の恐怖をあおり戦意を喪失させるのに絶大な効果をもたらすでしょう。

地雷の特徴

地雷は主に4つの特徴を持っています。

  • 残虐性
  • 残存性
  • 無差別性
  • 低製造費

少し詳しく説明しましょう。

残虐性

前述した目的を知るだけで残虐性の大きいことが分かると思います。

大人は主に下半身に爆発破片が命中します。しかしまだ小さい子どもは、全身に被害を受けてしまいます。中には子どもがおもちゃと見間違うような形状のものもあり「悪魔のおもちゃ」とも呼ばれています。

残存性

次は「残存性」です。

1度埋められた地雷は、爆発するか取り除かない限り、数十年から100年もの長い間危険を残したままひそんでいます。

その土地に1個でも残っている可能性があれば、戦争が終わってもその地域では安心して暮らせなくなります。しかし他に生活するところがなく、地雷原とわかっていてもそこで生きるしかない人々もいます。

無差別性

3つ目は「無差別性」です。

地雷は、子どもであろうが、高齢者であろうが、男女も関係なく、兵士か民間人かも無関係に必要な重さがかかれば爆発します。

低製造費

地雷は、種類にも寄りますが、数百円から1,000円程度で製造できます。多くは金属やプラスチックで造られますが、木片や廃材でも造ることもできます。

安く造れるということは、貧しい国でも大量に造れ、使われてしまうのです。

地雷の種類と特徴

現在世界に存在する地雷は、数百種類と言われています。一部の代表的なものをご紹介しましょう。

対象形状性能等の特徴
対戦車対戦車地雷150kg以上の圧力で爆発する。人が踏んだくらいでは爆発しないが、車両や戦車をも破壊する威力を持つ。
対人
対人爆風(爆破)型地雷5〜15cmのものが多い。構造が簡単で大量生産しやすい。プラスチック製(画像右)のものもあり、金属探知機に反応しにくい。
<跳躍型>    <指向型>ワイヤー型地雷ワイヤーを使って仕掛け、引っ掛かると爆発する。主に3種類ある。
破砕型:地中に埋めずに物陰などに隠して置き、爆発で地雷本体が破片となって飛び散る。
跳躍型:本体の一部を地面にさしてあるもの。ワイヤーに引っかかると本体が跳ね上がり、空中で爆発する。
指向型:地表や期の幹などに設置して仕掛ける。遠隔操作で爆発させることも可能。
散布型空中からばらまかれる。小さくて目立たず「蝶々」「緑のオウム」などと呼ばれたこともある。子供が拾い上げ被害にあうことも多く、「悪魔のおもちゃ」と言われる。

画像出典・引用:地雷について|コンテンツ訴求エリア|日本赤十字社 東京都支部/及び地雷の基礎知識(2023年版) | 国際交流NGOピースボート
表は筆者作成

地雷の現状

2024年3月時点で確認できる最新の情報は、2023年のものです。その数年前からも含めて、可能な限り最新の資料をもとに現状をみていきましょう。

2024年時点で地雷が埋まっている国

今世界中には、5,000万近い貯蔵対人地雷があると考えられています。上の地図に見られるように、地雷が埋まっているまたはその疑いがある国は、67の国・地域に及んでいます。その多くがアジアとアフリカにあります。

中でも地雷に汚染されている面積が大きいのは次の国々です。

地雷汚染地域面積
イラク1,207 ㎢
ボスニアヘルツェゴビナ1,113 ㎢ 
エチオピア1,056 ㎢
カンボジア890 ㎢
タイ360 ㎢

他に汚染地域が100㎢以上あるとされている国・地域は、アプガニスタン、クロアチア、トルコ、ウクライナ、イエメンなどです。

参照:対人地雷とは(NPO法人地雷廃絶日本キャンペーン:JCBL;Japan Campaign to Ban Landmines)/地雷の基礎知識(2023年版) | 国際交流NGOピースボート
表は筆者作成

地雷の被害者数

被害者の数もみていきましょう。

2021年の1年間に報告された被害者の数は、全地域で5,544人に上ります。ピーク時に比べると減少傾向にありますが、報告されていない犠牲者も多くいると考えられます。

正確につかみにくい実態

実は2022年以降、埋まっている地雷の数も被害者数も正確にはつかめていません。その理由は主に2つあります。

①オタワ条約の締約・非締約

オタワ条約とは対人地雷禁止条約(正式名:対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約)のことで、1997年オタワで締約されました。この条約の成立に尽力したICBLInternational Campaign to Ban Landmine;地雷廃絶国際キャンペーン;NGO)はその年のノーベル平和賞を受賞しています。

2023年時点で、締約国は164の国に上っています。ほとんどの締約国は実態を報告していますが、非締約国にはその義務がないため、正確な実態をつかみにくくなっているのです。

非締約国の中には、自主的に報告をしている国もありますが、米国、ロシアを始め、キューバ、エジプト、インド、イラン、イスラエル、ミャンマー、パキスタン、韓国、シリアの11か国は不参加です。

②止まない紛争

ロシアのウクライナ侵攻、シリアやアフガニスタン情勢、パレスチナ・イスラエル戦争等、今も世界各地で紛争が続いています。

安価で製造できる地雷は、今も多くの紛争で使われています。また、紛争が終わって直接の犠牲者数は減っても、地雷は爆発または除去されない限り残ります。

もし今行われている紛争の地雷埋没数や犠牲者数が正確に集計されてきたら、かなり大きい数値になるかもしれません。

参考:数字で見る地雷問題の今【世界編】/ AAR(Association for Aid  and Relief)Japan[難民を助ける会]/地雷・クラスター爆弾問題Q&A(JCBL)

地雷除去に関する取り組み

わずか数百円でつくれる地雷ですが、その処理にはその100倍もの費用がかかると言われています。また、除去するには大きな危険も伴います。

しかし、多くの団体や国が地雷被害をなくそうと動いています。この章では、その取り組みについてお話ししていきます。

地雷対策支援グループ MAG

MAGMines Advisory Group)はイギリスに本部を置く世界的な地雷除去団体です。

地雷の除去には、現地の情報収集から始まり、埋まっていると思われる一体の潅木を取り除き、安全に撤去するという一連の作業が必要です。MAGは、それぞれの行程に専門の知識・技能を持つ専門家を採用し、地元の支援グループや住民と協力して除去活動を行っています。

特に地雷被害者を雇用し、教育・訓練してチームを組織しています。これは、地元住民の知識・経験を生かし人件費を抑えるメリットと、他に仕事を見つけることが難しい地雷被害者とその家族を助けるというメリットの両方を持っています。

また現地の子ども達を対象にした教育プログラムも展開しています。

この他にもNGOやNPO団体があり、協力したり支援をしあったり、国連と連携したりして活動しています。

参考:MAG/カンボジア地雷問題の現状とテラ・ルネッサンス支援活動/地雷の怖さや対処を教育<カンボジア(ユニセフ)

技術・技能で支援:日本の地雷探査機・除去機

地雷探査や除去には、正確かつ迅速に地雷を識別し除去する技能・機材が必要です。従来の金属探知機では、金属製のもの全部に反応してしまい、プラスチックや木製のものには反応しません。

地雷探知機 ALIS

東北大学の佐藤源之助教授が開発したALIS(エーリス;Advanced Landmine Imaging Sistem)は、金属探知機地中レーダーを組み合わせた地雷探知機です。レーダーで映像化できるので形状を目で確かめることができ、迅速で効率的な判別ができます。

2023年にはウクライナに供与されました。

日建の地雷除去機

地雷除去は大きな危険が伴います。現在のところ最も安全で効率的と言われているのが、山梨県を中心に事業を展開している株式会社日建の油圧式ショベル型地雷除去機です。

この地雷除去機は、まず地雷を見つけやすくするために潅木や岩を処理します。そして高速カッターで地雷を粉砕して爆破させます。仕上げに、画像右側のリッパーと呼ばれる部分で土地を耕します。

いくつかの型がありますが、稼働する地雷原の環境に合わせてカスタマイズされ、手作業に比べて20〜100倍のスピードで処理することができます。

地雷探知犬:ハチ公のライバル?

繰り返しになりますが、地雷除去には多額の費用が必要です。大がかりな伐採や整地をしないと入っていけない汚染地域もあります。そんな地域で活躍しているのが地雷を探す地雷探知犬です。

地雷探知に犬を使うのは、費用の面ばかりではありません。

  • 並外れた嗅覚:金属だけでなく、火薬の匂いを嗅ぎ分けることができます。
  • 軽い体重:人間は犬より重いだけでなく、装置や機材を持たなくてはなりません。犬は地雷を踏んでも爆発する危険がかなり小さくなります。

訓練された地雷探知犬の任務における死亡率は、人間よりかなり低いと言われています。

画像の地雷探知犬「パトロン」は、ウクライナでの地雷探知に大活躍し、これまでに200個以上の地雷を探知した功績でゼレンスキー大統領から表彰されました。

また、ウクライナで人気があるだけでなく、SNSで世界にも広まり、2022年には「パルム・ドッグ賞」 ※ も受賞しました。パトロンは、アニメや漫画にも登場し、「ハチ公のライバル」とも言われています。

パルムドッグ賞

カンヌ映画祭で優秀な演技をした犬に贈られる賞。同映画祭の最高賞パルムドールに由来する。

引用: ロイター及び CNN.co.jp

他にも、アメリカの退役軍人が創設したマーシャルレガジー研究所は、これまでに900頭の地雷探知犬を24の国・地域に送り出す実績を残しています。

地雷除去に関して私たちができること

組織力や技術での取り組みを見てきましたが、ここからは、私たち一人ひとりができることは何か、一緒に考えていきましょう。

知ることからスタート

世界のかなりの地域や国に地雷があることは事実です。この記事を読んでくださった方は、文字と画像から地雷に関する概略を知っていただけたことと思います。

さらに、メディアのニュースやドキュメントなどの音声・映像資料から、新聞・書籍の活字から、できるだけ正確な実態をつかみましょう。シンポジウム講演会などに参加して、体験者や専門家の話を聞くのもよい機会となります。

正しい情報は、「できること」を考えるスプリングボードです。

様々な支援・応援の仕方

すでに各国に支援団体が誕生しています。各団体は様々なかたちでの支援を常に求めています。

  • 署名:街頭やオンラインで「賛同」の意思表示をすることができます。
  • 募金・寄付:地雷除去には多くの費用が必要です。ユニセフばかりでなく、ほとんどの団体にホームページから寄付をすることができます。
  • 販売品の購入:支援団体の中には、商品を販売し、その売上を活動費用に当てているところがあります。予算の許す限り協力することも支援の形の1つです。一般企業や公共団体にも地雷除去に協力的な活動をしているところがあります。同じ商品を購入するなら、そちらから商品を購入するというのも間接的な支援です。

関連記事:エシカルとは?エシカル消費が重視される原因・問題点、私たちにできること・SDGsの関係(Spaceship earth)

  • イベント等に参加:ボランティアとして、支援団体の主催するイベントの手伝いをすることも考えられます。体験を通してより深い知識や携わる人の考えにふれることができるはずです。一歩進んだ「できること」が見えてくることでしょう。

地雷除去は直接関わることがとても難しい活動です。正しく知って、無理のない「できること」をすることが大切です。

地雷とSDGs

最後にSDGsとの関連をみていきましょう。

地雷とその除去に1番深く関連するのは、SDGs目標16「平和と公正をすべての人にです。

SDGs目標「平和と公正をすべての人に」と地雷

この目標は、持続可能な開発のための平和な社会を築くことを目指しています。そしてそのために12のターゲットを掲げています。

ターゲットの第一には「すべての場所で、あらゆる形態の暴力と暴力関連の死亡率を大幅に減らす」とあります。

今世界中に埋められている地雷は明らかに「暴力」の一形態です。

いくら安価で製造できても、戦争後も恐怖の源になる地雷を製造し、自国が使用しなくても他国に売ることも「暴力」の一形態と言えます。

1発でも除去ができれば、その土地の多くの人々の安心した暮らしを生むことができます。

まとめ

地雷について、その目的や特徴、そして現状や除去の取り組みをお話ししてきました。除去やその後の現地の平和のための取り組みもご紹介しました。

命の危険を伴う除去活動に取り組む専門職員や、それを支援する団体、厳しい訓練を積んで働く地雷探知犬も頑張っています。日本の企業が技術提供で貢献していることも嬉しいニュースではないでしょうか。

まだまだ除去活動は続けられなければなりません。そして除去で終わるのではなく、そこで暮らす人々が安心して日常を送れるようにすることがゴールです。私たちも最終ゴールを見据えて、「何ができるか」と考えることから始めませんか?

<参考資料・文献>
地雷の基礎知識(2023年版) | 国際交流NGOピースボート
地雷問題・対人地雷禁止条約(オタワ条約)の概要|外務省
認定NPO法人テラ・ルネッサンスの活動内容について l 地雷
対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約
地雷除去機の仕組みと機能(日建)
地雷について|コンテンツ訴求エリア|日本赤十字社 東京都支部
日本の技術でウクライナの地雷除去へ! カンボジアで日本製の地雷探知機の研修を実施 | 2022年度 | トピックス | ニュース – JICA
対人地雷とは(NPO法人地雷廃絶日本キャンペーン:JCBL;Japan Campaign to Ban Landmines)
ウクライナで日本からの地雷探知機の訓練「日本の支援は重要」 | NHK
数字で見る地雷問題の今【世界編】AAR Japan[難民を助ける会]
地雷・クラスター爆弾問題Q&A(JCBL)
地雷・不発弾対策 | AAR Japan[難民を助ける会]
カンボジア地雷問題の現状とテラ・ルネッサンス支援活動
ウクライナ大統領、爆発物探知犬「パトロン」を表彰 – CNN.co.jp
戦争と安全のねだん:菅原由美子(大槻書店)
戦争を取材する:山本美香(講談社)
地雷処理という仕事:高山良二(筑摩書房)
平和をつくるを仕事にする:鬼丸昌也(筑摩書房)
核兵器はなくせる:川崎哲(岩波書店)