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スウェーデンは再生可能エネルギー先進国!身近な再生可能エネルギーの課題

枯渇せず再利用が可能な再生可能エネルギーは、太陽光や風力・地熱・バイオマスなどを利用した電力です。各地にバイオマス発電所の建設計画の進むスウェーデンは、バイオマスエネルギー先進国のひとつといわれます。

北欧と比べて日照時間の長い日本では、太陽光による太陽電池と風力発電がおもな再生可能エネルギー源として知られています。天然資源を必要とするため、発電量の不安定さが問題点である再生可能エネルギーですが、スウェーデンではいったいどのような取り組みがおこなわれているのでしょうか。

バイオマスエネルギーは暖房施設や一般家庭の暖房用として脚光を浴びています。また、ガソリンに代わる燃料であるバイオディーゼルやバイオガスとして、すでに交通機関の運用において実用化されています。世界でも注目度の高い、スウェーデンのバイオマスエネルギーについてみてみましょう。

スウェーデンのバイオマスエネルギーへの取り組み

スウェーデンの主な発電方法は、二酸化炭素を排出しない水力原子力です。中でも水力発電は全体の43%を占めています。次に多いのが原子力発電の31%です。風力発電の分野でも成長を続けており、4,300基の風力タービンが稼働中で約16%の電力を担っています。

スウェーデンで生産量の多い再生可能エネルギー源はふたつあり、水とバイオマスです。日本と同様に石油や石炭などの資源が乏しいスウェーデン。しかし石油・石炭をはじめ天然ガスなどの資源を輸入に頼っているにもかかわらず、実は国内エネルギー供給は70%以上自給できているのです。

バイオマスエネルギーとは?

バイオマスエネルギーとは簡単に言うと、生態系の中に存在している自然形態のサイクルを利用したエコ燃料です。たとえば動物が植物を食べる食物連鎖や、木材や石炭などの生物(バイオマス)を燃やして発生した二酸化炭素は、元々光合成によって植物が吸収した二酸化炭素に由来します。

つまり植物などの自然燃料を燃やして発生した二酸化炭素は、植物に再吸収されることによって自然に還るという理屈です。発生量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることで、自然循環をさせ、新たな二酸化炭素を発生させずに再生可能なエネルギーとして利用しているのです。

【図解あり】バイオマス燃料とは?導入のメリット・デメリット、SDGsとの関連や企業の取り組み事例

いち早く環境問題に取り組んだスウェーデン

スウェーデンでのバイオガスの取り組みは早く、1960年代にさかのぼります。もともとは廃水処理場で汚泥の量を減らすためにはじめられましたが、1970年代の世界的オイルショックにより、石油依存を減らす仕組みが求めらるようになりました。

その結果スウェーデンではバイオマスエネルギー技術の研究が進み、業界初のバイオマスプラントが建設されるに至ったのです。

また、1990年代に入るとフードロス問題が盛んに議論されるようになります。

一般家庭の生ごみもバイオマスエネルギーに

出典:Spaceship Earth

現在一般の人々の関心がさらに高まっているフードロス問題。スウェーデンでは早くから食肉業界をはじめ、家庭やレストランで消費しきれない食品や生ごみの消化のため、新しいバイオガスプラントが建設されています。

家庭での生ごみの分別は、無料のコンポスト用紙袋を利用するように決められています。紙袋はスーパーやガソリンスタンドに置いてあるほか、アパートならばごみ収集場に山積みになっており、自由に持っていけるようになっています。

これらの生ごみは紙袋ごと回収して燃やし、バイオマスエネルギーの原料となります。そのためビーニル袋などで2重にしたり、プラスチックなど生ごみ以外のものを混ぜたりしないように気をつける必要があります。

スウェーデンの再生可能エネルギー

北欧諸国ではそれぞれの国の地形を生かした発電方法によって、低炭素社会の実現を目指しています。例えば山に恵まれ降水量の多いノルウェーでは水力発電、地形が平らなデンマークでは風力発電がメインです。それではスウェーデン国内でおこなわれている再生可能エネルギーにはどのような種類があるのでしょうか。

豊富な森林資源を活用したバイオマス発電

スウェーデンでのバイオマス(原材料)はおもに、豊富な森林資源です。国土面積528,447㎢のスウェーデンですが、その3分の2が森林におおわれています。日本の国土における森林面積が67%なので、イメージしやすいのではないでしょうか。

森林のうち約半分は人工林です。森は人の手を入れないと木の成長に影響が出てくるため、定期的な伐採が必要となります。建設現場では廃材やおがくず、かんなくずが出ます。産業廃棄物としては、パルプ生産や製紙工場の過程で得られる残骸です。これらの間伐材や資材などの森林資源が、バイオマス発電の原材料となっています。

バイオマス発電でうまれたエネルギーのおもな使い道は、個人宅や地域の暖房です。冬場の気温が下がるスウェーデンでは、寒い時期の暖房設備や電気代は常に大きな悩みです。そのほかには産業の分野でも広く利用されています。

世界でも急成長中の風力発電

北欧諸国で風力発電を採り入れている国は多く、スウェーデンでは約16%の電力を風力発電に頼っています。海沿いの街や傾斜のある山間部などを訪れると、風車の立ち並ぶ姿が見られますが、もはや北欧の風物詩ともいえます。

スウェーデンの風力発電は世界ランキング第10位。風力発電が盛んということは風が強い国ということになりますが、実はまったくそのとおりです。とくに冬場の海沿いの街などは突風が吹くこともあり、ベビーカーを押して歩くのはひと苦労。自転車ごと煽られて転んでしまうこともよくあるのです。

世界の風力発電能力 国別ランキング

研究中や発展途上の発電方法

出典:Spaceship Earth

自然を利用した再生可能エネルギーにはさまざまな種類があります。しかしながら、どうしても発電力は土地の特性に左右されてしまいます。スウェーデンで研究されている、そのほかの再生可能エネルギー資源や発展途上の方法をご紹介します。

①太陽光エネルギー

日本ではシェア率の高い太陽光エネルギーの分野ですが、日照時間の極端に少ないスウェーデンでは難しい方法です。秋の終わりから春先にかけて、約6か月間も薄暗い日々の続くスウェーデンでの太陽光エネルギー率はわずか1%ほど。さらなる研究に投資がされていますが、身近ではキャンプ用品や庭先のガーデンライトなどで見るくらいです。

②ヒートポンプ

ヒートポンプは、スウェーデンで1990年代以降急激に増加したエネルギー技術です。気体を圧縮すると温度が上がり、逆に膨張させると温度が下がる性質を利用した仕組みで、おもに給湯や暖房に利用されています。エネルギー削減効果に有効です。

③波力

海と貯留施設の水面高低差を一定に保とうとする海水の移動力でタービンを回し、発電させる仕組みが波力発電です。次世代の再生可能エネルギーといわれていますが、スウェーデンではまだまだ発展途上の方法です。土地的に外海に面していないので、大きな波が立ちにくい地形なのが理由のひとつです。たしかに、スウェーデンの海辺で防波堤を見かけることは少ない気がします。

④エタノール

スウェーデンでは1980年代から研究されているエタノール発電は、バイオマス発電のひとつです。スウェーデンのエタノール発電の主な原料は、サトウダイコン。精製過程で得られるセルロースからバイオエタノールをつくります。原材料となるサトウダイコンは郊外のあちこちの畑で見られますが、広大な土地や手間が必要なうえ、ガソリンと比べて環境上の利点が疑問視されています。

⑤パッシブハウス

パッシブハウスは住環境や建築素材、暮らし方を変えることによって持続可能な家を目指した省エネ住宅です。木造建築がメインの日本の昔ながらの家は、ある意味パッシブハウスと呼べるでしょう。

現在では断熱材や二重窓など材質と機能部分の工夫で、高断熱・高気密の家が建築されていますが、湿度の高い日本の場合、必ずしも高気密がよいというわけではなさそうです。

スウェーデンでは、パッシブハウスの建設が盛んです。たとえば住人の体温で暖かさを保ったり、電化製品の熱をキープしたりする仕組みで、暖房システムを使わない工夫がされています。

バイオガスで市バスの走る国、スウェーデン

出典:Spaceship Earth

自家用車よりも、バスのほうが大幅に炭素排出量を減らせるのはあきらかです。そのためにはバスの運行が市民にとってよりよい足となる必要があります。日本ほど時間に正確ではありませんが、スウェーデンのバスの路線開拓やシステムの発展には目を見張るものがあります

都市部で運行されているバイオバス

出典:Spaceship Earth

車両燃料として急速に増加中なのがバイオガスです。とくに首都ストックホルムやマルメ市などの都市部では、ここ数年のうちにバイオガスで走る市バスの本数が急激に増えました。

これらの都市バスの燃料は、高比率で生成されたメタンガス。メタンガスは自然界にも存在する天然ガスです。生ごみや食品会社から廃棄される有機物を発酵させ、メタンを含むように精製したガスがバスを走らせる燃料となっているのです。

地球温暖化の原因のひとつとされているメタンガスですが、燃えやすいので発電に有効利用できます。また、熱エネルギーを発生するため、都市ガスや暖房にもつかわれています。

メタンガスは燃やすと、最終的に水と二酸化炭素に分離します。発生した二酸化炭素は、森林など自然界に吸収されるため、カーボンニュートラル(炭素循環)が可能になるというわけです。

バイオバス以外に、電気バスも走る

出典:Spaceship Earth

スウェーデンでバイオバスよりもひと足先に導入されたのは電動バスです。電気で走るバスは、バスのラッピングにプラグの絵が使われていることもあり、ひとめで分かります。バスの車体が新しくなったなと思っていたところ、実は電気バスだったことがありました。

2022年のスウェーデン都市部では、再生可能エネルギー100%のバス、ハイブリットタイプなどいくつかの種類のバスが運行されています。

市バスのシートに使われている生地も、勿論エコ素材でつくられていますよ。

世界目標をいち早く達成したスウェーデン

それでは一般のスウェーデン人は、本当に環境に優しい生活をしているのでしょうか。

環境意識の高いスウェーデン人ですが、実はひとり当たりのエネルギー消費量が世界でもっとも多い国のひとつです。しかし消費量の多さに比べ二酸化炭素排出量は低く、アメリカ人のわずか4分の1といわれます。秘密は、再生可能エネルギー率の高さです。

スウェーデンで再生可能エネルギーシェア率が高い理由は、豊富な自然と移動用水に恵まれているからです。そして、再生可能エネルギーの割合は増え続けています。

たとえばEU全体で掲げられた温室効果ガス削減の目標は、2020年までに17%減でした。ところがスウェーデンは、予定よりも4年早い2016年時点で25%減を達成しました。

また、2020年までに49%引き上げ計画だった再生可能エネルギー導入計画も、2017年には54,5%の引き上げに成功しています。スウェーデンの電力部門では、2040年までにエネルギー消費に対する再生可能エネルギー生産を100%達成できるように目標を定めています

現在では2050年の目標だったカーボンニュートラル化の実現も5年早め、2045年を目標にしています。スウェーデンはまさに、再生エネルギーの分野で世界に先駆けているといえるでしょう。

まとめ

スウェーデンでは環境問題に関心のある割合が高い印象があります。当時15歳の環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)が、2018年にスウェーデン議会前でおこなったストライキは記憶に新しいですが、「なにをすればどうなるか」といった原因と結果に対する意識が明白で、身近にとらえられていると感じます。

世界に先駆けて地球環境の問題点に気づき、研究や技術開発に投資したのは、スウェーデンという国が極北にほど近く地理的な危機感があったのかも知れません。そして恵まれた自然環境も、再生可能エネルギー開発の後押しをしてくれています。

スウェーデンが脱原子力対策を始めたのは1980年代。以来原子力発電所の数や稼働数は減少しています。火力発電や化石燃料、原子力での時代は終焉に近づいています。日本のように技術の進んだ国で、今後さらなる再生可能エネルギー技術の開発や実用化は、大きな可能性のある分野ではないでしょうか。

輸入に依存しない、安全なエネルギーとしての再生可能エネルギー生産について、未来を見据えて考えていく必要性があるのではないかと感じます。

〈参考文献〉

JEPIC一般社団法人海外電力調査会

スウェーデンのバイオガスについて