#SDGsに取り組む

スウェーデンのカフェ文化からみる環境問題への取り組み

スウェーデンをはじめ、北欧に根付いているカフェ文化「フィーカ(FIKA)」をご存じでしょうか。例えば仕事の合間に休憩を取ること、友人や恋人とお茶をすること、家族で日曜の午後のひとときを楽しむこと。そんな日常の全ての「コーヒーブレイク」を総称して、フィーカと呼びます。

フィーカはスウェーデン人をはじめ、北欧の生活習慣のひとつ。フィンランドではなんと、仕事中のコーヒータイムが労働法で定められているほど。それだけコーヒー文化は、北欧の人たちにとって大切なものです。

当然北欧のコーヒー消費率は高く、フィンランド人は年間12kg/人、ノルウェー人が8.7kg/人、デンマーク人8.6kg/人、スウェーデン人7.3kg/人と日本人の3.36kgと比べても倍以上。世界一コーヒーを消費する国民といわれます。

スウェーデンの街を歩くと、コーヒーショップの多さにきっと驚くことでしょう。老舗のコンディトリから人気のフランチャイズ店、個性豊かな個人経営のカフェ。カフェは人々の健康を促進し、社会的及び文化的活動の機会を生み出す場所とも考えられているのです。

今回はスウェーデンのカフェ文化から垣間見える、環境への取り組みについてご紹介していきます。

KRAVってなに?

出典:Spaceship Earth

スウェーデンのカフェやマーケットを訪れると、さまざまな食品や商品にKRAV(クラヴ)の証明を意味するマークが付けられているのに気づきます。見た目の印象は、ヘルシーそうなものだったり、オーガニック製品のようであったりとさまざま。まずはスウェーデンの厳格な規定であるKRAVについて知ってみましょう。

KRAVマークは持続可能な生産の証

KRAVマークの理念とはいったい、どういったものなのでしょうか。KRAVは単なるオーガニックの商品とは違います。食品の安全性だけでなく、環境へのバランスの取れた配慮、生産者と消費者の精神面など、持続可能な社会のサイクルを生み出す考え方が元となっているのです。

化学農薬や人工肥料を使わない栽培

人工肥料や化学農薬などを使用し続けることによって、畑の表土は枯渇し、逆に栄養の少ない痩せた土地になっていきます。

KRAV認証を受けた農家では、たい肥のほかに緑肥など、土に栄養を与えてくれる植物を育てることで、持続可能で肥沃な土地を守っています。このような土地は保水力が高く、栄養分も豊富で健康的な土壌と呼ばれます。

健康な土壌では、植物や動物をはじめとした環境に悪影響を与えることなく、安全な作物が育ちます。また、遺伝子組み換えをしないのも、認証条件のひとつです。

動物への良好な環境の考慮

KRAV認定農家の産物は、動物と作物の生産バランスを保ち、健全なサイクルを生み出しています。農場では動物の飼料となる作物を十分につくり、動物の生み出した肥料が収穫に利用されることで、サイクルが生まれているのです。

スウェーデンでは動物の健康のためには、可能な限り自然な生活を送ることが重要と考えられています。自由な環境で伸び伸びと育つことが、ストレスを感じないためにも大切なのです。

添加物の使用制限

スウェーデンで法的に認可されている、約300種類の食品添加物のうち、KRAVでも認証されているのはわずか50種類ほどです。例えば人工着色料やフレーバー、人工甘味料などはすべてKRAV承認されていません

ビタミン類に関しては、離乳食や日本でも話題になった代用ミルクなど、法律で義務付けられた食品や、成長に必要不可欠な商品にのみ添加可能です。

ケーキや焼き菓子に使われるベーキングパウダーも、無添加のものに限りKRAV認証されています。

健康への取り組み

KRAVの基本理念は、身体的な健康だけでなく、精神的や社会幸福通念を含む、すべての健康について考慮されています

たとえばクリーンな環境での生活が例にあげられます。KRAVのような厳しい条件下の商品を購入することは、消費者自身がよりよい環境に対して貢献しているという、消費者精神の健康を後押しできるという考えられているのです。

有機農家と協力のもと、生産者は賃金が低い劣悪な環境で仕事をすることはありません。持続不可能な条件で栽培された作物では、KRAV承認は受けられません。

KRAVとフェアトレードの違い

フェアトレードは主に貧困が蔓延している第三国における、経済的・社会的及び環境的に持続可能な規定を設けた、人に対する責任に重点を置いた認証です。

例えば、カカオ農家やコーヒー農家、バナナ農家、ゴム農家などでの子供の労働、生産者の国際市場へのアクセスなどを助け、安定した収入をもたらします。また、学校の設立や医療などに投資できる機会を設けています。しかしフェアトレードの商品は、必ずしもオーガニックとは限りません。

KRAVはスウェーデンで一番知られている、食品の環境ラベルです。KRAVの規定は非常に厳しく、EUの規則よりもさらに厳格に定められています15歳以下の子供の雇用や労働者の差別、強制労働の排除、その国の最低賃金を守ることなど人権面でのサポートのほかに、有機生産であること、レストランやショップに対するルールまであります

スウェーデン最大シェアを誇るフランチャイズカフェ【エスプレッソハウス】の環境への取り組み

出典:Spaceship Earth

南スウェーデンスコーネ地方で生まれたフランチャイズのコーヒー店、エスプレッソハウス。

スウェーデンだけでなく、隣国のデンマーク・ノルウェー・フィンランド及びドイツの主要都市までシェアを拡大している、北欧最大のコーヒーショップです。店舗数は現在約500店舗。カフェで提供されているパンやペストリーはすべて、マルメ市近郊のAlrövにあるエスプレッソハウス・ベーカリーで焼かれています。

エスプレッソハウスの環境への取り組み方法

出典:Spaceship Earth

エスプレッとハウスの基本概念、”Tomorrow Friendly”とは、「全てのことは常に改善できる。今すでに良いものかもしれないが、明日はさらによいものにできる」と言う考え方です。

フードロスへの関心

カフェという事業形態からできることがあります。持続可能な食品は食そのものだけでなく、生産や梱包、消費、提供場所、廃棄、輸送などさまざまな要因から発生することを、事業主は知っているからです。

まず市民の関心の高いフードロス対策としては、食品廃棄物の可能な限りの防止と最小化に努めています。提供するフードの準備計画と在庫管理の徹底によって、フードロスを出さないように取り組んでいるのです。

2018年以来、エスプレッソハウスは3つの主要なアプリサービス、フードレスキューパートナーとしてKarmaと提携をはじめました。ノルウェー、デンマーク、ドイツの店舗はToo Good To Goと協力。フィンランドではResQ Clubと提携して、過剰食品を割引価格で販売しています。この取り組みが評価され、2021年には、フードセーバーオブザイヤーを受賞しました。

自社ロースタリーでできること

出典:Spaceship Earth

エスプレッソハウスの焙煎設備、自社ロースタリーは首都ストックホルムにあります。ロスタリ―でのコーヒー豆の焙煎時間は長く、環境への影響が懸念されますが、どのように工夫されているのでしょうか。

エスプレッソハウスでは、使用燃料にLPG(液化石油ガス)の代替品として、ロースター内の廃棄物から産出されるバイオガスを利用して行われています。コーヒーの粉などの有機副産物は、収取されて圧縮し、ペレット状に加工されます。その後、農家やバイオ加熱施設に送られてバイオガスに再利用されているのです。

また、国内の商品の輸送は、99%再生可能燃料で動く自家用車を使用しています。ロースタリ―で焙煎されたコーヒー豆は、環境への影響を減らすために、北欧内のアウトバウンド輸送は100%陸路で配達されます。空輸便を減らすよう、ドイツへの輸送に関しても紅茶サプライヤーなど他企業と提携し、調整するなどの工夫をしています。

現在は生産過程で出るスクラップを2%未満に抑える目標を立てており、2021年は2.8%。かなり目標に近づいているといえるでしょう。

使い捨て容器や梱包材

出典:Spaceship Earth

顧客調査から、2021年には約57%の客が商品の購入後、ショップ内に着席する事が判明しました。テイクアウト客よりも店内でコーヒーを楽しむ客層が多いのですね。

そのため使い捨て容器の制限に規制を掛けれるとともに、各店舗で使い捨ての紙カップに変わり、ガラスや陶器の使用を進言しています。プラスチックストローを廃止し、生分解性の紙製に、カトラリーは木製に変わりました。

今まで使っていたサラダボウルなどプラスチック容器は、クラフトペーパーボックスに、オーバーナイトオーツなど水分の多い食品のパッケージも、裏が防水(プラスチックの裏打ち)の紙カップに変更しています。これにより2018年以降、全体で約47%のプラスチック容器の削減に成功したのは大きな変化と呼べるでしょう。

コロナパンデミックの間は感染リスク対策のために、陶器カップなど再利用できる食器類の使用は一時停止されました。今後は使い捨て製品を減らすため、陶器での提供が増えていくことでしょう。 

海を守る活動も

エスプレッソハウスは、2020年からオーシャンアライアンス(Ocean Alliance)のメンバーとなりました。

プラスチックの漂流物や海洋ゴミのない海を目標に、発生源であるプラスチックの使用を最小限に抑えて、海への流出を食い止めるよう努めています。スタッフで海のゴミ拾いなどの活動もしていますよ。

顧客サービスで広がる環境活動

出典:Spaceship Earth

エスプレッソハウスの携帯アプリは、とても便利です。アプリ利用で商品が常に割引価格で買えますし、さまざまなクーポンが付与されます。たとえば限定商品の半額クーポンだったり、好きな商品の20%引きクーポンだったりします。誕生日月にもらえる、1年有効のフリードリンク券もあり、小さな楽しみにもなっています。

ほかにも、アプリではお気に入りのドリンクを友人や家族にプレゼントできるので、ちょっとしたときに喜ばれます。イメージとしては、スターバックスのデジタルドリンクチケットのような感じですね。

アプリではコーヒー1杯につき1個スタンプがもらえ、10個溜まると1杯サービスがあります。再生可能なカップを持参すると、スタンプがダブルになる特典は利用者としても嬉しいものです。

ドイツではクーポンサービスではなく、金銭的な割引を適用しています。その辺は、お国柄かもしれませんね。

社会への貢献度は?

国連が設定した、持続可能な開発目標SDGsは全部で17項目あります。

2030年度を達成目標にした議題では、経済・社会・環境の3つの開発側面から、持続可能な活動に焦点を当てています。

エスプレッソハウスは、これら全ての項目に貢献していると言えます。とりわけ①持続可能な農業・生計の向上②主要製品の調達先であるコーヒー農園での生物多様性の保護③持続可能な消費と生産④食料を最低限に抑えることで生まれる循環型経済に向けて、取り組んでいるといえるでしょう。

表の上ではとくに、2、4、8、10、12、15の項目に貢献していますね。

環境ディプロマを取得した唯一のカフェ、ルンド大学の【Cafe LUX】

出典:Spaceship Earth

2014年にルンド大学の中にオープンしたカフェLUXは、優れた環境活動に対して、大学の環境ディプロマを取得した唯一のカフェです。カフェ内では100%オーガニックのコーヒーをはじめ、KRAV認証の食材やフェアトレードのものが使用されています。

カフェとしてできる商品へのアプローチ

出典:Spaceship Earth

カフェLUXで提供しているドリンクやフード類は、オーガニックやKRAV認証のものばかりではありません。肉の消費を積極的に減らす取り組みの一環として、ベジタリアンやヴィーガン対応のメニューも多くあります。

スウェーデンは多国籍の国なので、宗教や動物愛護の観点からベジタリアンやヴィーガンの人々もいますが、近年では環境への配慮から、積極的にヴィーガンを選択する人が増えてきました

カフェLUXでは、毎月「オーガニック&ベジタリアンの日」を実地しているほか、2022年の秋までには大部分のフードが食肉・加工肉を使用しないヴィーガン対応になっています。

また、カフェ内で使用する洗浄用の洗剤に関しても、北欧のエコラベルの製品を使っています。積極的に国内の製品を使用することも、自国の経済の推進以外に、生産や配送などの面からエネルギー消費をおさえるために貢献できます。

再生可能な容器の使用

出典:Spaceship Earth

もはやスウェーデン国内のカフェでは、どこも常識のように対応されているのが、使い捨て容器のありかた。持ち帰り用に使われる容器はリサイクル可能なものばかりです。スワンのラベルのついた紙コップは、一般にも流通している商品ですが、90%再生可能な素材でつくられています。

サラダボウルや、食品のテイクアウト用の容器も、リサイクル容器です。カフェLUXでは、ヤシの葉やバガス(Bagasse)から作られる天然素材のパルプで作られた容器を使用しています。100%生分解性素材のため、そのままごみとして捨てられる利点があります。

バガスというのは、いわゆるサトウキビの搾りかす。バガスパルプは植物パルプのひとつとして注目されている素材です。今まではそのまま燃やして燃料にしたり、たい肥に利用されたりしていましたが、近年ではバイオエタノール精製によるバイオエネルギーの原料や、繊維を食品に加工する研究も進んでいます。

ケータリングは電動自転車で

感染症のパンデミックがあってから、ケータリングは世界でもっとも業績の伸びた営業形態のひとつと言えるでしょう。大規模なロックダウンや、営業制限のなかったスウェーデンでもそれは同じです。

カフェLUXでは、商品のケータリングも行っています。バイク便や軽自動車でのケータリングも盛んですが、カフェLUXはより二酸化炭素排出量の少ない電動自転車を使用しています。

電動自転車は、スウェーデンでとても人気のある移動方法のひとつ。スウェーデンの都市部は信号の少ない自転車道が発達していることもあり、バイク屋自動車よりもずっと早く目的地に辿り着けますよ。

▶︎関連記事:「スウェーデンで普及が進むモビリティサービス【公道を走るスクーターやレンタサイクル】

国連の開発目標SGDs

カフェLUXのコーヒーは、単なるくつろぎのための一杯ではありません。人々が環境について考え、地球をよりよい場所にするというはっきりとしたビジョンと、社会とのコミットメントを意識してこそ、存分に楽しめる一杯なのです。

カフェLUXでは17個の持続可能な開発目標に関連するプロジェクトにも、積極的に関与していることがよく分かります。カフェLUXでは小規模農家との取引のほか、コーヒーの廃棄物をキノコの栽培にも提供しています。

まとめ

食品業界の中でもとくにスウェーデン人の間で需要の高いカフェ。友人らとのお茶の時間だけでなく、会社の面接や仕事合間のコーヒーブレイクのために、朝から晩まで客足が途絶えることがありません。

コーヒー大国スウェーデンでは、人々が多く利用するカフェという場所だからこそできる、環境への取り組みに力を入れていることが伺えます。

スウェーデンでは多くのカフェが単なる市民の憩いの場としてではなく、市民に環境への配慮を促すコミュニティとして機能していることが分かります。カフェのように人々が集まる社会が率先して環境への配慮をアピールすることで、一般の人々へより一層自然な形でその必要性を教えることができるのでしょう。

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