私たちは日々の生活の中で、物を作り、購入・消費して暮らしています。しかし、私たち人間のこうした経済活動は、地球の環境に大きな影響を与えることにもなります。
この問題を解決するために提案されているのが、グリーンコンシューマーとしての消費活動です。
では、グリーンコンシューマーとはどのようなもので、どういった活動があるのでしょうか。
目次
グリーンコンシューマーとは
グリーンコンシューマーとは、環境を大切にしている消費者のことをいいます。環境のイメージがあるグリーンと、消費者(consumer)という言葉を合わせたものがグリーンコンシューマー(Greenconsumer)です。
グリーンコンシューマーは、環境に配慮した商品を選び、買うことによって
- 環境問題に取り組んでいる店や企業、メーカーを支援する
- 商品の作り手、売り手となる企業へ環境の取り組みを促し、経済に影響を与える
という効果をもたらし、経済の面から環境問題の解決を図ります。
グリーンコンシューマーの歴史
グリーンコンシューマーという概念は、1988年にイギリスで「グリーンコンシューマー・ガイド(The Greenconsumer Guide)」という本が出版され、初めて日常の消費活動で環境問題を解決する提案が始まりました。
続く「より良い世界のための買い物(The Shopping for a Better World)」では、環境問題の他、女性やマイノリティの雇用、情報公開など、企業を社会的責任の達成度からも評価するという要素を加えています。
こうした動きが世界中に広がり、日本では
- ごみ問題市民会議(事務局・京都市)の開催
- 1991年「かいものガイド・この店が環境にいい」出版
- グリーンコンシューマーネットワーク結成
といった活動を経て、現在に至っています。
グリーンコンシューマーとLOHAS(ロハス)との違い
ロハスとは、健康・環境・持続可能な社会生活を大切にする生活スタイルのことです。環境に配慮した商品を購入し、健康的で持続的な社会生活を心がけるという意味では、共通しているように思われます。
しかし、日本では売る側のマーケティング活動という色合いが強く、エコな商品でもより高いものを多く買う、という姿勢が伺えます。
また消費者側も、自己啓発や精神性の向上に関心が強く、上昇志向、購買意欲も高い裕福な層が多い傾向があります。
一方のグリーンコンシューマーは、あくまでも必要性の考慮で消費活動を行います。
無理やがまんをするのではなく「少ない消費」を、「ものの使い方」ではなく「ものの選び方」を工夫して生活の豊かさを志向する活動です。特別な能力や所得が高い人のためのものではなく、誰でも日常的に行える行動がグリーンコンシューマーの本質です。
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グリーンコンシューマーとサステナブル・SDGsとの違い
それでは、グリーンコンシューマーは、サステナブルやSDGsとどう違い、どう関連しているのでしょうか。
まず、サステナブルは「持続可能な」「ずっと続けていける」という意味です。
そしてSDGsは「持続可能な開発目標」のための17の目標の総称であり、グリーンコンシューマーは、SDGsの目標を達成するサステナブルな手段のひとつ、という位置付けになります。
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グリーンコンシューマーが注目される背景
1988年にグリーンコンシューマーという概念が提唱されて以来、その活動は長く地道に、しかし着実に社会に根付いてきました。このように、グリーンコンシューマーが注目されてきた背景には、地球の持続可能性を脅かす多くの問題がきっかけになっています。
地球規模の環境問題
グリーンコンシューマーが提唱されてから現在に至るまで、地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊、海洋汚染、森林破壊など、地球規模の環境問題は年々深刻化しています。
そしてこれらの問題の原因が、私たち人間の日常の消費行動と直結していることだとわかったのが今の時代です。
ゴミ問題
私たちの消費行動は、大量消費・大量廃棄をもたらしました。これによって生まれた大量のゴミや廃棄物が、地球温暖化、化学物質による汚染、食料問題など様々な問題につながっています。
ゴミそのものを極力出さず、再使用・再利用が求められる時代へと入っているのです。
グリーンコンシューマーの10原則と具体的な取り組み事例
日本におけるグリーンコンシューマーには10個の原則が掲げられており、日本で取り組みを広げるNPO法人「環境市民」によって1999年に作られました。これは、イギリスの「グリーンコンシューマー・ガイド」を参考に、グリーンコンシューマーの行動指針を定義したものです。
この10原則について詳しく見ていくとともに、それぞれの取組事例を見ていきます。
必要なものを必要なだけ買う
必要なものを必要な分だけ買うことは、グリーンコンシューマーの基本的な行動です。
この背景には、世界の8割の資源消費が、先進国の2割によって独占されており、その結果過剰な消費と大量の廃棄物が出ている現実があります。
こうした状況に対し、その商品が本当に必要か、そんなにたくさん買う必要があるのか、などを考えながら買うことが大事です。
取組事例|食品のまとめ買いは避ける
私たちが日常的にできる取り組みのひとつは、食材や食品のまとめ買いはせず、その日の献立に合わせた買い物をする、家にある食材で献立を考えることです。
オーストリアのドキュメンタリー映画「0円キッチン」では、一般家庭の冷蔵庫で使われずに、ゴミになる食材がどれほど多いかを描いたエピソードがあります。まとめ買いは割安になるとはいえ、食べきれずゴミになればかえって高くつきます。まずはご家庭の冷蔵庫を見直しましょう。
映画『0円キッチン』ー フードロス(食品ロス)をなくすロード …
使い捨て商品ではなく、長く使えるものを選ぶ
ゴミや廃棄物を減らす生活をするためには、できるだけ長く使えるものを買いましょう。
買うときには高価だと感じるものもありますが、その分高品質で、丈夫に作られているものが多く、結果的に長く使えて経済的です。加えて修理しながら使い続けられる製品ならいうことなしです。
取組事例|株式会社イワタ
寝具業界では大量生産、買い替えが通常となっていますが、寝具類の粗大ゴミは東京23区だけで毎年120トンに上り、ほとんどが再利用されず焼却処分されています。
京都の老舗寝具メーカー、イワタはこうした状況を打開するために、化学物質を使わず、仕立て直しや家庭でのメンテナンスを前提にした、安全で長く使い続けられる寝具の販売を始めています。
高級ベッド、羽毛布団、マットレスの株式会社イワタ【IWATA】
容器や包装がない、または最小限、容器は再使用できるものを選ぶ
家庭から出るゴミの多くは容器や包装で、その多くはプラスチックなどの化石燃料由来製品です。
これらの処理では大量のCO2が排出され、不法投棄による土壌汚染や海洋汚染も問題になります。
買い物の際には容器や買い物袋を持参し、できるだけ容器や包装がない、量り売りや裸売りの商品を選ぶよう心がけましょう。飲料も缶やペットボトルではなく、再利用できる瓶がおすすめです。
取組事例|株式会社斗々屋
斗々屋は「地球一個分の暮らし」というスローガンを掲げてオープンした、量り売り専門のスーパーです。取り扱う品目は乾物や調味料の他、野菜、果物、豆腐、納豆、肉、惣菜など多岐にわたります。販売のみならず、量り売りに興味のある小売業者へノウハウの提案や、農家との直販取引なども行なっています。
すべての過程で資源とエネルギーをむだにしない商品を選ぶ
ものを大事に使い、できるだけ長く使うことはとても重要です。それに加えて、今後の社会ではものを作るときにも、捨てるときにも余分な資源やエネルギーを使わない商品を選ぶことが求められます。ゴミや廃棄物の問題だけでなく、ものを作るための資源にも限りがあります。
特に家電製品や車などを選ぶときには、すべての過程で省エネ性能の高いものを選びましょう。
取組事例|Apple
Appleは「地球から何も取らずに製品を作る」と宣言し、製造から回収までの資源やエネルギーを徹底的に減らす仕組みを取り入れています。
現在のApple製品は、100%リサイクルのアルミ合金やハンダ用の錫など、すべてにリサイクル素材が使われています。製品の回収や分解の過程でも、下取りの仕組みや分解ロボットなどで独自の取り組みを進め、大幅な省力化を実現しています。
化学物質による環境汚染と健康への影響の少ないものを選ぶ
私たちの身の回りの商品には、さまざまな化学物質が使われています。当然その中には、ダイオキシンや環境ホルモン、農薬や食品添加物、有機溶剤など、体にも環境にも有害な物質も含まれます。こうした物質を使用しない、自然で健康な商品を選ぶことも大事な取り組みです。
取組事例|アトリエデフ
長野県上田市に拠点を置くこの会社では、それまでの業界の常識を覆し、国産木材と自然に還る素材のみでの家づくりにこだわっています。
ただ建築を行うだけでなく、建材メーカーや原料メーカーと共に循環型部材の開発も行い、化学合成の新建材や接着剤も一切使用を禁止するなど、自然に寄り添い、健康に暮らせる家づくりを行なっています。
アトリエDEF | 日本の木と土と自然素材でつくる注文住宅の家
自然と生物多様性をそこなわないものを選ぶ
その商品が作られる過程で、自然を破壊し、生態系に悪影響を与えているものは選ぶべきではありません。これは工業製品のみならず、農産物や食品に関しても言えます。
例えば、海外のエビ養殖は現地の自然や生態系に悪影響を及ぼしています。化粧品や洗剤に使われるパーム油も、採取することで森林環境や生物多様性を損なうケースが数多く見られます。こうした商品は避け、自然環境を尊重して作られた商品を購入しましょう。
取組事例|ethicame
このストアでは、パーム油や有害な成分を使用しない、生分解性製品を優先して取り扱う、動物実験を行わないなど、自然と環境に配慮した商品を取り扱っています。取り扱い商品は、スキンケアやサニタリー、雑貨など、日常生活全般にわたります。
ethicame – エシカミー – エシカルなライフスタイルを楽しく
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「地産地消」の商品を選ぶ
その土地で生産されたものを購入して消費する、いわゆる「地産地消」の重要性も長く唱えられています。地元で作られた商品を買うことで、遠くからの輸送にかかるエネルギーが削減されるだけでなく、輸送期間に使われるポストハーベスト農薬も不要になります。
地域の産業を育て、住み続けられるまちづくりを進めるためにも、地場ものの新鮮で安全な農産物を選びましょう。
取組事例|株式会社ヤマザワ
山形県・宮城県を中心に展開するスーパーマーケットのヤマザワは、地元で採れた食材を多く販売し、生産者の顔が見える商品を提供しています。
県内で採れた新鮮な野菜や、酒田、石巻から早朝に水揚げされた近海魚、良好な飼育状態の山形牛・庄内豚などを取り扱い、地産地消に力を入れています。
【関連記事】地産地消とは?SDGsとの関係や最近話題の道の駅事例まで
生産者に公正な対価と支援が保証されるものを選ぶ
ものを買うときには、それを作った人たちにも思いを馳せてください。格安な製品には、劣悪な環境や低賃金で酷使された労働者が犠牲になっている可能性があります。
フェアトレード製品を選ぶことで、その製品を作っている生産国の人々の正当な労働対価と生活支援、経済的自立を助ける活動になります。
取組事例|イオン株式会社
イオン系列のトップバリュは、私たちにもとても身近なスーパーマーケットです。
ここでは、社会的課題解決の一環として、国際フェアトレード認証を取得したチョコレート、紅茶、コーヒー、ジャムの販売を行なっています。
【関連記事】フェアトレードとは?背景や明日から消費に活かすポイントも
リサイクル製品、リサイクルシステムが整っているものを選ぶ
商品を選ぶ際には、きちんとリサイクルがされているものを選ぶことも大事です。
そして、その商品が作られてから、売られ、廃棄された後もむだにしない、リサイクルの仕組みが整ったメーカーであることも重要なポイントになります。
もちろん、ゴミを出さずに使い続け、リサイクルが最終手段であることは言うまでもありません。
取組事例|アディダス
リサイクル技術の研究を重ねているアディダスでは、再生ポリエステルと海洋廃棄プラスチックを再利用したシューズを多数展開しています。近年では洗浄、分解、粉砕、溶解までのサイクルを確立し、100%再生可能なシューズの開発に成功しました。
2024年までにはすべての製品に100%再生素材を使うことを公約し、2030年までには生分解性素材や天然素材の利用にも言及しています。
For the oceans -サステナビリティ- | 【公式】アディダスオンライン …
【関連記事】日本のリサイクルの現状と先進国ドイツの事例を紹介|生まれ変わって何になる?
環境問題と環境情報の公開を重視している企業を選ぶ
近年どの企業やメーカーも、環境に配慮した商品の開発や、環境保護活動に力を入れるようになっています。とはいえ、本気で取り組んでいる企業と、なんとなくやっているだけの企業とでは温度差があります。
自分が気になっている商品のメーカーを調べて、環境対策の背景、開発から製造、販売後のフォローなど、環境情報を積極的に公開しているかどうかをチェックし、購入の参考にしましょう。
取組事例|パタゴニア
世界的なアウトドアブランド、パタゴニアは、地球環境の保護をビジネスの主目的に掲げていることで知られています。公式サイトには、商品ひとつひとつにリサイクルやフェアトレードの情報が記され、環境を守るためのストーリーやメッセージがあらゆる場面で明確に打ち出されています。
グリーンコンシューマーのメリットを企業側・消費者側から解説
いち消費者である私たちがグリーンコンシューマーとして活動することには、個人の生活にとって、また企業の活動にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業のメリット|社会的信用やイメージの向上
SDGsの目標達成が世界的な重要課題となった現在では、企業が環境問題の解決に力を入れることは社会的責任とみなされるようになりました。こうした潮流のなか、メーカーや店舗がグリーンコンシューマーに選ばれるような商品開発を進めることは、企業が社会的信用を得ることにもなり、ESG投資の面でも評価を上げることになります。
消費者のメリット|健康と精神の充足
では、消費者としての私たちはどうでしょうか。
グリーンコンシューマーとして買い物のやり方を変えることで、健康な生活を送ることができます。これは、その土地で作られた安全で良質で、自然に近いものを使うというだけではありません。安価な大量生産の商品に惑わされず、長く、大事に使える高品質なものを使っている、という精神的な充足感にも結びつきます。
グリーンコンシューマーのデメリットを企業側・消費者側から解説
上記の通り、環境問題対策の重要性が高まっている現在では、グリーンコンシューマーの活動がデメリットとなる要素は少ないように思われます。そうしたなか、グリーンコンシューマーのデメリットがあるとしたら、それはどのようなことなのでしょうか。
企業のデメリット|意識改革やコスト負担
環境に配慮したものづくりを進めなければ生き残れない、というプレッシャーは、社会にとっては望ましいことです。しかしそうした取り組みに遅れた企業にとっては、商品開発や設備投資、社内の意識改革やマインドなどを、コスト増や負担と感じるかもしれません。
企業にとっては、それを将来への投資と捉えて前進していくことが望まれます。
消費者のデメリット|商品の情報を得るのが一苦労
グリーンコンシューマーとしてのデメリットとしては、環境に配慮した商品の情報を得るのが難しいという点があります。
環境や生態系に影響を与えないもの、再生可能素材を使っているもの、リサイクル工程についてなど、パッケージや成分表示以外にも、知っておきたい多くの情報があります。
しかし現状では、専門店でもなければなかなかそうした情報が分かりやすく示されているとは言えません。私たちの方から積極的に情報を得ていかなければならないのです。
まとめ
ご紹介してきたように、グリーンコンシューマーとしての活動は、私たちの日々の生活に密接した、取り組みやすいものです。
ただし、行動指針の10原則については、すべてを完璧に適用して実行することは現実的には困難です。毎日の買い物をするにあたっては、その中から自分のできることを、少しずつ行うことが大切です。より柔軟な考え方で、ベストよりもベターに、無理なく楽しみながら活動を広げていければ、着実に企業も変わり、社会も良い方へと変化していくでしょう。
参考資料:グリーンコンシューマー活動 – 認定NPO法人 環境市民
参考文献:グリーンコンシューマー 世界をエコにする買い物のススメ/杦本育生/昭和堂/サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書/中石和良/ポプラ新書